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脱出パーティ結成!



 マチアルドたちは、いまだに薄暗い未知のダンジョンをさ迷っていた。


「一体どこなのかしら、ここ。神殿にこんな隠し通路があるはずないんだけど。人の気配もないし、出口らしきものも見当たらないし」

「それに何だろうね、このガラクタの山。ずっと先まで続いてるよ。神殿の中にこんなゴミ置き場みたいな場所があるなんて意外だな」


 シュタルトはそう言うと、近くに会った古ぼけた木の箱を持ち上げた。蓋の金具が完全に壊れてしまっていて、うまく閉まらない有様である。


「あの光は一体何だったのでしょうね。突然星石がから光が出たように見えましたが……。星石が光るなどということがあるのでしょうか?」


 ラルフィルの問いに、マチアルドは首を振る。

 星石は確かに女神信仰の象徴で国宝級のお宝かもしれないが、しょせんはただの石ころである。古い文献にも、そんな現象は記されていない。

 それに突然石が光り輝いて人間が見知らぬ場所に移動するなど、起こるわけがないではないか。


「俺たちが倒れてた辺りは突き当りで壁しかなかったし、俺たち一体どこからきたんだろう?」

「どこかへと続いているのは間違いないんでしょうけど……。ん?ラルフィル王子、どうかなさいましたか?」


 マチアルドの背後に鋭い視線を向けるラルフィルの緊張感漂う気配に、ふと立ち止まる。


「……何です?後ろに何か」


 そして、気づいた。暗がりの中で何かがうごめいているような、何かの気配。音のする方に目をこらすと、そこには黒っぽい何かが見える。


「…………?」


 人でも動物でもなさそうだ。背は、ラルフィルより頭三つ分くらい大きいだろうか。全体のフォルムとしては、長方形の箱に楕円形の何か丸い物体が乗っかっていて、しかもそれがぶるぶると小刻みに動いている。


 ――ガチガチ震えているようにも見えるけれど、生き物……ではなさそうだけど。一体これは……。


 ガチャリ、ゴトッ、ミシッ、という何かがきしむようなぶつかり合うような金属音がゆっくりと近づいてくる。

 嫌な予感しかしない。


「あれ、何かしら?もしかして逃げたほうが良かったりするの、かしらね?」


 その黒い塊は何かをずりずりと引きずるような音をたてながら、じりじりとこちらににじり寄ってくる。後ずさりながら、マチアルドはシュタルトの腕にしがみつく。

 その二人の前にさっと身を滑り込ませたラルフィル王子は、腰に差した剣に手を伸ばしてそっと耳打ちする。


「お二人はこのまま後退して、どこか物陰に隠れてください。私が注意をひきつけます」


 言い終えると同時に剣を抜き、塊の前方に飛び出すとマチアルドたちのいる方向とは別の方向に身を躍らせた。

 シュタルトが素早くマチアルドの手を掴んで少し離れた物陰に身を隠したところで、ガシィィィィン、という硬質な重い音が一帯に響き渡る。


 思わずその大きさに目をつむるマチアルド。


 キィィン、バギィッ。

 ガコンッ。……キュイィィィ。


 つんざくような金属音と重量感のある何かがぶつかり合うような鈍い音が続く。


 薄暗くてよく見えないが、ラルフィルは剣とその鍛え上げられた肉体とであの黒い塊と格闘しているようだ。

 周辺国でも名の知れた剣の使い手というのは、伊達ではないらしい。ひらりひらりと鮮やかに身をかわしながら、塊の動きをかわしつつ剣だけではなく身体全体を使って戦っている。


 ――すごいわ!あんな大きなもの相手にちっともひるまずに対するなんて。でももし王子の身に何かあったら、外交問題よ。お願いだから何事もありませんように。にしても、一体あれは何なのよ!


 祈るようにはらはらと戦いを見守る、マチアルドとシュタルト。

 しばらく大きな物音が続いた後に、ドオォォン……、と地面に響くような重い衝撃音がして、しんと静まり返る。


「もしかして、終わったのかな。行ってみる?マチアルド」


 困惑と恐怖が入り混じった表情でそこに立ち尽くすラルフィルのもとにそろそろと近づいたマチアルドとシュタルトがみたものは。


「これ、何だ?……ガラクタ?」


 そこに横たわっていたのは明らかに血肉が通った生き物ではなく、木や皮、布、石、鉄などの素材できたガラクタを無作為にくっつけたような物体である。人型を模してガラクタを積み上げた、と言えばいいだろうか。


「これ、さっき動いてたよな?どうしてこんなものが動くんだ?まさかやっぱりここは異世界で、魔法で動いてるとかっ?」


 シュタルトに冷めた目を向けるマチアルド。


 ――そんな物語めいた話が現実に起こるわけないじゃないの。この世界には魔法もないし、精霊も魔物もいない。現に、植物も話さないし竜も空を飛んでないじゃないの。でも、ならあの光はなんなのかしら。何かの爆発?


 眉間にしわを寄せて考え込むマチアルドの表情を不安によるものと勘違いしたラルフィルが、安心させるように声をかける。


「とにかくここを抜けましょう。これが何なのかはわかりませんが、この先も危険があるかもしれません。……私があなたとシュタルト君をお守りしますから、大丈夫ですよ。お二人とも、私から離れないようにしてください」


 この発言によって、マチアルドはラルフィルへの印象を大きく変えた。第一印象は何を考えているのか分からないとってつけたように感じられた笑顔が、今は輝いてみえる。

 この中で唯一剣の心得があるのは、ラルフィル一人だけである。剣の腕という面においては、非常に頼もしい存在には違いないのだ。


「ラルフィル王子殿下、頼りにしておりますわ!残念ながら、私では何のお役にも立てそうにございませんし」

「俺だって少しはやれるよ、多分。それにもしかしたらここは異世界で、不思議な力とか使えるようになるかもしれないし。とりあえず先に進もうぜ」

 

 シュタルトは相変わらず、能天気かつ楽天的である。

 それがシュタルトの良さでもあるが、危険を伴う状況においてはどうも危なっかしい。もはやここを異世界と思い込んでいるようで、目がきらっきらに輝いている。


 ――ラルフィル王子が一緒で良かったわ……。シュタルトと二人だったら、もう命がない気がする。


「ところでこんな状況ですし、お互いにかしこまった話し方はやめませんか。とっさの時に呼びにくいですし。私のことは、ラルフィルと呼び捨てにしていただければ」


 その申し出に、思わず顔を見合わせるマチアルドとシュタルト。自分たちはいつも通りの話し方でいいとして、隣国の第三王子をつかまえて呼び捨てなど許されるのか。

 しばし考えこむ二人であったが、今は非常時である。


「……わかりました、いや。わかった。じゃあよろしくな、ラルフィル」

「では、ラルフィル。とりあえずここを出るまでは、無礼講ということで。なんとかここを抜け出して、一刻も早く皆のもとへ戻りましょう」

「あぁ。こちらこそよろしく頼む。荒事は任せてくれ。シュタルトはマチアルドを守ってくれればいい。あと、……まぁこれでいいか。念のためこれを持って身を守ってくれ」

 

 こうして、戦闘要員はたったの一人という非常に心もとないパーティが出来上がった。


 ラルフィルに手渡されるままに、身を守るためのアイテムを握り締めるマチアルドとシュタルト。ラルフィルは自前の剣を、マチアルドは鉄鍋、シュタルトは長い鉄の棒を手に、未知のダンジョンを進むのだった。

 





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