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自称最強の双子が異世界を支配します  作者: 機巧アカツキ
番外編『Future begins from the sea』
16/43

番外編(3)《道化の双子は自称最強の双子だから》

少し短いですが、番外編ラストです。

深まる謎!みたいな感じになれば、と思ってますw

 ____________この世界は理不尽だ。


 もし本当に神様がいるとするなら、何故悪い事をする者に罰を与えず、普通の平穏を送る者達ばかりに罰を降すのだろうか。


 不幸だの、不運だの、そんな言葉で片付いていいことなんてこの世には存在しない。形や命を問わずして全てが平等に分けられるべきだ……と、その時は強く思っていた。


 しかし、やはり現実は望むことを叶えようとはしなかった。何もしていない無欲な妹は今____________目覚めぬ罰を与えられたのだ。



「……巫女音、調子はどうだ?」



 重い病室のドアを開いて足を踏み入れる綾取。手にはリンゴの入ったバスケットと花瓶に活ける花束。それを掲げて静かに眠る巫女音へと微笑んだ。


 あの事故……いや、殺害に近い行為の後、巫女音は近くの病院へ緊急搬送され、そこでの応急手術を終えたのち、そこより大きな病院へと移ることとなった。


 医師からは「命に別状はない」と言われ、安心を取り戻した綾取だったが……。



「…………ん。誰、ですか?」



 目覚めた巫女音に事故以前の記憶は残っていなかった。



「起こしたのか、悪いな巫女音」

「……ミコ、ト……ぁ、お兄さんでした」



 今もまだ記憶の定着に脳が追い付いておらず、眠れば記憶が薄れていく……というのが、巫女音に残った後遺症だ。医師によれば数ヶ月で治るらしい。それ以外に後遺症はなく、不幸中の幸いだったと医師に言われていた。



「具合はどうだ? 痛いところとかないか?」

「問題ありませんよ、お兄さん。私には記憶がありませんけど、意外と過保護なのですか?」

「……かも、な。何もないならいいんだ。リンゴ食べるか?」



 頷いた巫女音に笑みを返して、カーテンを開き、窓を開けた綾取がバスケットの中から包装された果物ナイフを取り出してリンゴを剥き始める。


 これが今の巫女音だ。

 記憶を無くして、口調や性格も変わってしまっている……それはまるで別のようへと。



「……お兄さん、私は……どんな風でしたか?」

「どんな、風?」

「はい。記憶が無い私にとって、お兄さんは数少ない居場所です。せめて、お兄さんの妹に戻りたい……いえ、戻らなければならないのです」



 綾取のリンゴを剥く手が止まる。

 巫女音の瞳は真剣だ。記憶が無いから自分を作り戻す。確かにそうすれば、綾取の不安は解消されて楽になれるだろう。都合のいい……と言っていいわけないが、巫女音には親しい友達がいないことは知っている。家族だって、巫女音の一大事だというのに駆けつけてくれる肉親はいなかった。


 だが……それでいいのだろうか。

 確かに綾取にとって、巫女音が元に戻ってくれるのは嬉しい。だがしかし、それは巫女音にとって本当に良いことなのだろうか? もし、自分を作り上げて記憶が戻ってしまえば、あのおぞましい悲しみが甦ることとなる。それに綾取にとって巫女音は、1人しかいないのだ。だから、



