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鉱石を握る乙女たち

私にもペロペロして~、と強請(ねだ)るスファイに苦笑を返していると、

イスタが席に戻って来た。



「そこまでですよ、スファイ。

マザイナ様、嫌なときは遠慮なくお爪で引っ掻いてやって下さいませ。」

「いえ、そのようなことは・・・。あ、お初にお目にかかります。」



音も無くイスタの横にやって来た、小柄な丸い耳の愛らしい女性に挨拶をする。

今の今まで身体の大きな“牙の種族”に囲まれていたので、自分と同じくらいの大きさの女性に少し興味が湧いていた。

光沢のある赤褐色の毛並みで、しなやかな体躯。

マザイナは名乗りながら、アニア達のように親しくなれるかしらと期待した。



「・・・タタビー・ダキークですわ。何ですの?そんなにフォッサ族が珍しいかしら。そのような好奇な目で見ないで下さいませ。」

「も、申し訳ございません・・・。」

「もう、タタさん。マザイナ様は仲良くなりたいと思ってご挨拶下さったのですよ?

邪険にしてはなりませんわ。」

「ふん。」

「う~ん、マザイナの可愛さが仇になったか。ごめんね、マザイナ。

気にしないでいいよ。タタ姉さまは悪い意味で誇り高くって。」

「辺境ながら、(わたくし)も大領主の娘。ぽっと出の者に侮られることは許せませんわ。」



(ほの)かな期待を打ち砕かれ、どうしたものかと狼狽(うろた)えるマザイナの前に、

横から逆立った茶色の(たてがみ)が入り込んだ。



誰彼(だれかれ)構わず噛みつくなんて、本当に結構なご身分よね。・・・いい加減、(わきま)えたら?」

「あら?いつまでたっても貧乏性の抜けない困ったお嬢様じゃない。

お菓子も、貴女の好みしか反映していなさそうですし、もっとお勉強なさったら?

