確率1%を共に背負う覚悟があれば
この前は間違って朝5時に投稿してしまいました……申し訳ありません。以後、気を付けます。
魔法と言うものは何時の時代もズルい。
魔力さえあれば、才能と素質を無視して超魔法! みたいなことができるのだから。幻術が本職の奴が何か? なんで、街をも吹き飛ばす超魔法が使えんだよ……予想できるわけないだろ。
そんな減らず口を愚痴る思考を振り切って、軋む体を無理やし起こし、重い目蓋を開く。あの超魔法を目の当たりにしたのだ、無事で済むわけがないのだが……不思議と強烈な痛みは……。
「____________っぅ。なわけないか……右腕が折れてるなこれ」
「……喋る気力があるのなら、早く退いてくれないか?」
右腕を押さえながら痛みを堪えるアヤトの目の前から声が聞こえる。そこにいたのは、降り注いでいたのだろう瓦礫を食い止める青髪の鎧騎士エルフ……ラルハが瓦礫を賢明に止めていた。
その事態を一刻も早く脳へ響かせ、アヤトは「お、おう」と弱めの言葉と共にその場から退避する。アヤトの退避を確認したラルハは躊躇なくその手を放し、バックステップで瓦礫を交わす。
「大事ないか?」
「それ、お前が言う台詞じゃないと思うぞ?」
アヤトは苦笑と共に目の前の砕けた鎧を見る。
ラルハもあの魔法の被害は受けていた。美しかった青髪は誇りを被り、頬には無数の擦り傷。言った通り鎧は砕けており、その合間から見える肌も無数の傷と血が見える。アヤトに比べれば、かなりの重症だ。
不意に見えたブラジャー? さえも赤く滲んでいる。
ラルハを見ているうちに気づいたこと……それは、ルウシェの魔法によって、この空間自体が崩壊へ向かっているということだ。建築物は潰れ、民家さえも跡形なく瓦礫となっている。何処かにでもあったのだろう水は宙に浮き、スライムのような感じで変形を続けていた。
「ルウシェの精神状態と関係しているのか? あの超魔法を放った後だし、普通なら暫く動けないとかの反動もあるだろ。ラルハ、ルウシェの場所とか魔法で把握できないか?」
「悪いが、索敵系統の魔法には疎くてな……近接系統のエルフなんだよ、私は」
なんだよ、近接系統のエルフって。
エルフと言えば、魔法だろーに……とも、考えてられないな。なら、ルウシェの位置を把握するのが先決か。
「よし、一端隠れ……」
「悪いが、その希望は叶えてやれないな」
刹那、アヤトの言葉を遮った黒いの瘴気がアヤトを襲う。いち早く気づいていたラルハが反応し、短い詠唱後、顕現した紫の剣でその魔法を弾き返す。その弾き返した先にいたのは、見間違えることのない破壊の張本人____________ルウシェだ。
不適な笑みを浮かべながら既に此方に歩いてきだしていた。
「ふふっ、しぶといですね? アヤトくん」
「それが真骨頂なものでな。っち、反動で動けない……みたいなことにはなってなさそうかよ」
「ふふふっ、貴殿方に勝ち目なんて1%もありませんよ? 大人しく消えてください」
「悪いが、ここからも悪足掻きさせてもらうさ……ラルハッ!」
アヤトの怒号にも近い声が響く。
ルウシェは気づいていない……既にアヤトは先手を、終わりへ導く最終の1手を打っていることを。ルウシェが大きく目を開く瞬間、その目の前には既に剣を振りかぶるラルハがいた。
「____________っ!?」
「いっけぇえええええ、ラルハァァアアッ!!!」
「言われなくとも!【強化】____________ はぁぁあああっ!!!」
振り切ったラルハの斬撃が、ルウシェの腹部をえぐり、そのまま身体が真っ二つになる。そして、ラルハでかけた魔法……強化により、威力が嵩ましされると、ルウシェの体は跡形もなく消滅していった。
着地したラルハは剣を消し、ふぅ……と、脱力する。
「……この惨事を招いた相手としては、呆気のない終わりだったな」
「うん、やめような? それ復活フラグだから____________あ、やっぱ終わってないみたいだぞ?」
「なにを言っている、こうして私が……」
「____________ 【集点誘導】」
アヤトに続いてラルハの声を遮り、周囲に黒の瘴気が雨のように降り注ぎ、足場を粉々にする。次はアヤトいち早く気づき、ラルハとアヤト自身の力を誘導した結果、2人に傷はなく、あるのは目の前の黒く染まったルウシェへの恐怖感だけであった。
「……ふふ、ふふふふ、もう終わりです。終わりにしましょう! 罪を! 早く消えてくださいっ!!!」
「アヤトは逃げろ! ここは私……がっ……は」
「ラルハッ!?」
振り返り前方へ先手をかけようとするラルハが一瞬で黒の瘴気に呑まれると、そのまま首を鷲掴みにされ、アヤトの方向へと投げ返される。何とかその体を受け取とったアヤトだったが、ラルハが既に気絶していることに気づく。
ラルハを、エルフを一撃でだと? マジふざけんなよ、 アンバランス世界! どうすりゃいい?! 考えろ、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて……ルウシェを、こいつを助ける方法を! 言葉を!