「俺のことは『兄様』って呼んでた。友達もいて、頭のいい物静かな俺の自慢のマイシスターだったぞ」



 嘘をついた。


 だが、これでいい。

 これで巫女音は救われる。これから先、この性格が壁になり記憶が戻ることはないだろう。完全に昔の巫女音と切り離す……絶対に戻させない。



「兄様……兄様、これでいいですか?」

「あぁ、バッチリだマイシスター。記憶がなくてもこれから作っていけばいいさ」



 その為なら俺だって道化を演じてやる。

 だから今は眠ってくれ。次に目覚めるとき、俺はお前の『兄様』として目の前に立つから。



 なぁ____________ミコト。









 ***









「兄様、兄様、何故相手のプレイヤーはミスばかりするのですか? これではミコトばかり勝ってつまりません」



 カタカタと物凄い速さでコントローラーのボタンを連打し、目にも止まらぬ手さばきで相手プレイヤーを次々に薙ぎ倒していく画面と妹が目に入り、正直引き気味のアヤト。


 退院してから約1ヶ月。

 ミコトの事故による怪我は完全に完治し、記憶の定着も少しずつだが治ってきていた。朝起きてもアヤトのことは忘れておらず、自分の好物である肉じゃがの味も噛み締めている。まだの例は、街で迷うくらいだ。付近でも迷う。自宅付近50メートルでも迷う。もう、自宅すら覚えてないんじゃね? って感じに。



「そりゃ、相手の行動パターンを完璧に読み、相手が繰り出す技を如く如くガードしたり回避したり……もう負ける要素とかチート以外にないだろ?」



 そして俺は後方支援。ミコトのバフ及び回復係りだ。


 まぁ、回復とか正直必要ないんだけどね? ゲージ減らないから。



 アヤトとミコトがやっているのは、今流行りのオンラインゲーム『EWOエルフ・ワールド・オンライン』というMMORPGだ。名前通りのエルフの世界! という訳でもなく、様々な種族が登場する。ただ自分が使用できるのはエルフのみというだけだ。マルチモード主に、造り上げられたギルドに所属して他のギルドを潰すという簡単な趣向を持つ。


 アヤトとミコトが所属しているギルドは【黒猫ブラックキャット・アイ】。ただただギルドメンバーが少ないというだけで入ったギルドだ。



「壊滅寸前のギルドを謎のプレイヤー2人が救うねぇ……ん、実質1人か。お、ミコト? ダメージ受けてないか?」

「兄様、兄様、このプレイヤーは強いです。主にレベルが」

「えーと……うはぁ、俺らよりレベル倍はあるじゃん。武器は大剣、腰に小型ナイフ。やたらとデカイ図体に黒いマントか。ん、これ防御型か?」



 恐らく敵ギルドの切り札だろう巨体プレイヤーは、完全にミコトをマークしている。双剣を使用しているスピード型のミコトにとって振り切ることは可能だろうが、巨体の後ろには無数のプレイヤーがまるで戦いを見守るように待機していた。今、ミコトが動けば一斉に攻められて積みだ。



「このゲームにゾンビはない、ここは兄様に任せな」



 ミコトが動けないのは確かだが、それと同じにあの巨体も動けないのも確かだ。なら、周りが何とかするしかない。


 アヤトはチャットを利用してギルドメンバーに指示を出す。

 あれだけ活躍しているのが効果に出ているのか、メンバーは指示に従いミコトと巨体のサイドを使って攻め混んでいく。ミコトが殲滅したおかげで、相手のプレイヤーも残り少ない。蘇生も存在しないこのゲームだ。何とかなるかもしれない。



「兄様、兄様、ミコトはどうしますか?」

「出方を伺ってくれ。新たな切り札が無い限りこのままいけ____________作戦変更だ。見落としてた! ミコト、今すぐその巨体を倒してくれっ!」



 アヤトの言葉と同時に巨体プレイヤーが動く。全身を包んでいた黒いマントを脱ぎ、その巨体プレイヤーの正体が証される。その中身は豪腕の装備……ではなく、



「……兄様、これは」

「あぁ、ダイナマイトだ。しかも後方で火力上昇の魔法をかけてやがる。相打ち狙い……はっ、そんなことさせるかよ」



 ダイナマイトはアイテムとしての使用であり、装備による物ではない。体につけているということはアイテムが邪魔をして装備を着けていないということだ。つまり、防御は薄い。そして……アイテム発動には必ずしも発動までの時間がある。


 アヤトがチャットを弄って指示。

 ミコトはダイナマイトプレイヤーへ懸命にダメージを与える。体力へポイント振りをしているのか、倒れる気配はない。ミコトは歯を食い縛りながらコントローラーを高速で動かしていく。



