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序章1 穏やかな目覚め

遡ること数時間前。

優しい日の光が差し込むとある酒場。両開きの重い木製の入り口を開けば、そこにはよく見かける所謂テンプレート的なレイアウトが広がる。入り口手前にはでかい丸テーブルに同じデザインのウッドチェアがセットでいくつも設置され、その奥には酒場を区切るように大きなカウンターが壁の端から端まで横断して存在感をアピールしていた。


まだ営業時間外の昼間の酒場には日の光に反射され埃がきらきら輝いている以外に特徴はない。そんな静かな空間でカウンターに突っ伏して眠っている女が一人。


様々な人種がいる中でも珍しい黒髪を滴し両腕を枕にした少女は、ガチャリと食器同士が軽くぶつかる音で目を覚ます。


「んぁ…」


少女、コトネは間の抜けた声と共に顔をあげた。

黒い髪は寝癖がつき、耳近くで跳ね返っている。元々ボブの髪型はさらに短くなるはめになったが本人はその事に気づいていない。


なにせコトネの気はカウンターを挟んだ向こう側、軽い洗い場があるそこに向けられていたからだ。


「おはよう、女将。」


「おはよう、ずいぶん眠っていたね」


恰幅の良い体に筋肉をまとった色黒い女は洗い場で巨大なジョッキを泡だらけにしていた。ウェーブのかかった黒髪をそのままにターバンだけざっくりと巻いた男気溢れる女将は酒場の準備をしているのか、カウンターには洗われて水気を切られた皿やジョッキが並んでいる。


「昨日ちょっと…色々やったから…寝不足」


寝たりない気持ちを圧し殺し椅子から降り立てばまだオレンジにもなってない日の光と共に通りを眺め。少女というには成長しすぎた、しかし女というにはまだ若い微妙なお年頃のミコトであるが大きく口をあけおおよそ女性らしさのないあくびをこぼした。


「まだ時間在りそう…ちょっと出掛けてくる」


「あんまり遅くなるんじゃないよ。」


女将は収支食器に目を向けながら言葉だけを投げ掛ける。このやり取りもいつものことで振り返ることなくひらりと手を振り両開きの扉に手をかけた。


「さすがにもう迷わないよ。こっちに来てずいぶん経つんだから」


そういいながらミコトは扉を開く。

ミコトにとってこのファンタジーのような世界へ、誰かに呼び出されたかなにかで飛ばされたのは今から6年前。例にも漏れず彼女は強いスキルを手にいれ仲間にも恵まれている。しかしこの世界は異邦人にとっては残酷で残忍で、理不尽だ。決して報われることのない運命に巻き込まれた哀れな人形にすぎない。


そんなことはわかっていても、抗ってしまう。それは今日も変わらず、大嫌いな世界へ少しの報復をするためミコトは外へと飛び出した。


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