表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/24

力が欲しいか……?

  今、店は重大な危機に直面している 売り上げが落ちてしまっているのだ。

  理由としては客からのタレコミにより目星がついている。

  現代で言う大衆食堂が近所にできたのだ。

  うちの客層の要はメイド目当てのおっさんたちだが、さすがにおっさんだけあってボリュームと安さが売りの店ができたらホイホイものである。

  外食文化が広まりつつあるこのタイミングで開いたとなると店主もやり手であることが考えられる。


「さて、どうするか」


  「お客さんもメイド服飽きてじゃない? だからさ、いろんな服買って来ようよ」


  「そうだな、選択肢はいくつかあるがその中でも2番目に有力だよ」


「一番はなんなんですか?」


「一番はだな、客層を主婦に絞ることだ」


  これからのテコ入れの考え方として、客層に狙いをつけていくものが基本となるだろう。

  おっさん連中を狙うならクロエの言ったコスプレのバリエーションを増やすことやメニューに食いでのあるものを追加するなどか。

  子供狙いならお子様ランチとか、おもちゃとか子供が喜びそうな工夫を随時考えればいい。

  そして、


「主婦に狙いをつける場合は…そうだな、メニューがヘルシーだから変更はいらないとして、オシャレな盛り付けや内装とか、あとは甘いものの追加とかかな」


「なるほど、でも本当にそれでうまくいくんですか? 失敗したら完全に閑古鳥な気がしますけど」


  アカネの意見も最もだ。


「正直なところわからんが、現代では客商売の時、客層を絞りニーズに応えることが基本とされてるんだ。 メイドカフェの時と同じで、現代のものを取り入れればいけるんじゃないかとは思う」


「自信なさげね、私はこうだったからこうじゃなくて、タツヤの意見を聞きたいんだけど」


  クロエは俺の心を見透かしているようだった。

  俺の意見…俺はどうしたらいいと思ってるのかは俺自身にもわからない。 どうすれば…


「競合店がある場合は、それと戦うか避けて共存を図るか…食べに行ってみるか?」


「大賛成!行きたい行きたい!」


「私も食べてみたかったです」


  二人はとても嬉しそうに答えた。 そうだな、外食は楽しいものであることを考えてもいいかもな。

  その店は看板こそうちと同じで大したものではなかったが、行列のおかげですぐに見つけることができた。

  俺たちも行列に並ぶ。

  行列は長かったが回転率が良いらしく、楽しみだねとか他愛もない話をしているとすぐに自分たちの番が回って来た。

 

「店内はカウンターで注文をすませ来た商品を机にて食べるのか、マックみたいだな」


「マック? 人の名前?」


「いや、現代店の名前」


  店内にも行列はあるがそれもすぐにはける。 そして、カウンターについた時とある人物との再会があった。


「あれ? イレーネ、ここで働いているのか?」


「あら、タツヤじゃないの、働いてるも何も私の店よ?」


「そうなのか、ライバルだな」


「そうね、ただ、ご主人様のためにも稼がないといけないの…だからカモは渡さないわよ」


  挨拶をすませると適当に注文をすませ横へずれる。 厨房ではあの二人の男の他に何人かが働いているようだ。

 

