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日暮れ

チャプチャプと揺れる水に気を付けながら、凪は帰路を歩ききった。

今日の夕飯は、塩肉をかじろうかと思っている。

もう料理をする気力が残っていなかった。


一先(ひとま)ず、お湯を沸かす。

明日洗う予定の(かめ)から、慎重に水を(すく)い、大鍋に移して火をおこす。

慣れ始めたとはいえ、それなりに時間はかかる。

ガスコンロの便利さよ、と凪は実家を懐かしんだ。

沸かしている間に、桶に葉っぱバケツの中身を()けた。

小魚がスイスイと泳いだ。

これから非常食として飼いたいと思っているので、

葉っぱバケツをそのまま置けるような場所が欲しい。


(こう、寿司(すし)(おけ)みたいなのが欲しいよな。)


しかし、桶屋ではない凪にとって、そういったたぐいの道具を作るのは難しそうだ。

“知識”も作り方については、とんと知らないらしい。

薪を組んで、バケツ置き場を作ろうと考えた凪だが、

薪だけでは崩れてしまいそうである。

凪の頭に、ジェンガを崩してしまった時の悔しさが蘇ってきた。

それを指差して笑った父の顔もセットだ。

懐かしいような、見返してやりたいような、そんな気分になる。


石を運んできてもいいが、程良い大きさでなければ意味がない。

何か支えになるものはないか、と見回して、箱が目に入った。

箱の中で薪を組んで、設置すれば安心だろう。

一緒にいれる薪は、濡れてしまってもいいように、

外の薪置き場から持って来ることにする。

鍋が沸くには、もう少し時間がかかる。

凪は箱の中身をテーブルに出し、

空になったそれを抱え、薪を入れるべく外に出た。




グツグツと沸騰する音が聞こえる。

凪は、薪パズルをする手を止めて、鍋を火から下ろしに向かった。

これが冷めれば、凪の命を支える水になってくれる。


(今回は衛生面が心配だったので、いつもより多めに沸かしております。)


誰に言うともなく、凪は茶化(ちゃか)した。

川から家に戻ったときは、まだ日が高かったが、

じきに夕暮れが来るのだろう、すでに風が冷たくなり始めていた。

鍋と共に焼いていた芋と、塩肉と水で、今日も食い繋ぐ。


(大きめの魚が獲れたら干しておこう。

 まだ塩漬けは残ってるけど、このペースじゃ真冬に尽きる。

 あー、食べ物欲しいな・・・

 もし、サンタさんが来てくれるなら、間違いなく肉を所望(しょもう)する。

 ・・・おっと、そういえば成人しちゃったんだった。

 来ないかー。サンタ来ないかー・・・)


サンタはいないと、幼くして父にバラされた凪だったが、

この冬だけは来て欲しいと、切望した。


暖炉から離れた凪は、再び箱と向き合っていた。

空になった葉っぱバケツを箱に出し入れし、座り具合を確かめる。

ようやく、崩れない形が完成したようだ。


葉っぱバケツの底を、再度、草でしっかりと縛り、

桶で待っていた魚たちを迎えに行く。

手で(すく)ってバケツに放り込み、(かめ)から手で水を汲んだ。

桶の水を家の外に撒いて、今度は桶に水を入れる。

ビチビチしているバケツを箱に設置し、桶から少しずつ水を(そそ)いだ。

ここまで慎重にしたのは、バケツが(もろ)いからである。

ここまで水を溜めていられるのは凄いが、所詮は葉っぱ。

(しお)れたら、また作るようにと、“知識”も言っている。

このサバイバル生活は、とにかく、しなければならないことが多いようだ。



暖炉の火が小さくなってきたので、芋を火から下ろし、薪を追加する。

テーブルが手狭になったので、箱の中身をどこかに移そうと考えた。

が、そもそも、この家には収納スペースが無いに等しい。

お手製であろう戸棚くらいだ。

考えるのが面倒になった凪は、戸棚の上に、全て移動させた。

箱の中身で一番大きかったのが本だったので、細々した物は本の下敷きにした。

風で飛んで、暖炉の中に入るのを防ぐためである。

これでテーブルにゆとりができた。


まだ夕飯には早い時間だが、そんなことは関係ない。

空腹を通り越して「無」になっていた凪は、

熱い芋と白湯と肉に、ゆっくり食べを意識しつつ、がっついた。




人心地(ひとごこち)ついた凪は、ハンモック・バッグをいていた。

本日の収穫物である(つた)や、小枝、誰かが仕掛けた罠、干し忘れた靴下が出てくる。

弓矢セットは壁に戻し、ナイフは洗ってテーブルにある。

小枝は火を(おこ)すのに必須なので、(まき)(そば)に転がしておく。

靴下は暖炉前に並べた。

凪は椅子に座り、改めて、誰かの仕掛けを見た。

少し草が絡んでいたが、比較的、新しい物のようだ。

凪の物と同じように(つた)が使われ、(ゆる)むことなく枝を繋いでいる。

これなら、口の返しを付ければ、また使えるだろう。

凪は、残しておいた小枝と余りの(つた)で、罠の修繕しゅうぜんを始めた。



太陽が、何か言いたげに残光を放って、沈んでいった。


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