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光の魔法

  俺は新しい力を授かったことで一種の万能感を手にいた。

  しかし、本当にこれで何かができるのか不安だな。

  苦労も努力もなくてにしたその力に信頼は置けないし、せめて実戦で試したいが。

  その気持ちはなんとか綺麗な言い訳を見繕ってはいたが、新しいおもちゃを試したい子供心によく似ていた。

  季節は露骨なほど秋を感じさせる今日、俺はこの国に存在するスラム街に来ていた。

  うちのカフェが依頼を引き受けるという話を聞きつけたのだろう。 早速依頼が入って来た。

  盗まれた恋人のネックレスを取り返してほしいという婦人からの依頼であった。


「意外と広いんだな……骨が折れそうだぜ」


  俺は現在一人である。

  あの女どもを連れ歩くようなところじゃないだろうし留守番を頼んで来た。

  つまり今の発言は独り言になるはずであった。

  にもかかわらず、言葉が後ろから帰ってくる。


「なら、本当に折っておくか?」


  振り返ると大男がすでに土の塊であろう棍棒をすでに振り下ろしていた。

  俺は反射的に腕を挟み頭をカバーする。

  俺の頭頂部に斜めに振り下ろされるはずの棍棒は腕にあたる。

  その瞬間、棍棒が粉々に砕けた。


「何? てめぇ何しやがった」


  どうやら魔法によって生まれたものであったらしいな、 助かった。

  タツヤは目の前の男を観察する。

  この世界の特徴として、筋肉量が男女関係なく少ない人間ばかりだ。

  タンパク質を取らないことや魔法に頼った生活によるものであろう。

  中にはセッスクのような例外もあるが……

  まぁ大豆とかからもタンパク質取れるしな。

  さて相手は一人である……ちょうどいい


「ちょうど話を聞きたかったんだ。 悪いがボコボコにしてでも聞かせてもらうぜ」


  タツヤが一人で来た理由は力を試したいというものが大きかった。

  スラムであれば自分を襲う人間も出てくるだろう。 正当防衛であれば相手を痛めつけられる。

  そして、その姿をなんとなくクロエに見せたくはなかったからである。

  目の前の男は俺の発言により逆上して襲いかかってくると思っていたが、予想に反し声を上げて笑い出した。


「はっはっは! こりゃあ傑作だ。 よほど周りが見えてないようだな」


  周囲から人の気配がする。 4.5……次々に数が増え最終的には20人ほどとなった。


「えっと、勝負はタイマンでってことにしない?」


  武道を修めた達人でも連携のとれた3人を同時に相手にすると敗北は必至であるという話を聞いたことがある。

  未知なる力を持つだけのタツヤにとってこの人数は恐怖を感じさせるには充分な人数だった。

  そして、男たちからの返答がくる。


「そんなわけねえだろ!」


  こういう時、どうしたらいいかは本能でも理性でも理解していた。

  俺がとった行動は逃走だった。

 

