1話 戦力外通告
「ルドー、悪いが君との冒険はここまでだ」
勇者アレルヤからそう言い渡されたのは、魔王軍の幹部である【氷将のコキュートス】を討伐した直後だった。
戦いの疲れを宿で癒していた最中、俺の寝泊まりしていた部屋にアレルヤがやって来たのだ。
「……悪いアレルヤ、それはどう言う意味なんだ?」
「意味も何も文字通りだ、僕は君に戦力外通告を言い渡しに来たんだ」
アレルヤは眉間にしわを寄せ、腕を組んだまま話を続けた。
「君は【読解術】スキルを持った魔術師として、この魔王討伐の旅での交渉や補給を主に担当してもらっていた。大陸全土で言語が統一されていない現状、君のスキルは大いに役立ってくれた。けれどもう必要ない。この数年の旅で、僕らも各国の言語は十分以上に習得できたからだ」
そう、俺が十五歳の成人の儀で神さまから授かったのは【読解術】というあらゆる言語を即座に理解できるスキルだった。
希少ながら使いどころが限られる「外れスキル」に分類されるが、各国が異なる言語を扱っている現状から、俺は旅のサポート役として勇者パーティーに加わったのだが……。
「それに僕らはもう魔王軍幹部を攻略する段階まで旅を進めている。ここで重要になってくるのは個々の戦闘能力だ。しかしながら、君は魔術師ではあるがスキルは非戦闘向き。正直、君がパーティー全体の足を引っ張ってしまっているのは事実だ。現にコキュートス戦でも君は大した戦力にならず、攻撃を避けてばかりだった」
確かにこのパーティーは【勇者】スキルを持つアレルヤ以外に【剣聖】や【弓聖】、【賢者】のように戦闘面を担い、または支えられる強力なスキル所持者で固められている。
それらに比べれば【読解術】スキルしか持たない魔術師は戦闘面で劣るところもあるだろう。
「でも、俺たちは仲間じゃなかったのか? これまで俺もアレルヤたちの力になりたい一心で、交渉どころか補給も雑用だって……」
「心がどうあれ、実力が伴わなければどうしようもない。僕は本気だ」
アレルヤの殺気めいた雰囲気に、俺はたじろいだ。
【勇者】としての強力な覇気が、この部屋全体を覆っていた。
「……アレルヤ。俺をクビにすること、他の皆も承知の上なのか?」
「当然だ。皆で話し合って決め、僕がリーダーとしてそれを言い渡しに来ただけの話。僕らも足手まといを庇いながら戦えば、要らない被害が出かねないと考えている。他に言いたいことはあるかい?」
俺は、拳を握りしめた。
数年一緒に旅をして戦ってきた仲なのに、こうもあっさり追い出されるものなのか?
俺はずっとアレルヤたちを大切な友だと思っていたのに、アレルヤたちにとっては単に便利なサポート役でしかなかったのか?
……言いたいことは山ほどあったが、それでもスキルによる実力差は覆しようもない。
俺は首を横に振った。
「……言いたいことはない。分かった、俺はパーティーを出て行く」
「そうしてくれ。それと装備は返して欲しい。最悪売れば、僕らの軍資金にもなる」
「……」
俺は無言で装備を外した。
風除けのマントや護身用の長剣など、どれも冒険の中で手に入れた品だった。
俺にとっては思い出の詰まった、仲間との絆を示す大切なアイテム「だった」。
……今はもう、その絆は失われてしまったが。
「じゃあなアレルヤ。皆によろしく」
「それくらいは伝えておく。皆、君が出て行ったかどうか気にしている頃だろうから」
俺は少ない路銀や最低限の荷物を持って、宿から出て行った。




