隊商
中継都市ルトゥバの青河沿い。
そこは、大陸中の物資が行き交う中継都市ならではの喧騒に満ちていた。
赤河の流れ着く、果ての山脈から掘り出された鉱石、
灰恵国から届く石灰、緑苑国の乾燥果実といった品が入り、
都市国家群や、綾織国といった大陸内地に向けて送られる。
その逆も然り。
都市国家群からは穀物が、綾織国からは織物が、
この都市を通って、青河を渡るのだ。
地理的に見れば、中央山脈が世界の中心とも言えるのだが、
峻険なる地は、往来が厳しい。
そのため大抵の者は、この青河か、山脈を挟んだ逆側の黒河を渡って、
大陸の端と端を繋ぐ、交易を行っている。
海の『滄海の王国』や、湖の『湖底の強国』の領域を通ることもあるが、
両国は、大陸の国々と、港の領有や利用の権利を巡って、
大なり小なり確執を抱えている。
商人からすれば、利用料や税率の変動リスクがある港は、使用しづらいだろう。
また、湖底国に至っては、トップの入れ替わりが激しく、
政治的な混乱が、なかなか治まらないため、治安も悪化の一途を辿っている。
10年前は、王国も似たような状態だったのだが、女王の登極によって、
安定した状態が続いており、沿岸部における商業も活性化している。
故に、青河と黒河には、商業的な価値も大きく、
その河岸には都市が立ち並び、街の存続に各国は力を注いでいる。
『風と雲の共和国』が、水鳥の移住を奨励し、
早くからこの要所を押さえることが出来たのは、行幸だった。
時の政権が、先見の明を持って行動してくれたおかげで、
共和国は世界有数の貿易国家となり、強い発言力を得ることが出来たのだから。
その立場を守り続けている功労者の一人を、サドは見やった。
波止場と波止場を、文字通り飛び回り、荷の確認や人員の指揮をしている。
現在、チュウヒ隊は川床で、シャフスが手配してくれた荷物一式を身に付け、
出発の時を待っていた。
シャフスが声をかけている人員は、翼を持つ者が主だったが、中には水牛族もいた。
大所帯での移動になるようだ。
「皆さん、そろそろ出立しますが、ご準備はよろしいですか?」
シャフスが飛び込んできて、最終確認をする。
隊を代表して、頷いて返す。
「では、参りましょう!」
シャフスの案内で、チュウヒ隊は隊商に合流した。
サギ族、ツル族、フラミンゴ族と、色とりどりのメンバーである。
水牛族が主に運搬役を担うらしく、その背には大きな袋を負っていた。
そして、一行は、ぬかるんだ道を進み、青河の澄んだ水の中に入った。
ザブザブと膝で水をかき分け、水牛族が進む。
チュウヒ隊は、その上を飛んでいた。
ツル族やフラミンゴ族は、飛んでは歩き、飛んでは歩きを繰り返している。
シャフス達サギ族は、何と、ちゃっかり水牛族の上に乗って移動していた。
「皆さんも、降りてもらって結構ですよ?長丁場になりますし。」
そろそろ着水しようかと思っていたところに、シャフスから声がかかった。
「それはありがたいです。・・・よろしくお願い致します。」
クイッと顎で背中を示す水牛族に礼を述べて、シャフスの下に降り立つ。
サドの周りに隊員たちも降り、その翼を畳んだ。
「彼はザワヤ。私が出るような大きな行商の際に、必ず声をかける者です。」
「よろしくな。」
低いがよく通る声で、挨拶をしてくれた。
サドは、隊員の紹介をする。
「ところで、シャフス殿には確認をしておきたいことがあるんだが・・・」
昨日は結局、短時間しか話せず、話を詰めることが出来ていなかった。
チュウヒ隊の身分の偽称や、道中の役割、入国時の手続き等についてである。
シャフスは、時間が取れなかったことを謝り、方針の説明を始めた。
「まず、今回の行商ですが、元から予定されていたものですので、
突発的なものと違って、怪しまれにくいと思います。
皆さんは、用心棒として雇われたことになっていますので、
そのように振舞って下さい。」
「あ、行商人一家って訳じゃなかったんだ。」
「こら、バニ。嘴を挟むんじゃない。」
「すいません。」
「いえいえ、こちらこそ説明不足で、すみません。
チュウヒ族が一家総出で行商するのは不自然だと思いまして。
逆に、軍上がりの方が傭兵をするのは、よくあることなので、
そのように設定させて頂きました。・・・何か、不都合な事がありますか?」
「いいえ、ありません。」
即答したが、後ろで部下が身動く気配がする。
振り返ると、何事も無かったかのように背筋を正してこちらを見ていた。
指令を待つ軍人そのものだ。
何も無いようだったので、シャフスに頷き、再度、大丈夫だと言っておいた。
「そうですか・・・
では、この行商の説明に入りますね。
この隊商は、塩を、帝国と緑苑国に輸出します。
隊員はチュウヒ隊の皆さんを入れて20羽と2頭、1匹。
皆さんと共に用心棒をしてくれるのが、あそこのタワジャです。」
シャフスが差す方向に飛んでいたのは、ヘビトンボ族だった。
傭兵としては有名な種族だったが、サドは見たことがなかったため、
どれほどの強さなのだろうかと胸が躍った。
(・・・まーた、隊長がキラキラしてるー。)
(傭兵と見ると、すぐ翼を出そうとしますよね。)
(しっ!あ、ユーティル、大丈夫だからな!)
ボソボソと聞こえる声を無視し、サドは咳払いを一つした。
「ううんっ!
すまない、シャフス殿。続きをお願いする。」
「はい。」
苦笑いを浮かべて、シャフスは続きに入った。
「緑苑国は、国というより部族の集まりといった方が解りやすい土地でしょう。
地域間の結び付きが緩くて、関所のような物はありません。
見知った顔なら、特に止められることなく進めるでしょう。
ただ、勘はやたら良いので、皆さんが何者か、
探りを入れられることはあるでしょう。」
「その時は、傭兵一家の振りをするのですね。」
「そうですね・・・。
いえ、ただ単に、帝国に用事があるので同行しているチュウヒ族、
と言うだけでいいかもしれません。
問い質された場合の、その状況に応じて、私が回答します。
皆さんは、それに合わせて振舞って頂けますか?」
「解りました。異論ありません。」
「それから、今回は少し多めの人数に設定してあります。
帝国での入国審査で、手続きを煩雑にさせて、詳しい調べを避けるためにです。」
「委細、承知しました。」
隊員たちも、納得したように頷いている。
昨日、一緒に行動したおかげか、
ヴィーの対抗心も消えているようで、何よりだった。
“頑丈な角” ザワヤ・カウィアト(水牛族)
“灯りに向かう者” タワジャ・ハリダウィ(ヘビトンボ族)




