表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/77

強盗未遂

青河越えには、2日掛()かった。

シャフスの話によると、これでも早い方らしい。

中央山脈で雨が降っていると、水量が多くなり、進みにくくなるのだとか。

ひどいときには命に係わる程の水流が生まれ、

この浅く穏やかに流れる様子からは、想像できない程の荒れ具合になるそうだ。

昨夜、一晩を過ごしたあの中洲も濁流に沈むと聞いて、

行商には天候を読む力が必須なのだな、と得心(とくしん)が行った。


青河を越えると、そこは、もう木精達の支配する緑苑国である。

正式名を『緑の楽園(ジャナット・ハドラブ)』といい、種族(ごと)(まと)まって生活することが多いが、

仲の良い種族は、入り混じって暮らしていたりもする国だ。

木精達は、それぞれの領域からは滅多に出ず、

一部の物好きが、国内を通る隊商と、時折、交易している程度の接触だそうだ。

静かで穏やかな環境を好む彼らは、交易路を嫌ってあまり近付かない。

だからといって、利益を上げるために交易路を広げれば、彼らの怒りを買うだろう。

怒らせた連中の成れの果てが、道の横に転がっていた。


「えー。この塊、商人だったんですかー。うわぁ・・・」

「よせよせ、あんまり見るな。気持ち悪くなるぞ。」

「と言っても、見た目には、(ただ)生垣(いけがき)ですね。」

「幸いにも、今までこうなった瞬間を直接、目にしたことはありませんが、

ゾッとしますよ。」

「緑苑国を渡るのは、何日、掛かりますか?」

「12、3日で帝国に到着すると思います。ですが、一つ注意がありまして。」

「注意?」

「『緑の楽園(ジャナット・ハドラブ)』と『水生帝国(ヤイシュ・マ・ルマギ)』は、

完全に分離している訳ではないということです。」

「・・・帝国が、侵攻しているのか?」

「いえ、共存しているというのが、一番正しい表現でしょうか。

木精達が相性の良い者たちで集まるように、

帝国の『彩の民(アナース・ムラーナ)』と木精達も共に集落を作ります。

それらを、彼らは『庭』と呼んでいます。

その集落の長を『管理者(ムディル・ハディカ)』、住民を『庭の守り人(ハディス・ハディカ)』と言って、

共同生活をしているんですよ。」

「つまり、国境が曖昧で、両国の民が入り混じっているという訳だ。」

「じゃあ、何で国を分けてるんですかー?」

「それは、こちらの都合ですね。

商人や他国から見て、木精と帝国民は、需要が違う取引先だからですよ。

どこどこに何を届ける、とハッキリ区分できた方が、都合がいいんです。

まあ、彼らもお互いを別の民だと認識してはいるので、

こちらが勝手に付けた名称ではありませんよ?」


なかなかに複雑な国家構造だ。


(派閥が有ったり、種族で競っていたり、うちも大概なんだがな。)


其処(そこ)には其処(そこ)の、此処(ここ)には此処(ここ)の、複雑な関係があるのだろう。


シャフスの話を聞いていると、後方からユーティルが戻って来た。

交代にはまだ早い、と思っていると、


「報告します。右後方から、追跡してくる影有り。

我々だけなら余裕で振り切れるでしょうが、隊商では無理そうです。

心当たりはありますか?シャフス殿。」


と、報告してきた。

ありません、と(いささ)か緊張した面持ちで言うシャフスに頷き返し、

サドは、ユーティルとヴィーに索敵飛行の命令を出した。

2羽は頷き、すぐに飛び立つ。

軽装とはいえ、傭兵ならば武具を装備していてもおかしくはない、と、

爪だけは全員が装備している。

残りの隊員は、防具も(まと)い、即座に迎え撃てるよう準備を始めた。




「ヴィー、上を。」

「了解。」


チュウヒ隊は、これだけでお互いの役割が分かる。

ヴィーは、隊商の上を飛び、そこから相手の位置を探った。

速度を隊商に合わせ、ゆっくりと滑空する。

相手からもよく見える位置に付くということは、

遠距離攻撃の手段を持っている相手には的にされやすいが、

大概の攻撃は避けられる自信が、ヴィーにはある。

また、姿を見せるということは、

「お前たちを捕捉したぞ」という警告にもなるのだ。

警告は、早ければ早いほど良い。

反応速度が遅ければ、補足する能力がないのだと思われてしまう。

もし、相手が盗賊で、良い獲物だと判断されてしまえば、

一度追い返したとしても、これから先、付け狙われてしまう可能性がある。

シャフスの今後の商売のためにも、下手な真似は出来ない。



ヴィーが囮になっている間、ユーティルは相手に見付からないように飛んで、

細かい情報を得ることに務める。

相手の数、敵意の有無、攻撃能力、作戦、目的。

情報があればある程、こちらは有利になれる。

得た物から交渉が可能か、優位な戦闘方法はどれかが、判断できるのだ。

主なる判断者は隊長だが、それを補佐するのも副隊長の役目だ。

隊から少しずつ離れるように、地面すれすれを飛び、

先程見かけた追跡者に近付く。

“低空飛行”の二つ名は、お飾りではない。

低木が、所々で(まと)まって茂り、背の高い木と木の間を埋めている。

ブブブ、と音が聞こえ、追跡者に接近したことを知る。


(どうやら、姿を捉えられにくい、この地形を利用して接近したようだな。

・・・作戦立てて動いているなら、恐らく単体ではない。

そして、明らかに我々を狙っての行動だろう。

・・・目的は、盗みか誘拐か。我が隊狙いとは考えにくいが・・・。)


徐々に相手の後方へ下がり、茂みの隙間から姿を捉える。

そこには、ハチ族。

少々小柄ではあるが、アブ族やハンミョウ族ではなさそうだ。


(・・・やっかいだな。ここで仕留めるか?

