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不完全プレディクション

第三話です。智良の日常を描こうと思ったのですが、ルームメイトのオリキャラのほうが目立っているという事実。

 それにしても、最高の文化祭ねぇ。

 承諾してしまったものの、どうすればいいのかには皆目見当もつかなかった。


 文化祭と言えば、その名の通り、文化部の最大の見せ場であるのだが、智良は部活には所属していない。文化系の部活にはしょっちゅう顔は出していたから、その顔の広さを関西弁のフランス人少女は買ったのだろうが、二年下の後輩を選ぶのは人選として正しいことだろうか。


 最後の文化祭を最高の思い出として残したいのであれば、それこそ彼女の親友であるぎょうひめ元会長と同行すればいいと思うのだが、マノンは笑顔で首を振ってみせた。


「姫ちゃんとは去年も一昨年も一緒に文化祭を見て回ったさかい、もう十分やと思うてな。もっとも、見て回ったというても問題がないかパトロールするだけやったから、純粋に文化祭を楽しむというのが、うち一人じゃどうにもでけへんような気がするんや。だから、水先案内人がつとまるような子を捜しとったわけや。……それにな。姫ちゃんは根っからの仕事気質の子やから、問題が発生したら遊び心ほっぽり出して駆けつけちゃうやん? 楽しむどころじゃなくなるっちゅうわけや」


 とにかく、弱みを握られている以上、智良としてはラッキースケベを考える時間を割いてまで、ちんまい元副会長のためにあくせく動くしかない。少なくとも厳格かつ冷ややかな元会長よりは、底は見えないが印象の柔らかな副会長のほうがいくぶんかマシのような気がした。


 まずは、文化部の面々が文化祭で何を売りにするか確かめねばならない。幸い、智良のルームメイトも文化部に所属しているので、桜花寮の自室に戻ると同時に尋ねてみた。


「ねえ、うらべぇは文化祭で何やるつもりなのさ?」

「うらべぇ言うなッ」


 怒りの声とともに何かが智良の顔面に当たった。床に落ちたので拾い上げてみると、どうやら親指ていどの大きさの小石のようだ。しかし、ただの小石ではない。幼少期の智良なら宝物として取っておきそうな、透き通った琥珀色の石である。もっとも、ルームメイトは高等部に上がった今でも『パワーストーン』としてありがたがっているのだが、そのような霊験あらたかなシロモノを粗末に扱っていいものだろうか。


 うらべぇことうらほろは、占術同好会のただ一人のメンバーだ。さまざまな占いに精通しており、同性からそれなりに頼りにされているようで、実際、智良もラッキースケベを行うのに最適な場所とタイミングを占ってもらったことがあった。今回はマノン嬢の工作によって外れてしまったが、過去にきよへのアプローチに成功したのは、半分ほどは彼女の功績によるものである。


 中肉中背の体格で、髪型はミステリアスぶりを意識しているのか、眉を隠す勢いのぱっつんである。しかも色の濃い黒髪なため、髪だけ見ればエジプトの女王さまと思えなくもない。智良は、ルームメイトになったばかりの彼女にも挨拶代わりのラッキースケベを提供したが、そのときの麻幌は恥じらうそぶりを見せず、どこか達観したようすで智良を見つめていた。


 では感じの悪い少女かと言えば決してそのようなことはなく、ミステリアスを装った善人という評価が、智良を含む万人の一致するところであった。ルームメイトどうしで他愛ない会話を交わすこともあるし、前述通り、智良のくだらない要望に対しても力を貸していた。『うらべぇ』呼びで怒るのはもはや様式美で、もちろん石だって本気でぶつけてきたわけではない。

 だからこそ、智良も微笑んだままでいられるのだ。

 智良の問いに、麻幌が呆れたように応えた。


「決まってるでしょう。占術同好会が占い以外に何をするというの」

「そりゃそうだ。ちなみに今年の文化祭が最高のものになるか、占ってくれる?」


 ルームメイトからすれば、占いを頼まれることは彼女の自尊心をいたく満足させるものであるはずだが、麻幌は智良の要望に難色を示した。


「内容が抽象的すぎるわね。一体誰にとっての最高を占えばいいの?」

「うーん……」


 智良は判断に迷った。ここでマノンの名前を出していいか戸惑ったのだが、麻幌は智良の逡巡を違う意味で解釈したようだ。


「あなた以外ってことは、五組の御津さん?」


 御津清歌に対するルームメイトの執心は、麻幌も知っているのだ。

 いらぬ誤解を招く前に、智良はさっさと頷いてみせた。


「そうだね。とりあえずはそれでお願い」

「とりあえずは、って……」


 ぼやきながらも、麻幌はさっさと支度をしてくれた。といっても、取り出したのは水晶玉一つだけで、丹念に磨いてから机の上にある台座に置いた。智良にカーテンを閉めて電気を消すよう命じる。


