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自称最強の双子が異世界を支配します  作者: 機巧アカツキ
第2章『先魁の世界』
19/43

五感停止の恐怖/隠す本には封印より場所でしょ?!/決戦日の朝、もう1人の召喚者


「ルウシェは____________生きてる」



 アドラメルクの事件の次の日。


 壊滅寸前の城下の復旧に急ぐ民を背に、アヤトはルウシェが消えた場所へと足を運んでいた。フィラルやアドラメルク曰く、この場所にルウシェの魔力の痕跡は無く、何処かへ飛ばされたと考えるべきだという。消滅すれば、魔力が大地に染み込み、数日間はその魔力を保ち続けるという痕跡が残るらしい。



「……納得いかねぇな。何がしたいんだ、ラメイソンは」



 明日はラメイソンとの戦争日。

 この戦争において、アヤト自身は国を出ることが出来ないというルールの元、戦争を行う。つまりは、アドラメルクやフィラル、ノア達が全般的に動くことになるだろう。


 ルウシェの事も気になるが、今は明日だ。

 今回の戦争は今までに無いくらいの要素が悪い具合に揃っている。



「マイシスター、ミコトの奪還。アトランティスの解放。そしてフィナーレを狙う理由……デウス・マキナまで利用して潰そうとする根本的な理由があるはずだろ。上からの命令にしちゃ少しばかりやりすぎだし」



 解決はしたものの、アドラメルクさえ利用した。そしてその被害はルウシェという巨大な戦力の阻害となっている。手が込みすぎ……と、実感させるのは間違いではないのだろう。



「フィナーレを潰す理由……か。国を減らすためとかあったけど、本質は変えた方が良さそ____________い…っ…!」



 王宮へ戻ろうと、振り返ったアヤトが何者かに当たり、思わず後退り。その瞬間、アヤトはありえない感覚に見舞われた。


 頭を撃ったわけでもないのに頭が痛い。

 喉が渇いてると実感できるのに水を望めない。

 手足が痺れていくのを抵抗できない。

 ごめんなさいの声が聞こえない。

 目が____________見えない。



「ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 痛覚、味覚、触覚、聴覚、視覚。

 それら全てが刹那によって狂わされる。水を求めれない喉の渇きを味覚と捉えるのはどうかと思うのは事実だ……が、それは完璧に味覚によるものだろうと断言できる。なんせ、喉の渇きが辛く感じ、潤いの水を想像するだけで吐きそうになる。


 何もないのに頭が割れそう……塞がってもいないのに音が拾えない……手足の痺れを確認できるのに脳からの信号が伝わらない……やはり目が____________見えない。


 恐怖。困惑。疑心。不幸。最悪。

 そんな負の連載のようなものが頭の中を掻き回し、足から順に喰らっていくような感覚に見舞わる。


 アヤトは叫びながらも、意思を保とうと踏ん張るが脳裏に浮かぶある言葉が邪魔をする。



「キエロ」



 キエロ、キエロ、キエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロ。



「……うる、せぇ。うるせぇええええええっ!!!!!!!!!」



 憤怒を纏った怒号がアヤトの呪縛を払う。声は止み、人々が歩く音が聞こえ、手足の感覚が戻る。頭も痛くない、喉も……いや、喉は渇いている。


 なのに、



「……目だけ戻らねぇ」



 真っ暗。

 一切の光を感じれない世界。音は聞こえるのにそこにいないかのよう孤独をダイレクトに感じてしまう。アヤトは戻った右腕に力を入れて、思いっきり顔面を殴る。



「いつぅ……っち、戻らないか」

「おやおやぁ、どうやら目だけ戻ってないのぉですねぇ~。これはこれはわぁるいことをしましたぁ……ほいぃ」



 のほほんとした声が聞こえ、恐らくぶつかった相手だろう者の手がアヤトの頭に触れる。すると、その瞬間にアヤトの真っ暗の世界が鮮やかに彩られ、瞳に光が灯る。



「……見える。今のはお前がやったのか?」



 目の確認をしながらアヤトは当たり前の事を問う。アヤトの目の前には身長がアヤトと同じくらいの170前後の女性。淡い緑色や紫のグラデーションが目立つ綺麗なカールヘアー。そのラインは腰まであり、思わず見いいってしまうかのような美しさであった。


