ブラウベルグの丘の戦い
街道近くには赤茶色の地肌を晒す禿げた丘陵があった。
サー・アゼルヴァリスはその丘の尾根に沿うようにソルヴィオドゥルムの歩兵達を布陣させた。
このあたりの丘陵地帯は名をブラウベルグというらしい。
ブラウベルグの丘に布陣した兵の数はおよそ150、東を正面としている。
配置位置は尾根――つまり稜線に沿っていたので少々歪なところもあった。だが概ねその隊形は真っ直ぐの棒のような横隊だった。
非常に細長い。
兵たる男女が並ぶ縦の厚みは僅かに二列。
前列に100名の弓兵が並び、後列に50名の重装歩兵が控えている。
兵の一人一人が立つ間隔が、左右に広い。
散開されている。
射撃戦の間は弓兵が前列に立ち、敵が接近戦を行おうと前進してきたら後列の重装歩兵が前に出る備えだった。
無論、そうなったら弓兵も剣等の予備武器を抜いて重装歩兵を援護する。
一方、俺達騎兵組は、別の丘の頂に、ひとまとまりにゴチャッと密集して配置されていた。
本隊が布陣している丘陵からは少し離れていて、東南の位置にある。
俺達騎兵隊がいる丘は、本隊が陣取る丘とは違って、粘土質の土壌ではなかった。
禿げてる丘ではない。
そこそこの背丈を持つ草々が濃く生い茂っている。
緑豊かな丘だった。
俺達ソルヴィオドゥルム竜騎兵隊の数は50。
全員、丘の頂にて竜の鞍から降りている。
乗竜を座らせて寝かせている。
自身達もまた、身を低く草の陰に伏せている。
俺達は丘の頂に身を伏せつつ、濃く生い茂った緑草の狭間から丘下を覗いていた。
下方の原野より迫り来ているマナン・ディリス軍はおよそ600人。
中央部隊、右翼部隊、左翼部隊、と三つに集団を分けていた。
ソルヴィオドゥルム勢の本隊である歩兵隊が陣取る禿げ丘へと向かい、西進する形で行進してきている。
マナン・ディリス側の三つの集団の隊形は、横陣というより方陣といった方が良かった。
いずれも縦の厚みがあり、横の間隔も狭く、密集している。
方陣の外周部には、長さ6mはありそうな長槍を担いだ槍兵の姿が多く見える。
弩兵達はその槍兵達の内側の位置にいて、槍に守られながら進軍しているようだった。
指揮官らしき少数名が、駝鳥のような大型の鳥に跨っているのが見える。だが、騎兵隊としての騎兵はいないようだ。
やがて、彼等は原野を横切って、緑の丘に伏せている俺達騎兵隊から見て、北側となる地点にまで踏み込んできた。
丘下からだと丘上へは死角になる部分が多い。
おまけに俺達は草の陰に伏せている。
だから、敵軍側からだと、俺達、騎兵隊の姿は見えていないのだろうか?
「……連中、無造作に前進してきたが、俺達に気づいていないと思うか?」
すぐ隣で伏せているサー・アゼルヴァリスが声を潜めつつもフンと鼻を鳴らした。
騎兵隊はいわば別働隊的なものだったが、その指揮は直々に騎士アゼルヴァリスが執っていた。
その為、彼は愛槍は後方に残してきた輜重隊に預けていた。今回は短弓と騎兵長剣を持ってきている。
歩兵隊の指揮もダイラス老とノーラさんに預けられていた。
少し考えてから、俺もまた声を潜めて言葉を返す。
「――ああいった隊形を取っている以上、こちらに騎兵隊がいる事は、敵もわかっているでしょう」
射撃戦では基本的に、各自散開していたほうが有利で、密集していると不利になる。
ごちゃっと固まっている相手には、中てやすいからな。
隊列というのは原則、横一列の横隊が最も正面攻撃力が高くなる。
逆に縦隊になるほどに正面への攻撃力は減る。
目の前に人が立っているのに、そのまま真っ直ぐに矢を放つと、味方の背中を撃ってしまうからだ。
故に前に立つ者がいない横一線の横隊こそが、攻撃を遮る味方が前におらず、全員が射線を通して攻撃に参加できるので、最も攻撃力が高くなる。
だから、総合すると射撃戦では、
『散開している』
かつ、
『横隊』
というのが、正面に対しては強い。
細かく言うと、何事にも例外というのはあって、状況によっては必ずしもそうじゃないんだが、細かい事はひとまずおいとくと、基本的にはそうなる。
だから当然、射撃戦だけを考えるなら、広がっていたほうが良いのだ。
だが、敵は密集していた。
密集する場合のメリットというのも、当然ある。
散開していると射撃戦には強いのだが、突撃に弱くなるのだ。
