探索者組合“牙の先”拠点
―――ドボン、バシャン、
左から聞こえた水音に、残党かと身構えたシャウラだったが、
這い上がってきた茶色い毛並みに安堵の息を吐く。
「無事か~い?!」
「シャウラァ~!」
「何なのも~!何なのよ!」
シャーリはならず者の去った後を睨みつけていた。
「ごめんね、ごめんね。」
「石は当たらなかったか~い?」
石。
どうやら山道から加勢してくれていたようである。
連中が去ったのは、もしかしたら彼らが駆けつけてくれたからかもしれない。
「大丈夫だ。・・・それより、マッフルートはどうした。」
ピコピコと脚を動かしながら健全であることを伝えつつ、
姿が見えない仲間について尋ねる。
まさか、泳げない身でラッスを探してはいないだろうな、と思う。
「大冒険をさせてしまったよ~。」
何でも、崖から“牙の先”の麓の拠点まで滑空させたらしい。
確かにそれが一番速いだろうが、危険極まりないと、
シャウラは背筋が寒くなった。
「そうか・・・。すまない、積めなかった品は森に残してあるんだ。」
「・・・いいとも!仲間の命の方が~大事さ!」
「ねえねえ、早く行こう~!」
「ラッスの捜索、早く。」
クトラットが戦闘中に放り出した綱を持って来る。
元居た場所からずいぶん流されてしまったが、好都合だ。
下流にある拠点に向かって、シャウラは帆を張り直した。
簡素な組合の建物に入ると、
奥の部屋からドヤドヤと様々な種族が出て来るところだった。
先頭を急ぎ足で来るのは、マッフルートだ。
「すまない、待たせちまって。やっと捜索だ。」
「おう、アクタ!災難だったなあ!」
「大丈夫だ、俺らも手伝うぜー!」
顔見知りの探索者か、用心棒か。
ビーバー隊に温かな声を掛けて、次々と外に出ていく。
「ああ、ありがとう・・・」
髭を震わせて応えるアクタからは、
拭いきれない不安と少しの安心が見えた気がした。
マッフルートの説明では、橋の下を捜索する班と、
下流を見に行く班に分かれて行動するらしい。
「拠点長から、詳細な説明が欲しいと言われてる。
疲れてるところすまないが、シャウラとクトラット、頼めるか?」
「ああ、もちろん。」
「うん。」
「じゃあ~、僕らも一緒に話を聞かせて貰おうかな~。」
「マッフル~ト!あのねあのね、さっきもあの一家が来て~、
シャウラを“金のドングリ”号ごと沈めようとしてたのよ~!許せない!許せない!」
我慢できなかったとばかりにマッフルートに捲し立てるシャーリ。
対照的に、クトラットは髭を落として、シャウラの外殻の傷を撫でている。
(・・・無理もないな。)
一番辛い目に遭ったのはこの子だ。
シャウラは身を屈め、尾でクトラットを掬い上げて背中に誘導した。
幼児扱いし過ぎかな、と思ったが、
慰めの言葉を持たないシャウラに出来る表現は、これだけだった。
マッフルートに案内された部屋で、ビーバー隊は事の顛末を報告した。
潔川の下流で探索し、成果があったこと。
発掘品を持ち帰る手配をしていたところ、拠点に向かう橋の上で事故が起こり、
ラッスが行方不明になったこと。
直前に別の道を行っていたシャウラが戻って来てクトラットを助けたこと。
救出直後と、ビーバー隊との合流の途中で、
ゲンゴロウ一家と思われる者達から襲撃を受けたこと。
「橋の崩落については、事故かもしれません。
が、彼等の入って来た頃合いと、そのときの言動、救助に向かわなかった態度。
どれも褒められたものではありません。疑われるには、十分な条件かと思います。」
いつもの語尾を伸ばす話し方が嘘のような凛々(りり)しい態度で、
アクタが拠点長に説明した。
「話は理解したよ、アクタ君。だが、念のために訊かせてほしい。
そこの、シャウラ君といったかね。
シャウラ君が裏で糸を引いていた可能性は考えていないのかい?
若しくは、君達があの一家を貶めるためにした、自作自演の可能性もあるね?
