潔川の発掘
結局アレが何だったのか分からないまま、集落を離れる時がきた。
いや、実は何となく解っている。
この世界において、『紋』の無い生物を食すことは当然のごとく、ある。
しかし、自分と似た姿をした生物を食べられることへの忌避も当然あり、
獣勇国が、その面で都市国家群と不仲なのは周知の事実だ。
アレは恐らく、マッフルートの、カミキリムシ族の眷属だったのだろう。
シャウラは帆を上げ、走り始めた船上でマッフルートに謝罪した。が。
「いいのいいの~!シャウラが気にする事無いの~!」
「そう。ダシだ~よ。」
「・・・そうさ。お前が気にする事じゃあない・・・。・・・うぅっ。」
「大丈夫さ~!放っときゃ~、3日目には治ってるさ~!」
「・・・・・・うむ。風邪と一緒だ。」
「・・・分かった。」
「でも慰めてっ!」
「ウザいのウザいの~!」
クトラットが、尻尾を水面に垂らし、波を立たせて楽しんでいる。
鉤針の付いた綱を器用に使って、時々近くに来た流木を取り、美味しそうに齧る。
彼らにとっては最高のおやつなのだと、ここに来るまでに知った。
シャーリも参加し、船が岸から随分と離れた頃には、
3兄妹とマッフルートが、その取れ高を競う光景ができていた。
楽しい船旅は、7日で終わった。
途中、ゲンゴロウ一家の船が見えたと緊迫する場面もあったが、
何の接触もなく、無事に船は離れて行った。
“金のドングリ”号は大木に囲まれた森の中、
隠されるように作られた船着き場に預けられた。
ビーバー隊はこれから、機材を担いで支流に沿って歩き、
「何だか良さげな場所」なる地点を目指している。
“牙の先”の麓ではあるため、それなりに急な山道だった。
ここまで来たことはないと言いながらも、ヒョイヒョイと登っていく姿は、
さすが探索者といったところか。
これまで目にして来た中央山脈の巡礼者と比べるのは失礼か、とシャウラは思った。
さすがに急流に飛び込むわけにはいかず、ラッスは時々、
皆に水をかけてもらって身体の乾燥を抑えていた。
ここだと、ビーバー隊のお眼鏡に適った場所に到着し、荷物を下ろすと、
アクタが手近な岩に登って「は~い、注目~!」と尾で岩を叩いた。
「や~諸君、ご苦労~!ここら辺で~どうだ~いっ?!始めるか~い?!」
「「「「おおぉ~~~!」」」」
意外なことに、ラッスもその前肢を突き上げたので、
シャウラは置いていかれたような気分になった。
「シャウラ~!元気が足りな~いっ!おお~~!」
「「「「「おぉ~~!」」」」」
恥ずかしかったが、乗って鋏を上げた。
ビーバー隊の動きは手慣れていて、
小規模だが土木工事と呼ぶに相応しい仕事振りだった。
支流が山の傾斜を登りきるその手前に、
川底を浚うラッスと発掘品が流されないように囲いを作ったのである。
網ではなく木組みで、だ。
川底に深々と杭を打ち込んでいくその手並みに、
思わず見入ってしまうシャウラだった。
マッフルートは材木の切り出しと加工、組み立て。
シャウラはその運搬、ラッスと3兄妹が設置。
夕食を取る頃には作業が終わり、支流から離れた森の中、夕食の残りの木の上で、
ビーバー隊は眠りに就いた。
翌朝、杭と岸の間に張っておいた漁網を回収し、シャウラとラッスは食事をした。
2匹とも木は食べられない。
これまでの探索でラッスは、こうして水生生物を取り食事をしていたらしい。
シャウラは、それを少し分けてもらった。
「「「「ラッスゥ~~!よろしくぅ~!!」」」」
ビーバー隊の声援を受け、ラッスが囲いの中に飛び込んだ。
これからシャウラは護衛兼、土砂の運搬係だ。
3兄妹も身体と杭を縄で結び、波間に飛び込んでいく。
そちらの面倒をみるのはマッフルートだ。
今まではラッスの分も彼が運んでいたらしく、
今回は楽になるわ~、と嬉しそうに言ってくれた。
ちなみに集落で受けた木精の仕打ちからは、立ち直っているようである。
探索3日目にして、ビーバー隊は困っていた。
どちらかと言えば嬉しい悲鳴である。
シャウラには判別がつかない石くれのような物から、一目で判る宝石類まで、
出るわ出るわ。
今まで誰も探してこなかったのかと、不思議に思うシャウラに、
休憩中のアクタがニンマリと笑って耳打ちしてきた。
「実は、この支流の入り口で~、ちょっと前に転覆事故があったんだな~。」
「なるほど。じゃあこれは、積まれていた発掘品だったかも、しれない物なんだな?」