 その女性は青いドレスの先端を摘み、シャレタ一礼を見せる。思わずアヤトも礼に入ったが即座に警戒を強め、そして恐る恐る「お前は誰だ」と問う。



「わたしぃは『ペルソナ』。第2国【オベリスク】の王様ぁだよぉ」

「……第2国【オベリスク】? てことは『幻光闇ホロウ』かっ?!」

「そぉそぉ。君凄いねぇ」



 言い当てた事を褒めたのか、ペルソナは「ふぇ~」とのほほんとした声で頬笑む。見るからに裏がありそうな笑みだ。アヤトはこれまでの経験上、ペルソナは最も得意としないタイプだと認識する。



「第2位様だぞ? わからない方が不思議じゃないのか?」

「ほぇ? あぁ~、違うよぉ。凄いのは君の対応」



 対応? ペルソナに対しての俺のか?

 確かに第2位様に接する態度は改めた方が良いのかも知れないが、少なくともここはフィナーレだ。他国の侵入を感知できなかった此方の落ち度もあるが、その侵入者に対して払う敬意はあるわけがない。何がだ? と思考を廻らすアヤトにペルソナは、



「君、さっきまで死んでたんだよぉ?」

「____________っ?!」



 死んでいた……? 俺がか?



「痛覚、味覚、触覚、聴覚、視覚。生命に宿る五感をグチャグチャにされたんだよぉ? 光と闇の操作を失った固体はまさに《死人》~、君は一時的でもそうなったんだよぉ」

「……さっきのあれか。確かに味わったことのない、というかこれ以上の苦しみを想像できない現象だった」

「うんうん、普通なら絶望したり、自分で楽になろうとするんだけどねぇ。まさか気迫で消し飛ばすなんて凄いよぉ?」



 自分で楽になる……つまり、自殺。

 意味のわからない傷み、強烈なまでの渇き、動くことのない手足、聴こえない世界、そして深く暗い永遠の海。自殺するとすれば、舌を噛みきるということだろう。


 少なくともアヤトは楽になろうとはしなかった。

 しかし、絶望はしていたのだろう。アヤトの叫びに合わせて現れた「キエロ」という言葉。漢字ではない、片仮名の片言のような声は確実にアヤトを堕とそうとしていた……と考えた刹那、アヤトにある光景が浮かび上がる。



「黒い……獣……?」



 なんだこれ、なんで奴が浮かび上がる?!

 あいつはルウシェが作り出した幻術の獣だったはずだ……なのに、なのになんでこんなに声と姿が共鳴させようとするっ?!



「顔色わるぃよぉ? わたしぃの力ぁが苦しめたのなら、ごめねぇ。これぇ、自分では制御できないからぁ」

「……気にしないでくれ。ところで、なんでフィナーレにホロウがいる? まさか旨い物食べに来たとかならデシャヴ感で触れないことにしてやってもいい」

「ほぇ……他国侵入者だよぉ? 捕まえなくていいのかなぁ」

「無理だろ、確実に殺されるわ俺が」



 もしくはフィナーレ壊滅か。

 アドラメルクの時のように制御の首輪があるわけでもない。まぁ、あったとしてもペルソナに不意打ちが通用するとは思えない。アヤトの微動にペルソナの耳は少しだが動いている……次、どんな行動をするのか、どんな言葉を述べるのか……これはアヤトの世界でもある技量の1つだ。性格のわりにかなり警戒心が強いようだ。