映像として想像してみれば理解は簡単だ。
騎兵的には一人ぽつんと突っ立ってる奴なら突っ込んで轢き殺すのは容易い。
けれども、ごちゃっと大勢が密集している所に突っ込んでいくのはなかなか難しい。
特に密集した連中が長い槍でも構えて穂先を揃えていたら、そこへと突撃するのは非常に厳しい。
つまり、密集隊形は射撃戦には不利だが、突撃を受け止める際には有利となる。
だから、地形的にもまずは射撃戦から開始される状況であろうのに、敵が射撃戦に不利な密集隊形をわざわざ最初から取っている以上、突撃を、特に俺達騎兵隊の突撃を警戒している可能性が高いと見て良いだろう。
騎兵は最強の衝撃力を誇る兵科だからな。
騎兵集団の突撃が上手く決まれば、一発で戦の流れをひっくり返しかねない威力がある。
「ですが、敵は俺達の現在位置まではつかんでいないのではないでしょうか。騎兵隊が何処かにいるとはわかっていて警戒はしているが、その何処かが、この丘の頂だとまでは知りえていない筈です」
じゃなけりゃ進軍があまりにも無防備すぎる。
今、無造作に側面さらしながら通り過ぎていったぞ。
多分、こちらの騎兵の位置を掴めていないからこその密集隊形なんだろう。
姿が見えない騎兵隊がいつ突然飛び出してきても対応できるように、横隊ではなく最初から密集しているのだ。
ただまぁ、
「もしかしたら……知らないふりをしながら、こちらが出てくるのを待ち構えている可能性もありますが」
「あの無警戒ぶりは誘いだと?」
「ええ、でなければ――」
ここまで、帝国側を完封するが如きあまりにも見事な電撃的戦略展開をやってのけてきたマナン・ディリス軍にしては、いくら戦略と戦術が毛色が違うものとはいえ、お粗末に過ぎる、気がする。
しかし、
「ただ……味方以外からの視線を一度も感じてないんですよね」
気づいているなら、それが解せなかった。
「リーゼ、そっちはどうだ?」
「私も敵からの視線は感じ取っておりません。敵はこちらを見ていない」
「……お前達程の能力者が視線を感知していないのならば、俺達がここに潜んでいることは、敵はまず気づいておるまいな」
ふむ、とサー・アゼルヴァリスは呟き、ニヤリと笑った。
「働けそうだな」
嬉しそうである。
どうやら、ご主君的には敵のあれは誘いなのではなく、本当に気づいていないのだと判断したようだ。
「一応、騎兵について警戒はしてそうな構えですが」
「フン、こんなもの、中途半端に過ぎる。この構えでは抜刀突撃を防ぐ事しかできんぞ」
おや?
「俺が思うに奴等、弓騎兵という騎兵が一体どういうものなのか、イマイチ理解が薄いのではないか?」
えーと……?
「……と、おっしゃられますと?」
「うん? ……ああ」
弱冠二十歳の若き青年ご当主は何故かふふふと少年のように笑った。
執務机の上だと仏長面がデフォルトですが、こういう場所だと愉しそうですね我が君。
「そうかケルヴィン、まあ、だったら、口で言うより実際に見せた方が良いな。俺達はこれから空き巣狙いの金の亡者どもに教訓をくれてやるから、お前もそれで理解しろ」
わぁ、ご主君、実践的教官だぁ。
なんやわからんがサー・アゼルヴァリスの教えたがりのツボを刺激してしまったらしい。
なんだかんだで結構、この人、俺に何かを教えるの好きよね。
しかし、サー・アゼルヴァリスの能力を疑う訳じゃないんだが、戦は何が起るかわからんというし、逆にこっちが教訓を貰うハメにならなきゃいいんだけど……
――……どの目が出るかな。
考えてみりゃ、戦と呼べるそれなりの規模で正規軍の集団を相手に戦うのは、これが初めてだよな俺。
賊や六名ばかりの小集団とは戦った事があるけれど、三桁以上の規模で正規軍と戦うのはこれが初だ。
これこそが初陣だ。
……いかん。
少し震えてきやがった。
いや、武者震いだ。
やってやるさ。
やらなきゃレッカー村に、アリシアさんに、俺とリーゼに、セルシウスにもグリエルモにも、ノーラさんにも、サー・アゼルヴァリスにも、サーディックさんもダイラス老にだって、未来がねーからな。
やってやる……!
俺は決意を籠めて、生い茂っている草々の狭間より敵部隊の行進を睨んだ。
戦場を睨み続けていると、やがて、真っ青な空に、漆黒の影と白い煌きが浮かんだ。
矢だ。
味方の弓兵達が放った百の矢だ。
――始まった!