「よし、マイシスター! 準備完了だ。頼んだぜ?」

「兄様の頼みなら、ミコトが拒否ることはありませんよ」

「……あぁ、一か八かなんて駆け引きはしないぞ? このギルド戦に勝って生活費手にいれるんだからなぁぁあっ!!!!」



 《ギルドリーダーより》

 ・勝利報酬 10万 アヤト及びミコトのみ。



「壊滅寸前のギルドに『もし、俺らの活躍で勝てたら報酬金ください。負けたら倍払います』なんて博打やったんだ! 負けるわけにはいかねぇんだよ、此方に20万もあると思うなよ?!」



 そんな兄の叫びを隣で聞くミコトがコントローラーを巧みに動かして、ダイナマイトプレイヤーの肩を踏み台にして跳躍する。その姿に相手プレイヤー全員は上へと視線が集まり、その一気一隅のチャンスをアヤトは見逃さない。リアルで口元を尖らせてコントローラーを操作する。



「残り数十秒……アイテムの弱点ってのはキャンセルが利かないことだ。そして、爆発の範囲も決まってるなら……その範囲外に飛ばせばいい____________全魔力開放 《ウィンド・フィールド》」



 アヤトの放った全力の風魔法が戦場に舞う。

 それと同時に他の見方プレイヤーが拘束魔法で相手プレイヤーのほとんどを封じ、跳躍してアヤトの風に乗って遥か上空へ。勿論、ダイナマイトプレイヤーは重すぎて飛ぶことは不可能……これで、完全に自爆だ____________が、ダイナマイトプレイヤーの雄叫びと共に次々と見方プレイヤーが落下してしまう。


 重力魔法。やはり、上空への回避は経験済みらしい。


 しかし、その重力魔法は発動の一瞬……謎の真上からの斬撃によりダイナマイトプレイヤーは倒れてしまう。落下の加速が加わった斬撃。しかも首筋を辿ってのクリティカル。ダイナマイトプレイヤーの体力は一瞬にして無くなり、爆発する前に消えてしまった。



「残念、それは予想通り。落下するのが誰よりも速いのは一番先に飛んだやつだ。それに俺が放った魔法は地上にしか効果はない。逃げると思ったろ? ハッハー残念! 逃げるのは負けてもいいときだけなんだよ?」



 画面に向かって、ヤハハと笑うアヤト。


 その後は、拘束されたプレイヤーを次々にミコトが薙ぎ払い、その戦争は勝利に終わった。ゲームを終了し、ミコトとアヤトは脱力と共にお互いの拳を合わせる。



「生活費ゲット。お疲れさん」

「兄様、兄様、メールです。……良かったですね」


 メール? ギルドリーダーからか?

 でも、良かったですねって……あ、なるほど。やっときたか。



「どうする? マイシスター」

「兄様が行くなら何処までも。それがたとえ異世界でも」

「……は、はは、ハハハッ! 最高だ、マイシスター! んじゃ、この依頼は受けるとしようぜ」



 そしてこう返信するとしよう。

 《最愛の世界へ、此度の御誘い有り難き事と思います。そして我々はその御依頼を了承することにしました。さしあたって一言申し上げますが、心広くお見受けください____________「ふざけんな」》



「さてと……ミコト、リベンジだ。信じられないかもだが、俺は……」

「信じてます。ミコトは兄様を完全に信じてます」

「……あぁ、ありがとう。それじゃ、3度目の正直といこうぜ____________クソワールド」





 願うなら、こんな海のような果てしない所には潜りたくない。

 ミコトと一緒に、くだらない事をして精一杯生きていきたい。

 あぁ、本当にクソだなこんな世界。だから変えてやるよ絶対に……あんな惨めな終わりは絶対にもう見ねぇぞ。



 絶対に____________俺らが支配してやる。


 そう、俺らはあがき続ける。

 例え記憶がなくても……絶対に。だって俺らは。





「「自称最強の双子だから」」


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