「頼んだものすぐ来たねー」


「はい、安価ですぐに来る。 売れる理由がわかります」


  俺たちは別々のものを頼み机にて試食してみる。 みんなサンドイッチなのだが中身が微妙に違う。


「ねぇタツヤ、私のトマトサンド一口あげるからそのレタスサンドちょうだい」


「あぁ、ありがとう。 ふむ、こっちもうまいな。 ほら、俺のを食えよ」


  と、俺のやつを差し出したその時、


「ふふ、気がついてる? 間接キス」


  そのまま食べようとするクロエの口が閉じる瞬間、手を引っ込めてやった。

  くそ、変なこと言うせいで顔が熱い。


「意地悪しないでよ、ほら食べさせてー」


  クロエがそう言うので仕方なく食わせてやった。 これで相互に間接キスをしてしまう形になった。


「反対側食べさせればよかったのに素直ね」


  完全にしてやられた。 こいつをギャフンと言わせるではないか。


「あの、私がいるのにすごいイチャイチャしますね。 お邪魔なら先に帰りましょうか?」


「いやいや、その必要はないぞ。 ほら、俺のも買うか?」


「いや、さっきのくだりを見た後で食べるほど勇者じゃないですよ」


  店内の明るい雰囲気も助け、俺たちは楽しく談笑しながら食事をすることができた。

  このコストパフォーマンスにこの雰囲気なら売れるのもわかる。 いわゆるジャンクフードというやつだろう。

  動物性の肉がないせいで物足りなくはあるがこの世界の人たちにとってはこれで充分だろう。


「美味しかったし、楽しかったね」


「あぁ、さすがにあれと同じ客層を取り合うのは厳しそうだな」


  俺たちが暗い雰囲気の中、なかなか良い案が出さずにいると表の戸が開く。


「私はセッスクというものだ。君たちが依頼荒らしの二人かい?」


  現れたのは西洋の甲冑を着こなしたナイスガイだった。 無論顔見えないが声が物語っていたのである。


「依頼荒らしってなんのこと?」


「おそらく俺たちが売れてない時期に依頼をかたっぱしから受けていたことからついたあだ名じゃないか?」


「あーなるほど」


「どうやら君達のようだね、折り入って頼みがあるんだが…時間はあるかな?」


「見ての通り忙しいんでね、話によっちゃきいてもいいけど?」


  その高そうな甲冑から察するに国の直属の騎士といったところか…権力は嫌いだ。


「単刀直入に言うと、ドラゴン退治を手伝って欲しい。 報酬は8000ゴールドだ! どうかな?」


  バカな、ドラゴンなんて強いの代名詞そんな危ないこと、


「やらせていただきます」


  差し引いても8000ゴールドは美味しい、


「だが、あくまで手伝いだよな? どのくらい危険なんだ?」


「ふむ、命の保証はしよう、私が戦う補助をしてくれればいい」


「随分と自信があるんだな、クロエやってもいいか?」


  ドラゴンがどんなものかわからないがオオトカゲのさらに大きいものとかだろう。 クロエさえ良ければそんなチョロ仕事逃す手はない。


「うん、タツヤがいいならいいよ」


「よし受けよう、アカネ300ゴールド渡しておく、留守番頼むがそれで好きに遊んでいいからな」


「はい、ありがとうございます」


「よし、なら馬車を用意している。 いこうか」


  門の前に馬車とランスに大楯が用意されている。 おそらくこの男のものだろう。

  しかし荷物が少ないな。それに


「もしかして俺たち三人だけで戦うのか?」


「あぁ、国は私一人で充分との判断でね…なぁに心配はいらないさ」


  ドラゴンか、何度言い聞かせても神話級のドラゴンが思い浮かぶ。 まさか、そんなわけないよな。

  どれだけ馬車で揺られただろうか。俺とクロエは景色など他愛もない話をしているとセッスクが口を挟む。


「あそこに山が見えるだろう。 ニブ山といってもあそこにドラゴンが住んでいるらしい」


  と言い終えると、大きな振動が起こる。

  馬車が倒れ横になった荷台から這い出ると体長10メートルぐらいの大きなドラゴンが目を合わせた。


「冗談だろ?」


  そう呟くと俺たちのいる方向へ口を開く。

  危ない、誰かが、おそらくセッスクだろうか、叫ぶ声が聞こえた。

  口に含まれた火炎がクロエを標的とし放たれる。

  俺は、クロエを突き飛ばし庇う形で炎を受けた。

  依頼にて、口から雷を放つ鳥がいてそれが魔法によるものだったため無効にした経験がある。

  それにかけた。


「読み通りだが、もうこんなかけはごめんだね」


  正直打てる手がない。 炎を防げてもその爪や噛みつき、突進に至るまで豊富に俺を殺す手段はある。

  タツヤが感じたのは絶望感であった。 守りきれない。

  俺にはやはり何もできないのだ。 あの時と同じ、貧乏が悪いのか? いや、わからない。


「よく炎を受けてくれた充分だ」


  そんな絶望感を切り裂くようにセッスクはランスを持ち大きく飛び上がると、雷をまといそのままドラゴンの頭に一直線に落ちてきた。