矢は天高くに撃ちあがった。
それらはやがて、勢いを鈍らせ、放物線を描くように方向を転じ、その重い鏃の切っ先を大地へと向けてゆく。
みるみると、重力に引かれて急速に落下し加速してゆく。
そうして無数の鋼の光達は、雨の如くに、勢い良くマナン・ディリス軍へと襲い掛かった。
遠く離れていても、豪速で迫る矢が『ビュッ』と風を切り裂いてあげる唸音が聞こえてきそうだ。
俺は精気を使って視力を強化した。
天空より流星のごとくに落下した矢が、鉄帽子をかぶり鎖帷子らしき鎧に身を包んでいる兵士の胸に、勢い良く突き立ったのがハッキリと見えた。
矢を受けた兵士が態勢を崩す。フラフラと身を揺らがせる。やがて彼は、糸が切れたあやつり人形のように、崩れ落ちるように倒れた。
一人、二人ではない。
かなりの数のマナン・ディリスの男女達が、次々に倒れてゆく。
マナン・ディリス側が密集してるだけあって、射撃はかなりの命中率だった。
まだ結構、距離があったんだが装甲に対する貫通率も高いようだ。
丘上から丘下への射撃は強い。
立っている位置の高さの差の分、飛び道具の威力は増す。
ソルヴィオドゥルム弓兵隊が用いる竜骨腱の合成弓から放たれた強烈な射撃に対し、マナン・ディリス側は左翼と右翼はそれでも前進した。
だが、中央はやおら前進を止めた。
中央の敵部隊は停止すると、弩を一斉に空へと向け、太矢を撃ち返した。
無数の太矢が丘下から撃ち上げられる。
しかし、それら、マナン・ディリス中央隊の弩兵達が放った矢のほとんどは、ソルヴィオドゥルムの歩兵達まで届かなかった。
ごく僅かが届いたが、歩兵隊は散開していた為、隊列の隙間に落ちてそれも外れた。
俺は目をみはった。
あまりにも、敵と味方とで一斉射撃の戦果に違いが出ていた。
「……何が起った?」
気づくと、俺の隣でサー・アゼルヴァリスが身を乗り出すようにして丘下を睨んでいた。
血眼にして凝視している。
「敵は、どうした? 流れ矢が指揮官にでも中ったのか?」
彼は霊技は使えても視界の拡大はできないらしい。
俺は代わりに見えているものを報告した。
「いえ……指揮官らしき敵は、健在ですね」
中央隊の、そのど真ん中に、豪奢な装甲が施された陸鳥に跨る白金の甲冑に身を包んだ青年が見える。
盛んに身振り手振りして何事かを叫んでいる。
何を叫んでいるのか、声までは聞こえなかったが――距離がある――どうやら、憤慨している様子だった。
「何か必死に命令しているように見えますが……」
「何かの罠か? 擬態か? だが、あの態勢から何ができる?」
ご主君が一体何をそんなに訝しんでいるのか、俺にはよくわからなかったが、
「大殿、敵中央部隊の指揮官は、歳若いように見えます。戦い慣れておらぬのではありませんか?」
リーゼさんは理解できているようだった。
「冷静でない若い指揮官は、時偶ああいった指示を激情にかられて出します」
確かに敵の指揮官さん若そうに見えるけど、俺よりは年上そうだし、せいぜい二十歳のサー・アゼルヴァリスと同年代くらいに見えるんだが……
あの異国の青年も12歳児に歳若いとか評されてると知ったら、一体どんな顔するだろう。
「……仮にも一部隊を預かる高級指揮官が、フリでもなく、あんなマヌケな指揮をするのか?」
疑わしそうにサー・アゼルヴァリス。
どうやらサー・アゼルヴァリス的には、敵の中央隊の指揮官が、あの位置から太矢を撃ち返させる命令をだした事が信じられないようだった。
確かに実際、敵の中央隊の反撃はまるで意味のないものだったな。
おそらく曲射において、竜の骨腱や月神樹等が用いられたレッカーの合成弓とマナン・ディリスの機械弩で、丘上と丘下で、風向きで、ここまで差が出るという事実を、理解していなかったのだろう。
敵が届いたから自分達の側も届く筈と判断した。
先のソルヴィオドゥルム弓兵隊の射撃が届いたのは丘上に陣取って、さらに射程が長い合成弓を用いた射撃だからこそだったのだ。
しかし、マナン・ディリス側は低地からの上に射程が短い弩であった為、風向きもあって、そのほとんどが、届かず威力をろくに発揮できなかった。
で、サー・アゼルヴァリスやリーゼさんには、それら地形や風向き兵器の射程差によって起るであろうこの結果は、常識のように見えていて事前から当たり前に認識していたけれど、敵の中央隊の指揮官にはさっぱり見えていなかった。
実を言うと俺も見えていなかった。