「察しが良くて~、助かるよ~。」
「・・・罪には問われないのか?」
「君が~黙っててくれたら~、問題ないさ~!」
「・・・分かった。」
組合でもそういった行為は、黙認されているようだ。
下手に口にすれば、余計なトラブルを引き起こしそうだ。
きっと、ビーバー隊からも組合からも睨まれることになるのだろう。
シャウラは苦笑して、聞かなかったことにした。
「しっかし~、困ったな~!」
「兄ちゃん、運べな~いよ?」
「下の拠点でちょっと売ったりは~、・・・出来ないな~。」
「そうだよそうだよ~!とうとうマッフル~トも~、学習したね~!」
「失敬だぞ~。シャ~リ~。」
「・・・・・・借りるか?」
「そうだ~ね~。それしかな~いよね~!」
「はい。じゃあ~、僕がシャウラと一緒に~取りに行きま~す。」
話に付いて行けないシャウラに、クトラットが説明をくれた。
遺物は物によって価値が変わる。
そして、売却する場所によっても変わる。
宝石や金属類の価格が大きく変動することはあまりないが、
装飾品や生活道具などは、発掘現場で売っても大した値段にならない。
愛好家や好事家、歴史の研究者、商業的な製品開発担当者など、
出す所に出さないと、探索者は儲けられないのである。
そのため、発掘後しばらくは金属類を使って暮らし、
その間にどこで売るかを決めて移動、もしくは、
その地に縁のある商人と交渉するのが、一般的な探索の始末だとのこと。
「まあ、下の拠点で売りに出そうもんなら、
転覆した船の連中に目え付けられること間違いなしだわ。」
「でもでも~!応援欲しいな~!」
「・・・・・・一度下って、ミアフで募るか?」
「う~ん、発掘品の半分~、いや3分の2を譲るって~文句で~?」
「やだな~。独り占めした~いな~。」
「全部取るまで秘密裏にできて、全部使うまで隠し通せたら、
独り占め出来るんだろうけどな。」
「む~。」
「やだやだ~!ほんと世知辛いの~!」
「世の中が、だよな?俺じゃないよな?」
「・・・ハシャブ・ザンに、品を溜めておくことは出来ないのか?」
「いや~、いいとこ突くね~シャウラ君!
応援を呼ぶことは出来ないけど~、その手もアリなんだよね~!
僕らのホ~ムは“泉の街”だか~ら、普段は、ラッスの取り分以外は~、
そっちに移してるんだよね~!重要なのは~、発掘量!」
「そうだな。今出てるのが全てなら、来てもらっても無駄になるだけだ。
この分で、しばらく出続けてくれるなら、支払う手当分くらいは回収できるだろ。
出てくれるなら、な。」
「兄さんの、目測は~?」
「う~ん。あと一山は~、出ると見た~!」
「・・・・・・・・・ならば、独り占めだな。問題は、ここに誰が残るか。」
「そうそう~!全員が離れちゃったら~、横取りされちゃ~う!」
シャウラとビーバー隊は、頭を突き合わせて話し合った。
その結果、シャウラとクトラット、ラッスが下山して船を借り、
積めるだけ積んで“金のドングリ”号と2隻で集落に戻り、帰って来る。
その間に残る3匹で発掘作業を進め、往復17日後くらいに戻って来る船に、
再び発掘品を乗せて送り出す。
現状、発掘した遺物は、“金のドングリ”号と同じ程度の大きさの船を借りることが出来れば2往復で運べるくらいの量らしい。
まだまだ掘り出せるとなったときは、“牙の先”の麓の組合に話を持って行こう、
と話が纏まる。
「まあまあ~、それでいいか~。」
「お姉ちゃん、欲張り~。」
「うるさいうるさい~!」
「これだけ取れりゃあ、今回の探索は成功だろ?
惜しい気持ちはあるけど、欲張りすぎると碌な目に遭わんしな。
・・・何だよ、その目は?」
「「・・・」」
「ふふふ~。そうだね~!あ~、シャウラ~!君にも勿論!分け前は弾むからね~!」
「いや、契約には無かったが・・・」
「・・・・・・受け取れ。給料分の働きはした。」
「そうとも~!君は他者に幸せを運ぶ~、幸運の妖精!なのかもしれな~いよ~!
今後ともご贔屓に~~!」
「「ご贔屓に~~!」」
幸運?自分が?
漏れた苦笑を承諾と受け取ってくれたのか、3兄妹は何があるかな~と、
袋に詰めた発掘品を漁り始めた。
(でも、良いかもしれない。あの集落に居場所をもらって、家族を呼んで。
今回のような運は続かないだろうけど、
家族4匹で頑張れば、暮らしていけるかもしれない。)
シャウラは集落に戻ったら、ラッスに相談すると決めた。




