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インターセプト

 ミュンドゥング市へと向けて再び行軍を開始した俺達だったが、また新たな報告が偵察騎兵より入ってきた。

 曰く、600名程の敵部隊が、攻囲を離れ、俺達の進路を遮るように迫ってきているという。


「大胆な戦略で来た癖に、こういう場面では、敵の総指揮官は慎重だな」


 馬竜の鞍上、赤兜の騎士は黄金色の眼をギラつかせつつ、苛立った感情を露に舌打ちした。


「敵にはマナンバルカがおりますからな」

「我等の接近は警戒されていましたか……」


 ダイラス老とサーディックさんが忌々しそうに唸った。

 敵方もそうそうにはぬかりは無いらしい。

 まぁ南州諸領主が集結するなら、常識的に考えれば第一はミュンドゥング市だからな。そのあたりを読んで敵も偵察を四方に飛ばしていたに違いない。ここまでの行軍途中でリーゼさんが何者かから見られている、と視線感知の報告もあげてきてたしな。

 ちなみに俺もノーラさんもサー・アゼルヴァリスも感知はできていなかった。距離があると感知は困難になるし、集中してないと感知感度はさらに落ちるうえに、四六時中精気(ジン)を集中させられてる訳じゃないからな。

 敵の偵察が慎重なら、気づくことは精気ジン使いであっても霊技ルーアッハ・アーツ使いであっても普通は難しい。それを感知してみせるリーゼさんの感度が異様ともいえる。


「しかし……230に対して600をあててくるか」

「輜重隊の30を抜くと200ですから、きっちり三倍ですね。無駄が無い」


 とノーラさん。

 基本的に、一対三なら武力抗争というのは、大小問わず、大体は一の側にはまず勝ち目が無いと言われている。三倍あてれば三倍の側がまず勝つだろうと。

 こっちの総数は正確には230だけどうち30は後備兵として村の有志の間から臨時で雇われた輜重の輸送隊員だ。一応、いざという時の為に槍が支給されていたけれど、鎧までは支給されなかったから自弁の粗末なものだけだし、訓練も積んでいないから、戦闘には耐えられないだろう。原則、戦闘員には数えられない。


 敵がもしも三倍という計算で700でなく600をあててきたのなら、うち30は非戦闘員と見抜いてる訳で、こちらの数だけでなく構成まで正確に偵察されてしまっているようだった。

 

「敵がこちらの対応に出てきた分、ミュンドゥング市を攻めている敵兵の数は減っています。200で600を引きつけ続けられれば、かなりの貢献です。つかず離れず、600を遊兵化させ続けているだけでも良いのでは?」


 慎重策をサーディックさんが唱えた。この人、基本的には果敢だけど、こういう事に対しては慎重なようだ。

 その意見に対して、ダイラス老が懸念を唱えた。


「いや、サーディック、あちらの方からご丁寧に600も割いてきたという事は、それをやっても敵は、目的を達成できる目算が立っているという事ではないか? 敵が主導する流れにそのまま乗るのは、不味いぞ」

「……それは、確かに、言われてみるとありえそうな」


 いかにも帝国兵士、といった様相の屈強な男が老人の指摘に唸る。

 二人の議論を耳にして、サー・アゼルヴァリスはその黄金の瞳をリーゼさんの方向へと向けた。

 白金色の髪の女の子は少し考えるようにしてから、


「従士長がおっしゃられるよう、主導権を敵に渡してはならないと思います。最低限、私達だけでも、局所的にであっても主導権はこちらが握るべきです。この状況下で、敵の方から600を繰り出してきたという事は、我等がその600と睨み合うに終始した場合、ミュンドゥング市は諸領主が到着する前に陥落させられてしまう可能性が高いでしょう。600をひきつけるだけでは不足です」


 と頷いた。

 彼女は形式上、サー・アゼルヴァリスから見たら陪臣であって、直臣じゃないのだけれども、誰も発言するのを咎めたりはしなかった。

 普通は、陪臣による主君のそのまた主君への直接の発言とか、あんまりしないもんなんだけどね。

 まぁサー・アゼルヴァリスが視線とかを向けて発言を促してるし、こういう場合は、喋らないほうがむしろ不味いって奴なんだろう。


 え、直臣であり従士副長でもある兄貴はどうしてるかって?

 黙ってるに決まってるよ、ちくしょー!

 こんな所で何かを言える程の経験も自信もないデス。


 あぁ、うちのちっちゃな妹は凄いなぁ……


「ならば、交戦を避けるというのは、却下だな。付近に丘がある。そこで待ち構えて、あたるぞ。600を粉砕し、しかる後にミュンドゥング市の援護へと向かう」

「アゼル様、無造作におっしゃられますけどね、敵戦力は三倍です、勝ち筋は? 部下達や有志の村の皆を無駄に死なせるのは、私は御免ですよ」


 凛とした女声が響いた。

 ノーラさんだった。

 俺には大体柔らかい対応してくれるこの戦乙女さんも言う時は結構、言うらしい。

 二十歳の若き当主であるサー・アゼルヴァリスは、そんな年上のお姉さんに対し眉をひそめてフン、と鼻を鳴らし、


「報告によれば敵にはやはり騎兵がいない。こちらには竜弓騎が50騎いる。そも歩兵とてこちらは魔物相手に日々戦闘を重ねてきた精鋭だ。それで平和ボケしているマナン・ディリス軍相手に200対600なら、やれない範囲ではない」

