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もう、逃げない。

作者: taiyo
掲載日:2020/11/17


私は、逃げるのが得意な奴だ。

怖くなったら、何からも逃げる。だって、辛いから。


親は言った。

「別に逃げてもいいんです。それで怖さがなくなるなら。」って。

優しくて、心が広い人なんだなぁって、思った。

でも、私は確か、それを求めていたのではなかった気がする。

でも、その通りでもあったから、私は逃げた。怖いから。


私は学校に行かなくなった。


行ったら疎まれるだけだし、辛いだけだし、私が悪者にされるし。

だいたい、悪役令嬢って何だろう。

流行りの小説にも必ずでてくる。私はこれらしい。

そう思うと、こんなことを本当にしてたらって思うと、また怖くなって、逃げる。


私は、友達と会わなくなった。


だって、本当は私のことを、嫌ってるかもしれないから。

無理にあって、もっと嫌に思われてるのに、気づかずに話し続けるのって、なんかやだ。

どっちも辛い。なら、私が逃げればいい。

だって、怖いんだもの。


私は、家から出なくなった。


だって、それで学校の子に会ったら気まずいし、辛いから。

何か言われたらって思うと、怖いし、嫌な感じがするし。

わがままだけど、私は自分のために、もうここから出ない。

気まずい雰囲気にならない、みんなのためでもある。

でも一番は、怖いから。


私は、笑わなくなった。


だって、もう覚えていないから。

いつだったか、それをしていたような気がするけど、もう、嫌になっちゃったから。

笑ったら、思い出してしまいそうで、怖いし。

怖いのは嫌だと、心の私が言ったから。


私は、私は。


もう何でもいい。

もう、何になってもいい。

怖くなければ、それでいい。

何もかも、忘れてしまったから、何も知らないから。

怖くないし、辛くもない。


そんな時に、私に新しい執事ができた。

初めて会った時は、何かびっくりしてたけど、すぐになぜか私に駆け寄ってきた。

私より小さくて、でも、すごく表情豊かな子だった。

私の、『オトモダチ』なんだって。

何だったっけ。『オトモダチ』って。

なんか、怖いなぁ。


………逃げようとした。

そしたら、捕まえられた。

怖くないなって、なぜか思った。

だから、やめた。

私とその子は、『お友達』になった。

何だか、わかったような気がした。

怖いけど、暖かくて、なぜがそれを離したくないと思った。

逃げなかった。


その子が、私に『エガオ』を教えてくれた。

心が、ぽかぽかして、わぁってなった時、自然に出た。

これが、『笑顔』なんだって。

何だか、わかるような気がした。

少し怖かったけど、何だか、そのぽかぽかは嫌じゃなくて、逃げなかった。


その子は、私に家から出ようって言った。

嫌だったけど、その子に無理やり引っ張られて、外に出た。

太陽の光は眩しくて、たくさんの『ヒト』の姿にチカチカした。

逃げたくなった。怖かった。

でも、その子が腕を引っ張ってくれて、走り回って、眺める知らない世界は、ピカピカして、綺麗で、怖いけど、怖くなかった。

だから、逃げなかった。


ある日、その子は大きな建物の前に私を連れてきて言った。

「これは、学校だよ。」

「ガッコー?」

「うん。学校。8歳くらいまで、君も通っていただろ?」

「がっ、こう。怖い。」

「怖くないよ。怖くない。しっかり、見て。」

しっかり見てみたその建物は、ピカピカ、チカチカしていた。


みんな笑ってて、楽しそう。

ちょっと悲しそうなこともあるけど、それも何だか深刻じゃない。

何より、一生懸命みんなが頑張ってる姿は、綺麗だった。


どこからか、熱いものがこみ上げて、それが目から落ちた。

これは、何だっけ。

辛くて、怖くて、悲しいのに、何だか、優しくて、あったかい。

大切な、大切なものだった気がする。

でも、知らない。


「これ、何だっけ。」

彼に聞く。

彼は何でも知ってるから。私が知っていたこと、全部。

「それは、涙だよ。悲しいもの。でも、それでいて、その涙は、とってもあったかいものだ。」

彼は笑顔で答える。

ピカピカ眩しくて、いっつも目を細めてしまう、その笑顔。

でも、今日はなぜか、それに見覚えがあって、見つめてしまう。


大切で、覚えていなくてはいけなかったはずの何かが、一気に私の中に溢れた。

それは本当に急で、とってもびっくりして怖かったけど、優しくて。

ああ、私は逃げたんだ。

思い出した。

だって、何もできない自分に、見捨てられたらと思うと、怖かった。

逃げたかった。辛いから。怖いから。

それは、別に悪いことではない。

でも、いいことでもない。

それでも逃げた。幸せを願って。


幸せに、なりたかったから。

幸せが何なのかは知らないけど。

ただ、それを掴みたいと思ったから。


………だけど、もう。


もう、逃げようとは思わなかった。

幸せが何なのかも、彼が知っているだろうから。

いや、知らなくてもいいんだ。

だって私は、多分これが幸せだって、もう知っている。



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