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序章2 不平等1/2

酒場を出ると、そこは大きな道に面していた。

道といっても軽く整備された土道で辺りは少し埃っぽく砂も舞い上がっている。


コトネはまたあくびをしながら、その大きな通りを歩いていた。車のない世界であるため例えにするのも変な話であるが、ちょうど車が2台余裕で通り抜けられるほどの幅がある通りには、そこそこに人が行き交っている。


今でこそ慣れたものの、コトネはこの世界の人種の多さに初めの頃は驚いたものだ。

エルフにドワーフ、みたことはないが妖精の類いもいる今まで空想上だった世界。魔物も多く生息しているためゲームや本でみたことのある冒険者なる風格のもの達も大勢いるため、ただのコスプレパーティーか何かか?と行き交う人々を観察していたのが懐かしい。


この街は「表向き」はギルドがしきっている自由産業の街として成り立っている。名をグレーバという小さな街であるが、それなりの活気に溢れている。


いま歩いている通りに面した店には螺旋苑のような酒場も多いが野菜や肉などを取り扱う露店やパン屋なんかもあり一般人で賑わうことも多々ある。裏通りに入れば所謂大人の遊び場や怪しい露天が多くなるものの治安はまだましなレベルである。


ぼんやり歩いているとただただ背景となっていた普通の店から、あまり普通に見えない風貌の人物が出ていく姿をコトネはとらえた。


真っ黒なコートに真っ黒な帽子。一見すると黒いところしか見えない風貌の人物はその手にでかいアタッシュケースを軽々と抱え店を後にしていた。その男にまるで上客か何かのようにペコペコ頭を下げている店主らしき男を見て、あぁ、相変わらずこの世界は不平等だな、とコトネは思う。


コトネがそう思うのは、彼女が異邦人だからということもあるが、他にもいくつか理由はあった。


その一つが、この世界に存在する全ての人種が所有する「スキル」だ。


スキルとは所謂固有技のことで、一人につき一つ必ず所持している。人々はこのスキルを生かし仕事や冒険に出ている。つまりスキルとはこの世界においては自分の力そのものなのだ。


しかしこのスキルは厄介なもので、どれだけ頑張ったところで熟練度が上がらない…つまるところレベルの概念がない。


例えば「炎錬成」スキルを持つものがいたとしよう。そのものがどれだけ頑張っても、炎を産み出すことしかできない。しかし世の中には「属性操作」や「炎魔法」という炎を産み出しさらに操る上位互換のスキルが存在する。スキルにはそれぞれランクがつけられランクが高ければ高いほどスキルの規格が上がっていく。つまりスキルのランクによって優劣が決まってしまうのだ。


先程の例をそのまま使うならば炎を産み出すことしかできない炎錬成はどう頑張っても炎を操ることはできず冒険者や討伐者といった高収入職にはつくことができない。こうした低ランクスキル保有者は足手まといになり死人を増やすだけだからだ。炎錬成スキル保有者100人より上位互換スキル保有者を1人の力の方が強く、生まれながらにして夢を見ることすら諦めさせられる現実。一生埋まることのない才能の差。


それがこの世界のシステムだ。


「さっきのは運び屋か…すぐに新しいのが出てくるのね」


独り言をぼやきながらミコトは普通の店、もといパン屋を視界の隅から外し歩き続ける。


運び屋とは取り立て屋の事でこの地域一体をしきっているマフィアに治安維持費と言う名のシマ代をああして集めている。


この世界に無論マフィアややくざといったそのような組織は無いがミコトはこの世界の暴力組織の総称を知らないため便宜上マフィアとそのままそうよんでいた。実際総称はなく後にこれが正式総称となるのだがそれはまだ先の話である。


グレーバは表向きはギルドが仕切っているが、蓋を開ければ暴力組織が抗争を繰り返しているアウトローな街であった。

モンスターか人間同士で争い続けている平和とは無縁の世界。努力ではどうしようもない優劣の差。同じ世界にいるもの同士だというのにこうも格差があれば異邦人のコトネから見れば不平等きわまりなかった。


土ぼこりが混じる風を頬に受けながら、大通りを少し外れた小さな路地へ入り一軒の木製平屋の前でようやく足を止める。路地はその一軒だけが道に面しており、あとは宿だったり酒場だったりの建物が軒を連ね平屋を過ぎて50m程で行き止まりとなっていた。


コトネは迷うことなく扉を開ける。カランと鈴の音が響いた瞬間、油や金属の臭いが鼻を掠めた。武器屋であるそこには壁一面に剣や盾が並べられ多少の圧迫感が四方を囲っていた。


「……いらっしゃい。ずいぶん小さなお客さんだな。」


入り口から真っ直ぐ進んだ先にあるカウンターにがたいの良い大柄な男が座り口を開く。カウンターの向こうにはもうひとつ部屋がありどうやら工房のようだ。ミコトはこの寡黙というか無口というか、愛想を体から削ぎ落としたような男の態度からおそらくこの者が店主であろう事は理解できた。職人と呼ばれる者達はこの世界でも同じようなもので人付き合いはあまりよくはない。その証拠にこの店だけでなく防具屋や仕立て屋などの職人は皆こんな感じだ。この世界では店は職人が切り盛りしていて店の手伝いなどは身内にしかさせない。態々接客要員を雇わないようでその為かどの店も…夜の店や酒場や愛想の良い方々などは除いて店に華や活気 がないことが多い。しかし酒場からでてから一度も表情筋は動いていないミコトも人のことは言えないわけで。


こうした態度にも概ね慣れた為か特に何か感じることもなく壁にかかる武器を眺め始める。多種多様な人種の存在する世界であるから余計にミコトの身体は小柄に見られがちのため良くある話であり実際ミコトの身長はこの世界の平均よりは小さい。おまけに日本人特有の黄色身を帯びた肌と黒い髪は白いTシャツにジーンズと言うシンプルで地味な格好をしても目立つ。


(この店の職人は繊細な腕の持ち主なんだろうな。)


ずらりと並べられた剣や盾が物々しい雰囲気を醸し出しているが、一つ一つを眺めると装飾品や柄の彫りには洗練されたデザインが描かれている。武器は特にであるが繊細な物よりも豪胆豪快な物が多く、見た目より性能が重要視される。美しい刀身のレイピアよりも見るからに重く頑丈そうな分厚い斧の方が需要があるのだ。実際強力な魔物やマフィア抗争では美しさは全く意味がないし、武器を扱う冒険者の殆どが現在進行形で片手斧を磨いている男のようにがたいもよく正直デザインに気を使う者が少ないのが大きな理由だろう。


壁に主だってかけられているのはナイフやダガーといった短剣を始め両手剣や斧など多岐にわたる。右手からぐるりと一周店内を見渡したがその目はひときわ目立つある一点で止まった。


「…これ、欲しい。」


先程ミコトが入ってきた入り口の真上を指差し、店主に言付ける。剣の類いが多い店内で一際異彩を放っていたそれを指されたことで店主は明らかに怪訝そうな顔を向けた。

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