葛藤する鏡(ホムラ)は、鏡(アヤト)を写す
____________第8国【エルフルクス】。
自然溢れる豊かな、この国。
透き通った空気と大森林に聳え立つ巨大樹は、その国の象徴として天高く連なっていた……はずであった。
「総員、南部への防衛に当たれ! 女王様が不在の今、絶対に我々で死守するんだっ!!!」
美しい自然の殆どが津波により壊滅した大地で、蒼く煌めく鎧騎士のエルフがかなり大きな声で指示を出す。その指示により多くのエルフが大空を埋めつくし、未だ迫る津波に向けて魔法を放っていく。
丁度、フィラルがラメイソンに到達した直後、このエルフルクスには最悪の災害が訪れていた。巨大津波と共に現れたのは、幾つもの竜……を、背後に聳え立たせた少女達。その少女達は、エルフルクスとの対面することなく、無差別破壊を開始し始めていた。
「あの竜……アクアドラゴンか。だとしたら奴等は」
思い当たる節を脳裏に描いたラルハ____________に、迫る水のスクリュー……
「____________っ?! 【エンチェント】」
……に、即座に気づいたラルハが強化魔法で刹那の回避。相手を探る事をせず、次なる一手を放とうと、魔法の剣を顕現させ、ラルハが跳躍。
(見上げれば見えると思ったのだが……気配すらないだと?)
索敵が不得意なラルハに、気配のない相手を見つけるのは不可能に近い。先程の一撃は魔力によるものでないとしたら尚更だ。
「なら……周辺全てを斬るしかない、なっ!」
自然の心配をしている暇はない。大切な物を守るのであれば犠牲は付き物だ……と、ラルハの信念の居合いによる旋風斬りを周囲の森全体に放つ。真横一閃に放たれた斬撃は森を真っ二つにし、その内の1本に不思議なノイズが走る。
「____________っ! そこかっ!」
「あらあらぁ、緩~くバレちゃいましたかぁ?」
ノイズの見えた方向に落下し加速していくラルハに対して、発生していたノイズが段々とクリアになり、姿を現す。
巫女服のような着物に腰には少し大きな蒼いリボン。
自然の風に揺られる髪は黄緑と黄色のクラデーションのよう美しい。幼いが、その背後の蒼き竜から殺気に近いオーラのようなものが見られた。そして、
「……命令を緩~く、遂行します」
ラルハの刃を片手で受け止めた。
衝撃はまるでアクアドラゴンを避けるかのよう背後へと流れ、受け止めた手に傷は見えない……ラルハは即座に思考を逆転させ、剣を無理矢理折り、着地と同時に折れた剣をアクアドラゴンに向けて狙う。
「素晴らしい判断ですぅ……が、まだ緩~くないですねぇ」
アクアドラゴンの腹部へと狙われた剣が到達する刹那、アクアドラゴンが一瞬の回転と回し蹴りを放ち、剣が高く上げられる。
速い。スピードやパワーだけでない……判断が速すぎる。
「くっ……体勢が……!」
「緩~く、くたばってください」
体勢の崩したラルハに向けて、ドスンッ! と、アクアドラゴンの拳が放たれる。腹部の鎧は一瞬にして砕け、激しい衝撃波が大気を揺るがしていく。
「____________カハッ」
まるで衝撃波が遅れてやってくるよう……何発も何発もラルハの体を揺さぶり、最終的に大樹へと突き飛ばされた。
「命令完了。緩~く始末しましたぁ」
アクアドラゴンが振り返った瞬間、ラルハが衝突した大樹は崩れ落ち、エルフルクス全体に大量の風圧……そして、何故か火が灯っていく。
「アイリス様、お疲れ様です」
アイリスと呼ばれたラルハを倒したアクアドラゴンが部下よりコートを着せられる。
「次は……デウス・マキナでしたね」
「はい、此方も女王不在との情報です」
「わかりましたぁ。緩~く、潰しちゃいましょう」
その日、この時間____________エルフルクスは《脱落》した。
***
(……ぬ? エルフルクスからの魔力が途絶えおった……? これはどういうことじゃ……)
上空から無事着したアドラメルクがエルフルクスの方向に目線を向けて違和感に思考を回す。その隙に……と、ルトルスがアドラメルクへ重力魔法を放ったが、それはフィーネの鑓によって簡単に砕かれてしまう。
「へぇ、ホムラっちよぉ。あいつ気づいたみたいだぜ?」
「流石はビーストレス。悪魔と獣の融合体は勘が良いようで……だが、間に合わねぇよ」
言葉に合わせてホムラが動く。
フィーネの雷の鑓やノアの蒼雷を避けながら、アドラメルクの間合いへと到達し、右拳で殴りかかろうとする……が、それはアドラメルクの炎の壁によって防御されてしまった。
「……っち、シャ____________」
「お主、何をした?」
「____________なっ!?」
ホムラに立ち塞がる炎の壁を壊そうと拳をぶつけたホムラだったが、それはアドラメルクの両手によって掴まれ、封じられる。炎から腕と目、そして黒い影を顕にし、アドラメルクは怒りの声で問う。
