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解き放たれるものと若者達

 かくて、捕虜の解放が行われた。


「…………全員が、誓って、解放を選んだな」

「…………正直なところ、予想外にございます」


 珍しくサー・アゼルヴァリスとリーゼが揃って呆気に取られたような表情を浮かべていた。

 二人とも、なんだかんだで何割かは俺達に二度と危害を加えないという誓いを拒んで、処刑される事を選ぶ者達がいると思っていたようだ。

 逆の立場だったらサー・アゼルヴァリスなんか、まんまそうしてそうだもんな。


 だが、結果はこれである。

 零である。

 パーフェクトゲームである。

 全員が全員、生きる事を選んだ。


 予想外だったみたいだけれど、俺としちゃ想定内の結果だ。

 騎士でも武将でもなけりゃ、そういうのも普通にあるだろう。特にマナン・ディリスみたいなお国柄じゃ。

 帝国の兵だったら、死を選ぶ者もいたのだろうけどね。流石はマナン・ディリス人、というべきだった。

 義理や名誉よりも命であり、命よりも金の方が重い。

 まぁ、命よりも金の方が重い、というのもその命に自分の、と形容がついた場合、怪しそうだったが。


「あの連中、全員が全員、二度と帝国には危害は加えませんなどと誓ってみせたが、あの気骨では、その誓いというのも、どれだけが守られるものなのやら」

「その心配はもっともだが、しかしそもそも、その誓いを破って、ミュンドゥングを囲んでいるマナン・ディリス軍のもとへと戻り、再び我等と戦おうという気概さえ持っていない者のほうが、多いのではないか?」

「違いない。監査の目から逃れたのをこれ幸いと戦そのものから逃亡しそうだ」


 お味方の従士や竜兵達はそんな言葉を交し合っていた。

 うーん、処刑された訳じゃないから、百名のうち何名が戦線から本当に消えたのか、それとも、再び敵軍に復帰するつもりなのか、確かなところがわからんな。

 成果は上々なのか、そうでないのか、わからん……いや、上手くいってるのか? 多分だけど。

 敵軍は優勢な上にあちらから仕掛けてきた癖に兵達にやる気が無い、というか根性が無さ過ぎる。

『楽して儲かるならまぁいっちょやってみるけど、きつそうなら冗談じゃねぇ降りるぜ!』とか『こっちゃ好きで戦にきてんじゃねぇ、借金で首が回らなくてかり出されてんだ、え、逃げて良い? 逃げられるんなら逃げるぜ、ヒャッホー!』って感じだ。


 まぁ噂に聞く北の騎馬民族達みたいに根性出して死に物狂いのやる気だされても困るのはこっちなんだけどさぁ。


「てめぇらが仕掛けてきた戦だろうがよぉ、って気はちょっとはするな」

「いや、ケルヴィン、確かにマナン・ディリス側から仕掛けてきた戦だけどよ。でも、一般の兵達の意見で戦を仕掛けるのが決定された訳じゃねーんじゃねーか?」


 グリエルがそんな事を言った。


「……なんだって?」

「お代官様だってさっき言ってたろ? 上の決定にやむをえず従わざるをえない場合もあるって」


 俺はグリエルの言葉に驚き、気づいた。


「あぁ……そうか、戦を仕掛けるのを決めたのは偉いさん達であって、現場の兵士達は戦争したがってた訳じゃないって事か?」

「家の商売柄、マナン・ディリスについちゃ多少知ってるが、俺はそう思うぜ。あの国じゃ例え上手くいったって儲かるのは現場で命かけて戦う兵士達じゃなくて、後ろで投資して見物してる大金持ち達だ」


 だから現場の兵士達にやる気がある訳がない、と鍛冶屋の三男は言った。


「有力な家の後ろ盾がある指揮官クラスならともかく、末端の兵士達は血を流し手柄を立てても搾取されるだけの存在だよ。一兵卒でも手柄を立てればそれに見合った報酬が約束されてる帝国とは違う」


 な……なるほど。

 そりゃ、どんだけ技術力が高くて、良質な武具や兵器を持っていても、戦が弱いわけだ。

 功績立てても上に掠めとられるだけじゃ、例え優秀な人材がいたのだとしても、死力を尽くして戦おうって気にはならないだろうな。

 富が駄目なら名誉だが、名誉は軽んじられる風潮というかむしろそういう生真面目なのは馬鹿にされる国風みたいだし、富も得られなければ誇りも得られないなら、そんなところで懸命に戦うのは、馬鹿げている。


 頑張ったところで、嘲笑われながら良い様に使われて搾取され続けられる絶望しかない。


 マナン・ディリス軍の気骨が生来から怠惰で根性無しって訳じゃなくて、政治やら世情やら価値観やらがそういうもんだから、そういう風になるんだろうな。


「合点がいった。おそらく、それは事実か、事実に限りなく近いのだろう。同情する話だ」

「ア、アゼルヴァリス様」


 俺達の会話を聞いていたのか、サー・アゼルヴァリスが言ってきた。


「やはり俺はこの国に産まれて良かったよ。俺は古の法皇様と皇帝陛下が規範を打ち立て、諸侯達がそれに従い、先祖代々守り育んできたこのメリディアの帝国が好きだ。契約と大義、誇りと名誉を重んずるこの国が好きだ。お前達は?」

「故郷のレッカー村は好きですが、国というなら、まぁ好きという程ではないですが、嫌いって訳じゃあないですな」

「俺もケルヴィンと同じですかね。まぁマナン・ディリスよりは百倍マシでしょうよ。魔物に喰われない間は、そう言ってられます」

「正直な奴等め」


 ご主君は笑った。


「魔物の征伐は余裕ができたら強化してやる。レッカーの村を作ったこの帝国の大地を守る為、俺は行く。だからレッカーを愛する貴様等も来い。マナン・ディリスを蹴散らすぞ。出発だ!!」

『はっ!』


 サー・アゼルヴァリスが叫んで馬竜の鞍上に飛び乗り、俺とグリエルも声を揃えて礼を取ってから、馬竜へと飛び乗ったのだった。

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