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混ぜて、盛って、叩いて、撒いて、叩いて、叩く!

 粘土の採取場所は村を出て少しいったところにある小高い丘の、側面側にあった。今のところ、周辺に魔物の気配は無い。

 草木は周辺に生えておらず、褐色の土がむき出しになっている。

 この土が、粘土であるらしい。

 指先で触り、少し穿ってみると、確かに、粘り気があった。


「それじゃー、サクサク掘りますかね」

「おー」


 俺達三人は粘土の採取を開始した。

 特に難しい事はない。単純作業の繰り返しだ。体力は使うけどな。

 俺は精気ジンを操れるので、全身の力を強化し各種作業の効率をあげてゆく。


 ツルハシを振り上げ、振り下ろして褐色の土を砕き、砕き、砕き、掘り起した土を鋤を使ってまとめ、ズタ袋の中に詰め、肩に担ぎ、荷竜車の中へと積み込んでゆく。


「…………いやー、マジ半端ねぇわ。さっすが目覚めた男」


 グリエルモが口笛を吹き、セルシウスは何故か不満そうに「フン」と鼻を鳴らした。

 俺はむっつり顔をした幼馴染の少女へと視線をやった。彼女が何に苛立っているのか、わからなくて、問いかける。


「なんだよ?」

「別にそんな力、目覚めなくても良かったのに……」


 なんでこの娘はこういう事、言うんだろうね?


「お前も目覚めたかったの?」

「違うわよ。冗談じゃないわよ」

「俺は目覚めてーよ。なぁ、なぁ、ケルヴィン、それ、どーやったら、できるよーになるんだ?」


 俺が知る限りの方法だと、精気ジンを操れるようになる為には、まずリーゼさんととても仲良くなる必要があります――とは言えんわな。

 というか、家族以外でその状態になったら、異性が相手だと高確率でリーゼさんがお嫁にいってしまう事になる気がする。いや、婿取る可能性もあるけど。

 いずれにせよ、


 グリエル、貴様に妹はやれんわー! どうしてもというなら、


「それにはまず、俺の屍を越えてゆく必要がある」


 俺はファイティングポーズを取った。


「不可能事じゃねぇか」


 グリエルモがげんなりした顔をする。


「なにそれ、その力ってリーゼちゃんかアリシアさんに関係あるの?」


 本当にまったく興味なさそうにしていたのにセルシウスはやおら興味を惹かれたように尋ねてきた。

 うげぇ、墓穴ほっちまった?!

 ていうか、


「なんでそこで二人の名前がでてくるっ?」

「なんでって……」


 ポニーテールの十五歳の女は、横目で俺を流し見するようにブラウンの瞳を細めて「フッ」と笑い、


「それを聞く?」


 こいつは、一体俺をどーいう目で見てやがるんだ。


「違うから。その二人はぜんぜん、かんけーないから」


 俺は憮然とした。


「へー」

「そっかー」


 友人二人の目がなんだか生暖かいです。


「なんだよ、お前ら!」

「いや、良いケルヴィン、わかっている。わかっているとも。皆まで言うな」


 グリエルモが訳知り顔で俺の肩をポンポンと叩く。

 うわ、なぐりてぇ。

 セルシウスがくすくすと笑った。


「カマかけただけだよ」


 あっ、そうでしたか……

 俺は歯噛みして半眼で少女を睨んだ。


「でもまー、ケルヴィンが身体はるったら、それくらいだもんね。だってアンタ、あたしの為に命を賭けて戦ってくれる?」

「賭けるくらいなら、するさ。襲来した魔物と戦う時なんて、そんなもんだろ」


 命を引き換えにしろって言われると、さすがにちょっと無理だろうけどな。


「そ、そう……」

「お前だってそうだろ?」


 じゃなけりゃ、なんでギガントアントの時、あの場所で踏みとどまっていた。

 自分の身だけを考えるなら、振り返らずに一目散に逃げるべきだ。アニャングェラの時に俺とリーゼの周りにいた、村の人々がそうしたように。それがこの村で生きる上での鉄則だ。


