金儲けの方法
少女は肩まで伸びた白金色の髪をなびかせ、砕けた氷柱の破片とともに輝く。 色素が抜けた白い肌に高価そうな派手な装飾の施された服装。 こちらを除くその大きな翡翠の瞳は暖かく、どこか懐かしさを感じさせた。
「異世界の来訪者、 どういうことだ?」
俺はその少女に問うて見た。 目と目が合う。 俺の問いに対し口元が動いた。 そう思ったら
ブリザード、ともう一本の氷柱が俺に襲いかかった。
「おい、何をすんだよ」
「どうやら、本物のようね」
少女は俺の問いも、怒鳴り声でさえ意に介さず言葉を続けた。
「あなた、付いてきなさい」
「知らない人には付いて行くなって教えられているもんでね」
当然断る。 こんなトラブルメーカーと一緒にいたら必ず面倒なことが起きるだろう。 役回りを見るとさっきの男たちはもう逃げ出したみたいだな。 全く、この女のせいでろくなことがない。
「ちょっと待って、せっかくの来訪者を流すものですか! あてがないんでしょ、この世界について教えてあげるわよ。 三食部屋付きで。」
正直心が揺れた。この世界に来たばかりの竜也にとって住むところが用意されるというのはかなりありがたいことであった。 悩んだ末に食事付きという一文に惹かれ、ついて行くことに決めた。
「とりあえず異世界からの来訪者ってやつについて聞かせてくれよ」
目的地まで少し距離があるらしいので、道中に尋ねてみることにした。
「文字通りよ。 こことは別の世界から来た人ってこと」
「てことは、ここはあの世じゃないのか?」
「あの世、 あの世ってなに?」
「死後の世界だよ。 知らないのか?」
「バカね、死後に世界があるわけないじゃない」
どうやら元の世界とは考え方、いわゆる文化が異なるらしい。 まぁこんなアンティークな建物が並ぶくらいだからな。 そうこうしているうちに目的地に着いたらしい。 なんというかこう、オンボロな建物だ。
「失礼なこと考えてない?」
「めっそうもない」
「そう、ならいいけど。 じゃああがって」
内装は割と綺麗で木の落ち着いた雰囲気が出ている。 木造の商品棚にカウンター、ある一点を除けばまるで店のようだ。 そう、棚になにも並んでいないことを除けば。
「ものが並んでないじゃないか、全部売れ切れたのか?」
「そもそも店として開いてないのよ。ここも譲り受けたばかりだしね」
「譲り受けたって、やっぱりお前金持ちか?」
「いや、一文無しよ。 お茶入れるから座って」
適当な椅子に座り俺は考える。 ここを商店として出せば金儲けができるんじゃないか。 ここの法律は知らないが、著作権などというものはあるまい。 日本の便利グッズを売ってやれば……
「すっごい悪い顔してるわね。 ほら紅茶」
「ありがとう……とてもいいお味で」
その紅茶は一言で表すと、紅い湯とでも表すのか。 色は確かに着いていたが、味はおろか香りすら感じられない。
「やっぱり4回目じゃきついか、それで来訪者の話だっけ」
「あぁ、そういやなんでわかったんだ?」
「だってそんな服装こっちの世界にはないもの」
「学ラン、どうだ? かっこいいだろ?」
学ラン、それはすべての男子高校生の夢。 この格好よさならばこの世界にも通用してしまうだろう。 そうだ、ここで学ランを売ろうか。
「うん、ダサい」
ショックだった。 そっか、ダサいかー。
「まぁ服装だけじゃ変質者って可能性もあるんだけど」
ダサい上に変質者? おいおいやめてくれ、俺のライフはゼロだぜ。
「……ちゃんと話聞いてくださる?」
大量の氷柱が現れる。
「すみません。 聞きます」
その氷柱群は俺を突き刺す勢いで向かって来る。 その迫力は凄まじく命の危機さえ感じたがその氷柱は体に触れると同時に砕けた辺りに散らばった。
「なんでだよ! 素直に聞いたじゃねえか」
「いやいや、検証ってやつよ。ケンショー」
「検証って、そういやあの男もそうだが、この世界では人には魔法は効かないのか?」
「それよ。異世界からの来訪者はかの世界から嫌われて、この世界の奇跡である魔法を無力化するの」
ほう、つまり俺はこの世界では無敵になれるってことか。この女からの魔法を何度も消してやったもんな。 いや、ちょっと待て。
「お前、俺のこと来訪者って知る前から魔法撃ってきたよな? 殺す気だったってことか」
「何のことかしら?」
とてもいい笑顔でしらをきられた。 絶対後で復讐してやる。
「それで、魔法ってのはどんなものがあるんだ?」
「どんなのって、いろんなのよ。 治療から呪いまで幅広くあって、魔術書を読むことで覚えるの」
「へぇ、お前はどんな魔法を使えるんだ?」
「私が手に入れた魔術書は温度調節による攻撃魔法と、自然治癒による治療魔法の書物。そして使えるようになったのが氷の攻撃呪文」