「お主は何をしたァァァアアアッ!!!!!!」
「ぐっ、離しやがれ……!」
「燃え尽きて灰となれ____________【クリムゾン・ヘル・フレア】」
捕まれた手より魔法が展開し、ホムラを一瞬にして地獄の業火が包み込み爆発する。周囲の民家は全て燃え尽き、その熱量によって地面までもが溶岩と化していく。溶けた地面の亀裂から強烈な熱風も発生し、その風は空高く舞い上がっていく。
「何したかって?」
「____________っ!?」
「あちぃな……」と、アドラメルクの炎を受けながらもホムラが炎を掻い潜って、アドラメルクの腕を激しく掴む。
「……ラストチャンスの死物狂いだよ。悪足掻きので最悪最凶の一手だよ。てめぇらが何て言おうと、俺はこの地獄を突き抜けるんだ……てめぇらに兎や角言われる筋はねぇっ!!!」
「ぐっ……!」
掴んだアドラメルクを宙に放り上げ、ホムラの渾身の一撃が腹部を抉り、街を割る衝撃がフィナーレを包み込む。遥か彼方に吹き飛ばされたアドラメルクを助けようと、ノアがその体を受け止めるが____________それは、容赦なく道連れとなった。
「エルフルクスは壊滅する。それがこの戦争における俺達の最善策だ」
「……なんだと?」
言い切ったホムラの直後、それは身体中を震撼させるかの如く聞こえてきた。その瞬間、ルトルスは何もなくその場に倒れ、ホムラも目を大きく開いたまま動こうとしない……否、動けない。
「……おい、今、何て言った? エルフルクスが壊滅する? お前らの敵はフィナーレだろうが……フィラル女王も国を離れて俺らの仲間として戦ってる。何故、エルフルクスが巻き込まれる?」
低いトーンで独り言のように呟くアヤト。
何時、現れたのか。何処で姿を顕にしたのか。今更だが、そんな情報がホムラの頭の中を駆け巡ろうとする。そしてホムラは見た____________アヤトの背後に聳え立つ黒き魔神を。フィーネさえも驚愕させる豪腕な魔神を。
「アヤトさん……その魔神は、まさか」
「アルマテアン____________ヤエガスミの、魔術……!」
「……フィーネ。コッペリアに向かってくれ」
「え、でも……」
「此方は任せろ。フィナーレは守ってやる」
唸る魔神を見せつけるようにアヤトは目線で「いけ」と、フィーネに送る。それに頷いたフィーネは能力で消えていった。
何故だ。何故、アヤトさんが……と、今は無きはずのルウシェを探そうと無理矢理、眼を動かせる。だが、その刹那……ホムラは容赦なく魔術により大地に殴り付けられた。
「……がっ……!」
「答えやがれ。なんでエルフルクスまで巻き込む……!」
「ぁ……あん? そんなの、てめぇらの同盟国だから、だろ…………勝つための、戦法……だ」
勝つための戦法……だと?
本気で言ってるのか、こいつは……俺と同じ異世界出身てことは、あの世界の人間だろ。なら、見てきたはずだ____________最悪の道連れを。
「お前は見たことがないのか……関係のない人が巻き込まれて殺される最低最悪最凶の絶望を……!」
「……それはテロの事を言ってる、のか? そんなの____________」
「____________違う。わからない振りするなよ……お前の性格を見ていればわかる。その目、その口調、そしてその最悪の色。俺と同じ境遇に立った事があり、絶望し、恐怖し、殺意を抱いた」
「……知らねぇ……うるせぇ、うるせぇよっ!!!」
アヤトの魔神を振り払い、渾身の一撃をアヤトに放とうとするが、それはアヤトの能力により外れる。即座に後方へ跳躍し、構えを取ろうとするホムラだが、そんな暇も与えないアヤトの魔神が既に迫っている。しかし、ホムラは連撃を紙一重で回避し、豪腕な力の威圧で地面に亀裂を入れる。
「てめぇに何がわかるんだ……あんたと同じ色だと? 感じたことあんのかよ……何回も何回も繰り返される悪夢を」
「繰り返される悪夢……?」
「俺は何回も見てきたんだ……いや、俺らラメイソンは、だ。言ってもわからねぇ……いや、言っても覚えれねぇんだ」
……やっぱ、同じ色だ。
理由なんてわからない……けど、俺と同じなんだ。最初の悪夢から始まって、それが決して終わらない。延々と続く道をずっと歩いていくしかない。障害は前になく、始まった瞬間に決まってしまう運命。俺は、俺自身が経験した訳じゃない……経験させられた方なのだ。そしてこいつは____________進行形なんだ。
「終わらせる____________俺みたいな奴は絶対に終わらせてやる……!」
「何言ってんのかわかんねぇ……戯れ言はいらねぇっ!!!」
激しい怒号と静かな怒号がぶつかり合う。
ホムラの拳とアヤトの魔神が迸る稲光を放ち、その衝撃は周囲の塵1つ残さず吹き飛ばしていく。
「その道は通っちゃいけない道だ。俺だからわかる……通ろうとした、いや、通ってしまったからっ!!!」