そういうことにして彼らを襲撃した、とか。そこはどう証明する?」
背後でシャーリのいきり立つ気配がしたが、シャウラはなるほどと思った。
「拠点長殿、お訊ねしても?」
「構わないとも。」
「我々とは別個に、一家から話を訊かないのですか?」
「無論、そうさせてもらうとも。報告を聞く限りでは重要参考人だからね。
しかし、―――」
(そう。向こうには死傷者がいる。
あいつらの言い分としては、
「ビーバー隊に襲撃されたから、橋の救助に向かえなかった。」が考えられる。
そして、アクタ達から聞いた、
逆側の拠点をゲンゴロウ一家が牛耳ろうとしているという話。
その状況はこの拠点長にとって、良いのか悪いのか。
もし一家への従属を望んでいるなら、ビーバー隊は不利だ。
が、さっきマッフルートが協力を取り付けられた状況を見ると、
何が何でも叩き潰す、という感情は持っていないのだろう。
利点があれば、こちらに傾く可能性はある。
逆に、一家を叩きたい場合。
ビーバー隊があの一家を非難できる材料を持っているなら、
その口実が欲しいはずだ。それを俺は、提供できる。)
目の前の古傷を持つコウモリ族を見上げて、シャウラは慎重に口を開く。
「拠点長殿の懸念は、ゲンゴロウ一家との繋がりが切れないかどうかでしょうか?
最近、組合と彼らの関係が悪化しているという噂を耳にしましたが、
彼の一家は保護するに足る組織なのでしょうか?」
「・・・組合は、特定の探索隊を優遇することはない。
我々は大陸中に拠点を持つ、治外法権を有する組織だ。
罪を犯した者は規定通りの処分をして、探索者が安心して仕事ができるよう、
尽力している。」
「・・・彼らが罪を犯している、という証拠があれば?」
毛皮を持つ種族は表情が解り易くて助かる、とシャウラは思う。
逆の表情を使って巧みに交渉を行う者もいるので、油断は禁物だが。
「証拠?」
ビーバー隊の視線も、シャウラに注がれている。
「今から、組合の代表者と私とで、ゲンゴロウ一家の聴取に向かいませんか?」
「お、おい。」
マッフルートが心配そうに声を掛けて来るが、シャウラは拠点長から目を背けない。
拠点長はソッと鼻を掻く。
「ふむ、そうか。・・・そうか。おい、サイディ。」
「はい、拠点長。」
「・・・頼めるか?」
「はい、拠点長。」
「・・・。コホン。
さて、シャウラ君。その提案を受けよう。同行者は、私の秘書のサイディだ。」
「よろしくお願い致します。」
小柄なネコ族の女性が、背筋を伸ばして言った。
「・・・申しあげておきますが、私はヤマネコ族で、成獣です。
多少の荒事にも慣れておりますので、要らぬお気遣いは無用です。」
冷たい口調の中に、確かな自信が見えた。
シャウラは頷き、ビーバー隊に向き直る。
「シャウラ、君は一体・・・」
何を考えているのか、とアクタは表情で問いかけていた。
秘書との待ち合わせは組合の建物の前だ。
心配、不安、そして少しの非難。
皆の視線を受けながら、シャウラはラッスの捜索に尽力してほしいと訴えた。
「それは当然さ~!・・・勝算は、あるんだよね?」
「無かったら怒るぞ、俺は!」
「あるよね、あるよね~?」
「・・・・・・・・・うん。大丈夫。シャウラのこと、信じてる。」
「クトラット・・・」
微笑む弟を、アクタが後ろから抱きしめた。
「そうだね~。こんな時こそ、お互いを信じなくちゃ~いけないね~。」
「悪かった。そうだよな。・・・よし、行って来てくれ、シャウラ。
ラッスのことは、俺達に任せろ。」
「そうだよ、そうだよ~!安心して行って来~いだよ~!」
シャウラは激励をもらい、それからアクタに1つ頼み事をして、
ゲンゴロウ一家の拠点へと殴り込みに向かった。
拠点長
“敏捷な番人”ハーリス・リシカ(コウモリ族)
副拠点長、兼、秘書
“狩猟の成功者”ナジャーハ・サイディ(ヤマネコ族)




