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最終章 ケルヴィンとリーゼ

 季節は秋を迎えた。

 冬を過ぎた。

 春になって、また夏が巡って来ようかという頃。

 大陸はすっかり乱れ果てていた。


 先年の夏、南州を除いた帝国の南部、中部、北部の全諸侯及び、法皇様と皇帝陛下が率いるメリディアの一万の兵は、十万の兵を率いて侵攻してきた騎馬民族の大王カイラン=レギ・アルスランに対して激戦を繰り広げた。

 しかし、激戦とはいっても正面からの野戦は徹底して避けられた。城砦戦を主とした戦に持ち込んで、徹底的に守勢を貫いた。

 けれど、それでも幾つもの都市が次々に陥落してゆき、町や村が徹底的に略奪され、焼き払われた。

 魔王と呼ばれたカイラン=レギは彼に付き従う民達と共にやがて帝国の北部領域を制圧していった。

 進撃は止まらなかった。

 帝国の北部とて既に冷害と戦乱で荒れ果てていたから、奪ったとて騎馬民族達のすべてを養えるほどの生産力は得られなかったからだ。

 北部を制圧した騎馬民族達はさらに南下し、中央地方の穀倉地帯へと迫った。

 その時、初めて、法皇様は城外で大王に対して決戦を仕掛けた。

 秘策が張り巡らされていたのだというが、詳しいところまでは南部の俺達は聞き及んでいない。


 決戦となった穀倉地帯の平原の戦いで、さすがの法皇様、北の魔王カイラン=レギを、聖槍を風車の如くに振るって斬り伏せられた。何代にも渡って輪廻転生を繰り返し帝国を守護し続けてきたその力と執念は伊達ではなかった。

 しかし、同時に彼女もまた魔王の毒矢に眉間を貫かれた。

 餓えた十万の民達を率いて侵攻してきたカイラン=レギの法皇必殺の執念もまた尋常ではなかった。法皇様を斃さねば帝国には勝てず、彼の民に未来は無いと魔王は知っていたのだ。

 法皇様は、脳までも達した矢の刺し傷の――傷そのものは神から授かった奇跡により治癒できたのだが――その毒に打ち克てず、三日三晩もがき苦しんだ果てに絶命した。


 結果から言えば、相打ちだった。


 今際の魔王の最後の言葉は、


「我が矢は中った! 俺は信じる! 神に祝福されぬ、加護を受けぬ唯人であっても、十万の人の結束、鍛えた技、必殺の信念は、常法より外れた人外の存在をも討ち滅ぼしうると! 我が民よ、絶望と虚無に呑まれず、走れ!」


 であり、のたうち苦しみ血を吐きながら法皇様がうわ言のように最後に呟いた言葉は、


「愛するメリディアの皆、私は必ず帰ってくるから」


 であったらしい。


 輪廻転生を繰り返す法皇様の魂は不滅だというが、その魂を受け継ぎ産まれ出でてくる赤子が、また再び成長するまで時間がかかる。

 そもそも成長云々以前に、転生してくるまでに時間がかかる。

 大抵の場合はすぐだったが、ある時期では次代の法皇様が現れるまで五十年が空いていたと記録にはある。今回もそうならないとは言い切れない。


 法皇様を失った帝国は敗れ、中央の穀倉地帯を失った。

 長い冬の時代の始まりだった。


 しかし、引き換えに大王を失った騎馬民族達もまた、そこで足を止めた。

 絶大なるカリスマを誇った指導者を失った為か、それとも穀倉地帯を手に入れ周辺を略奪した事で食料供給に一定のめどがついた為か、あるいはその両方かそれ以外の理由か、いずれにせよ、彼らは進軍を停止した。


 そして――騎馬民族達はそれぞれ諸部族にわかれ、穀倉地帯の支配権を巡って内紛を勃発させた。

 戦闘民族らしい帰結だった。


 これを見て帝国側は皇帝陛下のもとに集い総力を結集して逆襲を開始――とはならず、帝国側でも内乱が巻き起こった。

 帝国を支え、諸侯を繋ぎとめ、抑えていたのは、皇帝陛下ではなく、規格外の知識と力を誇り、そして何より公平公正な統治に心を砕いていた法皇様だったらしい。


 法皇様がいなくなり有力者達による恣意私欲の専横の風が吹き荒れるや、我こそが天下に覇を唱えんと帝国のある大侯爵が騎馬民族のうちの有力部族と同盟を結んで叛旗を翻した。

