第02話 プロローグ②
「まったく。よくもあたしを地獄送りにしてくれたわね。不気味な空、燃えさかる大地、まさに地獄って感じのところにいきなり飛ばされるんだもの。めちゃくちゃびっくりしたわ」
僕は顔を伏せた。本当に申し訳ないことをしたと思っている。
「でも、実際に生活してみると地獄ってすごく素敵な場所だったよ。意外でしょ。地獄の住人は、あたしの大切な家族」
「???」
僕の困惑した顔が面白かったのか、ヨナは「プッ」と吹きだした。
「そりゃあそうよね。地獄だもん。イメージ悪いよね」
ヨナは笑いながらベッドに腰掛けた。
「あの後、あたしは怖くてずっと動けなかったの。そうしたら、親切な悪魔があたしを保護してくれたのよ」
それは意外だ。悪魔と言えば人間を襲うようなイメージしかない。
「あたしは15才まで、その悪魔に育ててもらったの。住むところも食べ物も全部お世話してくれて、学校だって行かせてくれたのよ。あたしが今まで生きてこられたのは、全部その悪魔のおかげ」
嘘をついているようには思えない。
「そ・・・そっか、良かった」
僕がついそんなことを言ったら、ヨナの目がまた冷たくなった。
「お父さんやお母さんとずっと会えなかったのよ、それは辛かったんだから」
僕はまた顔を伏せる。
「・・・ごめん。・・・地獄にも学校があるんだね」
「うん。この世と一緒よ。勉強内容は少し違うけどね。あたしが育ったところはレンゴクという国だった」
「レンゴク?」
「そう。レンゴクにはたくさんの街があって、あたしの育った場所はベリアルって街なの。炎と氷と雷が空を覆うレンゴク最大の都市よ。つい最近まではとても平和な街だった・・・」
ヨナは言葉を詰まらせた。
「あたしを育ててくれた悪魔はベリアルの市長だったの。あたしを大切にしてくれて、恩を返すためにあたしも頑張った。それなのに・・・」
「何かあったの?」
ヨナはうなずいた。
「ナタ。あなたの力でレンゴクを助けて欲しい」
それきりヨナは黙ってしまった。
もしかしたら、ヨナは僕に助けを求めるためにこの世に帰って来たのかもしれない。だとしたら、もう二度とあんな思いはしたくない。僕に何ができるか分からないけど、助けるに決まっているじゃないか。
「大丈夫。任せてくれよ。俺がヨナを助けるよ」
「ありがと」
ヨナがクスッと笑った。氷の国のかぐや姫。いや、レンゴクのかぐや姫の笑顔はかなり反則的だった。
小さい頃の僕はヨナのことがすごく大好きだったのだ。気の強いところも可愛い顔もすべてひっくるめて。
「ヨナはいつ帰ってきたの?」
「去年の秋くらいかな」
「あっ! 高校生ということはヨナ年上だったんだ。ヨ、ヨナさん?」
「いいよ、ヨナで。気持ち悪い」
ヨナが笑う。
「レンゴクではやっぱり魔法の授業なんかもあったの?」
「もちろん。むこうには魔法検定っていう資格試験があって特級が一番難しいの。あたしは魔法検定特級取得者よ。成績はレンゴクであたしがトップ」
ヨナは人差し指を立てて僕の前に差し出した。
「この世で言うところの全国模試1位レベルね。自慢しちゃうけど」
そしてピース。
「す、凄いね。超一流の魔術師ってこと!?」
「まあ、そういうこと。魔法はこの世でも使えるから、人の記憶を操作するなんて簡単よ。実家に帰ってきてから、両親の記憶をちょいちょいといじって、高校もちょいちょいと在籍していることにした」
ちょいちょい? 僕は脳天に一撃をくらった。口を開けてポカンとする。
「こ、この世でも魔法を使えるの?」
すました顔でヨナはうなずいている。
人の記憶を操作する。そんなことを簡単にやってのける超一流の魔術師が、凡人の僕に一体何を求めているのだろうか。そうだ。高校受験もその魔法で・・・。いや、僕は頭をふった。
「ヨナを助けたいっていう気持ちは嘘じゃないけど・・・、俺に何かできるの?」
僕がそう言うと、ヨナは真っすぐに僕を見てこう言った。。
「ナタは異世界への鍵なのよ」
何を言っているのかわからない。
「この世も地獄も、あなたが創った世界」
「・・・はあ?」
「ね、神さま。あたしを助けてください。どうかこの願いを叶えてください!」
ヨナは僕に向かって二礼二拍手一礼をした。
「???」
「じゃあ、受験がんばってね。待ってるから」
そう言って、超一流の魔術師は普通に玄関から帰っていった。
「お邪魔しました―」
ヨナを見送った僕は、しばらくその場でぼんやりと手をふっていた。
「あっ!そうだ受験票!」
急いで部屋に戻り、ふと机の上に目を向ける。ああ、受験票がノートの下からのぞいているではないか。僕は大きなため息をついた。これは、ヨナの復讐だったのだろうか。だとしたら、かなり凶悪な魔法だ。
しかし、彼女を地獄送りにした僕の罪が、この程度で消えるはずがない・・・。
さあ・・・気持ちを切り替えて勉強だ。絶対に受かってやる。ヨナと同じ高校か。一応、先輩だから、まわりが居るときは敬語だよな、やっぱり。
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