共和国の外交
会談を終えたアラザフィラだが、王国内ですることが目白押しだった。
『神聖なる蛇の書』の捜索に手を貸してくれるという領主達との顔合わせに始まり、ショウの知り合いだという、鉱族との接点を持つウチワエビの女性との交渉、
共和国の技術者の派遣先を視察し、養殖場では研究者の意見を聞いた。
この期間には、王国から稚魚の仕入れも行っており、その輸出入の確認も、
担当官に命じてある。
ワジャは、実務より立場を生かした対外アピールを優先していた。
王国の反体制派の領主の招待に応じたり、共和国の商品を売り込んだり、
お互いに顔を合わせるタイミングがないまま、滞在1週間である。
今日は、ショウと公式的な会談をしている。
国内外の目があるので、そこに気安い雰囲気はない。
現在、王国が開発中の、輸送管について説明を受ける。
開発を行っている場所が海中なので、視察することは叶わなかったが、
内容を聞く限り、なかなか面白そうな企画である。
この技術が確立されれば、王国内の物流が一気に活性化するだろう。
そうなった場合、共和国の民間通信機関である、
ペンギン族やペリカン族の仕事が減り、余力を別の方向に使うことが出来そうだ。
「貴国の通信員についてですが、今後のサービスについて提案があります。」
「お聞かせ願いたい。」
「我が国は現在、医薬品の開発にも着手しております。
王国の特産品として売り出す際には、これまでの支援のお礼として、
是非とも、彼らに輸送をお願いしたいのですが、ご検討頂けますでしょうか。」
「ふむ、先程の輸送管では、それに対応できないのですか。」
「水圧をかけて輸送した場合、速度は速いのですが、直線的にしか届けられません。
大陸の各港を利用するとなると、分岐点を作る必要があります。
全ての港に向けて、輸送管を張り巡らせるのは、現実的ではないと判断しました。」
「そうですか。分かりました。前向きに検討させていただきましょう。」
「ありがとうございます。」
2人が手と足を握り合い、会談は終了した。
アラザフィラの今日の予定は、これで終了である。
夕食には、女王から再びお誘いが来ているので、ワジャとも食事が出来るだろう。
ショウは、これから寄る所があるらしく、夕食まで別行動だ。
ホテルの部屋に戻り、アラザフィラは、やっと一息ついた。
明日は、獣勇国に向けて使者を送る。
夕食の席で、ショウ達にも計ろうと思っているが、
何としてでも、討伐を思い止まらせねば。
使者に誰を向かわせるか、王国の返答とのタイミングをどうするか。
尽きない課題に、しばし沈思するアラザフィラだった。
「遅れて申し訳ない。」
図体を少し小さくして、ワジャが入って来た。
「いいえ、聞いておりましたので、大丈夫です。」
マルジャン公とムレイ公は、お話が長いですから、と、
イェルトが笑って迎え入れる。
どんな御仁だった、と早く訊きたいが、ショウの目線が痛いので、
食事を始めることを優先する。
イェルトが空腹であることを気にしていたらしい。
「では、頂きましょう。」
イェルトがグラスを掲げ、足の中にある口まで持って行った。
手足には、すでに幾つものおかずが握られている。
次々と口に放り込まれるそれらを眺め、ここの料理人も大変だな、と考えた。
「アラザフィラ、今、失礼なことを考えてませんか?」
見透かされた。
ショウに慌てて、考えていない、と返す。
女王のことになると、とかく敏感になる奴である。
「それより、ワジャよ。
例のお2人に会って来たんだな。どのような方達だったんだ?」
透かさず、気になっていたことを尋ねる。
「好々爺と、豪胆な爺さんって感じだな。」
「そうですね。・・・もぐもぐ。
マルジャン公は、私を、とても可愛がって下さいます。
初めてお会いしたときは、何となく掴めない方だなー、と思ったのですが、
王位に就くことをご支援下さいましたし、良くして下さっています。」
「・・・ただの物好きな爺さんですよ。」
「ムレイ公は、元々、傭兵団を率いられた方で、強い方たちの間でも、
ご高名だったそうです。どんな戦場にあっても、ずっと笑ってらっしゃいました。」
「・・・ただの戦闘狂の爺さんですね。」
イェルトは一生懸命、紹介してくれているのだが、
ショウは一言で済ませている。
が、何となく、雰囲気は掴めたような気がする。
「・・・ムレイ公とは、気が合っただろう。」
「はっはっ、そうなんだ、兄ぃ。あのお人は根っからの武人だな!」
昔の、喧嘩っ早いワジャが浮かぶ。
確かに気は合うだろう。
ショウの紹介で、ワジャと2人を引き合わせたのだが、
良い結果に終わってくれたようだ。
2人の老公からの招待、という形で実現した顔合わせだったが、
共和国からすれば、この会談に先駆けて、ショウの傘下に入ってくれた、
その加勢へのお礼であり、
老公から見れば、反体制側に、女王を本気で支援していく姿勢を示す、
絶好の機会だったのだ。
この1週間の成果を確認し合い、食事は進む。
アラザフィラは、ここで使者の件を持ち出した。
「そちらはどうする、ショウ?
同時に声明を出しても構わないか?」
「構いません。
すでに関係するところには、それとなく伝えてあるので、
むしろ、正式な声明を待っていると思います。」
「帝国には、すでに俺の配下が行っちゃいるが、
正直、あっちが、こっちの有利に動くとは思えねぇな。」
「鉱族の方々には、有事の際に、海上輸送が可能だと伝えてあります。
・・・私の名前が、あんな大国に知れるんですね。緊張で張り裂けそうです。」
心配になってイェルトを見ると、僅かに頭部が膨らんでいる気がする。
本当に破裂されては困るので、「獣勇国どころか、大陸全土に知れ渡るだろう。」
とは、口にしないアラザフィラだ。
「『王』に目覚めてもらっては困る。
しかも、それが王国の『海底の王』に一番近い『王』じゃないですか。
獣勇国の君主に、神殿が何か吹き込んだんですか?」
「俺の配下の調べじゃ、そんな動きはなかった。
が、ヘビ族の動きが、やっぱり胡散臭い。
神殿絡みなのか、それとも奴ら自身の問題なのか掴めんがな。」
「・・・陸に耳目を置きづらいのは、やっぱりハンデですね。」
「河を遡れる者が少ないのは致し方のないことだろう。
現状ではあまり役に立ててはいないが、陸での情報収集は、
我らに任せてくれんか。」
「・・・そうですね。」
もどかしそうに思案する顔に、一抹の不安がよぎる。
ショウの存在を知り、身辺調査をしたとき、よく耳にしていたのが、
「こちらの持つ常識を超えて、とんでもない方向で物事を成す。」という評価だ。
自分で行動した方が成功する確率が高いと考えた結果、
暴走してしまうことが出てくるのではないか。
そう、アラザフィラは心配していた。
帰りがけに、イェルトがアラザフィラをそっと呼び止め、
「ショウは、よく隠れて無茶をするんです。
彼を止めるのは私でありたいですが、もし、本当にもし、
私が、ショウを止められなかったら、その時は、ご助力下さいますでしょうか。」
と、問いかけたとき、アラザフィラの不安は、確信に変わっていた。
“珊瑚の貴人” アルマルジャン・サルソ(珊瑚族族長”マルジャン公”)
“噛み傷” リダハト・リジェフ(ウツボ族族長”ムレイ公”)




