雨上がりに雨が嫌いな君を見つめる
1127という作品で出てきた七緒と二郎のお話です。
キーンコーンカーンコーン!
キーンコーンカーンコーン!
授業の終わりを知らせるチャイムの音。
早々と荷物を片付けて家路に急ぐ者、部活に向かう者。
それぞれが別の動きをしていた。
その中で、机に突っ伏している女子生徒が一人。
神咲七緒は、幼馴染みの二郎を待っていた。
「二郎くん、遅いなぁー。 二郎くんが買い物に行こうって、誘ってきたのにー」
文句を言いながら、10分程待っていると…
「七緒、ごめん!! 遅くなった!! 日直だったの忘れててさ・・・」
息を切らしながら、二郎くんが教室に入ってきた。
買い物に行こうと誘ったのは、二郎くんなのに・・・。
なんで、私が待ちぼうけしなきゃいけないのよ!
少し、腹が立った私は、二郎くんを無視してプイッとそっぽを向いた。
「おーい、七緒ってば・・・ 俺が悪かったって・・・許してくれよ」
私は、意固地になって、そっぽを向いたまま。
「分かったよ・・・ この前、七緒が言ってた駅前のクレープ屋のクレープをおごってやるから!! だから、機嫌を直せよっ! なっ!!」
「えっ、本当? まるごとイチゴ盛り盛りスペシャル、食べていいの???」
二郎くんの思わぬ提案に、意固地な気持ちも吹っ飛んでしまった。
「何スペシャルかは分からないが、好きなやつを食え!」
「わーい! 二郎くん、大好き!!! クレープ、クレープ、楽しみだー♪」
気分が上がった私は、自作のクレープの歌を歌いながら鞄を持つ。
顔が赤くなった二郎くんには、気付かずに。
「二郎くん、早く行こうよー! クレープ、売り切れちゃうよ!」
そう言って、教室を出て廊下を早足で歩く。
「ちょ、七緒 待てよ!」
二郎の声は、虚しく教室に響いた。
鞄を持ち、クレープに心奪われている幼馴染みのもとへ急いだ。
下駄箱に行くと、靴に履き替えた七緒が待っていた。
「二郎くん、遅いよ!」
「お前が早いんだ!」
「じゃあ、クレープを食べに行きますか!」
「あぁ、そうだな」
クレープ屋に行く道中、今日の出来事を話しながら歩いた。
「今日ねー、家庭科の実習でカップケーキを作ったの。 けいちゃんが作ったカップケーキを彼氏に渡すって言って張り切って、焦がしちゃって。 カップケーキがあんなに真っ黒になるなんて知らなかったよ!」
フフフっと、七緒は楽しそうに笑っている。
そんな七緒の表情を優しげな瞳で二郎は見ていた。
「それで、七緒が作ったカップケーキは?」
そう言いながら、右手を差し出した。
「えっーと、自分で食べちゃった!」
「おい、そこは俺にくれないのかよ…」
差し出した右手を力なく引っ込めた。
「だって、真っ黒になってたんだもん」
「俺はお前のなら、食べてやっても良かったのにな」
「えっ…」
「まぁ、次に期待しとくわ」
そう言って、二郎くんは笑った。
駅の方まで来ると、沢山の人達で賑わっていた。
その中でも一際賑わっている所を見ると、お目当てのクレープ屋だった。
「二郎くん、すごい人だね…」
「あぁ、そうだな… どうする? 今日は、辞めるか?」
「うぅん、並んで食べる! 今日は、クレープを食べたい気分なの!!」
「分かった…」
七緒のクレープへの執着心を再確認して、行列に並んだ。
…………………………………………………………。
少しずつ、行列が短くなっていく。
ふと、見上げると先程まで明るかった空が仄かに暗くなっていた。
もしかして、一雨くるかもしれない。
隣を見ると、一生懸命にクレープのメニューを見つめる幼馴染み。
天気が徐々に悪くなってきている事に、絶対に気付いてないだろう。
「七緒! 七緒!」
「なーにー」
メニューから一切目を離さずに言う。
「もしかして、一雨来るかも…」
「えぇー、私 傘持ってないよー」
「お前、天気予報見ないのか!? 今日は、午後から雨が降るかもって、言ってただろう」
「だって、朝はギリギリまで寝てるし…テレビ見ないし…朝は雨降ってなかったし、私 雨嫌いだし…」
「おい、最後の関係ないだろう!」
「でも、大丈夫! 何故なら、二郎くんがいつも鞄の中に、折りたたみ傘を入れているのを、私は知っているのでーす」
七緒が人差し指を鼻に擦りながら、胸を張って言う。
「なんで、偉そうにお前が言うんだよ!」
「まぁ、細かい事は気にしないの!」
「・・・ったく、しょうがない」
仄かに暗かった空も、黒さを増し、ついには雨が降ってきた。
慌てて傘を鞄から出し、広げる。
「七緒」
隣に立っている七緒の腕を引っ張り、傘の中に入れる。
七緒の手には、出来立てのクレープが収まっている。
「じゃあ、雨がひどくなる前に帰るぞ」
「うん」
クレープを一生懸命に食べる幼馴染みを横目に家路に急ぐ。
…………………………………………………………。
段々と、空の色も黒さを消し、雨も止んできた。
「クレープ、うまいか?」
「うん、おいしい!!」
七緒は、嬉しそうに言った。
「そりゃ、良かったな」
「あっ・・・」
ふと、七緒が足を止めた。
「どうした?」
「二郎くん、見て! あんなに大きい虹が出てる!」
七緒の指差す方向の先には、大きくて綺麗な虹が出ていた。
「私、雨が嫌いだけど、こうやって虹を見るのは好き!」
「雨が降った後は、綺麗な虹が空に架かるんだよ! それを考えると、雨だって少しはいいもんだろう? 俺は、雨の音を聞くと、落ち着くし、俺は雨が好きだ」
傘を畳みながら二郎は、嬉しそうに笑った。
その二郎の姿を見て、七緒は雨も悪いものではないのかもと思った。
「でも、出来るだけ雨は勘弁だなー」
「まぁ、嫌いなものを無理に好きになる事はねぇよ。 でも、嫌いなものの良い所も、少しは見てあげろよ。 そうすると、意外に好きになれたりするものだぜ」
「うん、そうかもしれない」
そう言って、七緒は二郎を見つめた。
二郎もまた、七緒を見つめる。
そんな二人の姿を大きくて綺麗な虹が見つめていた。
タイトルとクレープという言葉を入れたいという事しか考えずに執筆した為、話がまとまらなかったです。やはり、見切り発車はいけませんね。