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粥と看病


「ただいま」


 家の中は暗かったが、リーゼさんは起きてたようで、自分の部屋で着替えてから寝室に顔を出すと「おかえり」と声をかけられた。

 もしかしたら、今まで寝てて、俺が部屋に入ったから、起きたのかもしれない。


「きちんと寝てたか?」

「うん、ちゃんと寝てたよ。にーちゃんのほうは、今日はお仕事、どうだった?」

「粘土と砂利取ってきて土と混ぜて、盛って叩いて、水撒いて、乾かして、叩いたよ」


 簡単に今日やったことを報告し、台所に向かう。

 仕事でくたびれてた事もあって、晩御飯にはまたあまり手間のかからない粥を作った。消化に良いし、それに結構、美味い。俺は粥がわりと好きだ。

 しかし、


「さ、三連続お粥……」


 リーゼさんは俺とは違ってあんまり粥が好きではないようだ。

 ベッドに運ぶと幼い顔にあからさまにがっかり感を浮かべてくださった。


「リーゼ、それもう、いらなーい、しょくよくなーい」


 口を尖らせて文句を言ってくるマイシスター。


「駄目です。きちんと食べなさい」

「えぇ~……あきたよう」

「駄目です。きちんと食べなさい」

「何か他の……」

「駄目です。きちんと食べなさい」

「あうぅぅぅ」


 絶望したかのように顔を歪めるリーゼ。

 手抜きだという自覚はあるので、ちょっと可哀想な気がしてきた。


「すまんな妹よ。しかし、兄が今お前にだせる食事は、これしかないのだ……どうか、涙をこらえて、食べてはくれぬか」


 俺がお願いすると、ベッドに横たわっているリーゼは、涙を溜めた青い瞳を半眼にして俺をじーっと睨んで。


「……じゃあ、にーちゃんが食べさせてよ。そしたら食べれる」

「えぇっ? 起きてじぶんで喰えよ……」

「やー! それもういやー!」


 よっぽど飽きたらしい。


「俺が食べさせれば食べてくれるの?」

「うん」

「味変わらんだろうに」

「かーわーるーよー」


 妹君はさっきまで涙目だったが、今度は期待に満ちたキラキラとした青瞳を向けてきた。

 お前の表情こそクルクル変わるね。


 俺は一つ息を吐くと、椅子を持ってきてベッドの脇に寄せて座り、このちっちゃなブロンド女の子のご注文の通りにする事にした。

 湯気立つ粥をスプーンですくって息を吹きかけてある程度さましてから、小さな薄桃色の唇の元へと差し出す。


「ほれ」

「んっ」


 ぱくりとリーゼはスプーンを口にくわえた。

 俺がスプーンを閉じられた唇から抜き取ると、妹君はもしゃもしゃと咀嚼し、笑顔を見せる。


「おいしい!」

「なら、普通に喰っても美味いんじゃ」

「わかってない……にーちゃんは、なにも、わかってない……! 食べさせて貰えるから、おいしーのに……!」


 ちっちゃな女の子はまるで美食家の郷紳かのような口調で、ふるふると首を左右へと振って力説する。

 そーいうもんなんだろーか。


「まぁ、それでおいしく食べてくれるのなら良いけどね。ほれ、あーん」


 またふーふーと冷ましてから運んでやる。

 リーゼは嬉しそうにまたぱくりとスプーンを口にくわえた。


 それを何度も繰り返す。


 これ、実は結構、神経使う。

 火傷しないようにきちんと冷まさないといけないし、枕元に溢さないようにも気をつかうし。万一手元が狂って顔の上に落としたりしたら大変だ。


 まぁでも、多少の神経は使うけれどもそれでリーゼが笑顔になってくれるのなら、安いものか。


 やがて皿の中の粥がなくなると、輝く海の色の蒼瞳を持つ娘さんは満足そうにふぅと息を吐いた。


「満腹です。おいしゅうございました」

「それはなにより」


 その様に意識せずフッと笑みが洩れる。リーゼの白金色の髪を一つ撫でてやってから、立ち上がり椅子を戻して、部屋を出た。


 一人、台所にいって、食器を水が張られた小盆の中に入れて、粥の残っている鍋をテーブルに運ぶ。

 スプーンを直接突っ込んで鍋を皿代わりにして食べる。

 味はそこそこだった。

 一人で喰う飯は、夜になって昼の熱気が去ったという事もあり、何処か、涼しいな。

 だがまぁ、別に俺はそういうのも嫌いじゃない。

 気楽だからな。

 鍋を空にすると食器と一緒に洗った。


 そうして、他のこまごまとしたことを片付けると、服を脱いで、カンテラの火を消し、ベッドに入った。

 自分で思っていた以上にくたびれていたようで、目を閉じたらあっという間に、俺の意識は深い闇の中に溶けていった。

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