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海の国から来た男  作者: 蔭西三郎
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第33話・ラタオ高原。


「何と言う美しさだ・・・・・」


 クンタ湊に一泊した翌日、湊の奥に位置する広い内陸の町レステを経由して、急激な登りの街道を辿って、ここラタオ高原に到着した。

もう夕刻になった高原の景色を見て感動した。キクラとザビンガも言葉も出さずに見入っている。


なだらかな裾上がりの高原が、遙か先の白い噴煙を上げるミキタ山まで続き、その間の広大な土地を緑や黄金色に輝く畑や森や建物が散らばって、それらを海に沈もうとする夕日の赤靄が包んでいた。


「ラタオ高原は、天の国や地の国とはミキタ山脈に分断された別の島だと思った方が良い。この雄大で温暖な土地で暮らす人々の心も広く温厚です」

 案内に立った叔父・玄武道紀が説明してくれる。


「奥行きは長いですが両側が落ちていますので、面積は天の国全体より少し広いぐらいです。その中に大小の町や集落が点在していますが、一番大きいのはここベルヤです。

ベルヤは今日我々が登って来た左側海岸のクンタ湊とレステの町、それと右側海岸を結ぶラタオ高原の入り口の町です。

右側海岸にはリンクと言う町と広大なサンタ浜があり、浜で採れる貝類などが運ばれてきます」


 山の国とは言え、ここには大きな湊だけでなく広大な浜もあり海の幸も豊富なのだ。それは来てみなければ解らない事だった。


「ベルヤから十五里でサラタ山の麓のノーデンの町です。ノーデンはベルヤに次ぐ高原の二番目の大きさの町です。そこはサラタ山を越えて天の国・サラの町に通じる街道の入り口にあたります。そして我ら玄武の一族が暮らす町です」


 ベルヤの町からサラタ山に向けて、広い街道が真っ直ぐ一直線に延びている。ここから眺めるとサラタ山の麓に沢山の建物が並んでいるのが微かに見える。平地とは違う緩い勾配が付いた土地だけに遙か先まで見渡せるのだ。


(もうすぐ、玄武の土地に入る・・・)

 海の国からの長い日々を思うと、遂にここまで来たと言う感慨があった。その土地をこうやって眺められる所までようやく来たのだ。


「何しろ、緩いですが勾配がある十五里です。歩けば今日中に到着出来ません」

 翌朝は六人乗り馬車に分乗してベルヤを発った。下りでは馬無しの車で降りてこられるのだと言う。

街道は登りと下りが左右に区別されていて、右側の下りの道は大小様々な車に乗った人々が滑るように下ってくる。


「楽しそうです。私も一人で下ってみたい」

 それを見たザビンガが目を輝かせて言う。


「儂のこの年になっても、車に乗って颯爽と下るのは楽しいものじゃよ。じゃがな楽をした分帰りは辛い、四時間で下って来た道を乗ってきた車を引っぱって、坂道を十五時間も歩くのじゃからな」

と、にこやかに玄武道紀が答える。


「帰りの事を考えると気が滅入るな・・帰りは馬車に乗る」

 と呟くザビンガ。


「十五里を四時間ですか、それは楽ですね」

「本当はもっと早く下れるのじゃが、危険だから、あまり早くならない様に車が工夫されているのじゃよ。だが、軍の車はもっと速い」

 軍用の車があるらしい、軍の動きには迅速が必要だと言う事であろう。


 やがて、中間地点のマテスタという町に立ち寄った。

街道と交差した道の左右に町並みがあり、気候に溶け込んだような穏やかな雰囲気が漂っている。

店の種類は地の国と大差無いが、果実を売る店が一際目立っている。それに、土埃が少なく建物も土埃で汚れていない。見晴らしのきく風景と相まって爽やかな町並みだ。

「この高原には川が無いのです。だからここに無い物と言えば川魚です。それと米があまり採れないので、主食が小麦やトウモロコシの穀物になります」

 同行している服部平左衛門が説明してくれる。


 確かに風景の中に川が見当たらない。しかし、町角のあちこちには水飲み場があって道端には綺麗な水が流れている。

「流れている水は湧水です。川は無いが地下水は豊富で生活には困りません」

 次郎の目線を見ていたか平左衛門が付け足す。


 マテスタで昼食を取った一行は、また馬車に揺られてノーデンを目指した。


「叔父上、この山の国は豊かで平和で暮らしやすい。なのに、玄武の一族はどうして山を越えて天の国に駐在する必要があったのですか?」

 次郎は気になっていた事を、叔父であり玄武の長である道紀に聞いてみた。


山を越えて敢えて闘いの場に身を置かずとも、こちら側・ラタオ高原で平和に暮らせる筈である、と思えたのだ。玄武の長である道紀ならば、全ての事を知っている筈である。


「ふむ、言う事は解る。だが、山を越えた紛争の多い地に身を置いているからこそ、こちら側の平和が守られていると考えた方が良い。もし、こちら側だけで暮らすなら、あっと今に武力を失い向こう側の勢力に支配されてしまうだろう」

 なるほど、確かにそうだ。こちらで平和ボケしている内に、闘いに鎬を削っている向こう側の軍に対抗出来なくなろう。


(そんなことも気付かないとは、まだまだ私は未熟だ・・・・)

 次郎は己の未熟さを痛感した。


「それにな、実は天の国の王族は元々玄武の一族なのじゃ。故に玄武が今でも手助けをしているのじゃよ」

「そうなので?」


「昔の話じゃ。争いの絶えない天の国・地の国を玄武の一族が統一したのじゃ。王の一族は玄武の分家の一つじゃよ。それで玹家と言うのじゃ」


「それは、私も聞いていた」

と、ザビンガが言った。神巫女は国の成り立ちや歴史を知っておく必要があるのだろう。色々と物知りだ。

反乱に遭って幽閉された先の王は、玹家高徳と言うのだ。玹家の玹は、玄武家の玄に王を付けた字なのだと説明してくれた。


「その事を知っているのは、天の国では当の玹家と神殿だけじゃ」

「すると、今の状況を山の民としてはどう見ているのですか?」


 シャランガの反乱によって長と神巫女を殺されたにもかかわらず、玄武の一族は国境を閉ざしたまま沈黙しているのだ。


「それよ。長と神巫女を殺された。これ以上は無いほどの憎しみじゃ。怒りにまかせて怒濤の如く武力でサラを解放することは出来た。しかし、国堺を閉ざしたままで動かなんだ。それはな、兄の道帆がこの事を予測して生前に言い残していた事を守ったのじゃよ」

 やはり、父はこうなることを予想して準備しておいたのだ。


「父はなんと?」

「怒りにまかせて行動してはならない。怒りや憎しみからは負のものしか生まれない。怒りにまかせて行動したら、やがてその負のものが自らに帰ってくるだろう。山の民は彼らに関わらずとも生きていける。しかるべく時期を待つのだ。と言われた」


「しかるべく時期とは?」

「それは今かと思います。次郎どのが判断なさりませ」


「私は未熟だ。風の洞窟に籠もって修行するのが今の私のすべきことなのだ」

「その後で宜しゅうございます」



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