6話 新しい家
「ねえルドー。あんたこれから何する気?」
神殿近くの平原を眺めていると、濡れた体を炎で乾かしながらカナメがそう聞いてきた。
「今から家を建てようかと」
「家……? あんたたち、あのでっかい建物に住んでいるんじゃないの?」
カナメは神殿を指していた。
「あそこは経年劣化でボロボロだし、中の書庫やオラリスの部屋でずっと生活する訳にもいかない。だからまずは家を建てたいんだ」
とは言え、創造魔法で作る物体の質量は俺の魔力と等価交換。
俺も魔王討伐の旅で魔力容量が増えているとは言え、そこまで大掛かりな建物は作れない。
せいぜい小屋がいいところか、と悩んでいると。
「ん、だったら手伝ってあげる」
カナメは俺の手を握ると、こちらに魔力を流し込んできた。
「さっきの水を作った魔法であんたも消耗しちゃったでしょ? 押しかけて来たあたしも悪かったし、少しくらいなら魔力をあげる」
そう言いつつカナメが流し込んできた魔力は、少しどころではなかった。
あの勇者にも劣らないほどの大魔力、流石はドラゴンだ。
「これだけあれば! 『建築』!」
家の外観をイメージしながら神代の言語を唱える。
すると地面に魔法陣が浮かび上がり、光の粒子が想像した通りの家を作り上げた。
「流石はご主人さま。もうここまで創造魔法を使いこなすとは!」
「使いこなしているというか、使いやすすぎるというか」
何せ神代の言語を口に出し想像さえすれば、後は魔力次第で何でも可能だ。
神さまたちもこんなノリで世界を作ったんだろうかと、何となく思った。
「ちなみにこの家、何かモデルはあるのですか?」
「遠い故郷にある俺の実家だよ。一番想像しやすかったから」
父が役人だったので、実家の広さにはそれなりに恵まれていた方だと思う。
部屋数も少なくないし、複数人で暮らしても困らないだろう。
「へぇ、これが人間の家なんだ。あたし一番乗り〜!」
鼻歌を歌いながら、カナメが家に入った。
俺も中に入ると、家具なども想像通りに再現されていた。
「これがソファーってやつかぁ、ふっかふかね!」
カナメは居間のソファーに寝転び、言った。
「決めた! ここ、あたしの定位置ね!」
「あ、ずるいですカナメさんっ! 私もそのもふもふしたソファーがいいです!」
「えへへ、早いもの勝ちよ!」
オラリスとカナメがあれこれ話し出した。
どうやら定位置やら部屋割りの話らしい……って。
「カナメもここに住むのかな?」
いつの間にかそんな雰囲気だが、よく考えればここはカナメの縄張りの中だし、ここ一帯はどこでもカナメの住処みたいな節もある。
それにカナメも明るい性格のようだし、生活が賑やかになっていいかもしれない。
俺はこの家でのこれからの生活に思いを馳せていった。