 本職の占い師よろしく、麻幌は両手でかざしてみせた。暗くなった部屋で、水晶玉だけが妖しい光沢を揺らめかせている。麻幌は真剣な表情で水晶玉にパワーを送っているように見えるが、智良の目には何も映らない。実は、水晶玉は演出のためだけの道具で、占いの内容も当てずっぽうで言っているだけではないかという懸念もあったが、当てずっぽうにしては具体的で、かつ、実績があり過ぎるのだ。その神秘的な演出で成果が上がるというのなら、智良としては止める権利はなかった。

 やがて、麻幌は水晶玉から手を離し、智良のほうを向いた。なぜか、その頬は赤く染まっている。


「……御津さん、文化祭当日に押し倒されているわ。ブラウスもはだけてる」

「ええええっ!?」


 麻幌の赤面が智良にも伝染した。御津清歌を恥ずかしがらせることに小学生じみた悦びをおぼえる智良であるが、強引に押し倒して服を脱がせるとなると、いくらなんでも領分を越えすぎている。自分の下着は見せつけることができても、相手の下着はまともに見られない。その点で言えば、智良はきわめて純情な変態さんだった。

 慌てて両手を振った智良である。


「あたし、清歌にそんなことするつもりないよ!」

「別にあなたと御津さんの相性占いというわけじゃないわ。押し倒してる相手が別の人とという可能性もある」

「そっちのほうは見れないの?」

「私に見えるのは、仰向けにされた御津さんだけよ」


 言ってから、邪念を払うかのように麻幌はかぶりを振った。智良も考え込んだ。このことを清歌に警告したほうがよいかもしれない。盛り上がるべき文化祭当日に何者かに陵辱されるとなれば、最高どころの話ではない。ただ問題は、麻幌の占いが信用されている以上に、自分が清歌に警戒されているということである。


「文化祭に押し倒されるカモ」


 と真剣に語ったところで、清歌は犯行予告としか受け取らないだろう。マノンならまだいいが、清歌が元会長に助けを求めにきたら事態はかなり厄介なことになる。

 結局、その問題を未消化にして、智良は話題を変えた。


「それで、あたしのほうはどうなの?」

「はいはい。今占うから待ってなさいよ」


 せかされた麻幌はもう一度水晶玉と向き合い、両手をかざした。先ほどと同じ沈黙。ただ、途中で麻幌の眉がぴくりと動いたのを智良は見逃さなかった。

 麻幌が向き直る。顔色は変わらなかったが、表情は清歌を占ったときも深刻そうに見えた。


「……悲しい泣き方をしてた」

「ふぁ? あたしが?」

「そういうことになるわね」


 不安そうに麻幌は告げたが、正直、智良としてはあまり実感が湧かない。『あなた泣くわよ』と予見されても、中途過程が語られない以上、どう対処すればいいのかわかりようがないのだ。泣けるほどの事実など、このときの智良には持ち合わせていなかった。


「パンチラ決めようとして、派手にずっこけたのかな?」


 思わず、そんなことを口走ってしまう。

 麻幌は呆れ果てた。


「それで泣くの? まあ、あなたがそれで納得するなら別にいいけど……」

「別に納得してないよ。だいいち情報量が少なすぎだって。もうちょい何かないと」

「占いは万能じゃないの。とりあえず忠告はしておいたから、せいぜい気をつけることね」

「はいはいわかりましたよー。占ってくれてありがとね」

「それならヒャンタのブドウでお願いするわ」

「いつものね。はいはい了解さん~」


 おう寮の寮生の居住区は二階からで、一階にあるのはロビーと寮監の事務室だけだ。ロビーには自動販売機が置かれてあり、麻幌にジュースを奢るのはもはや恒例行事となっている。

 智良は私服に着替えて、いつもどおり占いの報酬を購入した。寮部屋に戻ろうとしたとき、智良にとって最も聞きたくない声が明朗に響き渡った。


「まあ、チラちゃん! こんなところで出会えるなんて、まさしく運命ですわねっ♪」


最後のセリフは星花女子プロジェクトの他作品からのゲストでございます。ま、口調で誰かはおわかりですよね? 次回は彼女がメインになりそうです。

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