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空と海の会談

昨夜の話を反芻(はんすう)しながら、アラザフィラは議場ぎじょうへと向かった。

想定以上に、ショウは、よくやってくれていた。

決して、アラザフィラの為だけに動いてくれた訳ではないだろうが、

共和国の不利を最小限に抑えることが出来そうである。

間諜かんちょうを気にしてか、詳細は語ってくれなかったが、

王国内の反体制派を、何とか抑えられたようだ。

ここまで好条件を(そろ)えてくれた以上、この会談で失敗は出来ない。

後は、こちら次第である。

何としても、王国の捜索支援を引き出し、

()つ、()獣勇国じゅうゆうこくに対する圧力の一端になって(もら)わねばならない。

ハプニングが起こらないことを祈る、アラザフィラであった。





会談は、式典と同様に、使節を迎え入れる形で始まる。

ワジャを先頭に議場に入り、アラザフィラ達はテーブルに着いた。

ホテルと同様に、周囲が海水で満たされており、まるで島のようである。

デザイン性があり、実に好ましいとアラザフィラは思っているが、

初めてワジャを連れてきた後に、この議場の感想を求めると、

「良い所だったけど、交渉って名前の戦争をしてたから、それどころじゃなかった。」などと、述べていた。

今回は、景色を美しいと思えるくらいの余裕を持て、と言い含めておいたが、

果たして、話の雰囲気に飲まれはしないだろうか。


(・・・一緒にきたえ上げてくれたエルソムが、心配性だと一笑いしそうだな。)


横目でチラリとワジャを見ると、堂々とした態度で席に着いている。

弟分の成長を感じると共に、不安なのは自分かもしれないと内省ないせいした。





女王が開会を宣言し、王国の議長による取り仕切りで会談が進む。


まずは、王国側の賛同を得やすい、

大陸への海産物の販路はんろの拡大に対する協力についての話からだ。

共和国は、回遊国家である特性を生かし、

世界各国を結ぶ重要な交易拠点という役割をになっている。

王国は、種族の特性上、陸地での活動が大いに制限されているため、

共和国の協力を取り付けることが、手っ取り早い解決方法なのだ。

王国も自力で販路を広げようと、陸上活動が可能な種族を派遣したり、

河を(さかのぼ)って河岸の都市と交渉したりしているが、

やはり、共和国の販路が魅力的なことに変わりはないだろう。


案は即座に議決され、共和国側の受け入れ枠の拡大が行われることとなった。




続いての議題は、両国の労働者に関するものである。

共和国の首都を乗せる『風の王(マレク・リヤフ)』は、その口腔内に水を(たた)えている。

雲を取り込み、尽きることないその水場で、共和国は統領府主導の養殖事業を行っており、その従業員として、王国の研究者や業者を派遣してもらっているのだ。

対する王国も、郵便・運送事業の成熟のため、ペンギン族やペリカン族等の協力を仰いでいる。

滄海の王国アルバハル・アズラク・アルバラドゥ』の領域に、『風の王(マレク・リヤフ)』が入ってから出るまでの間が、

それらの事業報告や、従業員の里帰りの期間だ。

空の旅は多少の危険を伴うため、事故の無いよう、両国は心を砕いて対応している。

そういった都合もあって、この会談も年に一度、この時期に行っているのだ。


今年も、帰国希望者の把握と、輸送状況は順調なようで、何よりである。


ただ、人の行き来があるということは、残念ながら犯罪者の引き渡し等も、

生じてくるということだ。

そして、それは大抵、王国から共和国にというパターンが多い。

王国側から共和国側に、自力で来ることが困難である以上、その比率に差が出るのは致し方のないことだが、迷惑をかけているという引け目が生まれる。

アラザフィラが統領に就任するまで、『雲上の民アナース・ファウカ・フユミ』と名乗っていた国民には、

(おご)りが蔓延(まんえん)していた。

それを改めるべく、就任直後に国名を改めたのだが、

未だに選民せんみん意識が抜けない者は、多く存在する。

意識改革は、10年やそこらでは達成できないのかもしれない。

実に悩ましい問題であった。




そして、ここからは少しきな臭い話になる。

これから共和国を乗せた『空の王(マレク・サマ)』が向かう先にある、獣勇国の話だ。

ここ数年、共和国と王国それぞれに、別ルートを通して、

軍事協力の話が持ち掛けられたのである。

その内容は、なんと『(マレク)』の討伐だ。

千年に一度(アルフ・サナ)』が起き、暴れ出す前に、仕留めてしまおうという話だった。

対象は『空の王(マレク・サマ)』ではなく、山脈に巨体を横たえる『陸の王(マレク・アルド)』の一柱だと言うが、

言語道断である。

可能であるはずがない、というのが共和国の立場だ。

獣勇国の思惑おもわくを考えれば、上空からの援護を期待しているのだろう。

それが出来ないなら、せめて邪魔はしないで欲しいというところか。

しかし、それに乗る訳にはいかない。

討伐中にその『(マレク)』が目覚めれば、共和国は良い的になってしまうからだ。

それによって、『空の王(マレク・サマ)』まで目覚めれば、共和国は滅ぶしかない。

当然、ワジャはその場でピシャリと使者の要請を切り捨てたが、

獣勇国は『空の王(マレク・サマ)』が大陸の反対の位置に着いたときを狙って、

討伐を決行する可能性がある。

獣勇国がどうなろうと、身から出たさびだが、討伐が長引いたり、獣勇国が滅べば、

回遊する『空の王(マレク・サマ)』は、暴れる『(マレク)』の下へ、

風に乗ったまま、半年後には到達してしまうだろう。

大体だいたい、語り継がれる『千年に一度(アルフ・サナ)』は、まだ遠い先の話なのだ。

何故、この時代に行動する必要があるのか。

アラザフィラには理解できなかった。

とにかく、獣勇国の早計そうけいにすぎる計画は、潰さねばならない。

そのためには、王国にも共和国に同調してもらい、

物資の提供拒否や、獣勇国を利する民の動きの抑制等、

獣勇国への圧力を加える動きに、協力してもらう必要がある。


昨夜のショウの話では、『神聖なる蛇の書(キタブ・アフ・カダス)』を手に入れた(あかつき)には、

相応そうおう報酬ほうしゅうと引き換えに獣勇国へ流して貰いたい、と持ち掛けられたらしい。

ショウが方々(ほうぼう)で、書を手に入れようとしているのを知ってのことだろう。

どこかへ渡ってしまった、共和国の『神聖なる蛇の書(キタブ・アフ・カダス)』の行方が、気に掛かる。

獣勇国へ圧力を掛けようとしているときに、信用を落とす訳にはいかないのだ。


そして、どうやら王国側も、獣勇国に対する考えは否定的なようだ。

王国は大陸に接し、くだんの討伐対象となっている『(マレク)』がいる山脈とも、

一部繋がっている。

広大な領地には、『海の王(マレク・バハル)』も抱えているため、やはり他人事ひとごとではないのだろう。


共和国の提案は、満場一致で受け入れられた。

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