……うげぇ、一応従士副長のご身分はいただいてるけど一隊とか預けられなくてマジ良かったわ。
いきなり指揮しろとか言われてたら、あの中央隊の指揮官と同じ失敗を俺もしてそう。
初見でわかるかいこんなもん。
ベテラン達には当たり前の事なんだろうけどさぁ。
そんな思いを抱いて俺が恐々としている間にも、隣りに伏せている鉄鱗鎧とタバードに身を包んだちっちゃなプラチナブロンドの女の子は、
「最低限の能力よりも重視されるものがある国の軍では、しばしばある事です」
まるで百戦練磨の古強者みたいな台詞をのたまった。
12歳児の台詞じゃないなホント。
知ったようなことをマイシスターはおっしゃる。確実にトラヒメ30歳の記憶だろうね。
だが見た目は童女だ。
前世の記憶があるという事を俺は知っている。
アリシアさんも知っている。
グレゴリオも知っている。
けれど、この場の他の人達はそんなことは知らない筈で、12歳の女の子が言っているようにしか見えない筈だった。
けれど、サー・アゼルヴァリスはリーゼさんが見た目童女でもその言葉に何らかの説得力を感じたのか、
「なるほど、政治の都合か。腐敗は囁かれているが、帝国社会はまだマシだな。貴族階級なら少なくとも最低限の軍事教育は叩き込まれている」
と、彼女の言葉を受け入れて頷いてみせた。
戦国童女さんは珍しく無表情ではなく微笑を浮かべ、
「付き従う敵兵達に憐憫は覚えますが、我々にとっては敵国の腐敗や弱体が著しいのは喜ばしい事です」
「その通りだ」
黄金の瞳の当主もまた笑った。
「しかし我が君、ご油断めされるな」
硬く低い男の声が響いた。
それを言ったのは、厳しい顔立ちのいかにも兵士といった様相の屈強な男、サーディックさんだった。
「中央はボンクラでも、左翼と右翼はまともなようですぞ」
彼の言に見やれば、敵の左翼と右翼の両部隊は矢が降り注ぐ中にあって、整然と足並みを揃えて前進し、丘陵上のソルヴィオドゥルム歩兵隊への距離を詰めてきていた。
左翼隊は中央隊よりも多くの距離を前進してから停止し、射撃を開始した。かなり近接してからの射撃だった。
一斉に矢が飛び、降り注いで、ソルヴィオドゥルム側の弓兵の何名かが矢を受けて倒れた。
その数は決して多くはなかった。
だが、先の中央隊の射撃とは違って、確実な被害が発生していた。
左翼隊は射撃を終えると、再び前進を開始する。
それに合わせるように今度は右翼が停止し、射撃を開始していた。
嵐の如くに猛然と矢が飛んで、また何名か、ソルヴィオドゥルム側の兵が倒れてゆく。
「……連携が取れている。真ん中の連中とは随分と様子が違うな」
サー・アゼルヴァリスの声音が硬くなった。
チッと彼は舌打ちする。
「そうそう楽ができる戦でもないらしい」
「我が君、撃ち合いは我等が方の歩兵隊が今のところ有利に進めているようですが、距離が詰められ接近戦となればお味方は不利です」
サーディックさんが味方のピンチを訴えた。
横列隊形は突撃に弱い。
その上、通常よりも散開しているからさらに弱い。
そもそもからして数に倍以上の差がある。
左翼か右翼かいずれか一部隊だけならまだ勝負できるかもしれないが、二部隊相手はきつい。
「丘上に陣取っているのは唯一有利な点ですが、それでも突撃を受けたら、ひとたまりもありませんぞ!」
「解っている」
鋭い面差しの青年は頷いた。
「だからこそ、あの両部隊が突撃を決める前にこちらも動く。
貴様等!
時が来たぞ!
ソルヴィオドゥルム竜騎兵隊! 騎乗せよ!」
赤兜の騎士の指令が響き渡った。
「――ハッ!!」
俺は伏せさせていた竜を立ち上がらせ、その背に置かれた鞍に飛び乗った。
他の隊員達も次々に竜を起こし、鐙に足をかけ鞍に跨ってゆく。
「的は敵中央ッ! 駆け抜けながら射続ける!! 総員、俺に続けーーーっ!!」
ドラゴンの咆吼が轟いた。
サー・アゼルヴァリスが騎乗する竜が駆け出し、俺とリーゼさんは乗竜に拍車を入れてその背を追った。
サーディックさんやグリエルやセルシウス、他の隊員達も俺とリーゼさんの後に続いてくる。
指揮官先頭の二列縦隊だった。
土煙をあげて、怒涛の勢いで竜騎兵達が丘を駆けくだってゆく。
どうやらサー・アゼルヴァリスは最も敵の弱そうな部分から潰す事にしたらしい。
あっという間に敵中央隊の後背が近づいてくる。
敵側からすれば左斜め後方から俺達が迫ってくる形か。
「弓ィーーーッ!