 セルシウスは俯いて顔を伏せ、視線を逸らした。


「それは、その……そうかも、しれないけれど……」


 なんでぇ、もしかして違うのだろうか。

 ちょっと残念。

 

「ま、ともかく、ケルヴィンに殺されたくねぇから、やめとくわ」


 グリエルモがカラリと笑った。


 俺達はそのようにあれこれと会話を交わしつつ、粘土を砕いて採集し、荷竜車の荷台へとうずたかく粘土入りのズタ袋を積み上げていった。


 空の袋がなくなったところで、ロープを張る。

 積まれたズタ袋が崩れて荷台から転げ落ちないようにロープを荷台の端から、反対側の端まで、ズタ袋の山の上を通して、固定するのだ。

 斜めに交差するようにも張って、全部で五本程を張る。


「よし、こんなもんか」


 最後のロープを端に結びつけて固定し、俺はパンパンと両手をこするように打ち合わせて、手についた砂埃を落とした。


「それじゃ、出すわよー」


 御者台よりセルシウスの声が響いた。

 赤茶色の髪の少女が四頭の竜を同時に操り、荷竜車をゆっくりと発進させる。

 大量の積荷を荷台に積んでいる時は、出だしが大事だった。

 乱暴に扱うと、荷山が崩れたり、地形によっちゃ下手すると荷台が横転しかねないからだ。


「おーう」


 俺はグリエルモと共に荷山と荷台の端に手をやって、荷山を抑えつけるようにしつつ、台を後ろから押した。

 空荷の時は荷台に乗っていられたが、帰りは徒歩だ。


 そうやって粘土が満載された荷台を押しつつ俺たちは帰路を進んだ。


 夏の太陽の下をえっちらおっちら帰り、土塁建設現場に戻ってくると、


「お疲れ様、副長。早いな」


 現場指揮を取っている様子の桃色の髪のおねーさんが、微笑を浮かべて俺達を労ってくれた。


「ノーラさんもお疲れ様。で、これ、どうするの?」


 荷台に積み上げられた、粘土が詰まったズタ袋の山を抑えながら問いかける。


「ん~~~、混ぜるんだけど、砂利がまだだから、そのあたりにまとめて置いておいてよ」

「わかった。じゃあ、次は砂利か」


 俺達は荷台からズタ袋を降ろしてゆき、一箇所にまとめると、昼食を取った後、今度は砂利を集めに山に向かった。

 採取場所へと到着すると、粘土の時と同様にズタ袋に入れて荷台に載せる。満載してロープで縛って固定し、また現場へと戻る。


 道の途中、小型の鳥型の魔物が襲ってきたが、精気ジンで肉体を強化しつつ石ころをぶん投げて撃墜した。

 我ながらナイスぴっちんぐ、へへん、どんなもんよ! 餓鬼の頃やってた遊びを思い出すぜ。


「ふ、黄金の右は健在なようね……魔弾の投手、我が宿敵よ……」


 夏の風にガーネット色の前髪を揺らしながら少女が不敵に笑った。

 え、いや、そんな異名で呼ばれた記憶はないんだが……

 まぁでも、打者セルシウスをきりきり舞いにさせた記憶ならある。

 しかし、魔弾の投手、ちょっと疾風かぜを感じるかもしんない。


 とりあえず、頑丈な魔物や鎧兜を纏っているようなヤツ相手だと威力が足りないが、鳥型の魔物は飛べるかわりに脆いのが多いので、精気ジンを燃やして肉体強化の法を使えば、投石でも十分撃退可能なようだ。