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇっ!!!」
目にも止まらぬ連撃でアヤトに迫るホムラの拳。
魔神を顕現させたと言っても、アヤトが上がっているのはパワーだけである。なんとか能力で攻撃は回避することが出来ているが、ホムラの速度に追い付ける訳がない……が、ホムラの攻撃を受けながらも、アヤトは反撃を入れる。
「……ぐっ、ヤエガスミの力……ぁ、今回もまた予想外を持ってきやがるのかよっ?! コノヤロウォオオオオオッ!!!」
怒りにより力の増した一撃が魔神を退け、アヤトの頭を掴み、民家へ放り投げる。だが、3つ以上を貫いた瞬間に停止するような風圧が起こり、瓦礫の中より魔神の腕が伸びてホムラの頬を殴る。
「…ルウシェの力を嘗めんじゃねぇぞ」
「がはっ、ゲホッゲホ____________のやろぉ、がっ!」
噎せた胸を無理矢理押さえ込み、戻ろうとする腕に一瞬で到達するやいなや、その腕を掴んで引っ張る……が、それを読んでいたアヤトは急加速に合わせてもう1つの腕を放つ____________が、ホムラの刹那の判断は、その腕さえも拳で弾き返す。
「貰ったっ! 沈めぇええええええっ!!!」
「沈むかよ……沈めれるかよ、俺にだけはっ!!!」
鏡写しに沈められるわけにはいかねぇ……いかねぇっ!
体勢を崩されそうになったのを堪えたアヤトが放つ拳と、ホムラの沈めようとする渾身の拳が交差し、お互いの顔面をぶん殴る。アヤトの魔神は消え、ホムラの右腕には違和感が走る。だが、そんなもん____________
「「気にしてられるかぁぁぁあっ!!!」」
右ストレート、左アッパー、そんな一撃一撃が重そうな連撃がお互いの体を痛め付け、止まらない攻防……攻のみが行われる。連撃の最後にお互いの拳がぶつかり合い、2人の距離に一定の間合いが出来上がる。お互いに嘔吐や血を拭い、軋む体を庇うように目線のみを対立させる。
もう指一本動かない。
血が溢れすぎて足りてない。
それでも、ホムラは口を開く。
「何の為、に…… あんたは戦う……?」
「マイシスター、奪ったの……そっち、だろーが」
「…………わからねぇ。あんた、どうして笑えんだよ……最後かもしれない世界でなら、どうだ? それでも、妹さんの為に戦えるかよ?」
「戦うさ、絶対に」
愚問だ。
俺は戦う……それが物理的じゃなくても、そうでも。傷ついたとしても、死んだとしても____________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________その記憶が続いても。
進むべき道を間違えて、投げ出して、一瞬だけ……いや、短くもない長くもないそんな時間で……俺は、狂った。
「俺は、無理だ。最後の世界で、俺なら大切な人の為に戦おうなんて思わない……思えねぇよ、普通」
疑問だ。
俺は戦った……何べんも何べんも繰り返したんだよ。皆知ってる、頑張った、最後のこの世界まで。足掻いて、もがいて、苦しんで、悩んで、試して、絶望して、軋んで……泣いて、哭いて、鳴いて、啼いて___________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________絶望して、世界が崩れて、繰り返した。
間違えることのできないそんな世界で……俺は、狂った。
そんな2人は崩れ、尽き果てたように倒れる。
「……どうなる?」
「…………覚えれねぇように出来てる」
「……俺らが勝つとなるのか?」
「……あぁ、全てが終わる」
何回も見てきた目……か。
____________あー、まだ俺、狂ってるわ。本当に。
「……ククッ、ハハハッ! おもしれぇ……いいな、もう忘れてる。すげぇや、異世界……誰だよ、こんな面白い世界作ったやつ____________すげぇや、アンバランス……誰だよ、俺らにこんなことさせるやつ____________すげぇや、俺……」
失敗なんて考えてない、やろうとしてる。
寧ろ、楽しんでる。
やっと来たって、思ってる。
今、立ち上がって行こうとしてる。
「変えてやるよ……そのクソな運命をっ!」
「……なんで、あんた……覚えて」
また、逃げようとしてる。
遅くなりましたが、やっとできました!
決着『アヤトvsホムラ』いかがでしたでしょうか?
なんでルウシェの力があんねん?!
なんで魔神消えたアヤトがホムラとやりあえんねん?!
というか、ルウシェ何処やねん?!
など、様々な点が浮かびましたね~、これは後々!
他にも色々ありますよね、此方としては話題増えて嬉しい限りですが!『ホムラ過去編』は既に用意してますので番外編で。
長々のあとがきですみません!
感想、ブクマ大感激です! お暇があれば是非!
まだラメイソン戦続きますが、ご観覧ありがとうございました!