構エーーーッ!」
真っ直ぐに敵の背後目指し駆けていたサー・アゼルヴァリスが進路を曲げ右方向へと転じた。
俺も乗竜に念を送って右方向へと曲がるように指示しつつ、腰の矢筒から矢を引き抜き左手に持つ深く湾曲した短弓へと矢を番える。
景色が回った。
弓を引き絞りつつ視線をめぐらせると、左手側に敵中央隊が見えた。その背後を真横になぞるような軌道を俺達は駆けていた。
一方の敵の最後尾は慌てて俺達の方へと方向を転じて向き直らんとしているようだった。
「――テエッ!!」
赤兜の騎士の号令に合わせて、俺は矢を真っ直ぐに撃ち放った。
一斉に、他の弓騎兵達も番えた合成弓より矢を解き放った。
一本の棒のようになって駆けるおよそ50騎の騎兵隊は、疾走つつその左手側へと向けて、一面を薙ぎ払うように斉射を飛ばした。
直後、6mほどもある長い槍を持った兵達が倒れた。
一人ではない、疾走しながらなので確認する余裕があまり無いが、何人もが倒れている。
「各員、速射アッ!! 撃って撃って撃ちまくれ!!」
すぐ隣を併走するリーゼさんが猛連射を開始するのが視界の端に見えた。
俺も矢継ぎ早の連射を開始する。
俺の弓矢の命中精度なんてお察しレベルだったが、敵は密集していたので、狙いから外れても、外れた先に敵兵がいて、そいつに中った。
撃てば中るってのは良いな!
無論、敵方からも矢が撃ち返されてきていた。
槍兵の陰から弩兵達が太矢を猛射してきている。
俺の脇腹を一本の矢が掠め後方へと突き抜けた。
さらにもう一本別の矢が飛来し、俺の乗竜の腹かどっかにあたって彼は痛みと怒りの咆吼をあげた。
だが、矢はこの距離と角度では鱗を突き破る程の貫通力はなかったらしい。竜は速度を落とすことなく走り続けている。
命中箇所が俺の位置からだと見えてないんだが、多分、刺さってない。刺さってたたらこうは走れていない筈だ。刺さってないでいてくれ。
周囲を見回せば、敵勢の矢は大半は外れるか、命中しても頑丈な竜の鱗や騎手達が身をよろっている鋼鉄製の鎧によって弾き飛ばされているようだった。
基本的にソルヴィオドゥルムの騎兵の装甲は厚い。
騎手は金属製の鎧に身を包んでいるし、乗騎は小型とはいえ頑強な鱗を持つドラゴンだ。
法皇様や皇帝陛下が直率するという超重装騎兵ほどじゃないが、俺達竜弓騎兵も重装甲だ。
簡単には射抜けない。
さらに、敵は密集している為、弩兵のすべてが射撃に参加できている訳ではないようだった。
曲射の時なら問題ないが、直接射撃となると、前に立つ味方が邪魔で撃てていない。
俺達に迫りくる矢玉の密度は、敵の兵数からすれば、かなり薄いものだった。
ついてる、というか、隊形の差か、これは。
運じゃない。
敵味方の指揮官の指揮能力差だ。
両軍ともに若い総指揮官みたいだけれど、うちの御館様のほうが敵の指揮官よりも巧みだ。
俺達弓騎兵隊は、応射を受けつつも足を止めることなく動き続けた。
大きく円を描くように、弧を描く軌道で、原野を駆け続けた。
駆け続けながら、矢を撃って撃って撃ち込みまくってゆく。
敵兵が身から矢を生やしながら次々に倒れてゆく。主に敵戦列の外周部に立つ槍兵達だ。
6mの槍を構えて密集した長槍兵集団とか、抜刀して突撃するなら返り討ちにあいそうな脅威を覚える相手だけれど、槍の間合いの外から矢を撃ち込むなら、タダの的だな。憐れな。
槍兵は普通の騎兵相手なら対策になりえても弓騎兵相手だとそれ単独では対策になりえない、これがサー・アゼルヴァリスが言っていた教訓か、なるほど。
しかし、
「大殿! 正面!! 敵右翼ッ!!」
リーゼさんがサー・アゼルヴァリスへと注意を喚起する鋭い叫び声を発した。
左手側に見ている敵中央隊より馬竜が駆ける先へと視線を移すと、敵の右翼隊は中央隊を援護するつもりなのか、反転して俺達へと迫り来ているのが見えた。
ついでに敵の左翼はどうしているのかと気になって視線を走らせれば、彼等は反転せず丘を登り突撃を開始していた。
味方の弓兵隊は踏みとどまって猛射を繰り出している。
曲射ではなく直接射撃で丘上より撃ち降ろしている。凄まじい射撃だ。
あ、ノーラさんがいた。相変わらずの暴風雨のごとき速射。
どうやら、味方の歩兵隊は後退せずそのまま突撃を受け止める腹らしい。
重装歩兵はまだ後ろにいる。
まだ前列の弓兵隊と交替してない。
味方の弓兵隊、ノーラさんの意思なのかダイラス老の意思なのかはわからないが、迫りくる敵部隊を、ギリギリまで射撃で削るつもりらしい。
重装歩兵と位置を入れ替えるのは、本当に寸前になってからのようだ。
弓兵は基本的に接近戦は得手としてないから、見ててハラハラする。
大丈夫だよなノーラさん――散開したままだけど、本当に大丈夫なのか?