「終わりです、アヤトくん。もうルウシェに……ヤエガスミに関わるのは」
「……また、引きこもるのか」
「はい?」
こいつは、ルウシェは、またここで1人寂しく暮らすのか?
友達もいない、家族もいない、話す相手すらいない! そんなつまらない世界でルウシェは生きるのか?! もういいだろ、そんな現実を味わうのは……俺だけで十分だ。
「現実を受け入れろとは言わない。俺だって、この世界も元の世界も大嫌いだ。だけど、それはお前が1人になっていい理由にはならない」
「……何を勝手な事を言っているのですか? 私は、ルウシェの罪は生き残ってしまったことです。あの戦争で……1人、1人無惨に!」
「生き残った事が罪なら、生き続ける事も罪なのかよ……」
「……何が言いたいのですか」
……これか、これなのか。
これが、この最低最悪の窮地を突破する言葉なのか? ……巫女音、許してくれ。今、この一瞬だけお前との約束を破る。ごめん、俺は……こいつを、ルウシェを助けたい。
「その罪……一緒じゃ駄目か?」
少しずつ、少しずつ、ゆっくりと歩いていくアヤト。
驚愕を通り越して憤怒となっているルウシェは、黒い瘴気を感情のままに操り、アヤトを襲おうとする。怒るのは当たり前だ……アヤトの先程の一言は言ってはならなかった一言。1人、この【アルマテアン】を守ってきた者としての存在を完全に侮辱したことになる。
それでも……それでも、アヤトは歩いていく。
能力は使わない……いや、使えないのだ。ここで能力を使ってしまえば、アヤトはルウシェを侮辱したことを認める形となる。それだけは……それだけは、絶対にやってはならない。
「私に……ルウシェに、存在価値はないです! そんな罪を共に背負うというのですかっ!?」
「人の存在価値を決めることはできない……例え、自分が自分の価値を決めることさえも、だ」
その言葉に反応したルウシェの瘴気がアヤトの腹部を貫き、激しい嘔吐に見舞われる。脳が沸騰しそうな一撃……だが、アヤトは倒れることなく前に進む。
「……もう、いい、です。これで……これで、全部終わりにさせますっ! ルウシェに自由なんてない! いらない!」
ルウシェの瘴気が一点に集まり、大地を震えさせる。
これは先程感じた魔力……あの超魔法だ。次、撃てば確実にこの空間は壊れるだろうことも考えずにルウシェは魔力を増幅させている。そして……、
「【エグゾード・バー____________」
それは、発動しなかった。
破壊の衝撃の変わりに暖かい限りの温もりが。
破壊の風圧の変わりに長く感じていなかった人の鼓動が。
ルウシェを強く抱き締めたアヤトによって、その魔法は不発に終わっていた。
「辛かったんだな。大丈夫、ルウシェはもう1人じゃない。お前の犯したと思っている罪がお前を縛り付けるなら……その罪は俺も背負ってやる」
もう、あんな人間を、生命を生み出してはならない。
「生きる理由がないなら、俺が作ってやる」
もう、あんな悲しい思いなんてなりたくない。
「……貴方、は……アヤトくんは、お馬鹿、なの、ですか?」
「たった1%以下の勝率で勝とうとした俺だぞ? わかりきったこと言ってるんじゃない」
アヤトの温もりの中で泣きじゃくるルウシェ。
本心、ルウシェは解放されたかったのだ。過去の植え付けられた呪縛……誰がかけた訳でもなく、誰が企んだわけでない。ルウシェが……ルウシェ自身が作った罪なのだから。
「3つあります」
赤面するルウシェは泣いた顔を見せたくないのか、アヤトの腕に体を埋め問う。
「……貴方は、アヤトくんは、私を救ってくれますか?」
「イエス。当たり前だ」
1度は殺そうとも、殺されそうともされた仲だぞ? もう一生切れない縁だろ。
「……私は、ルウシェは、アヤトくんを信じていいのですか?」
「イエス。皆信じるのが無理でも、俺だけは信じてくれていい。絶対に裏切らないと誓うぞ」
裏切れない……こんな、俺自身が鏡に写った少女を。
「最後に……ルウシェ……は、生きて、いいです……か?」
ルウシェは既に死んでいる____________だからなんだ? ルウシェは今、ここにいる。今、俺の目の前にいる。なら……当たり前じゃないか。答えは……真実はいつも!
「……イエス。ヤエガスミの未練、この世界を支配して示そうぜ」
「はい、ルウシェも……アヤトくんを信じます」
震えるルウシェの体と声。
怖かった。恐ろしかった。嫌だった。やめたかった。諦めたかった。認めたくなかった____________助けてほしかった。
それだけ。たったそれだけだった。
***
「全く、目の前でイチャイチャ見せつけて……ふぅ、これで女王の任務は達成だな。さて、そろそろか」