深紅の魔女
街はずれの森の奥深くにそびえ立つ城で暮らしている女王がいた。
森というにはいささか木々が若く見えるが。
その城で暮らす女王の名はシスタスという。
三日に一度、貯蔵庫の食糧が尽きるので、三日分の食糧と、ついでに日常生活で必要なものを買うために街へ行く。
光が反射するような白髪に、太陽のような橙の瞳を持つ彼女が街を歩くと、すれちがった人はあまりの美しさに振り返るほど。
しかし、表情は少し曇り、深紅の頭巾を目深にかぶっており不気味に見えるためか、街の人達は振り返りはすれど誰も近づこうとも、声をかけようともしなかった。
「私は明日、死ぬかもしれない。」と数分に一度つぶやくのも、人が近づかない要因かもしれない。
街を出て、街はずれの森へと続く道の手前で、シスタスはもう一度、「私は明日、死ぬかもしれない。」と言い残し、森の奥深くの城へと帰っていった。
ある日、三百年に一度の猛暑日が、森を襲った。
気温は四十度を超え、街の人は暑さを避けるために各々家へ引きこもっていった。
シスタスは城から出て、森の中腹へと歩き出した。
この暑さの中、シスタスも汗をかかないわけがない。
汗がシスタスの頬を伝い、シスタスの足元にポツリと落ちた。
「私は今日、死ぬ」とひと言つぶやいた。
そのひと言が鍵となっていたのか、シスタスの足元から、温泉が湧き出るかのように、橙色の不思議な液体があふれ出てきた。
その不思議な液体が森全体を覆い、風が一凪したとき、火花が走り突然液体が発火した。
瞬く間に、火は液体を伝い燃え広がる。
燃えて燃えて燃えて、火はとどまることを知らない。
シスタスも巻き込んで、森は燃える。
「私は今日、死ぬ。私が死んだあと、新たな女王が生まれ、またその時が来るまで、木々と共に成長していく。」
シスタスは熱さなどものともせず、淡々と言いながら炎に飲まれて灰となった。
シスタスは灰となって消える直前、一粒の涙を落した。
やがてその涙が、一粒の小さな光へと変わり、地面へとゆっくり落ちていくのが見えた。
液体を伝い広がった火は森全体を覆い、一晩中燃え続けた。
燃やすものがなくなり、火は自然と鎮火した。
木々はもちろん、背丈の低い草木も、落ち葉も、枯れ木も、花も残すことなくすべて灰になった。
ただし、シスタスが暮らしていた城は燃えることも、煤も付くこともなく、無傷でただそこに存在していた。
城以外、森をすべて灰にした大火事から三日後、木々の灰の山がゴソゴソと動き始めた。
そこは、一粒の小さな光が落ちた場所であった。
木々の灰の山の中からシスタスによく似た顔立ちの娘が、這い出てきた。
その娘は灰の山の中から這い出てきたにもかかわらず、その娘が着ている服は全く汚れていなかった。
「私はキスツス。この森の新しい女王。」
彼女はそう言い残し、焼け野原の奥深くにそびえ立つシスタスの城へ入っていった。
焼け野原になってしまった森の跡地には、多くの植物の新芽が出ていた。
おしまい