「……うぅん、と。美味しい物は食べてないかなぁ。フィナーレが作る食事は美味しいって評判だからねぇ。過去にもぉ、奴隷を確保してた時代もあったしぃ」

「ま、それは叶わないだろうな。個人が持ってる能力で自殺ってのが、オチだ」

「うん、びっくりぃだよぉ。無能力を捕まえてもぉ他者の能力で自殺までさせるしねぇ」



 フィナーレの誇りか。

 なるほど、だからアドラメルクも力ではなく侵入にて味を堪能してたってことか。にしても異世界足刈らぬって感じだな……奴隷をも避ける最弱者かよ。無能力でもない俺らは見たこともないシナリオだし、ほんとアンバランスだな。



「なら、おとがめなしって訳にはいかねぇな。何をしにフィナーレに来たよ、ペルソナ」



 目付きを変えてペルソナを睨むアヤト。

 そんな威圧にも似たものに一瞬だけ警戒心を緩くしたようにペルソナは微笑み、腹を切る覚悟を溜め息で示す。



「召喚者を探しにぃ、ですねぇ」

「……なん……いま、なんて……?」



 ペルソナは言った……召喚者と。


 ____________召喚者。

 それは異世界より存在する生命を膨大な魔力の儀式によって、この世界に転移された者のことをいう。アヤトやミコトはそれに分類するのは明らかだ。そしてフィーネ曰く……召喚者は俺らだけでない、確実に。



「【オベリスク】が呼び出したってのか、召喚者を」

「ほぇ? あぁ、違うよぉ。母国は既に大国、これ以上の強さを求めている民はいないよぉ~」

「……呼び出したのはオベリスクじゃない。なら、何処だ? 何故、お前がそいつを探してる? どうしてフィナーレにいる?」

「おぉ~、一辺だねぇ。うん、教えるよぉ」



 誰が何処から召喚しようとするのはどうでもいい。

 だが、フィナーレにそいつがいるというのは最悪になるかもしれない現状だ。明日はラメイソンとの戦争……もしかしたら、またラメイソンの刺客という可能性も。だが、しかし____________



「召喚したのは【無名ノーネーム】。その情報が何故かわたしぃの頭に流れてきて、フィナーレにいるらしいから来てみたってことぉ」



 ____________それは大きく想像を越えていた。










 ***










 ペルソナと別れてから昼過ぎの王宮。

 フィーネは復旧に協力しているようで、王宮はいつも以上に静かだった。からかってくれるミコトもいない。甘やかしてくれるルウシェもいない。アヤトは1人で書庫で本を読んでいた。



「……これもう読んだな。えっと、おわっ……!」



 既読した本を戻そうと本の山に置いた瞬間、その山が崩れ、棚がアヤトに凭れるように倒れる。しかしアヤトは間一髪、本の山がクッションとなり怪我はない。ただ……出られなくなった。



「ぷはっ…あー…頭だけか。ヤバイな真面目に。誰もいないのに放置プレイとか最悪だぞ……いても断固拒否だけど」

「ほぅ、主様はその、ほうちぷれいというのが好みなのか? なら、妾はここで見物でも……」

「うん、助けてください。お願いします」

「ククッ、やはり主様が頭を下げるところは愉快じゃの! 本を崩したかいがあったわい」

「主犯者てめぇか、ゴラァ?! 頭下げてねぇし、下げられる状態ですらねぇんですけど?!」



 そんな主犯者アドラメルクは、笑いながら魔力で本を吹き飛ばす。体の埃を払いながら起き上がるアヤトは、吹き飛んだはずの本を見て足下の本を見つける。他は吹き飛んでいるのに吹き飛んでいない本……アヤトは、それを拾い上げて被っていた埃を払う。すると、金色の文字のタイトルが見えてきた。



「……えっと、『インデックス・オリジン』……?」



 文字は異世界語だが、読めるアヤトは英語に変換して発音する。意味は《原典書庫》。始まりを意味するオリジンに、目録を指すインデックス……まさかとは思うが、これは有り得ない程の情報が塊となった万物ではないのだろうか? この世界のルーツさえわかれば、どんな敵でも支配力は上を行けることになる。そんな思いで本を開こうとするが、



