プロローグ
その日、そのとき、その場所で、一人の人間がある者の手により血肉と化した。
まだ明るい昼下がり、土ぼこりの舞う大通りから外れたある場所で、当事者以外の全員はその恐ろしい光景に目を見張る。現実時間にしてわずか数秒の間に、この地域では指折りの強者といわれた男が少女というには成長しすぎた、女というには幼いこの世界では珍しい黒髪の女性にあっけなくやられたのだ。それも女の身の丈と同じくらい大きなハンマーに頭を撃ち砕かれて。その数秒が見物人たちには数時間に感じられるほどその光景は異様であった。
女がやったことは単純明快。武器を構え、跳躍し、男の脳天を砕く。それを流れるような美しい動きでやってのけたのだ。
「はい、私の勝ち。…聞こえてないか。」
ふわりと女の足が地についた瞬間、時間の流れがもとに戻り見物人の一人であるがたいのよい武器屋の店主は我に返った。華奢で重いものなんて持てそうもない細い腕でハンマーを下ろす女は軽やかに肉片となった男に半身を振り返って淡々と言い放つその姿に冷や汗が吹き出す。体全身が震え心臓が鳴りやまず、脳内では警笛がけたたましく響き渡る。
自分の目の前にいる女から逃げろ、と。