  ランスがドラゴンのこめかみを貫く。


「モンスターである以上、脳を貫かれて生きてはいられまい。 助かったよ」


  結果的に無傷でいられた。 どうやら服装も体判定らしく服だけ燃えて裸ですというわけでもなさそうだ。

  セッスクのおかげでドラゴン相手でも問題なく生き残れたが、これからもしセッスクなしでこんな状況になったら……


「ありがとうセッスクさん、クロエ怪我はないか?」


「うん、庇ってくれてありがとね」


  俺一人でもみんなを守らないといけない。

  力が欲しい。


「さて、帰ろうかさすがはドラゴンゴールドがすごい数だね」


  空から沢山のゴールドが降ってきているため周囲がキラキラと光る


「綺麗だね、ね? タツヤ」


「あぁ、ざっと2万ゴールド…これ全部セッスクさんの懐に?」


「ん、いやこれは国に捧げるんだよ」


  国の運営資金の出所がわかった気がする。


「これだけできるのであれば国に使える必要がないんじゃないのか?」


「金のためじゃないからね、誰かのために力を振るう。 そのためにこの仕事を選んだ」


「ふぅん、立派なんだな」


  その言葉を最後に俺は口を閉じた。 自分の無力さに打ちのめされる。 強くなりたい。


  店に戻ると報酬が支払われセッスクはすぐに本部に戻っていった。

  アカネはというと、本を読むことに勤しんでいた。


「本でも買ったのか?」


「はい、記憶を戻すための本を」


「何かいいこと書いてあった?」


「いや、特にはなかったです」


「そっか、記憶が早く戻るといいね」


  はい、と返事をする。 その後は沈黙の時間が続いた。


「よし、カフェと並列して何でも屋をやろう。 仕事がない日は依頼でもやればいいだろう」


  これは戦闘経験を増やすことで少しでも強くなることが狙いだ。 少しでも強くならないと誰も守れない。

  ってあれ、誰を守るんだっけ?

  まぁいいか、俺の意見はどうやら、


「名案だと思います。ほそぼそとやりましょう」


「うん、タツヤらしくていいと思うよ」


  と、同意してくれた。 久しぶりに店内を見回すテーブルや椅子、厨房も綺麗に磨かれ、棚には沢山の魔道書が…は?


「おい、クロエ…この魔道書たちはなんだ?」


「あ、バレた? いやーすっごく欲しくてさ」


「こんなにか? 魔法のバリエーションは増えたのか?」


「いやぁ、面目無い」


  中には高価なものまであるそうで、沢山のゴールドが使われたことは間違いないだろう。

  金持ちへの道はまだまだ続きそうだが、


「しかし、魔道書があるのは好都合だな、俺も読むぞ」


「あれ、お咎めなし?」


「罰として何か魔法を1つ覚えろ」


  ひーん、と言って彼女は記憶に関する魔術書を手に取り読みだした。

  アカネのためもあるのだろう。 だが、難儀しているようだ。

  さて、夜になり二人が寝付いた後も俺は魔道書を読み続け検証を続ける。

  しかし、何1つ発現することがない。


「くそ、あの時は傷を治すことができたのに」


  自身に切り傷をつけて検証するがうまくいかない。

  くそ、明日にするか。

  俺は眠りについた。


「ここは…あの時の?」


  そこは白い空間、そこには神がいた。


「おい親父…親父だと? いや、神よ、俺を強くしてくれ」


「まぁ、そう焦るな、わしもお前に力を授けようと思ってきたのじゃ」


  神が言葉を続ける。


「じゃが一切返済されてないことが気になるのう、借金のことじゃよ」


  ギクリと思った。


「また、まとめて捧げるよ」


「本当かのう、まぁよい、お主の中にある光の魔法を引き出してやるからこっちへ来い」


「光の魔法? なんだそれ」


「お主、最初にクロエに言われたことを忘れたのか? コトワリの外の魔法じゃよ」


  そういえばそんなこと言われたかも知れない

  神が俺の体をペタペタ触りながら話を続ける。


「光の魔法は身体能力の強化に使うのが効率が良い。 一応どんな形でも発現できるがのう」


「それがあれば俺は強くなれるのか? まぁ、月並みといったところかのう、ドラゴンには勝てるじゃろうが、セッスクやあの男には敵わんじゃろう」


「あの男?」


「お主と同じ体を持つ男じゃよ、ほら! これで光の魔法が体に纏われた。 光の魔法は闇の魔法を消滅させることもできるからのう。 逆もまた然りじゃが」


「ちょっと待て、お前には聞きたいことが沢山」


「残念じゃが、時間切れじゃ…もう会うこともあるまい」


「ちょっと待て、それはどういう…」


  布団から飛び起きる。 どうやら目が覚めてしまったらしい。

  神が言っていたことは一体……体に何かが纏われているのが実感できる。 これが光の魔法、これで何をするかが重要になってきそうだな。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