「____________っぅ?! てぇ……なんだ今の」



 開こうとした手に紫のライトエフェクトが発生し、その手を無理矢理離した。痛みはあるものの、怪我はない。アヤトは不思議そうに見つめるが、それをアドラメルクが「ほぉ……!」と目を大きくしてアヤトに近づく。



「ふむ……やはり、これは術式防壁の一種じゃ。しかも、かなり古い」

「古い術式……これも魔法なのか?」

「どちらかというと魔術の類いじゃの。術式が発生する魔力濃度から100年前くらいじゃ」

「解除は出来そうか?」

「カカッ、無理に決まっておろう? こんなもの解除できる種族などホロウかラメイソン、もしくはノーネームくらいじゃの」



 またラメイソンかよ……まぁ、知識ならってことか。

 ホロウ……ペルソナなら解除できるかもってことか。順序が悪い____________いや、良かったが正しいか。もしかしたら没収されてたかもしれないわけだし。というか、ノーネームって何処までが公開情報なの? ペルソナに関してもだが、結構な情報が漏洩しているよな。



「取り敢えずは読めないってことだな。それよりアドラメルク、お前はこういうのを見たことはあるか?」

「ふむ……いや、ないの」

「……へぇ、んじゃ保留かな。全く、中身見られたくない本ならベッドの下にでも隠しとけよ」



 アドラメルクの僅かに空いた間の言葉には関与せず、アヤトは本を持って書庫を出ようとする。アドラメルクはその背中を不思議そうに見つめる……問い詰めないのか。本当は知っている。伝えた方が。いや、無理だ。


 そんな言葉が思考をぐちゃぐちゃにする。



「……信頼、のぉ」



 思い出したそんな言葉。

 アヤトには聞こえてきただろうに、微動一つすることなく書庫を出る。1人残されたアドラメルクは散らばった本の中に、目立つタイトルを見つけて呟く。



「友人」










 ***










「キャハハッ! 思いのほか崩れねぇナァ、フィナーレはヨォ」



 決戦の日。

 知識の国……ラメイソンの王城の天辺に佇む黒髪の青年____________の隣にいる静かな少女。細い体には表情に似合わず白のタンクトップに青いフードパーカー。そしてジャージのようなブカブカした黒いズボンを着ていた。



悪戦いくせんの時、ですか」

「全く、女王様ヨォ、もうちったぁ楽しんでもいいんじゃねぇカァ? この戦争はラメイソンだけじゃねぇんだしヨォ」

「……ニャー」

「…………そのはぶらかしはどうかも思うんだが。まぁ、その猫耳を触らせてくれるなラァ、ウヘヘ」

「ホムラキモイ。顔。目。声。全て」

「もう最後ので纏まってませんかネェ?!」



 ラメイソン女王____________『レスティア・ジュノン』。

 そしてその使者____________『タカザキ・ホムラ』。


 2人はお互いの両手を強く握りしめ、青い空へと掲げる。



「……その口調、キモイ」

「だな。そんじゃ、ま……今度も俺に任せときなっ! 『タカザキ・ホムラ』、女王様の使者は負けることがねぇからよ?」

「うん、頼りにしてる。ねぇ……ホムラ」

「言わなくていい、わかってる。もう絶対に失敗しねぇよ……《今回・・》は、絶対にな。もう戻りゃしねぇ。俺はもう、君を忘れねぇから」



 このために繰り返してきた。

 長い長い月日をこの世界に尽くしてきた。

 もう負けはしない。もう失敗はしない。もう……忘れない。


 あの日、あの時、あの場所で。

 俺は誓ったんだ。次の奴に託すなんて望まねぇぞ。



「異世界人戦争といこうぜ____________アヤトさん」




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