 それを見て、ライバル達も同様に叛旗を翻したり、独立運動を開始したり、地方で軍閥化したり――もう俺じゃ把握しきれない程に、帝国内部はしっちゃかめっちゃかになった。


 皇帝陛下はジューデンザイデ州太守のミュンドゥング伯を頼って中央から南部へと落ち延び、太守様はこれを迎え入れた。


 メリディア帝国の大幅な弱体化に乗じてマナン・ディリスが再侵攻し、帝国へとトドメを刺しにくるかと恐れられた。

 だが、かの国はかの国で先の戦役での大損害により、厭戦派と主戦戦派の派閥争いが激化していたらしい。マナン・ディリスもまた、国を二つどころか三つも四つにも割って血みどろの抗争を開始していた。

 特に先の侵攻では元帥を務めた気鋭の若者スケルピオを擁するクレオディリス家と、副総官を務めた生ける伝説アブドゥルメルガリスを擁するマナンバルカ家の二家の勢力が巨大であり、この二家の戦いが特に激しいらしい。

 古くから共和国を守ってきた老将アブドゥルメルガリス曰く、


「スケルピオは世界の外からやってきた悪魔である」


 と。

 マナン・ディリスの民の反応は、護国の宿将の言葉を信じてスケルピオを激烈に糾弾するか「伝説もついに老いて呆けたか」と嘲笑う派で割れているらしい。

 マナンハダシュト家などは共和制を捨て当主が王を名乗り南海の諸島を支配して独自の小王国を築いている。早晩に他の全派から潰されるだろうという噂だったが、巨獣達が睨みあっている間をのらりくらりと掻い潜って、存外にしぶとい。


