3話 神々の魔法の力
書庫にこもること丸一日。
神代文字で書かれた魔導書に全てに目を通した俺は、そこそこの充実感に包まれていた。
「魔導書を読んでたら気が紛れたや。とは言え腹減ったなぁ……」
丸一日飲み食いを忘れていた体が、水と食べ物を欲していた。
「『こんなことなら水とかパンくらい持って来ればよかった』……なーんて」
【読解術】スキルで学んだ神代の言葉で何となく呟くと、目の前に魔法陣が浮かび上がって水やパンが現れた。
「……は?」
ひとまずパンをかじってみる。
うん、普通に美味い。
しかしどうしてこんな現象が起こったのか、考えられるのは魔導書以外になかった。
「えーと、あの魔導書たちって神さまがこの世界を作った過程とか書いてあったような……?」
魔導書によれば、神さまたちは魔術ではなく魔法と呼ばれる力で多くのものを創造していったのだとか。
しかも魔力さえあれば何でもできたとも書いてあった。
「もしかしてその魔法とやらを、魔導書を読んで習得できたとか?」
普通の魔術なら、魔導書を読み内容を理解すれば習得できる。
しかし神々の使っていた魔法も、魔導書を読み漁って習得できたとでも言うのだろうか。
「いやあり得な……くもないのか?」
パンと一緒に出て来た水の方も、コップを持って飲んでみる。
うん、すっきりと普通に飲める。
ちなみに魔術は加工前の単純な原材料を増やすことは可能だが、加工後の物体、すなわちパンやらコップやらは増やせない。
構造が純粋な原材料と比べて複雑すぎるし、いくら魔術でも製造過程まで飛ばすことは原則として不可能だ。
その上たった今出てきたパンや水もコップも、増やす前のオリジナルがどこにもなかった。
「食べ物や水を、魔力を消費して一から創造したって解釈でいいのか?」
しかしそうとしか思えない。
現に俺の中の魔力消費量は、今出て来たパンや水、コップの質量とほぼ等しいように思える。
つまり今の俺は、魔力さえあれば何でも作れる可能性が高い。
「魔法は万能か、凄いな神代の魔導書は」
無限に等しい魔力を持つとされる神々のことだ、やはり大昔の神々もこの魔導書の魔法を使ってこの世を作ったに違いない。
「しっかし考えようによってはこれで路銀も作れるように……いや流石に犯罪か。となれば……」
俺は今後どうするか、パンを齧りながら考えた。
それからパンを食べきったあたりで、よしと立ち上がった。
「数年間も旅して疲れたし、この静かな神殿近くの辺境でのんびり暮らそうかな。幸い食べ物飲み水には困らないだろうし、飢え死にもしない」
故郷の国に帰るかどうかは、一旦心と体を休めてから考えればいい。
そう思い至った俺は、神殿から外へと出ようと……したのだが。
「では主さま、このオラリスがお手伝いいたします」
「……んっ!?」
いつの間にか真後ろにいた金髪碧眼の少女に話しかけられ、危うく飛び上がるところだった。
えっ……どちらさま?