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落とし前

ゲンゴロウ一家の拠点は、一目で判った。

黄色の縁取りがされた団体が、出たり入ったりしていたからだ。


「さて、では参りましょうか。」


シャウラの返答など待ってもいない様子で、

サイディ女史がしゃなりしゃなりと歩いて行く。

“牙の先”に潔川が流れ込む“大穴”の上に架けられた足場を通って来たのだが、

その間、2匹は一切会話をしなかった。

このまま突入するのかと思いきや、一応、一声かけてくれたので、

そこまで情の無い秘書ではないのだろう。


「な、なんだ?何の用でい?」


出入りする者を押しのけて入り口に向かう姿を見て、

予想通り好戦的なんだな、とシャウラは感想を持つ。

獣勇国の首脳陣に、ライオン族やトラ族がいるように、

()てして爪持つ種族はしなやかで強い。


(・・・これで戦力にならなかったら・・・どうしよう。)


シャウラの抱いた不安を消し飛ばすように、サイディ女史の声が踊り場に響いた。


「代表のシャリス殿はいらっしゃいますか?

探索者組合、副拠点長のサイディと申します。」


秘書じゃなかったのか。いや、秘書だと非力に思われるからか。

シャウラがそんなことを思っていると、奥からワラワラと湧いてくる者たち。

空から差し込む光を()ねて、ギラギラとしている様が、(わずら)わしい。


「親分はいねーよ。」

「忙しいんだ。帰ぇりな。」

「・・・どこに行った?」

「何で姉ちゃんごときに言わなきゃいけねーんだ?せめて拠点長を持って来なぁ!」


ヒヒヒヒ、キェーヒッヒ、カッカッカー!


―――バシンッ!

「!!!!」


下品な笑い声だと不快に感じていると、女史が爪を出して床材を叩きつけた。


「さっさと答えなさい、下郎共。」


ウッと詰まった空気の中で、誰かがぼそりと言った。


「・・・トカゲんとこだよ。」

「ばっか、何言っちゃってんだよ、てめえ!」

「だ、だってよぅ・・・」

「そうですか。」

「!!」


叩いた前脚を引っ込め、女史は姿勢を正してクルリと回り、

元来た道を引き返し始めた。


「お、おいおいおいおい、姉ちゃん!」

「脅しといてそりゃあねえだろう、待ちなあ。」


そこに回り込む者たち。

すでに殺気立っており、相当喧嘩っ早いのだろうな、とシャウラは思った。


「何を待つことがあるというのですか?それが脅された者の態度ですか?」

(無茶苦茶だな、この女史。)

「あっ!あ~~~っ!!」

「うるせーぞ、何だ。」

「こいつだ!こいつだよ~!兄貴を殺した犯人は!!」

「「何ぃっ?!」」


シャウラを凝視(ぎょうし)して叫び、騒ぎ始めた一家を見て、

今更気付いたのかと、シャウラは溜め息を吐いた。


「・・・そうなのですか?」

「一家に所属する者なら、そう主張するでしょうね。」


鋭い目でこちらを見る女史に、伝わってほしい内容を込めて返答する。

女史は鼻を鳴らす。


「分かりました。恐らく乱闘になるでしょうから、隙を見て私はここを出ます。

・・・ここ、いつも(ほこり)臭いのよ。」


自分は戦闘には加わらないと、さっぱりと言い切る女史は、

血の気の多い狼藉者(ろうぜきもの)より、よっぽど小気味が良かった。

気を付けなければならないのは、そういうことにする手前、

女史の目の前で殺しをする訳にはいかないという点だ。

幸い、ここは船と違い自由度の高い戦いができそうである。

壁を背にすれば、後ろには注意を払わなくてもよくなる。


(さあ、来い。)