 大陸は、虎の姫の予言の通り、群雄割拠の戦国の世と化していた。

 いたるところで毎日のように戦いが巻き起こっている。


 ジューデンザイデ州を含む南部地域はミュンドゥング伯が後ろ盾をする皇帝陛下のもとに結束していたから、まだ平穏だった。

 レッカー村はまだ平穏だった。

 けれど、いつどうなるかは解らない。

 湊町ウェコードの奪還もまだできていない。どころか、メリディア帝国は減るに減った現在の領域を守るので精一杯――そんな、有様だった。


 かつては大陸の覇者と謳われた大帝国の、斜陽だった。


 連綿と続いてきた歴史あるメリディア帝国もまた、このまま時代の波に呑まれ滅び去ってゆくのか。

 それとも、ロード・ミュンドゥングやアゼル様のように奮闘している忠臣達によって勢力を再び盛り返せるか。

 それは、誰にもわからなかった。


 こんな状況になって、俺は気づき、思い至った事があった。

 竜に騎乗し、代官として村を見回っている時、村外れの丘へと妹と二人足を向け、言ったんだ。


「なぁリーゼ、俺がお前の明日を保証してやるから、その代わり、天下は諦めろ」


 丘から見渡すレッカーの風景は、十年前と変わらない。

 細かいところは違っているのだろうけれど、けれど大きくは変わっていない。


 まだ。


 変わってしまう時が、あるいは、もうすぐそこまで近づいているのかもしれなかったが。


 ああ、赤い風が遠くで鳴いている。


 視線を丘下に広がる風景から、隣に並ぶ竜の鞍上の十三歳の女の子へと向けると、彼女は少し大人びてきた顔に驚きを浮かべていた。


「……えっ?」


 リーゼは、何故、彼女が天下を取りたがるのか、そのうち解ると、かつて言った。

 俺は、その理由がわかった気がしたのだ。本格的な戦国の足音が聞こえる、この時代になって。


「平穏でつつましい生活なんて、乱世じゃ領主やら賊やら悪人やらその他星々ほどの多くの何かの気まぐれで、簡単に吹けば飛ぶ」


 戦国時代っていうのは、そういう時代だ。

 俺が言うと、リーゼは得心がいったように目を細めて微笑し、


「うん、そうだよ。明日が保証されているのは、すべてを黙らせて従えた一番強い奴だけだ、あたしは物心ついた時から、ずっとそれを見てきた。

 大大名だなんていっても、一番でなければ潰される。

 虎はいつだって狩られる側じゃなくて、狩る側でいなくちゃいけない。

 いつまで一番でいられるかはわからないけれど、一番でいる間は、不安を多少は減らせる」


 異なる世界のナカツクニ、どういう国だったんだろうな。

 ああ、戦の国だったな。

 赤い風が燃えに燃え広がって燃え続けた、長きにわたって血で血を争うような、虎と狼達が幅を効かせていた国。


「だから天下を取りたいんだろ? 気まぐれで消されてしまうような弱い立場だと不安で仕方がないから。

 そうだというなら、リーゼ、俺がお前を守ってやる。

 俺がお前の不安を消してやる。

 だから、天下は諦めろ」

「……にーちゃん、あたしより、弱い癖に」


 上目遣いに俺の真意をさぐるように睨みつつ、妹は言った。

 この頃にはリーゼは体調を回復させてまた精気ジンを操る無双の武者様として復活していたから、そんな小憎らしいことをいってくれた。

 ふん、と俺は鼻を鳴らした。

 そんな事を言っているが、こいつは、本当は誰かに守られたい筈なのだ。

 そうでなければ、


「なんでお前は、俺を従えるのではなくわざわざ俺に力を与え鍛えてそれに従う事を選んだんだ。天下取って一番強くなりたいのなら、お前が自分で主君様やったほうが早いだろ」


 リーゼは答えなかった。


「俺が思うに、お前は以前、失敗したんだ。トラヒメは、何かを失敗した。だから自分じゃ天下は取れないと悟った。だから俺にかわりをさせようとしている。違うか」


 俺は自分がリーゼに人との挨拶の仕方を教えていた時の事を思い出していた。


 自分が失敗したから、自分じゃ上手くできないから、だから、その教訓を使って、妹に教える。

 お前は上手くやって、幸せになれよとな。


 リーゼは、トラヒメは、自分がかつて失敗したから、だから、その教訓を使って、兄貴を導こうとしている。

 そんな気がするのだ。


「違うか?」


 再度問いかけた。


「…………三分の一、正解」


 童女は海色の瞳を細めてふっと薄く笑うと、


「虎姫は天下に無双の武将で、百戦すれば九十九回を勝つ女だった。無念の討ち死にを果たされた主君の後を継いで、ナカツクニに大いに覇を唱えた。けれども享年三十歳。最後には、味方から煙たがられて嵌められて、信じた相手に裏切られて、捏造されてまわりが全部敵になって、それでも戦ったら勝ったから、講和の席で毒を盛られて殺された。

 つくづく、トラヒメには、あたしには、人を見る目が無い、信じてはいけないものを信じてしまう。そして、だからこそ信じるべきものまで疑ってしまう。節穴なんだ。

 戦場の流れなら見えるけれど、そこを離れて人の腹の底となると、まるで見通せない。

 戦いには勝てても、人を率いる才能が根本的に無い。

 少数の物好き達はそれでもあたしに賛同してついてきてくれたけれど、とても申し訳ないと思った。だって、多くの人はあたしにはついてこないから。

 多くはあたしの敵になる。

 あたしとあたしについてきてくれた人達の敵になる。

 そして、世界というのは数が多いほうが強くて、だから強くて数が多い側が情理を捻じ曲げてでも罷り通る、勝てば官軍だ。負ければ賊だ。

 人から嫌われ憎まれる数が少ない虎達は悪にされる。

 だからあたしは、騎兵隊長にはなれても、君主には向いてない」


 ああ――


 語る少女の顔を眺めながら、俺の脳裏を言葉がかすめた。


 ――トラヒメは、それでも彼女についてきてくれた、その「物好き達」の事を愛していたのだろうか。


「だから、そんなあたしが天下を取る為には、かわりに君主になって天下を取ってくれる人が必要なの。

 それで、主君にして仕えるなら、にーちゃんが良いと思った。それは事実。だから、にーちゃんの言ってる事は、三分の一、正解」

「三分の一?」

「間違ってないけれど、貴方を立ててあたしは貴方に仕えようって思ったのは、それが理由の全部じゃない。だいたい三分の一くらいってコトだよ……あぁ、やっぱ半分くらいではあるかもね」