 そうやって仕留めた鳥型の魔物の骸をグリエルモがドラクマ銀貨五枚で譲ってくれと言ってきたので、元々捨て置くつもりだったし譲った。

 そんなものどうするのかと思ったが、彼は捌けるルートを持っているらしい。羽や骨肉が鍛冶での素材になるとの事だ。

 俺はこの前、大量に飛蝗人の骸を焼き払ったことを思い出した。


 あれ、もしかしてサー・アゼルヴァリス、ものすごくもったいないことしたんじゃ……


「飛蝗人の骸も売れたりする?」

「飛蝗人?」


 忌むべきものの名を聞いた、とでもいうように黒髪の少年が顔を顰める。


「あぁ、あれは、駄目だ。呪いを呼ぶから、すぐ焼かなきゃなんねぇ、そうしないと、他の魔物が集まってくる」


 飛蝗人、群れれば幾つもの村や町を喰い滅ぼし、死しても呪いを撒き散らす存在モノであるらしい。

 とことん滅びの申し子だな。

 さすがいなごの化け物。ただの蝗でも群れて大発生すると魔物以上の大災厄だしな。


 魔物にも素材として売れる魔物もいれば、売れない魔物もいるようだ。

 まー、よく考えれば、代官や衛兵というのは村の守護者であり、対魔物のエキスパートでもある訳だから、売れるんだったらサー・アゼルヴァリス達がそんなヘマする訳なかったか。


 どれが売れて、どれが売れないのか、俺にはよくわからない。

 魔物大辞典モーグル先生にはそういう生活に密着したことは、載ってないからな。

 グリエルモがいる時は、素直にこいつに任せたほうが良さそうだ。

 相場などもあって時価で変動するから、通り一遍の知識を覚えれば良いってもんでもないようで、商売人じゃない門外漢が安易に手を出せる分野じゃない。


 現場に到着すると、ノーラ先生の指導のもと、俺達は土と粘土と砂利を、サー・アゼルヴァリスの注文通りの割合で混ぜ合わせた。

 そして、ノーラさん達が打ち込んでおいたという木杭の付近へと、大容器を運び、鋤等を使って盛ってゆきハンマー等を使って叩いて固め。叩いて十分に固めたら、水を撒いた。


 雨降らば大地固まる、という言葉が古くから帝国にはあるが、水を撒くと土というのは締まるものらしい。本当に盛られた土の高さが減ったような気がする。


 そうして、炎天の下ある程度また渇いたら、ハンマー等でさらに叩き突き固めてゆく。

 そして、またその上に適当な量を盛る。

 その繰り返しだった。


 土塁の角度は村に対して外側となる面からすると四十度程度になる急なもので、反対側の村に面する内側からの傾斜は、それよりもぐっと緩やかだった。

 内側と外側で角度に差がある。

 村側からは登りやすいが、外側からは登りにくい。


 まだまだ、完成までの道のりは長そうだったが、こうして少しでも形になってくると、なんとなく、俺にも完成図が具体的に見えてきた。こうなると結構、働き甲斐があるな。


 暗くなるまで作業をし、皆で解散の挨拶をする。

 ノーラ隊長達はこれから村の酒場に繰り出すとの事で俺も誘われたのだが、俺は妹が家で寝込んでいるので、と断りを入れた。

 ノーラさんは何か難しそうな顔をしていたが、


「う~ん、それじゃ仕方ないよな。皆には私から言っておくよ。明日はきておくれよー」


 との事だった。

 なんだろう、何か、俺が酒場にいくのは当たり前みたいな流れだったんだが、もしかして出なきゃいけなかったんだろうか……?


 す、凄く疲れそう。


 グリエルモやセルシウス相手なら良いし、ノーラ隊長も良いけど、でも他の人たち良く知らないし……おまけに人数も多いのだ。

 三交替の最後の区切りには二十人ほどがきていた。ほとんど衛兵隊の人達なようだった。

 朝も昼も五人程度だったので、かなり時間帯で集まってる人数に差がある。

 二十人以上なんて、そんな大勢で酒場で飲むなんて、経験ないぞ。そもそも酒場自体へいった事が数える程しかない。


 ああ、人の世というのは本当に面倒な事が多いなぁ、なんて溜息をつきつつ俺はランタン片手に借家への帰路を歩いていったのだった。

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