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この世に同じ顔は三人くらい

  今日の天気は曇りで残暑が続く季節柄過ごしやすい気候ではありそうだ。

  黒坂からの出頭命令を受け雨が降り出さないうちに行って来るのが最善であるのだが、


「なんか嫌な予感がする……はぁ、行きたくねぇ」


  小学生の頃、給食費の滞納により呼び出されたことを思い出す。 あれは元はと言えば給食費を持ち出して画材を買い込んだ親父のせいだったな。

  くそ、なんかイライラしてきた。 苛立ちのせいかなんとなくいく気が出てきた。

  怒りを原動力にする奴の気持ち今だけわかるぞ。

 

  「クロエ、アカネ、行ってくるから店を頼んだぞ」


  二人から元気な声で返答が返ってくる。 店は問題なさそうだ。

  城内役場に向かう道中ではたくさんの人に挨拶をかけられた。 いつも店を利用していただいている大事な客だ。 丁寧に挨拶を返す。

  こうしてみると客層もまばらだな。

  まぁ基本はメイド目当てのおっさんどもばかりだが、売れてくると利用に抵抗がなくなってくるのか今では老若男女問わず利用してくれている。


「さてと……憂鬱ってこういうことを指すんだろうな」


  城内役場の戸の前に到着したが、なんとなくすぐ入るのが嫌で少し立ち尽くす。

  どのみちいつかいかなきゃいけないんだよな。

  恐怖心にも似たその感情を振り切るのはやはり決断力だ! よし、


「ええい、ままよ」


  タツヤは役場の戸をくぐった。

  いつもの役場と違い城の中に設置されたここは、一般開放されている場所の中でもより高級感があった。

  受付はすぐのところにありタツヤは迷うことなく向かうことができた。


「えっと、カフェやってますタツヤと申します。 およびと聞いたんですけど」


  声がうわずる、貧乏暮らしが長かったからこういう施設は緊張するなぁ。

 

「はい、聞いております。 それに関しては経済大臣がありますのであちらの扉へお入りください」


  えっと、受付で話聞いて終わりなんて甘いことはなさそうだな。

  大臣って…服装こんなので大丈夫が?

  色々な思いが頭を駆け巡りながら受付の方に指された一番大きな扉をノックし返答を待ってから中へ入った。


「久しぶりだね。 憩いの施設にて収入を得てると聞いているよ。 まぁ知らぬ中じゃないし、しっかりと税金を納めれば特にいうことはないけど申請はしてくれよ」


  あぁ、なるほど。 税金の話かと安堵したのもつかの間、俺は大臣の発言に違和感を覚えた。

  いやいや、初対面だよな? どういうことだ。


「えっと、税については謝ります。 すぐにでも受付し支払いますが……初対面ですよね?」

 

  まさかどこかであったか? 客の中かそれ以外か…どうしても思い出せない。

  問いに対し大臣はとぼけたように答えた。


「何を言っているんだい? あぁ、そうだね私たちは初対面だな。 そうでなくてはおかしい。そういうことだね? 」


  やや強いその発言に押されるように返事をしてしまう。

  そして、大臣は念を押すように言葉を続けた。


「税の滞納はもちろんそれ以外の滞納についてもしっかりと支払うんだよ。 こっちもかばいきれないからね」


「えっと、それ以外に心当たりがないんですけど詳しく聞いてもいいですか?」


  さすがに何か滞納をするとここで生活する以上まずい。 当然の質問であった。


「おっと、君も意地が悪いね。 たしかに念を押しすぎたね。 まぁ君が分かっていればいいさ」


「いや、よく分かってないんですけど」


「まさか、とぼけるつもりはないだろうな? 髪を切りオールバックにしたぐらいで変装していると思わないほうがいいぞ」


  突如として言動が豹変する。 やべ、なんかまずかったか?


「いやすみません、とぼけるつもりはないです。 しっかりと納めさせていただきます」


  俺は、つい適当に返事をしてしまう。 さっさとこの場から立ち去りたい。 偉い人って苦手だ。

  すると、大臣はニッコリとした表情で


「いやいや、分かってさえいればお互いに悪い話じゃないからね」


  と答えた。

  部屋を後にすると受付にて説明を受け用紙の記入を行なった。

  説明のさい異常な税収であればどうするか考えていた。 無論国が決めたことに逆らえるわけがないのだからどうしようもないのだが。

  しかし、税額には逆の意味で驚かされた。


「えっと、売り上げの純利益から3パーセントでいいんですか?」


  タツヤが満遍の笑みで聞き返すほどである。

  どうやって国の管理を行うのか不安になってくるな。

  税もいわゆる消費税しかなく、良心的であった。

  おそらく魔法が発達した世の中、国からの援助が少なくても国民が独自で解決できるのだろう。

  記入をすませると店へ帰るため街へ出たのだが、その道中で一人の少女に声をかけられた。


「ご主人様じゃないですか! いつもと違う髪型ですがとても似合ってますよ」


  アカネと同じくらいの背丈だろうか。 黒いツインテールに赤い大きな瞳、八重歯が特徴的な小悪魔ちっくな女の子であった。

  当然だが、心当たりがない。

  人違いだ、と言って後を去ろうと思ったが大臣のこともあり、


「俺によく似たやつがいるのか?」


  と聞いてしまった。 当然、


「えっとご主人様はご主人様ですよね?」


  と、混乱した様子であった。


「とりあえず言っておくが人違いだ! 俺はタツヤという」


「はい、存じておりますが」


  奇しくもそいつもタツヤらしい、この世界に似合わない名前しやがって。 どうしたらいいか…あ、そうだ!