バッと、勢いよく両肢を広げ、尾を(かか)げて身体を前傾させる。

一種の警告だ。


「やっちまえーっ!!」

「「「「おおぉーっ!!」」」」







隙を見て逃げると言っていた女史は、結局、入り口から動かなかった。

涼しい顔で、尻尾を使って身体から埃を払っている。


「・・・念のため訊きますけれど、大丈夫ですか?」

「ええ。全く。・・・強いのね。

確かにこれなら、殺すまでもなく制圧出来た、でしょうね。」


頷く女史に、潔白を演じることが出来たと安堵する。

シャウラは、最後の茶番を始める。


「お前たち、これに見覚えがあるだろう?」


積み上げた狼藉者の山の前で、耳飾りを1つ揺らした。


「は?」

「し、知らねえよ、そんなもん・・・」

「くそー・・・」

「うぅ、う・・・」


しっかりした反応がなかったので、次の計画に移るか、と思ったとき、

それを凝視する者を見付けた。

思わずニイッと笑ってしまう。

目を逸らしたその個体の前に立ち、突き付けるようにして、もう一度訊いた。


「・・・知ってるよな?あの時、()()()帰ったんだもんな?」


この場にいる全員の視線を受けて、居心地悪そうにモゾモゾし始めた()()


「あら。ゲンゴロウ一家は泥棒稼業まで始めたのかしら?

以前、強盗の容疑がかかっていましたけれど、やはり貴方(あなた)方の仕業だったのですね?」

「ち、違う!これは、こいつの仕出かしたことだ!一家は関係ねえ!」

「そ、そんな!待ってくださいよ、兄貴!」


流石のゲンゴロウ一家も、探索者組合の副拠点長の前での自白は(かば)えないのだろう。

一家の面汚しが!と、非難囂々(ごうごう)である。

その様子がかつての自分に重なり、少し罪悪感が芽生えた。


(・・・迷うな。)


先達の言葉が、繰り返される。


「・・・これでは、収拾が付きませんね。では―――」

「おうおう、出迎えがねーとは、サボってんのかてめーらぁー。・・・あ?」


女史が立ち上がった時、入り口から威圧的な態度で入って来た者がいた。

その少し前を、静かに進む者が1匹。


「これはこれは。サイディ副拠点長殿。

さて、事前の連絡は受けておりませんでしたが、何の御用ですか?」

「ご機嫌よう、シャリス代表。

こちらに来たついでにご挨拶でも、と思ったのですけれど、

乱暴な扱いを受けましたので、自衛させて頂いたところです。

(しつけ)が成っていませんよ?」

「それはそれは、申し訳ない。・・・おい、早くその山を片付けろ。」


へい、という返答で、溶けるように山が崩れていく。

あの泥棒だけは確保しなければならない。


「おい。お前はこっちだ。」

「ひぃぃっ」

「・・・さて、こちら様は?」


ゲンゴロウ一家の親玉なのだろう雄が、シャウラが何者なのかを女史に問う。


「ああ、彼ですか。

先だって、とある探索隊から盗まれた品を取り返したいとご相談を受けまして。

その聞き込みも兼ねて、こちらに伺いました。

まあ、いま見付かりましたので、この件のご助力は不要です。」

「何と、それは重ね重ね申し訳ない。」

「何てことしやがる!代表の顔に泥塗りやがって!

