第09話 あたしの大切な家族
目が覚めると、僕はベッドの上にいた。
ホテルのスイートルームのようだ。窓からはプライベートジェット機が2機、戦闘機が1機、ヘリコプターが3機見える。その奥には滑走路。ここは空港の中にあるらしい。
まだ頭がぼんやりするので、身を起こしたまま座っていると「失礼しまーす」と言って六条が入って来た。
「おはよう、ナタ君。起きた?」
「ああ、おはよう。起きた」
六条がそのままドアを押さえて合図をすると、電気ポットと急須をもった來田さんが入り、次いでヨナが入ってきた。汁物をこぼさないように、そうっとお盆を運んでくる。
「おはよう、ナタ。朝ご飯つくったよー。あたしの手作り」
パスタにサラダにコーンスープ。いい匂いが食欲をそそった。そういえば、かなりお腹が減っている。僕はありがたく頂戴した。
「美味しい? ナタ」
「ありがとう、すごく美味しい。ごめんね、眠ってしまって」
ヨナが笑顔で返す。僕は丸一日眠っていたそうだ。家にはヨナが連絡してくれたらしい。
「ここはどこ? どこかの空港のようだけど」
「うん。ここは六条家の私有地よ。空港というか実家の庭?」
ヨナが六条をみた。
「はい。一応、そうなります。ここは来客用なので、自宅はあそこにありますけどね」
といって、窓の外を指す。
「あそこに家があります。見えます?」
見えない。
「ほら、あそこ」
六条の指の先を追うと、遠く離れたところに巨大な屋敷が見える。ある程度、見当はついていたが、まさか六条がここまで桁外れの大金持ちだとは思わなかった。
「うわ。六条って凄い金持ちなんだ。ヘリも操縦していたし凄いよな。まさかあの戦闘機も操縦できるとか?」
僕の「凄いな」の連発に、六条は照れくさそうに手を後頭部にあてた。
「ナタ君、まあいいじゃない僕のことは。お金稼いでいるのは父で僕じゃないし。君とおなじ高校生だよ」
嫌味のない、いい奴だ。六条だけじゃない。みんなといると楽しいよ。
その時、隣で來田さんがお茶をこぼした。湯気が立ち込めている。ヨナと來田さんはギャーギャー騒いだ。
「僕の・・・は、すぐ・・・かるよ」
二人がうるさくて、六条が何を言ったのだが、聞きとれなかった。
「え?」
「いや、なんでもない」
「僕の正体はすぐにわかるよ」そんな風に聞こえたかもしれない。
食事を終えても、他愛のない話がしばらく続いた。売れ筋のカップ麺やアイドルグループの話、ヨナと來田さんは音楽バンドの話で盛り上がっていた。
密売の取引現場でおきた魔法のことはあえて聞かなかった。知りたいことはあるけれど、見たこと全てが真実で、これから僕は知ることになるだろう。
ただ、ひとつだけ來田さんに聞きてみたいことがあった。
「來田さんは、レンゴクの人なの?」
僕の質問に來田さんはきょとんとした。
「え? ナタ君。知らなかったの? わたし魔女よ。部長から聞いてなかったんだ」
ああ、やっぱりそうか。「悪魔っていっても外見は人間と変わらないんだ」と思った。
「ヨナとは昔から友達だったの?」
「そうよー。幼なじみよ。小学校から一緒。部長は1コ上ですけどねー」
來田さんがヨナにニッコリ微笑んで首をかしげると、二人して「ねー」と声を合わせた。
ヨナと再会した日、ビンタを食らった夜に彼女が言ったセリフ。
― でも、実際に生活してみると地獄ってすごく素敵な場所だったのよ。意外でしょ。地獄の住人は、あたしの大切な家族だわ。
その意味が十分にわかった。
「でもさ。さっきレンゴク銀行の窓口担当がどうって言ってなかったっけ、働いているの?」
「パートタイムでね。いまは高校通っているじゃない。まあ、いろいろあるのですよ。説明すると長くなるし、わたし説明下手だから・・・」
「ごめん。いいよ、べつに」
「うん」
「さて、ナタも元気になったことだし、捜査会議を始めよっか」
「ハイ、部長!」
僕たち三人の息はぴったりと合った。
「ナタ。その前に大事な話しするね・・・」
そう言って、ヨナは鞄からずっしりと重たそうな本を取りだし、ゆっくりと読み上げた・・・。
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