海上の式典
潮風が、アラザフィラの翼を押しのけて吹いた。
実に、2年ぶりの着陸である。
とはいえ、ここは大陸ではない。
『滄海の王国』有する、王冠諸島だ。
ここから見渡せる海域すべてが、この王国の支配下にあり、
その面積は、この世界でも上位に入るうえ、
まだまだ成長の余地を残している、とアラザフィラは見ていた。
思えば、アラザフィラが統領に就任した翌年から関係を持った国であり、
両国の絆の歴史は、そのままアラザフィラの歴史でもある。
そういう意味で言えば、この国は、世界中のどの国よりも親近感の持てる国だった。
特に、女王の相談役とは、何度も苦労を分かち合った、もはや戦友とも言える仲だ。
細々と連絡を取り合ってはいたが、会って話すのは、
去年、共和国内で行った協議以来である。
実は5年前、彼から初めて『神聖なる蛇の書』の閲覧許可を求められた際、
すでに盗難事件については、伝えていた。
もちろん非公式の場で、あらゆる耳目を遮った上で、である。
この5年間、アラザフィラが心を砕いていたのは、
互いの国家的な体面を守ることと、政敵への情報漏洩の防止であった。
しかし、世界情勢の移り変わりにより、とうとう『神聖なる蛇の書』盗難の件を、
公式な場に持ち出さざるを得なくなってしまった。
この件は、あくまで二国間の密議としてもらう話だが、アラザフィラとしては、
それによって、国における彼の立場が揺らがないかが気掛かりだった。
先方とは協議内容について、内々で打ち合わせていたが、
彼は「心得た」と回答するに止まっていた。
互いの政敵の耳には入れたくない情報であるがゆえ、「『神聖なる蛇の書』に関して提案したいことがある」としか伝えられていないため、当然の反応ではある。
彼ならアラザフィラの意を酌んでくれているだろうが、
こちらの援助要請を受けることは、つまり、王国側に負担をかけるということでもある。
彼は王国内では不動の立場をものにしてはいるが、よく思わない派閥も、もちろん存在する。それらが、この件を「共和国との関係を重視するがあまり、国益を損なうのではないか」と、非難の材料にすることは大いに考えうることだ。
(巧く捌いてくれるといいが。・・・杞憂かな。)
アラザフィラの脳内で、
「大したことはありません。」と、いつもの澄ました顔が言った。
到着の翌日は、いつものように使節団歓迎式典が行われた。
議長国が主賓を歓迎する、形式的なものだ。
王国を名乗るなら、そういった式典は必要になると彼に助言した翌年、
共和国の式典を参考に作ってくれた。
軍隊の演奏と行進演技も再現してくれたのだが、そういえばあのとき、
「会場が海中だったなら、貴国に負けないものが作れたでしょう。」と、
残念そうに口にしていた。
競争ではないのだが・・・、と思いながらも、負けたくない気持ちが湧き上がり、
結果、お互いに触発し合って、年々、手の込んだものが増えている状態だ。
目の前では、海面から次々と飛び出すエイ族が、アクロバティックな演技を見せてくれている。海上に設置された金属に、着地して滑り降りていくのだが、腹部に括り付けた金属で音を出し、それが律動的な音楽となっていた。
色とりどりの紐や珠、貝で装った珊瑚のダンサーも、それに合わせて輪舞している。
見事な海上演技を見せられながら唸っていると、
貴賓席に座るワジャが、統領の顔で茶々を入れてきた。
「いやぁ、女王陛下。今回の演技も見事ですな!
貴国の民にしかできぬ、実に美しき眺めです。
なあ、アラザフィラ?
・・・来年は、海鳥の連中にも参加して貰わねばな。」
「・・・検討しておきましょう。」
「うふふ。お褒め頂き、ありがとうございます、統領閣下。
私も毎年のこれを楽しみにしております。
ですが、共和国の彩色飛行隊と行進隊の皆様も、
素晴らしいと思いますわ・・・。
そうだ!両方を一緒に見れたら、もっと綺麗かもしれません!」
ね?と女王が顔を向けた先に、ショウがいる。
戦友、元へ、興行のライバルである。
その言葉を聞いて、視線を向けてきたので、思わずニヤリと返してしまった。
彼も不敵な笑みで返してくる。
受けて立つか?当然だろう?という意味である。
女王は、自分の提案が叶いそうだと、ニコニコしている。
「・・・アラザフィラ。予算は、いつもと同じで頼むぞ?」
若干、心配そうな声でワジャが言った。
「いつもより抑えてみせますよ、統領。
ただ費用を上げるだけでは意味がありませんので。」
言外に、美術的な勝負だと伝える。
「そうですね。これは芸術ですから。
費用をかければ豪華になるのは当然。限りが無くなります。
どうでしょう、お互い同条件で行う、というのは。」
ショウが新たな提案をしてきた。
面白い。
この雄はいつも、新しい視点をアラザフィラに見せてくれる。
互いに、熱い視線を送り合う二人と、
それを嬉しそうに見る女王を見て、ワジャは零した。
「・・・怪我人だけは、出さんでくれよ?」
”鉱脈大臣” ショウ・ハナダ・テイラー(サメ族(仮)状態)
”青の女王” イェルト・カラキン(クラーケン族)