「そうか。じゃあその残りの理由は?」


 三分の二なのかやっぱり半分くらいなのかは知らないが、他にも理由があるというなら、それは一体なんだ。

 目を細めてリーゼは言い放った。


「貴方には教えない」


 どことなく不機嫌そうだった。


「そうか」


 俺は頷いた。

 頑固なこの妹がそう言うからには教えちゃくれないんだろう。だから、そこを食い下がっても無駄だ。

 だからそこは置いて、俺は告げた。


「残りの理由が何にせよ、天下取りは諦めろ。例えそれを成し遂げても、危険はあるし、不安は減らない。より、増えるかもしれない。意味がないんだ」

「知らない癖に、知ったような事を言うね。そういう事を言うのは、まだ世界が温いからだ。今にそんなこと言ってられなくなる」

「そうか?」


 あるいは、彼女の考えこそが正しいのかもしれなかったが、


「いずれにせよ、諦めろ。俺は天下取りなんて狙うつもりは今後も一切無い」


 俺は構わなかった。


「にーちゃん!」


 俺は答えを出した。


「その夢は独りで追え。それが出来ないならそんな夢なんぞは諦めろ。もしくは、お前の夢に賛同してくれる他をさがせ。俺はお前には感謝しているし、アニャングェラから命を助けて貰った恩もあるが、そればっかりは付き合えない。

 天下を取る、その為には自ら進んで戦を仕掛け領地を切り取っていかねばならない。

 だが、自ら進んで他へと戦を仕掛けるという事は、自ら進んで戦火を巻き起こしていくという事だ。

 俺は、降りかかる火の粉ならば払うが、己自身が火を放って回るというのは、好きにはなれない」

「にーちゃん……」

「そうだ。俺はお前の兄だが、お前ではない。お前と同じではないから、お前と同じ夢は見れない」


 童女は俯いた。

 小声で何事かを呟いた。


「……あの時、命を助けてくれたのは、にーちゃんの方だよ」


 俺は耳が良い。

 けれど、聞こえなかったふりをした。


 リーゼは顔をあげてまた、遠くを見るように目を細めて笑って、


「わかったよ。にーちゃんはどうあっても、そうなんだね」

「そうだ、だから、諦めろ。どっかの誰かが言ってたが、諦めこそ人間という生き物の美徳であり成長であるらしいぞ」


 ふと思うところがあって、イルバール・マナンバルカの言葉を拝借した。

 あの時、俺は「知った事かよ!」と返したが、リーゼは俺にどう答えるだろう?


「……そう」


 力なく二文字をリーゼは呟いた。


 彼女は俺とは違うらしい。


 まぁ他のいろんな状況とかも違うが。

 俺は同じ台詞を言ったイルバールの都合など一蹴したが、リーゼは俺の事情や心情を慮ったのかもしれない。

 イルバールは俺にとって敵で、俺はリーゼにとって兄だから、同じように一蹴する訳にはいかないのだろう。

 けれど、彼女は、知った事かよ! とは俺に答えなかった。

 思うことがある。


 例えそれでも貫けないなら、その夢はそれだけの夢ではないのか。


 違うか?