「ふはははは、包囲が甘いぜ! ここもここも! 俺を捉えてみせろ」


  体力には自信がある。 そのため男たちが野次を飛ばしながら追いかけて来ても冷静であった。

  何度か分かれ道を繰り返すが、色々な方向から男たちがくるのに対し、必ず1つだけ空いている道があった。

  ふむ、妙だな。 うまくいき過ぎている。

  もちろん、罠だった。 逃げ道を誘導され、たどり着いたのは袋小路だった。


「もう逃げられねえぞ」


  誰かが言う。 その人数は分かれ道のたび増えていき、 今では50人近くあるんじゃないだろうか。

  俺は土下座をした。 迷いはなかった。 助かりたかった。

  恐怖で震える声を抑えて俺は言った。


「すみませんでした」


  男たちは武器を持っており、その全てが魔法でできているものではないだろう。

  そうなると戦えば死ぬことが考えられる。

  体が恐怖に支配されていき、選択肢が狭まっていく感覚だ。

  一人の男が俺に歩み寄ってくる。


「俺たちも命を取ろうってんじゃないんだ。 その服、金もってんだろ? それをよこせよ」


「は?ふざけんなよ。 てめぇにやる金はねえよ」


  もはや条件反射であろう。

  飴と鞭を使い分けたその優しい口調に対し俺はとんでもないことを言ってしまった。

  金を要求された怒りにより体の硬さが取れた。

  俺は体に光を纏う。

  そして、体勢を立て直そうとした動作に男の蹴りが割り込む。


「てめぇ、こっちが優しくしてりゃいい気になりやがって」


  その蹴りは顔面に突き刺さり、物理攻撃であるそれは俺に深いダメージを与えるはずだったが、


「痛ってぇーーよー」


  反動で仰け反った上半身を立て直し男を見る。

  なぜか蹴った男の方がダメージを負っているようだった。

 

「てめぇ、その白い光は魔法だな? 何しやがった」


  誰かが言うがその言葉は俺の耳に届かない。

  なるほど痛いは痛いがノーダメージだろう。 これで殴ったらどうなるんだ?

  俺は死の危険が小さくなることで余裕を取り戻していた。

  瓦礫が飛んでくる。 反射的に腕で振り払うとそれは簡単に砕けた。

 

「どうやら、本気で殴ると頭蓋骨でも割ってしまいそうだな」


  俺は手加減して目の前の男の顔をはたく。

  それだけで何回転もしてからその男は倒れていく。

  男たちは50人を超える人数であったが、その半数が倒れると戦意を喪失していた。


「逃げ出す奴がいないのは感心だな。 もう来ないのか?」


  その発言は挑発の意味も込めていたが、乗ってくるものはいなかった。

 

「すまない、許してくれ」


  男たちが頭を下げてくる。 それに対して俺は倒れたものを治療することで答えた。

  過去に一度行ったことがある。 その要領で行うと簡単に数が癒えて男たちは意識取り戻していった。

  その行動は自分の力を押し付け見せつけることによって、一種の優越感を得るためのことであった。

  しかし本人はそのことに気がつかず自分に酔っていた。


「別に構わないさ。それより聞きたいことがあるんだが」


  俺はネックレスの件について問おうとしたが、言葉が止まった。

  目の前にクロエが現れたのだ。


「えっと、この状況何?」


  思えば初日の状況によく似ている。 違うところをあげるとしたらその規模だろうか。

  さて、どこから説明したものか。 俺が悩むと男の1人が驚きの声を上げた。


「クロエ様、なぜこちらへ?」


「なぜってタツヤが…私の友人がここへ来ることに嫌な予感がして」


  どうやら知り合いだったようだ。 状況の説明が終わる頃には俺たちのわだかまりが解けていた。


「しかしクロエがスラムと繋がりを持っていたとはなぁ」


「お嬢様は俺たちのことを救ってくれようとしたただ1人なんですよ」


  リンドウと名乗ったその男はすっかりと丁寧口調となっていた。


「やっぱり金持ちのボンボンだったんだな」


「いや、まぁねー」


  クロエは苦笑いしながら返答する。


「えっと、リンドウさん昨日ネックレスを盗んだりとか心当たりないかな?」


「あぁ、仲間が落とし物として預かってるよ」


「落とし物? クライアントは盗まれたと言っていたが」


「とんでもねぇ、俺たちは女子供からは強盗はしねえんだ。 こいつは仲間を見て驚いて逃げて言ったその女が落として言ったものだよ」


「なるほどな。で、返してくれるんだよな?」


「当然さ、ほら」


  真珠がまかれた綺麗なネックレスを受け取る。

  クライアントが言っていた特徴と一致するためこれで良さそうだ。

 適当に挨拶を済ませお互いに何かあったら助け合おうと約束した。

  その際うちの店の所在地も伝えた。

  帰り道でクロエが話しかける。


「ねぇ、手をつないで帰らない?」


「あぁいいけど……いいよ」


  なんとなく照れくさかったため、顔を合わせず黙って帰った。

 

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