「総員抜刀ォオオオオオッ!!」
サー・アゼルヴァリスの咆吼が響き渡った。
視線を戻せば、彼は指示を出しつつくるりと竜の首を左に向け、旋回させた。
直後、正面から敵右翼隊の太矢が嵐の如くに飛んできた。余所を気にしてられる場合じゃねぇ!
太矢が俺の鎧の肩や脇腹に命中してガンガンギュインと激突し擦れる金属音が鳴り響いている。ああ! 赤い火花が散っている!
ていうか、ボディブローのように衝撃が身体を貫く。いてぇ!
ぐぇぇえええ!!
俺は痛みを必死に堪えつつ、矢嵐の中、天空へと向けて抜き放った鋼の長剣を翳しているサー・アゼルヴァリスの背を追うように竜を左に旋回させる。
赤兜の騎士の騎兵長剣の切っ先が、太陽の光を浴びて皓く燃えるように煌に輝いている。
ていうか、ご主君抜刀て……まさか。
「聖女よ竜帝よご加護を!! 総員我に――」
突っ込むの?!
正気か?!
「――続けぇええええ!! 突撃ーーーッ!!!!」
うひゃあああああ!! やりやがったぁああああああああ!! やっぱ突撃かいぃぃぃぃぃぃぃっ!!
天へと翳していた騎兵長剣を振り下ろし叫ぶサー・アゼルヴァリスは、左旋回したことにより正面に捉える事になった敵中央隊へと矢の如くに突撃した。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
赤兜の騎士は咆吼をあげ、中央隊のど真ん中へと勢いを緩めるどころかさらに加速して突っ込んだ。
一人、二人と体当たりして跳ね飛ばし竜の突進速度は流石に大幅に鈍ったが、それでもロングサーベルを旋風の如くに振り回しながら、強引に斬り伏せ前進してゆく。
うへぇ! ちょっとお?! 無茶し過ぎじゃね?!
だって敵、中央隊だけでも200名いたんだぜ?!
外周部を固めていた槍兵を中心にかなり射倒したからもう200はいないと思うが、それでもこっちは僅かに50騎、確実に倍以上、下手したら三倍近くまだ残ってんだ!
敵の歩兵達が密集してる真っ只中に総大将が先頭切って突っ込むなんて、蛮勇ってレベルじゃねーぞ!!
ああ、案の定、弩兵達が弩を捨て、剣や斧、戦槌に持ち替えて逆襲に群がってきてる!
あまりに無茶だッ!!
「アゼル様! ご自重くださいッ!!」
けど、世話になってるし、この人を見捨てる訳にはいかねぇ!
俺は飛び込むように突撃し一人目の敵兵を跳ね飛ばし、鞍上より身を乗り出し、ロングブレードに精気を纏わせながら払い掬いあげるように一閃した。
黄金の光が、二人目の敵兵の首を刎ね飛ばして抜け、すぐに次が進路上に立ち塞がる。
竜に思念を飛ばして跳躍させつつ剣を持った三人目の兵を踏み潰させ、着地するや否やに、四人目の戦槌を振り上げて飛び掛ってきた壮年兵へとロングブレードを突き出して刺し殺す。
瞬きする間に巻き起こってゆく激しい攻防。
俺の左隣ではリーゼさんが長大な白光の剣を縦横無尽に振り回して、あっという間に屍山血河を築き始めている。
守るなら俺よりサー・アゼルヴァリスを守るべきじゃないかなぁ、とソルヴィオドゥルムの臣下的に思いはするんだけど、御免なさい、すっごい助かります! ありがとうマイシスター! おにーちゃん、キミがいなかったら、多分、今頃もう刺されてるよ!!
ぐぇぇええええ! そんな事思ってる傍から、ガキンガキン、鎧が敵歩兵達から叩かれまくって鳴っている。装甲の隙間を抜かれたら一発で重傷、下手すりゃあの世いきだ。
お、思った通りというか思った以上に下手しなくても死にそうなんだけど?!
すっかり囲まれて足が止まってるし!
足が止まった騎兵なんてただの的だろ?!
「アーハッハッハァーーーッ! やるなァ、ケルヴィン!!」
「笑ってる場合ですかっ?!」
「戦に勝つための秘訣を教えてやる! 今こそ笑う時だ!! 押せ押せ押せ押せぇえええええ!!!!」
なのに我がご主君はまったく自重してくれません。
滅多やたらにロングサーベルを振り回してガンガンに突き進んでゆく。
あんた、ぶっちゃけ単純な腕っ節だけなら俺より弱いよね?! そりゃ並の兵士よりは強いけども?! なんでそんな無茶をする?!
