8話 創造魔法と料理
デルシア王国の辺境に住み着いてしばらく。
生活面も諸々落ち着き、ここ最近は何をしているかと言うと、
「よいしょっと。耕す面積はこんな感じか」
地面を耕して畑を作っていた。
創造魔法で食料には困っていないが、しかし何もしないと言うのも問題だろう。
そもそもの話、最低限の衣食住は創造魔法でどうにでもなる。
けれど次に必要になるのは趣味や娯楽の類なのだが……。
「俺、前々から畑作とかやってみたかったんだよなぁ」
創造魔法で作った農具を振るう日々は、思っていた以上に充実していた。
生まれも育ちも建物の立ち並ぶ街で、その後の旅は各地を巡る日々。
よく考えたら、こんな緑豊かで静かな土地に滞在した経験はなかった。
それにゼロから辺境暮らしを始めようと言うんだから、こう言う活動も悪くないだろう。
「ご主人さま、少し休憩しませんか? お茶を淹れてまいりました〜!」
オラリスが家から出てきて、魔道具で冷やしたお茶を持ってきてくれた。
ちなみにその魔道具などは、オラリスが眠っていた部屋にあったものだ。
神代の品だけあって、魔導書同様に劣化もなく非常に頑丈で便利だ。
オラリスから手渡されたお茶を、ぐいっと飲み干す。
「ふぅ……。体を動かした後だと、冷たさが心地いいな」
俺は耕した畑を眺めつつ、そよ風に当たっていた。
草木の匂いと言うのか、そういったものも穏やかで心が落ち着く。
カナメもいい土地を縄張りにしたものだ。
「……って、ちなみにカナメは?」
「言われてみれば、今朝から姿が見えませんね」
「まさかまだ寝てるとか?」
そう呟くと、天から声がした。
「そんな訳ないでしょ? 失礼しちゃうわね」
見上げると、ドラゴンの姿に戻っているカナメが空から降りてきていた。
そして俺たちの前に着地すると、前足に掴んでいた獣をドスンと置いた。
「あたしはルドーやオラリスと違って、活動的に生きていたいの。それで今朝から狩りに出かけていたって訳。あ、ついでに二人もこれ食べる? 部位によっては霜降りだと思うし、脂も甘くて美味しいわよ?」
ずい、と獲物を差し出してきたカナメ。
俺は頷いて言った。
「もらえるならありがたいな。創造魔法って味までイメージしないと上手く働かないから、美味しいものはあれこれ食べておきたいし」
そう、創造魔法で再現できる食べ物について新たな事実が発覚したのだ。
それは見た目だけでなく、味もイメージ可能なものしか創造できないと言うことだ。
だからパンのような素朴な味のものはともかく、うろ覚えで肉料理などを魔法で作ろうものなら微妙な味に仕上がってしまう。
つまり創造魔法で作れる美味しい料理の幅を増やすには、実際に皆であれこれ料理して美味いものを食べる他ないのだ。
ちなみに、畑を作っている理由の一つにも美味しい作物を収穫して味を覚えたいというのがある。
オラリスは大きな胸を張って、ぐっと腕まくりをした。
「ではご主人さま、私がお料理しますね! 私、こう見えて神々に料理上手であれと作られた身なのでお料理は得意なのですっ!」
「ならあたしは獲物の下処理ね。ちょっと近くの川でやってくるわ」
カナメはそう言って、再び飛び立っていった。
今日の昼食にはいつも以上に美味しくなりそうだなと、俺は期待に胸を膨らませていた。