「ちょっと俺に魔法を撃ってみてくれ」


  魔法が効かないのは来訪者の証、それを見せつければ誤解が解けるだろう。だが、


「ご主人様に魔法なんて撃てるわけないじゃないですか」


  と返される。

  1日目にバンバンやられたせいで感覚が麻痺っていたがこれが正常なんだよな。

  おそらく俺に相当似ているんだろうな。 仕方ない最終手段を取ろう。


「今から店に来い。 証明してやるよ」


  少女はあまり納得してはいないようだが同意しついてきてくれた。 しかし、店に着くと少女が妙な反応を示してくる。


「あぁなるほど、ご主人様とここで一緒に偵察をするということですね」


  まるでデートです。 などとまで言ってくる始末である。 さんざ誤解というのに聞いてもらえない。


「あ、おかえりなさいませ。 お客様ですか?」


「まぁ、そんなところだ。 人違いをしているらしくてな、誤解を解いてくれ」


「可愛いー、お名前を聞いてもいいかな?」


「イレーネと申します。 えっと、本当に誤解なんですか?」


  店に連れてきたことで少しずつ誤解が解けてきたようだ。 さて、ここらで完全に誤解を解くとしますか。


「クロエ、俺に魔法を撃ってくれ」


「はいよー、ブリザード」


  氷柱が俺に触れ綺麗に砕け散る。

  なんて躊躇いのない一撃なんだ…完全に迷いがなかったぞ。

  しかし、これでイレーネにも伝わっただろう。 そう思ったが、


「いや、ご主人様も魔法が効きませんし……むしろそんな人が二人もいるとは考えられません」


  はっはっは! どうやら俺のドッペルゲンガーは来訪者でもあるらしい。 ってどんな奇跡だよ!


「本当に言ってんのか? ありえるのかよそんなこと」


「ありえないよねー、タツヤって分裂してできてたりして」


  いやいや、なんの冗談だよ笑えない。 イレーネも納得がいってないようだな。


「わかりました。 見極めるためにここで働かせてください」


「うん、いいよ」


  「ちょっと待て、二つ返事をするな。 働くとなると給料が…」


「あ、無料でいいですよ?ご主人様」


「メイド服のサイズを確認してくれ」


  無性の労働力ゲットは大きいだろう。 同じ人ばかりだとマンネリするというものだ。


「よろしくお願いしますね」


  アカネが言うと、


「うん、よろしくぅ!」


  イレーネも態度よく返した。 従業員の仲は良くなりそうだ。

  3日後、俺にとって懐かしい奴らが訪問するまでは通いだがよく働いてくれた。 おっさんどもに聞くとあの小悪魔っぽさがたまらないそうだ。

  俺には敬語でご主人様って呼ぶんだがな。

  そして3日後の午後、ある二人の男がやって来た。


「あ、兄貴こいつ、あの時の……」


「今回は争いに来たんじゃない、大丈夫だ」


  とか言っていたが初めは誰だか思い出せなかった。


「お前ら誰だ? 最近は人違いが多いぜまったく」


「覚えてないのか? それはいい、イレーネ様を迎えに来たから差し出して欲しいのだが」


  というとイレーネは何かに気が付いたようにやって来て、男たちから文書を受けとっていた。


「ふぅん、あなたほんとにご主人様じゃなかったんだ。 まぁいいわ、今までお世話になったわね」


  イレーネの口調が崩れる。 誤解がやっと解けたらしい。

  しかし、よく見ると男たちに見覚えがある。 あと少しで思い出せそうだが……と、少し考えようやく思い出した。


「あぁお前ら、1日目に路地裏で絡んで来た奴らか……元気してた?」


「思い出しやがったか、俺たちはお前にやられ惨めな暮らしをしてたさ……イレーネ様に拾われるまではな」


「まぁこの子達は暇そうだだから手下にしてあげたわけ、3日間楽しかったわよ。ばいばい」


  というとイレーネは取り巻き二人を連れて去っていった。


「嵐のようにやって来て去っていったな」


「寂しくなるわね……」


「そうですね」


  三人は物寂しさを感じていた。 またまたそういう話だったのだが、3日とはいえ強烈な存在感を発揮していたそんな娘であった。

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