「怯むなケルヴィンッ!! 真っ只中に入れば、敵右翼は撃ってこれん!!」
あっ。
そういう事。
敵右翼が今、矢を俺達狙って撃ったら、味方の中央隊に当たっちまうのか。
地味に結構計算してるのね。
えっ、いや、でも射線切る為に敵の真っ只中に飛び込むって、ホントに安全なのか?!
「攻めを守りに、守りを攻めに! 常に先手を取り続けろ! 血色の狂神こそが死神をも退けるッ!!」
そういうもんですか我が君。超オフェンス思考でらっしゃいますね。
ああ、牙を剥いて超笑顔でらっしゃる。
この人、普段仏長面な事が多いけど、戦闘状態になると感情豊かになるよねー!
「ハーッハッハッハッハアッ!! 生きようと思うなよ?! 命は前に出て拾うものよッ!! オオッ! サン・シルヴァリ・バシレイアアアアッ!!!! 赤火竜の爪牙は死しても止まらぬ!!!!」
血風の華が咲き乱れてゆく。
ひぃぃぃぃぃぃ!!!!
こんなん絶対安全な訳がねぇええええええええ!!
チキショーーー!!
群がる敵歩兵の海の中を、しっちゃかめっちゃかに黄金の光が宿ったロングブレードを振り回して斬り開き、馬竜を強引に突き進ませてゆく。
「まだ生きてっかグリエル、セルシウスー!!」
「生きてるよッ!!」
?!
思わず叫んだら、返事がすぐ後ろから返ってきた。
「背中は任せなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
「ケルヴィンッ!! おめーが俺達の大将なんだからよ!!!! しゃきっとしろよ!!」
振り返る余裕はないが、いるのか?! すぐ後ろに?!
「だって!! てめぇーは!! つえーだろーがよぉおおお!!!!」
「お、おおっ!!!!」
死に物狂いの気迫が籠もった背後からの叫びに思わず俺は気圧されつつも、叫び返した。
こいつら、精気が使える訳でもねぇ正真正銘ただの一般村人少年少女なのに、よくもやるわ。
……くそっ、確かにグリエルやセルシウスが気張ってるのに、俺がへたれてる訳にゃいかねぇよな。
「うぅぅうおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
俺は精気をさらに燃やし、全身に巡らせて叫んだ。
無我夢中で光を纏った刃を振り回す。
サー・アゼルヴァリスとリーゼさんと並んで無理矢理に前進しながら、前に立ち塞がる敵を斬って斬って斬って斬って斬り飛ばしてゆく。
背後をグリエルモとセルシウス達に守られながら、前へ前へ前へ前へ前へ。
群がるマナン・ディリス兵達が目を血走らせながら飛び掛ってくる。
――邪魔だ、退け!
薙ぎ払って、突いて、叩いて、踏み潰す。斬って斬って赤い道を斬り開く。
どれだけそれが続いたろう、とてつもなく長い時間のような気もしたが、もしかしたらそんなに長時間ではなかったのかもしれない。
中央隊の敵兵達は、狂気の沙汰ともいえるサー・アゼルヴァリスの突撃に肝を潰したのか、それともこれまでの損害の積み重ねがそうさせたのか、あるいはその両方か、やがて悲鳴をあげ堪えきれぬように崩れ、後退し始めた。
ああそうか、こいつら、粘りが無いんだったな。
互いにリスクを減らしあって堅実に撃ち合うより、狂気の沙汰合戦に無理矢理もちこんで押しに押せば、心のほうから崩れてゆく。
「逃げるな愚か者どもっ! 解っているのか! 我こそがフラメン・マナンハダシュトぞ! 踏みとどまって戦えッ!! 戦えッ!!」
豪奢な装甲が施された陸鳥に跨る、白金の甲冑に身を包んだ青年が人の流れに逆らいながら叫んでいる。
誇りか意地か、指揮官らしき男の闘志に、一瞬、兵の後退が止まりかけたが、
「迂闊なッ!!」
叫んだリーゼさんが竜を大跳躍させた。
宙舞う竜とその鞍上の童女が、血色のタバードをなびかせながら一気に上方より距離を詰める。
赤い童女竜騎兵は落下ざま、騎兵剣より纏う光の刃を長大に伸ばし雷霆の如くに白光一閃、フラメン何某を脳天から唐竹割りに乗鳥ごと真っ二つに両断した。
うん、見間違えじゃない。
見るからに頑強そうな豪奢な鋼鉄の甲冑もろとも、馬並みの巨体のうえに装甲がつけられた陸鳥さえも、まとめて叩き斬った。
一刀両断。
「フラメン・マナンハダシュトとやら! ケルヌンノスの息子ケルヴィン・レッカーが臣下リーゼ・レッカーが討ち取ったぞ!!」
