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フラグ

こんにちは、朝晩の冷え込みが続いていますね。凪です。

あれから数日経ちまして、川に行くのも慣れてきました。

カツカツですが、何とか暮らしてます。

母さん、俺、頑張って生きてるよ!


という気持ちで、凪は一本、切り株に線を引いた。

その辺から尖った石を拾って来て、この記録用に使っている。

正の字を使おうと書き始めたのだが、

途中から横線1本、縦線6本で1週間がカウントできるじゃないかと気付き、

俺、賢い!と自賛している。


今日もまた、川に水汲みと漁に行ってから、森に入る予定だ。

森の中で芋を見付けることが出来たおかげで、凪は焦燥感から解放され、

この生活を、少しだけ楽しむ余裕が生まれていた。


(勝って兜の緒を締めよっていうけど、ちょっとくらい喜んだっていいよね。)


芋は、里芋のような形をしていて、家の中にあったジャガイモとは違っていたが、

食べられれば、何でもいいのだ。


森には、葡萄(ぶどう)柑橘(かんきつ)類、名前は知らないが甘酸っぱい木の実、

他にも、(ねぎ)のような草や、栗、そして木通(あけび)が生っており、

お腹一杯とはいかずとも、それなりに食べることが出来ている。

特に助かっているのが、果実類だ。

移動しながらでも食べられるので、長時間、森の中で活動できた。

昨日は、銀杏(ぎんなん)が大量に手に入ったので、これを処理しなければならない。

手間がかかる上に難しそうなので、面倒に思っていたのだが、

森の幸を食べ尽くしてしまうことは避けたかったので、

黙々と拾い集めて、持ち帰ることにした。

水に漬けて柔らかくするらしいので、

昨日、葉っぱバケツを地面に埋めて水を張り、その中に放り込んでいる。

場所は、玄関から離れた薪割り場方面だ。

何故かって?臭かったからさ!

この臭いで、銀杏(ぎんなん)好きの獣が来たらどうしよう、と、

ハラハラしている凪だった。


秋の味覚を堪能(たんのう)しているが、冬になればそれらも消えてしまう。

保存食作りを急がなければならない。

凪は、気を引き締めて、鍋を抱えて川に向かった。


そういえば、昨日、思わぬ拾い物をした。

桶である。

川の上流で漁をしていた際、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきたのだ。

ハア?と思うだろう。凪も思った。

洗濯板を手に困ったお婆さんがいないかどうか、探したが、

結局見付からず、持ち帰って来てしまったのだ。

節操無しになってしまった、と反省している凪である。


両手で抱え込むくらいの、大きな寿司桶のような代物で、

現在、魚たちのための池となっている。

持ち主が現れたら返そう、と思って、

そういえば、すっかり家の住人と化していることに気付いた。

これ以上考えるのは、精神上よろしくなかったので、凪は雑念を振り払う。


(今は、食べ物のことだけ考えるんだ。大事だろう?食べ物は。)





本日の漁は、成果に(とぼ)しかった。

掛かっていたのは、罠に小魚が1、2匹くらいである。

取り尽くしてはいけない、と、何度も場所を変えて設置しているのだが、

このポイントは魚がいなかったようだ。

場所を変え、罠と釣り糸を仕掛ける。

蟋蟀(こおろぎ)を釣り針にかけるのは、もう3回目だ。

鳴いているので、見付けやすかったのだ。

ワーム系は勘弁して欲しい。

凪は、見たくもなかった。



魚を連れ帰ると、仲間のいる桶プールに放す。

水を少し入れ換えてから、餌をやる。蟋蟀(こおろぎ)を潰した物だ。

未だに殺生は慣れないが、魚のためと思えば出来た。

帰ったら、またドクターにツンツンして貰おうと思いながら、凪は森に向かった。




(かが)んで、ポイポイと銀杏を拾う。

臭うので、葉っぱバケツ行きだ。

昨日も拾った場所だったが、また落ちていた。

先程は、ラズベリーのような実を見付けた。

川と違って、こちらは大量である。


最近の採集で、凪には分かったことがある。


(“知識”さんって、物の名前を知らないことが多いんだよな。)


例えば、昨日採った、(ねぎ)に似た植物について。

見付けた瞬間に、それが、どんな所に生えていて、どんな食べ方があるか、

といったことは教えてくれるのだが、それが一体どんな種類の植物なのか、

栽培方法はあるのかといったことは、教えてくれない。

凪は、与えられた“知識”から推測して、

(ねぎ)に近い植物なのか、と判断しているのだ。


今も、目に入った、角を組み合わせたような木の実もそうだ。

これは何かと考えて初めて、“知識”は、ナッツの一種だと答えをくれる。

思い付かないことには、何も与えてくれない。


(まあ、苺みたいなのが食べたいって思ったら案内してくれたし、いいか。)


見える範囲のナッツを(さら)い、立ち上がったとき、

凪の目に、白い物が飛び込んできた。

木の上から、ハラリと布のような物が舞い降りてきたのである。


(空から、布が・・・?!)


響くトランペット、輝くペンダント。


(あんなに欲しかった布が、今、空から!

 桶のことといい、これといい、

これって、いわゆる、ご都合主義ってやつなんじゃ・・・

 ラノベだったら、これから冒険とかに出されたりするフラグだよな。

嫌だ。絶対ヤダ。)


これ以上、悲惨な目に()いたくない。

凪は、後ずさりして布が地面に落ちるのを見守った。

そして、何かが起こるのではないかと、固唾を飲んで、更に見守った。


1分経ち、2分が過ぎ、

凪は、何も起こらないのを怪しみつつ、そろそろと、それに近付いた。


(じゃーん、とか言って、妖精が飛び出して来たり、

これが弱った一反(いったん)木綿(もめん)だったり、

この中に次元の(ひず)みができてたり、しないよな?)


重度の中二病を発症しながら、凪は布らしき物の端を()まんだ。

サバイバルも大変だが、やっと何とか生活できそうなのだ。

変なことに巻き込まれたくはない。

そう思うが、このサバイバル生活から抜け出せるかもしれない、と思うと、

凪は、布を(めく)る手を止められなかった。


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