おい!まだ持ってんのか?・・・なら、さっさとこいつにその品を返せ!」

「はひぃぃ!」


供をしていた1匹が、見張りとして付いて行った。


「さて、今回の落とし前は後日付けさせて貰うとして、

実は私も、組合にご依頼したいことがありまして。申し上げても?」


女史の返事を待たず、親玉は話し始めた。


「先ほど(みぎ)(ばし)が落ちたとの報告を聞きました。ご多忙の中、わざわざ泥棒探しとは。

私共も、その勤勉さは見習わなければなりませんな。

さて、その騒ぎに乗じて、私の部下が何者かに殺されましてな。

その者に正当な裁きを受けてもらうべく、探し出そうと思っていたのです。

ああ、もちろん、橋の再建はご協力させて頂きますよ。」


女史が少し不快の色を示したとき、泥棒が戻って来た。

供の1匹から耳飾りを受け取る。

親玉は細く息を吐き、首を振って「嘆かわしい。」と言う。

と、そのとき、山から這い出してきた1匹が脚でシャウラを指して告げた。


「代表!こいつです!こいつが、兄貴をやったんです!」

「・・・そうか。サソリ族と聞いていたので、もしやと思っていました。

組合は、殺害犯の言葉を証として、窃盗の罪を立証するつもりだったのですかな?」

「強盗の件と、殺害の件は別としてお考えになるべきでは?」


ダルそうな声だ。

これまでのやり取りで、女史がシャウラにとって完全な味方にはなり得ないが、

ゲンゴロウ一家とは友好的な関係でないことは分かった。

これが全て部外者用の顔だったなら、この“牙の先”の拠点ぐるみで、

シャウラとビーバー隊を潰そうとしていることになる。

それは流石(さすが)に有り得ないだろう。


「それで?代表は我々に捜査を依頼したいのですか?」


尋ねる女史に、いえいえ、と笑いを含んだ声で返す親玉。

明らかに嘲笑だ。


「ここに被疑者がいるではありませんか。・・・おい、取り押さえろ。

おっと、ここで暴れたら組合の名に傷が付くぞ?申し開きは後でも出来る。」


シャウラを牽制するような物言いは気に食わなかったが、

大人しく捕まってやる道理はない。


「・・・ちょっと―――」


女史が何か言いかけたその時、親玉の合図で入って来た者たちを見て、

シャウラは驚いた。


「早速、仕事かい?代表さんはトカゲ遣いが荒いなー。」

「おーおー、暴れた後の臭いがするわー。喧嘩かー?」

「お、お?・・・おー!シャウラじゃねーかー!」


ドヤドヤと入って来たのは、

かつて用心棒として同じ仕事に携わったトカゲ族達だった。


「・・・奇遇だな。ちょっと助けてくれないか?」

「・・・ひょえーっ?!」

「何つった?いま何つった?助けてっつった?」

「あの、シャウラが・・・。俺達に助けを?・・・うぅ、何だか泣けてきたぜ。」

「泣いてないで助けてくれ。殺しの疑いを掛けられてるんだ。」

「・・・・・・お知り合い?」


女史が胡乱(うろん)な目でこちらを見ている。

何と返そうか迷っていると、親玉の大声が旧交を裂いた。


「顔見知りか何だか知らんが、そやつは殺害犯だ!ひっ捕らえろ!!」


「えー・・・。やだー。」

「代表さん、1つ忠告しとくが・・・。こいつ、怖いぜ?」

「怒らせたら死ぬぜ?」

「こりゃ、この仕事はパーだな。おいシャウラ、後でそれなりに返せよ?」

「分かった。」

「グッスン。いい子だー。こいつ本当にいい子だー・・・。」


とうとう撫で回される。


「なあ、いいか?

お前たちの雇い主は今、ここの探索者組合の拠点に喧嘩を売ったところだ。

俺に被せられた濡れ衣が、こいつらの勝手で確定されると、

組合の面目が丸潰れになるんだ。

こちらは組合の副拠点長で、俺と行動してたんだ。

これ以上そこの雇い主に付いて行ったら、・・・探索者組合の仕事が無くなるぞ?」


女史を紹介しつつ、寝返るように説得する。

トカゲ族達は「はーん。」と返事をして、


「じゃ、・・・ここは俺達に任せて、お前は先に行け!」

「大丈夫だ。・・・へっ、抑えてみせるさ・・・。」

「まー、行くなら右の組合の方がいいぞー?

こっちの組合の奴、さっきそこの元雇い主と一緒にいたからなー。」


と、色好い返事を返してくれた。

“獰猛な捕食者” ハヤワン・ムフクリス・シャリス(ゲンゴロウ族)

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