えっへんと胸をはっている。なるほど、確かに氷柱ばっかりだな。
「魔法を覚えるのも難しいんだな。 どれ、俺にも見せてくれないか?」
「いいけど、あなたには使えないわよ」
「え、どうしてだ?」
「だーかーらー、来訪者は世界に嫌われるから世界の奇跡である魔法は使えないんだって」
衝撃的だった。 そうか、魔法が効かないだけじゃくて使えないんだ。 誰にでもできるわけじゃないんだ。……金儲けできそうだったのに。
「もういいや、この世界の金のシステムについて教えてくれよ」
「切り替わり早っ! この世界はゴールドで売買するのは知ってる?」
ゴールドと呼ばれる金貨なら最初の市場で見せてもらった。 10円玉サイズの純金であった。
「あぁ、見せてもらった。」
「相場はなんとなく覚えてもらうとして、あれは大まかに3つの方法でてにはいるの。口で言うより実践したほうが早いわね」
そういうと彼女は俺を連れ出し、役所の受付のようなところへ案内した。
「ここで依頼を確認して受注することができるよ。 達成すると国から報酬がでるの」
そう言い彼女は、都市の外で人を襲う大ねずみを討伐という依頼を受けた。 次は門の前まで行き
「ここから外へ出てるけど、夜は閉まってるから気をつけてね」
と言った。 夜は閉まってるということは外に出たら夜までに戻らないといけないのか。
「で、門の外に出るとモンスターがいるんだけど、近くに大ねずみいない?」
「あいつのことか?」
門の近くで待ってましたと言わんばかりに、大きなねずみが襲ってきた。 襲いかかる爪を間一髪避ける。
「じゃあ頑張って〜」
っておい、俺が戦うのかよ。爪を避けつつ脇に回り込み蹴りを食らわす。 そのサッカーボールキックはねずみの脇腹に深々と突き刺さる。 やったか? ねずみは多少動きは鈍くなったもののそのまま俺に襲いかかった。 まずい、油断した。 その瞬間、
「しょうがないわね。ブリザード!」
大ねずみの体を氷柱が貫く。 大ねずみの体は徐々に光と消えていき。 最後には金貨が残った。
「ゴールドを手に入れる方法その2、モンスターを討伐することで金貨へと変わる。 とはいえ大ねずみじゃ大した額じゃないわね」
「おい、魔法であっさり倒せるなら最初からやってくれよ」
「いやだって、モンスターがどのくらい強いか知る必要があると思ったし」
まぁいいや、これだと30ゴールドだろうか。 市場だと1日分の野菜くらいなら確保できそうだった。 モンスターを毎日狩るとしたらなんらかの武器が必要になるだろうな。と考えていると役場へと着く。 彼女が報告をすると布袋を受け取る。
「ここで依頼の達成を報告すると、このように報酬がもらえまーす。200ゴールドだよ。あの大ねずみ割と大きな被害出してたみたいだね」
「ふーん、割ともらえるんだな。ちなみにその3ってのは?」
「個人間の売買、いわゆるお店だよ。 うちでも頑張ればできるんじゃない?」
家の内装は店そのものだったからな。 開こうと思えばすぐにでも開けそうだった。 そういえば譲ってもらったとか言っていたが、前の持ち主はどうしていたのだろうか。そうこうしてるうちに家に戻ってきた。 適当に座りながら話を続ける。
「この店の前の持ち主ってどんなやつだったんだ?」
「あーっとね、父親的な、そうじゃない的な…人だよ」
なにやら歯切れが悪いな。 言いにくいことであるんだろうか。
「その人はそこで店をやっていたのか?」
「いや、してなかったと思うよ。最初はここも汚かったし」
あまり知名度に期待できなさそうだな。まぁなにをやるかも決めていないんだけどな。
「で、この世界について色々教えたことだし本題に入ってもいいかな?」
「本題、なんのことだ?」
「ここの家賃のことなんだけど、互いに財産を共有するってのはどう?もちろん食事はしっかりと作るよ」
「つまり稼ぎの半分をよこせということか? 横暴じゃないだろうか」
「いやなら他のあてを探してもいいのよ」
確かに他に行くあてもないが。いくらなんでも家賃が……いやまてよ。 財産の共有ってことは彼女の稼ぎも自由に使用できるってことか……しめしめ
「1つ聞いてもいいか?俺をここに住まわせるのは俺の行くあてがないからちょろいってことだけか?」
「いや、実は来訪者は幸運を呼ぶっていう伝説があるんだよね。だから私の夢も叶うんじゃないかなって」
夢? そう問うとなんでもないと答えが返ってきた。 相手も思惑も知ることができたし、裏もなさそうだ。
「わかった。その条件を飲もう。俺は仙道竜也だ。よろしくな」
「やったー!タツヤって呼べばいいかな? 私はクロエ・ホワイト。 クロエって呼んで、よろしくね」
クロエとの共同生活が始まる。 貯金230ゴールド、金持ちへの道はまだまだ先になりそうだ。