 違うかもしれないが、違っていない部分もある筈だ。


 そして、逆を言うなら――切望している夢を諦めるを、俺の為に受け入れる事が出来るというのなら、リーゼはきっと、俺の事をとても大切に思ってくれているのだろう。


 俺に突っぱねられて己の夢を諦めた女の顔をした妹は、しかし、


「……で、あたしが天下取りを諦めたら、にーちゃんがあたしを守ってくれるって?」


 消沈はしていないようだった。


「ああ」

「それ……ずっと? 永遠に?」


 真剣な面持ちで尋ねてくる。


「永遠……まあ、お前がお嫁さんにいっちまうまでかな。さすがに、そっからは、お前を守るのは、お前の旦那の仕事だろ」


 っていうか、そうなってもいつまでも兄貴がしゃしゃり出てきたら、リーゼもその未来の旦那もさすがにげんなりだろう。

 だから、永遠にって訳にはいかないだろうな。


「あたし、結婚なんてしないよ」


 えーっと。


「そうは言うけどな……俺、知ってるぞ。そーいうこと言ってる子こそ、年頃になったらすげぇ早く結婚とかしちゃうんだよ。お前、母親に似て美人だしさ。年頃になったらきっとモテるぞ」


 言うと、美人といわれてちょっと照れたのか、うっすらとリーゼは頬を赤らめさせて、けれども、目は鋭く俺を睨んできた。


「しないったら、しないの!」

「そうか」


 まぁこういってるから、この場はそういう事にしておこう。


「…………にーちゃんは、将来結婚とか、するの?」


 まぁそりゃ普通に考えりゃするだろうよ。

 まだこれといった意中の相手がいる訳じゃないが、そのうち誰か相手を探してしなきゃならんのじゃないかなぁ。


 でもそーなると、俺が結婚すると、ずっと結婚しないっていうリーゼさんってどうなるんだろうな。

 一緒の家に住んでるし。


 俺が結婚とかするとリーゼさん、兄夫婦が暮らす家で一緒に暮らす……?


 そうなるとリーゼさん肩身が狭そうで可哀想な気がする。

 うーん……俺は彼女が結婚するまでは守ると言っているんだし、


「まー、そうだな、お前が結婚するまでは、俺も結婚しないでおくよ」

「ほんと?」

「ああ」

「約束できる?」


 リーゼが目を輝かせている。

 何故、そんなに意気込んでいる。

 まぁそれだけ不安なのかもしれないが。


 俺は苦笑した。


「約束しろってんなら約束するが」

「じゃあ約束! 約束! 指切りっ! 指切りしよう! にーちゃんはずっとあたしの側にいて、あたしを守るの!」

「はいはい、お前が良い人みつけるまでな」


 小指と小指を絡め合わせて手を上下に振る。

 リーゼの瞳は真剣で、ああ、きっと今が最後の可愛い盛りなんだろうなぁと俺は思った。

 これって、ちっちゃな女の子があたしはパパとずっと一緒にいるの! って言ってんのと同じだよね。うちオヤジいねーし(グレゴリオ(あのクソ義父)は除く)、俺が父親代わりみたいなもんだ。


 ちっちゃいうちだけだよ、そんな事を言ってくれるのは。

 いや、もうリーゼさん十三歳だけどさ。この前、大人になったお祝いしたけどさ。でもやっぱ、まだまだ子供だよな。

 まぁそれでも、リーゼさんも最近は、機嫌悪い時は、馬鹿兄貴、とか平気で俺に言ってきたりするし、年頃になれば「ずっと一緒にいるの!」どころか「近寄らないでよ馬鹿兄貴、うざいから!」とか言い出すに違いない。


 もしくは、十年……いや五年もすれば、ぐっと大人になった顔を赤らめさせながら『にーちゃん、あたし……好きな人ができたの。会って、くれる?』とかもじもじと言ってきて、俺の前に男を連れてくるんだろうよ。

 そうして俺はその男と拳で語り合うんだ。「貴様にうちの妹はやらーん!」とか言ってな。

 で、その果てに、相手がまともなヤツだったら涙を呑んでしぶしぶ認め、可愛い妹を送り出すのだ。

 世の多くの文献ではそうなっている。

 間違いない。


「ふふふっ!」


 指切りを終えると、小鳥が囀るようなソプラノの声でリーゼはとても幸せそうに笑った。

 ああ、でもある日突然「実は付き合ってたの!」とか言ってグリエルとか連れてきたらどうしよう?

 最近こいつら仲良さそうだし……やはり右ストレートか、それともアッパーか?


 俺は妹の輝くような笑顔を眺めながら、そんな事を思い悩むのだった。

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