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釣りの成果

川辺に着いてすぐ、凪は、草を繋いだ釣り糸の仕掛けを見に行った。

せっかく食いついても、逃げられる可能性が罠より高かったからだ。

撒き餌をした上流側の草の糸を手繰る。

少し重いような気がして、凪は期待を膨らませた。

が、上がってきた物を見付け、


「共食いしてんじゃねぇよ!」


思わず声を出してしまった。

餌に付けていたカニの脚をモグモグしていたのは、

同じくらいのサイズのカニだった。

有無を言わさず、バケツ送りにしてやる。

こういうこともあるんだな、と凪は自然界のルールとやらを実感した。


次こそは、と2番目の糸を手繰る。

結構、重い。その上、何かが動いているのを感じる。

これは当たりかも、と口角が上がるのを、

いやいや、さっきみたいに魚とは限らないぞ、

と、理性で、浮ついた気持ちを押さえようとした。


(おっおっ。)


草が千切れないよう、時々(ゆる)めながら、見えざる何かと綱引きをする。

どれくらい戦っていたのか、分からないが、

それを陸の上に引き上げることに成功した凪は、ビギナーズラックに酔っていた。

()かさず“知識”が、開きにして焼くと美味しいと(ささや)き、

自分はどれだけ食いしん坊と思われているのか、疑問に思う。

それでも、“知識”に促さるがまま作業を始めたのだから、

そう思われても、仕方がないのかもしれない。


釣れたのは、20cm程のコイのような魚だった。

疲れたのか、諦めたのか、もうまな板に乗っている(てい)である。

暴れられるのは嫌なので、左手で身体を押さえてすぐ、

エラに向けて、一息にナイフを突き立てる。

ボキッという感触と共に、魚が大人しくなった。

逆サイドからもナイフを入れ、頭と体を分離する。

頭と内臓は、餌として使うため、別の入れ物に保管したいところだ、

と思ったところで、バケツを見ると、カニと目が合った。


(・・・うん、どうせ餌にしか使えないんだし、生き埋めにしてやろう。)


八つ当たりに近いものがあるが、入れ物が無いのも事実だったので、

カニには気の毒だが、上からコイの臓物をぶち込んでやった。

そして、美味しくいただく予定の身を川の水で洗い、

ついでに、血でベタベタになった手とナイフを(すす)いだ。

戦利品を下げ、最後の釣り糸に意気揚々と向かった。


が、仕掛けたはずの場所には、何もなかった。

流されたのかもしれないし、

食いついた何かに、仕掛けごと持って行かれた可能性もある。

しばらく辺りを探した凪だが、痕跡(こんせき)も見付からず、諦めることにした。


(まあ、(すご)い成果があった訳だし、今日はこの辺にしておいてやるか。)


裏を返せば、仕掛けを持って行くような大物がいるかもしれないということだ。

ポジティブに行こう、と凪は自分を励まして、次の作業に入った。

もう一度、草の釣り糸を作り、今度は、先に両端を尖らせた木片を(くく)り付ける。

木片を、ブツ切りにしたコイの内臓の中に埋め、

先日と同じように、川の中に放り込んだ。

釣り針はJの形だと思い込んでいた凪にとって、

“知識”が教えてくれるサバイバル術は、とても面白いものばかりだ。

2番目の地点、最初の地点、と同じ物を同じ場所に仕掛け、

最後に撒き餌を、とバケツに手を伸ばしたところで、


「・・・食いしん坊か!」


また、声に出してしまった。

生き埋めにしたはずのカニが、そのままコイの頭部をモグモグしていたからである。

振っても落ちないので、凪は諦め、残りの内臓全てを、川に放り投げた。




何だか、カニが剽軽(ひょうきん)に見えてきた凪は、

バケツに水を注いで、軽くコイの血を流してやった。

カニは、どこかすっきりとした表情で、マイペースに食事を再開し始めた。

ま、いいや。

凪は、どこかそんな気分になった。


道中で、もう一つ、葉っぱバケツを作り、淵に仕掛けた罠を見に行く。

引き上げると、また小魚が数匹ほど掛かっている。

案外、穴場なのかもしれない。と、凪は、ほくそ笑んだ。

そして、中身を新しいバケツに空けると、修繕した罠を元の場所に入れ直した。

これで、誤魔化しは出来た。

魚を盗ってしまった事実は消えないが、

何も無かったかのように見せかけることは出来そうである。

我ながら、悪い子になってしまった。


(これも全て、・・・・・・えーと、何のせいなんだろう?)


飛行機事故? サバイバル? 俺? ・・・全部?

何だかよく分からなくなってきたので、凪は思考を放棄した。

カニも、何も考えていない顔で、キョトンとこちらを見上げていた。


気を取り直して、凪は上流に足を向けた。

昨日、滝に向かった際に見付けたポイントに、

自分の罠を仕掛けようと思ったからである。


(罠が流れない程度の速さで、なるべく深くて、草木の陰になっているところ。)


自分で作った罠なので、口を直すのもすぐだった。

(つた)を結ぶ場所を見繕(みつくろ)い、そっと底に沈める。

これで、何の気兼ねもなく漁が出来そうだ。



カツカツの、その日暮らしだが、今日も何とかなりそうである。

帰ったら、小魚用の罠と、草の釣り糸の仕掛けを量産せねば。

他にも、やりたいことがある。


凪は、川での作業を切り上げ、帰宅することにした。


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