「敵にもリーゼのような者がいるとしたら?」

「いない方に賭ける」

「根拠は?」

「こんな規格外がそうそういてたまるか。弓でも剣でもノーラ(お前)と互角にやりあえる奴がいたら驚いてやる」


 なるほど、とノーラさんは頷いた。

 一般基準だと十分ノーラさんも達人だからね。リーゼさんが怪物過ぎるだけで。


「まぁ基本的にマナン・ディリスの兵は弱いとは聞いておりますからね……実際は、どうなのでしょうな」


 サーディックさんがダイラス老を見た。

 白髭の翁は胸元まで伸びるその長い顎髭をしごきつつ、


「二十年前ならば、弱かったのぅ。装備は良かったし、指揮官の多くも陣立ては悪くなかったが、しかし、兵達に粘りが無かった。連中は、連中が優勢の時は侮れぬ勢いがあったが、ひとたび劣勢になれば途端に崩れる。ただ、例外は何処にでもいたものじゃがな」

「貴重なお話を有難うございます。ですがおさ、昔話でなくて、現在をお聞かせ願いたいのですが」

「じゃったら、最近戦った者達がおるじゃろう?」


 とダイラス老は俺達を目で指す、


「フロレンティナ兵長を追っていた兵達がマナン・ディリス軍の標準であるとするなら、ですが……」


 リーゼさんが口を開き、再び周囲の視線は彼女へと集まった。


「マナン・ディリスの兵は一兵の質だけで言えば弱いと見ます。私が相対して感じたことは、マナン・ディリス兵達は誇りや勇気というものに価値をおいていない、という事。故にか彼等は不利になるとすぐに挫ける、名誉もないから簡単に味方を見捨てる、逃げる。そんな味方へは友愛も抱かないから、ますます隣で戦っている戦友の為に踏ん張らない。だから彼等は労苦に耐えようとせず、命を懸ける事を厭う。脆い軍です。士気の点でいえば食い詰めた賊達の方がマシというレベルでありましょうな」


 ちっちゃな女の子はマナン・ディリスの大の大人の兵達の質について、特に侮蔑などを抱いている様子もなく淡々と評価しているように見えた。

 だが、事実なのだろうなと思わせるものがあるだけに、散々な言い様にも聞こえる。

 サーディックさんが声をあげ盛大に笑った。


「つまり連中の根本的な体質は、昔も今も変わっていない、という事ですな」


 それに歴戦の老人が白髭をしごきつつ、


「ならば今でも例外のほうもいるかもしれん。お主に対して言うのはいらぬ言葉かもしれぬが、あまり侮るなよサーディック。まぁ例外というのは、数が少ないからこそ例外たりえるものではあるがのぅ」


 とクギを刺した。

 馬竜に跨っている童女は無表情で手綱を引きつつ、


「でしたら、やはり、いずれにせよ、初撃が肝要かと思われます。初めに一発ガツンとわからせてやればよろしい。恐怖は連鎖しますからね。周りが脅えて後退の波が産まれれば、勇者がいたとしても少数ではその波に呑まれ押し流される。逆に敵を調子づかせてはなりません。勝てる相手だと思われると敵の方が数が多いだけに厄介な事になる。特に弩の威力には注意が必要です。あれは近距離ではかなり貫通力がある。距離や角度によっては、鋼の竜鱗鎧であっても貫かれましょう」


 リーゼさんの言葉にサー・アゼルヴァリスは、


「なるほどな」


 と頷いて、彼は今度は俺を見た。


「ケルヴィン、お前の目から見て、実際のところはどうだ?」

「え、俺ですか?」


 俺は目を瞬かせたが、騎士は当然のことのように、


「そうだ。お前からの印象を聞きたい。お前は、フロレンティナ兵長を救う為にマナン・ディリス兵六名へと先行して突撃したらしいが、その際に苦戦したか?」


 ダイラス老もリーゼさんもああいってるんだから、マナン・ディリス兵への評価はそれで決定して良いような気もするんだが、まぁ聞かれたからには俺からの印象も答えるか。


「えぇと……」


 思い出す。

 まぁ一瞬、ヒヤッとはしたけれど、苦戦はしなかったよな?


「いえ、まったく」


 俺は答えた。


「後ろからリーゼの矢の援護を受けてましたし、相手は歩兵で、こちらは騎兵でしたから苦労はしませんでした。それに……確かに練度も士気も低かったですね。簡単にこちらのロングブレードを中てられましたし、太矢ボルトの装填も速くなかった。それでもって、相手は片足使えなくなったらそれで即、戦闘の意志を失いましたから」


 各領ごとに多少の違いはあるが、けれど基本的にはメリディア帝国の兵士達だったら、手がもげても足が動かなくなっても死ぬまで戦い続ける。それが兵士というものだと兵士になる以前からでさえ、親兄弟の話や寝物語などで精神に叩き込まれている。

 マナン・ディリスの兵達が同じだったら、ああも簡単には勝てなかった筈だ。


「というか連中、降伏して身代金支払うから命は助けてくれと向こうから言ってくるくらいで」


 マナン・ディリス兵は帝国兵とはえらい違いだった。

 まぁどっちが人間として正しいのかは俺にはわからなかったが。

 異様って言ったら、俺達メリディア帝国の人間達も異様なのかもしれないな? まぁだからこそ長らく大陸最強の帝国であり続けられたんだろうけど。


「なるほど、よくわかった」


 サー・アゼルヴァリスは頷いた。

 黄金の瞳のドラゴンは笑っていた。


「ならば、策は決まったな」

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