14話 迷い込んだ少女
カナメの縄張り周辺に結界を張ってしばらく、特に大きな問題もなくのんびりと日々が過ぎて行った。
カナメの修行にたまに付き合いつつ、オラリスから料理を習ってみたり、はたまた書庫でゆっくり魔導書を読んでいたり。
そんなある日、ソファーで昼寝をしていたカナメがふと起き上がってすんすんと鼻を鳴らした。
開いている窓から入ってきた匂いを嗅いだようで、カナメは外を見ていた。
「嗅ぎなれない匂いがするわね。この近くからよ」
「もしかして魔物か?」
「その可能性はありますが、しかしドラゴンの縄張りに他の魔物とは少々考えづらいかと」
俺たち三人はう〜むと唸った。
「よし、俺が様子を見てくる。二人は一応、家の中にいてくれ」
オラリスとカナメが頷いたのを確認し、俺は家の外へ出た。
ここは辺境でドラゴンの縄張りだ。
そんな場所に好き好んで現れる人も魔物もいないだろう。
となれば迷い込んだのか? と思ったその時。
「に、にゃあぁ〜〜〜……」
脱力したような声を出し、神殿の柱にもたれかかっている人影を見つけた。
そっと近寄ると、頭からぴょこりと猫耳を生やした少女だった。
「獣人か。だからカナメも嗅ぎなれない匂いって言っていたのか」
獣人とは、元々は大陸の西側にあったロイライド帝国という国に住む種族だった。
しかし帝国は数年前、真っ先に魔王軍の襲来を受けて壊滅。
以降獣人は希少な種族となり、ごく少数人が各地を放浪していると聞いていた。
「まさか国を四つ挟んだここに辿り着くなんて、きっと相当な長旅を……」
「にゃっ?」
少女の耳がぴこりと動いて、明るいクリーム色の髪が揺れた。
「誰かいるの? ……こんな人気のない場所に?」
怯えた様子の少女に、俺は両手を上げて姿を見せた。
「落ち着いてくれ、危害を加える気はない。俺はこの近くに住んでいるルドーという者だ。君は?」
「ロ、ロリン。ロリンはロリンだよ?」
少女は慌て気味に自分を指しながら自己紹介した。
「ならロリン、どうしてこんなところに? ここはドラゴンの縄張りの中だから、立ち寄る人も少ないはずなんだけど……」
そう言うと、ロリンは耳と尻尾をピンと張った。
「に、にゃぁっ!? ド、ドラゴンの縄張りにゃ!? どうしよう、ロリン食べられちゃう!?」
「大丈夫だ、ここのドラゴンは人型種族を食べないらしいから。それでロリン、もう一度聞くけどどうしてこんなところに?」
猫の獣人らしくにゃあにゃあと騒ぎ出したロリンをなだめてから聞くと、ロリンは思い出したかのようにお腹を押さえてへたり込んだ。
「その、実はお腹が空いちゃって。何日も何も食べずに歩き続けて、気がついたらここに……」
なるほど、そう言う話なら放ってはおけない。
「ならロリン、一旦ウチに来るか? パンとかあるし、腹一杯にさせてやれると思うけど」
同じ人型種族なんだから、困った時はお互い様の精神だ。
そう思いながら言うと、ロリンはがばっ! と半泣きで抱きついてきた。
「み、みゃあああ〜〜〜っ! 神さまっ! ルドーは救いの神さまだにゃ〜〜〜っ!!」
「救いの神さまって、大げさな……」
足がふらついているロリンを支えながら、ひとまず俺は家に戻って行った。




