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第07話 來田里奈のひみつ

 私立誠心学園高校には二棟の飼育小屋がある。


 併設しているため待ち合わせ場所を間違えることは無い。約束の時間はそろそろだ。


 飼育小屋の陰から、使い込んだ竹ぼうきを持って初老の男性が現れた。


「こんにちは。用務員さん」


 ひと目で用務員さんと分かる格好だ。花沢さんの手配した人物ではないかもしれない。


「やあ、こんにちは。あなた二階堂さん?」


「はい。そうです。よくご存じですね」


「ええ。聞いていますからね。花沢さんから」


 そう言って飼育小屋の掃除を始めた用務員さんは、井上という名前らしい。


「二階堂さん。と、お友達も一緒かな。わたしはもうすぐ仕事が終わるので、1時に霞ヶ丘駅北口のロータリーで待っていてくれないかな。迎えに行くから」


「はい。井上さん、ありがとうございます」


 僕たちは約束の時間まで駅前の喫茶店で昼食をとることにした。


 食後のデザートを食べながら、僕たちは今後の作戦について確認していた。ヨナの計画はホントにざっくりで、最終的には魔法でなんとかなるそうなので、僕の質問はことごとくかわされた。


 詳しく知らなくていいから必死についてこい。これが、二階堂部長からの指示だ。


 すると突然、思い出したように來田さんがバッグを探し始めた。


「あ-、やっぱり! 携帯がない。家に忘れてきたのかな」


 來田さんは焦っている。


「無くしてたらどうしよう・・・」


「來田さんの携帯って俺のと同じ機種だからアプリで探せるよ」


「本当? ありがとう、携帯貸してもらってもいい?」


 僕は携帯を渡し、アプリの使い方を教えてあげた。


「あーよかった。家にある。安心したー」


「よかったね、來田」


 ヨナがそう言ったところで、井上氏との約束の時間になったので僕たちは店を出た。


 5人乗りのトラックだ。ライオン一匹、十分に運搬できる大きさだ。


「花沢さんから頼まれていることがあるんだけど」


「なんですか?」


「いや、お客さんは・・・ええと、二階堂さんは、これから行く場所に連れてってもいいんだけど、お友達はちょっと」


 僕たちはお互いの顔を見合った。どうしたらいいだろうか。


「ああ。いいですよ。あたしだけ行きます。適当なところで、この娘たちは降ろしてください」


 そう言ってヨナは來田さんの頭を撫でている。


「助かるよ。大人の事情はあんまり深くかかわるもんじゃねえしな。二階堂さんもお友達もその辺はわかってんだろう?」


 井上氏は気味の悪い笑みを浮かべた。


「まあ、高校生ともなりゃあ、危険なことに手出してるってことくらいわかるよな。バレたらあんた方も退学決定。将来絶望」


 こういう人が、自分の学校で働いているなんて最悪だ。だが、この人の言うことはもっともかもしれない。


 いま僕たちは密売とわかっていながらライオンを買おうとしているのだ。


 間違っている。でもこのままではライオン男は見つからず、殺人事件は止まらない。


 考えがまとまらないまま、僕たちは霞山のふもとにある駅で降ろされた。


 このままヨナを独りで行かせて本当に良いのだろうか。不安が頭をよぎる。


 僕の顔色が悪くなっているのをみて、來田さんが言った。


「ナタ君。部長なら大丈夫だよ。連絡手段あるからいざとなったらすぐに助けに行くし。そもそも部長は・・・」


 來田さんの言葉をさえぎって、僕は少し興奮気味に言った。


「密売の取引現場なんだぞ。携帯は切られるに決まってる。もし何かあったらどうしよう」


 よく考えてみたら、女の子独りで密売の取引場所に行かせるなんて僕ははどうかしてた。


 そんな不安をよそに、ヨナと六条は「今日の霞山は綺麗だねー」とか言っている。


 ダメだ。このままヨナを独りで行かせるわけにはいかない。


 僕は勝手にトラックに乗り込んだ。


 井上氏は困った顔をしていたが、ヨナが札束をわたすと、コロッと気分上々になった。


「まあ、いいか。坊主。座席の下に潜って隠れていな。それでいいな」


 坊主だろうがなんだろうが構わないが、同行できたことはヨシとしよう。


「心配性ね」と言ったヨナが少し嬉しそうにしていたので、こんな状況なのに赤くなってしまった。


 さすがに子分三人とも隠れることはできないので、六条と來田さんは駅で待つことになった。


 トラックが、子ライオンが捕らわれている現場へと走り出す。




 屋台で買った焼き鳥を両手いっぱいに持ち、來田里奈くるたりなは軽く目をつむる。



― 交信開始、『二階堂夜名』に接続します。


「大丈夫だって言ったのに。ナタ君って心配性ですよねー、部長。何かあったらすぐに連絡くださいね」



 トラックは霞山の登坂口に差し掛かり、信号待ちをしている。



「まったく男らしくないわよね」


 ヨナが独り言をいった。何故か笑っている。井上氏には聞こえていないようだ。


「ヨナ、何か言った?」


「なんでもなーい」


「?」



― 交信終了、『二階堂夜名』との接続を解除します。



「連絡手段あるって言ったのに」


 そう言って來田里奈は財布を取りだし、屋台のお兄さんに焼きそばを2つ注文した。


「さあ。お腹いっぱいになったら、こっちも準備しなくちゃ」


最後までお読みいただき本当にありがとうございました。


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