人を踏みつけながら竜を着地させたリーゼさんは、勇ましく叫びながら竜巻のように白光剣を振り回し周囲の敵兵を蹴散らして、無人の野をゆくが如く俺の傍らへと戻ってくる。
うっへええー!! 我が妹のことながら、毎度の事ながら鬼神じみてる。
あの人、中央隊の指揮官かなんかだよね? 多分。
リーゼさんがフラメン何某をド派手に真っ二つに割ってみせたのは決定的だったのか、敵兵は恐怖の叫びをあげ雪崩のごとく壊走を開始した。
うん、あれはビビるよね。
戦況が有利とか不利とか以前に人として。
「よくやったリーゼ! さすがだ!」
「ふふふふふん♪ これくらい当たり前でござる! 造作も無い相手でしたぞ! 兄上様~っ!」
叫んで褒めてやると鉄鱗鎧姿の童女からは満更でもなさそうな声がかえってきた。
褒めると相変わらず嬉しそうだなリーゼさん。尻尾があったらぶんぶん振ってそう。
最早、周囲の中央隊の敵兵は誰も踏みとどまろうとしていなかった。
誰しもが背中を向けて逃げ出している。
「よぉおおおおおおおし! よくやったソルヴィオドゥルム竜騎兵隊! ドラゴンがソルヴィオドゥルムの繁栄と名誉を守る存在だというのなら! 貴様等こそがドラゴンよ!! 総員、続けーーーっ!!」
全身を血に染めている赤兜の騎士が大声で俺達へと叫び、再び馬竜を駆け出させた。
追撃をかけるのかな? とも一瞬思ったが、サー・アゼルヴァリスは壊走した敵にはあまり頓着せずに、逃げ惑う敵兵の間を縫い蹴散らし加速してゆく。
「アゼル様っ! どこ行くんです?!」
「まず距離を取る! 敵の右翼が残っている!!」
あっ、そういえばそうだった。
振り向くと、整然とした隊列を保っている敵が、こちらの竜騎兵の最後尾に今、まさに喰らいつかんとしている所だった。
危ねぇ!!
中央隊を崩すのがもう少しでも遅かったり、移動を開始するのが遅かったら、最後尾の騎兵達が掴まえられてたな。
左翼隊は、どうなった? 味方の歩兵隊は?
馬竜を駆けさせながら鞍上で首を巡らせ視線をやると、敵の左翼隊の兵達がバラバラに東へと向かって走っているのが見えた。
つまり、逃げている。
一方の味方の歩兵隊は整然とした隊形を保っていた。
どうやら、味方歩兵隊も上手くやったようだ。
あの時の形と、そして今の味方の隊形を見るに――詳しい推移は見れなかったが、おそらく、半包囲したのだろうと想像はできた。
多分、射撃でギリギリまで迫る敵を削ってから、直前で重装歩兵を前に出して敵の突撃の正面を受け止めさせ、その間に両翼から弓兵達を抜刀させて包み込むように接近させ、全体としてUの字に包み込んで半包囲攻撃したのだろう。
――マジで?
そういう事やったんだろうなとは思うんだけど、マジでできんのかそんな機動。
タイミングを一歩間違えれば、兵達が少しでも連携を誤れば、あっという間に瓦解する繊細な機動だ。
衛兵隊の皆さん、マジ精鋭。さすが普段から魔物ぶっころしまくってるだけある。
そんな思いを抱きつつ、大きく旋回するサー・アゼルヴァリスを追い、その背に続く。
向かう先、敵の右翼隊は、最早一部隊だけとなりはてたにも関わらず、未だ整然と隊列を整えていた。
弩兵の横隊を最前列に、そのすぐ後ろに長槍兵が控えている。
射撃戦を選ぶなら、弩兵と撃ち合う事となり、突撃するなら入れ替わるように長槍兵が前に出てくるのだろう。
その6mもの長さにも及ぶ槍襖と対決する事となる。
――敵の戦い方が、ハッキリと変わった。
ああ、なるほど、この構えを破るのは、なかなか難しそうに見える。
初めから、この構えでいれば、俺達はもっと苦戦するか、もしかしたら敗北までありえたんじゃないか?
だが、事ここに至っては、今更だった。
俺達が向かっているのと同時に、敵の右翼隊の背後へと目掛けて、味方の歩兵隊が接近してきているのが見えていた。
後は――簡単だった。
弓騎兵隊が高速で敵前を横に駆けながら射撃して、敵からの射撃を引き付けかわしつつ、その後背から接近した歩兵隊が矢を敵右翼隊の背後に浴びせかけた。
前後を挟撃された敵は、次々に射倒されていった。
敵兵達が立っている場所は、まさに死地だ。
やがて敵の戦列から白い旗が上がった。
降伏をあらわす旗だった。