 いや、目的が分からない以上、無用な刺激は控えたい。

 ハチ族には苛烈な者が多いと聞く。)


一度、隊に戻るかを考える。

が、時間を無駄にはしたくない。

このハチ族が、群れで隊を狙っているならば、

状況をある程度こちらでコントロール出来た方が良い。

ならば、とユーティルは速度を上げてハチ族と並び飛ぶ。

こちらに気付けと、羽音を少し立てた。


「なっ!?」

「すまない、聞きたいことがあるんだが、いいかな?」


慌てて距離を取るハチ族を、追わずに再度、声をかける。


「君が隊商を追って来るのを見たんだが、・・・何か用があるのかな?」


距離を取ったまま飛び続けるハチ族だが、その羽音が少し高くなった。

こちらを凝視している様子から見えたのは、警戒と迷い。

黙ったままのハチ族は、しかし逃げる様子がない。

いつまでも(にら)み合う訳にはいかないので、ユーティルは次の一手を打つ。


「何、私はあの隊商の護衛をしていてね。

 怪しかったので声を掛けさせてもらったんだ。勘違いなら、すまない。

 ここはそれほど物騒じゃないと聞いていたんだが、私は用心深くてね。」


警告だ。

何かあれば相手になる、と言外に伝える。


「・・・・・・近くの『庭』に、用事があっただけだ。」

「そうだったのか。勘違いして、すまなかった。

 では、道中、気を付けて。」


ハチ族が目線を外して、少し身を引いた。

恐らく、脅しが効いたのだろう。

ハチ族の気が変わる前に、と、ユーティルは背を向ける。

背中から攻撃してくるようなことがあれば、即座に反転できるよう、

警戒しながらも、鷹揚(おうよう)とした態度でゆっくりと羽ばたき、隊に戻った。


上から様子を見て、状況を察してくれたのだろう。

ヴィーが降りてきた。





「報告を。」


2羽が戻るとすぐ、サドは求めた。

索敵にしては時間がかかったな、とすぐにでも発てるよう身構える。

が、話を聞くにつれ、どうやら事態は収まったようだと判断した。



ユーティルとヴィーの報告から、

ハチ族が少数でこちらの様子を(うかが)いに来ていたことが分かったが、

シャフスは、心当たりがまるで無いと言う。


「この道は、私が一番よく知っている道です。

 今までに、そんなハチの部族を見かけたことはありません。」


一先ず、前方で警戒に当たってくれていたヘビトンボ族のタワジャに、

バニを使って、索敵結果と警戒態勢の解除を伝える。

サドは目を伏せて考えた。


「・・・強盗、未遂か。初めてだったのかな?」

「少なくとも、私が話した相手は手練れではありませんでした。」

「襲うにしては、連携の取りづらそうな飛び方だったな。

 あれじゃ、同じような攻撃しかできんだろう。」


そこへ、「邪魔するぜ。」と、ヘビトンボ族のタワジャが顔を出した。

こちらの様子を見て、ひと段落着いたと分かったのだろう。


「お嬢さんから聞いたが、ハチ族だったんだって?」

「ええ。心当たりはありませんか?」

「そうさなー。どんな奴だった?図体は大きかったか?紋は?」

「小柄で、好戦的ではなかったです。紋は“黒”に“穏”。」

「うーん・・・。」

「・・・何か、ありそうですね。」

「やめろ、カスビ。言い辛いことを聞き出すほどの状況じゃないぞ。」

「申し訳ありません。」

「やめろやめろ、そんなんじゃない。

 ただ、可能性はあるが考えにくいってだけの話だ。

 あくまで、可能性の話だからな?」


タワジャが念押しするのを、全員が黙って頷き、続きを待った。


「ここから、あと3日ほど行った所に、竹族の『庭』があるんだけどな。

 そこに、ちっと前からそんなハチ族が住み着いたって話を聞いたことがある。

 何でも、中央山脈辺りにいたのが、別のハチ族に追い出された一族だとか、

 湖沿いのタブノキ族の『庭』から追い出された一族だのが集まったらしい。

 この道は、俺も馴染みだ。俺の知らん連中は、大抵が新顔さ。

 まあ、こんな話だけ聞きゃあ、そいつらが疑わしいと思うだろうが、

 そいつらを追い出したい奴らがいるかもしれねえってことは、考えとけよ?」

「・・・そうですね。変に疑ってトラブルに巻き込まれるのは避けたいですね。」

「流石、護衛の鏡ですね。そんな話、私も聞いたことがありませんでした。」

「はっはっは!商人の耳には入れたくないこともあるもんさ!

 だから、聞かなかったことに、しておけよ?」

「ええ、はい。分かりました。」


タワジャの広い耳に感心したが、

そんな相手を雇い入れることが出来るということも、商人の腕の見せ所なのだろう。

もっと、経験を積んで、統領ワジャに認めて貰いたい。

そう思う、サドだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