会談の結末
そして、最後に『神聖なる蛇の書』の件である。
アラザフィラは、固唾を呑んで、担当議員の発議を見届けた。
先に獣勇国の対応について話をしていたため、
王国側も断りづらい雰囲気になっているように感じる。
と、ここで一人の王国側の議員が声を上げた。
「委細承知しましたが、疑問がございますな。」
アラザフィラの向かいに座るショウの瞼が、ピクリと動く。
どうやら、反体制側の議員のようだ。
口調は穏やかだが、触覚が激しく動いており、感情の高ぶりを表している。
「構いません。何なりとお聞きください。」
担当議員では荷が重かろうと、アラザフィラは勝負に出た。
では僭越ながら、と言葉が続けられる。
「何故、そこまでして、血眼になって探されるのでしょう?
内容はすでに貴国の機関によって研究し尽くされ、
複製品も存在していると聞き及んでおります。
これから『王』を攻めようとする獣勇国には、研究のため、更には、
共和国の信用失墜のために書を押さえるという、明白な目的があるでしょうが、
我らにとって、それほど価値のあるものでしょうか?
研究済み故、固執しなかったと言えば、他国も納得しましょうぞ。
それとも、内容以外に大切なものが、彼の書にあると?
大公殿も、書に強い執着心をお持ちの様子。
理由がおありならば、是非とも、教えて頂きたい。」
暗に、ショウも責めている。
共和国への協力は徒労に終わる可能性が高いため、
人員を割きたくないとの思惑があるようだ。
議員の言うことは、一理あるだろう。
しかし―――、
「これは、我が国の為でもあります。」
アラザフィラが口を開きかけたとき、ショウが声を上げた。
「我が国の、大陸への進出が困難なことは、スルーフ公もご存じでしょう。
他国との接点が限られている以上、この世界で立場を作るには、
分かりやすい称号が必要だと、私は考えました。
そのために、最も有効かつ最短の方法が、共和国から『神聖なる蛇の書』を
貸借することでした。貸借に適う信頼関係を持っている、ということが、
我が国の立場を盤石にする権威となるのです。」
議員が唸って考えているところに、ショウは畳み掛けた。
「更に言えば、共和国との国交を基に、神殿との交渉も行おうと考えておりました。
商業ルートとは別に、彼らが布教して回るルートも開拓できれば、
通商と、文化発展が加速するでしょう。
これらが、共和国による書の捜索支援要請に賛同する理由となります。
・・・公へのお答えになったでしょうか?」
ショウの武器は、この積極的な攻めの姿勢である。
自国の利益を、先々まで手を回して掴み取ろうとする、
その貪欲とも言える態度こそが、建国の動力になったと言える。
海の中にいて、よくもまあ其処まで陸を見通せるものだと、
常々、アラザフィラは感心していた。
議員は、一つ頷いて引き下がってくれた。
タカ族のアラザフィラには、シャコ族の表情はよく分からなかったが、
止むなし、という態度であることは分かった。
事前のショウの根回しも功を奏したようで、何よりである。
ワジャが、議員に感謝の言葉を贈り、最後に答辞を述べて、
『風と雲の共和国』と『滄海の王国』の会談は、無事に閉幕となった。
”拳骨” カッダ・トラーザム(シャコ族族長”スルーフ公”)