ご領主様も、末娘がこれじゃさぞご苦労なさっておられるでしょうね。」



アニアが戻って来てくれたようだ。

タタの矛先が自分から外れたことに胸を撫で下ろしたが、今度は大領地同士の熾烈な争いが勃発してしまった。

どうしたものかと困っていたマザイナを、後ろから引っ張る者がいた。



「マザイナ様、こちらへ。ご心配なさらずとも、(じき)に収まりますわ。」

「あんた達もいらっしゃい。マザイナを紹介してあげる。」



促され振り返ると、イスタの背中越しに、後脚で立ち上がってマザイナを見詰めていた小さな顔が2つあった。



「あらあら、不躾(ぶしつけ)に申し訳ございません。」

「では、ご招待に(あずか)りまして。」



火花が散る現場から少し下がった場所で、再び挨拶が始まった。



「マザイナ様、こちらはタタさんのお供でミーアキャット族の、アティサルとアーダールですわ。」

「お初にお目にかかります、アティサルでございます。これは私の従弟です。」



尾を下げて丁寧に自己紹介をする2匹に、姿勢を正したマザイナだったが、

横からスファイが助言をくれた。



「この2匹は立場が下だから、貴女は鷹揚(おうよう)に受け取りなさい。」

鷹揚(おうよう)、ですか。えーっと・・・。」

「“大儀である”。」

「スファイ。」

「申し訳ありません、お姉さま。」

「よ、よろしくお願いします。」

「はい、どうぞお見知りおきを。」

「マザイナ様は本当にご賢明な方ですのね・・・。貴女も見習いなさい、スファイ。」

「はい。―――さて、貴方の番よ。」



スファイが顔を横に向けて誰かに話しかけた。

マザイナがその視線の先を追うと、中庭に面した柱の陰に隠れている者がいる。

まるで気付かなかった。



「いえっ、私はそんな、ご紹介に(あずか)れる立場ではっ!」

「いいから、いらっしゃい。」

「失礼に当たりますよ。」

「諦めて来いよ。」



口々に促されて出てきたのは、またマザイナの知らない種族だった。

黄色い目を目一杯広げて、恐る恐ると近付いてくる。



「・・・がおっ!」

「ヒイィィイッ!!」

「スファイ。」

「いい加減じれったくって。」

「申し訳ございません、マザイナ様。これもアルザバード領の者でございます。

名をデーイラト・カフラバイヤ、アイアイ族と言う“指の種族”ですわ。」



アティサルが紹介をしてくれたのは、アルザバード領の商人組合の幹部の息子だった。



「そいつも国学舎所属よ。商売する家系から出た、工学部の変わり者。」



戦いが終わったのか、ゆっくりと戻って来たアニアが教えてくれた。



「あっ、その、カフラとお呼び下さいよろしくお願い致します。」



間を入れない分かりづらい自己紹介をして、カフラは再び物陰に隠れてしまった。

その怯え具合に驚いてアニアを見ると、彼女はヒョイッと尻尾を振って、

最初に座っていた場所に腰を落ち着けた。



「いつものこと、いつものこと。さあ、これで全員の紹介が終わったわ。

お疲れ様。」

「・・・いつも、皆様でお話しされているのですね。」

「ええ、この国で鉱石に携わっている者の縁者と言えば、私達くらいね。」

「本当は、首都やアニアの領の商人組合とも繋がりはあるのですけれど・・・。」

「あの年じゃねえ。」



コロコロと遊ぶのに飽きた子供たちが、今度は頭を突き合わせてお菓子を堪能していた。



「自己紹介が済んだのなら、ワシャク領の事情について教えて頂きたいですわ。」

「お嬢様、直接的すぎますわ。」

「タタ姉さまは本当に、解りやすいんだか解りにくいんだか。」

「マザンナはこういう話は初めてなんだから、私達から何を開示すればいいのか教えてあげるべきでしょ?・・・盛りのついた獣じゃあるまいし。」

「何ですって?!」

「はいはい。アニアもタタさんも、もう喧嘩はお()しになって。」

「じゃあ、まず我々リイカウン領から紹介しましょう、お姉さま。」

「それが良いですわね。では、(わたくし)から。」





リイカウン領は、ワシャク領から赤河を(さかのぼ)った先にある副首都キタ・マフトゥの、更に先にある草原と低木林から成る大領地で、産出しているのは鉛と亜鉛。

しかし、製錬や加工は隣の領地であるアニアのダバウ領で行われる。

これは、噴煙を上げる中央山脈に炉を持っているダバウ領で行った方が、効率が良いため、だそうだ。

その関係でアニアとも繋がりが深く、よくこうして集いを開いているとのこと。

また、現在、副首都はトラ族が治めており、隣り合うリイカウン領はトラ族とも繋がりが深いらしい。



次いで、アニアがダバウ領について説明してくれる。

中央山脈の麓に領地を広げるダバウ領は、銅の産出と加工で成り立っている領地だが、リイカウン領等の周辺地域から依頼される金属加工も請け負っている。

赤河を下った先の首都と副首都に直接、商品を下ろせる強みがあるので、

新興の領地にしては上手くいっているらしい。



「ですが、(わたくし)のアルザバード領の歴史には(かな)いませんわ。」



自慢気に話し始めたタタは、じろりと目線を向けるアニアを意にも介せずマザイナに紹介した。

アルザバード領は鉄の産地で、リイカウン領と『水生帝国(ヤイシュ・マ・ルマギ)』の間に位置する林の中の領地らしい。

トラ族の出身地でもあり、副首都の大領主と深い繋がりを持っているそうだ。

採掘した鉄を、近場である隣国の灰恵国で製錬、加工しており、そちらの王族とも交流があるのだとか。





こうして聞いてみると、ここは凄い集いなのかもしれないとマザイナは実感した。

面積だけで考えるなら、3つの大領地は『勇敢なる戦士の国バラド・モハリ・ショジャー』の4分の1を占めているのだ。広大な砂漠に点在する種族は基本的に遊牧民なので、砂漠に領地は無いと仮定すると、3領地と砂漠、そして小さなワシャク領で国の半分である。



(いえ、ワシャク領を数に入れるのは、ちょっと不相応ね。)



どうして自分がこの集いに入ることが出来たのか不思議なほど隔たりのある状況に、マザイナは苦笑いした。

しかし。



「さあ、今度こそ貴女の出番ですわよ。」



促されて口を開いたマザイナは、もう(うつむ)かなかった。

そう、どれだけ規模が小さかろうと、郷土を誇る気持ちだけは、ここにいる誰より強いと分かったから。

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