魔王の頭痛の種
無我の境地でご覧下さい。
「勇者よ…貴様一体どういうつもりだ?」
魔王は勇者に問いかける。
「何がだ?」
勇者は首を傾げる。
「何がだ?では無い。貴様のその格好だっ!」
魔王が勇者の装備を指差す。
「勇者の最強装備だが?やらんぞ?」
「いらぬわっ!」
勇者は本気で言っておるのだろうか?どういう神経をしておるのか……余には分からん。分かりたくもないしな。
「伝説級の装備だからな……喉から手が出るほど欲しいのは分かる……が、やらん!」
どうやら本気の用である……。確かに伝説級の装備品だろう……ある意味…な。
「その格好…恥ずかしくは無いのか?」
余が恐ろしい者を見るように言うと、怪訝な顔でのたまいおった。
「いいや?見た目は至って普通のブラとパンティとガーターベルトだ。恥ずかしい?何故だ?大事な部分は隠れている。問題ない」
問題ないだと?恐ろしい奴だっ。装備が恐ろしいのでは無い。この勇者が恐ろしいのだ。だってそうだろう?普通の精神なら、見ただけでテンション駄々下がりする伝説級の装備ぞ。
それをいとも平然と着こなしておるのだぞ?
コワッ……。
余は身震いしてしまった。余は1500年ほど生きておるが、今まで余を倒しに来た歴代の勇者の中で、今回の勇者が一番凶悪ではなかろうか?
「一見無防備だが、中々の装着感だぞ?それに保険もある……」
勇者の余裕の表情…。余は内心ホッとした。ああ、ちゃんと考えてはおるのか…と。
「本当は秘密何だが…特別に教えてやろう。ほらっ」
と言って勇者は何故かブラを横にずらす。
余は見てしまった……ブラがずれたその場所を……。
勇者のビーチクにバンドエイドが貼られて…いや、装備されている……。
何この用意周到さ……。ずれる気…否、ずらす気満々じゃねっ?
唖然としていると勇者が更に変なことを言ってくる。
「昔の…偉い賢者が言っていた…。ポロリは見せる為…いや、魅せつける為に有るって!」
それは一体どんな賢者だ?自称賢者(笑)ではないか?
それにしても今回の勇者、何時もに増して頭緩くないか?
「その…賢者の名は?なんと言うのだ?」
きっと、誰かに騙されておるのだろう…と思い、勇者に賢者の名を聞いてみる。
「えっと…確か……チラ・チラミセ……う~ん……違うな。何だったかなぁ~」
勇者がウンウン唸っておるが、余が知っている奴だった。
「チラ・チラリンではないか?」
勇者はさもスッキリした良い顔で、サムズアップしてきおった。合っている用だ。奴かぁ…。
現在では何故か賢者と称されておるようだが、当時は変態紳士として人間の国だけでは無く、魔国の中でも有名だったな。名前の通りにチラッと不快な部位を見せてきおるので、現行犯で捕まえられず、この時ばかりは人間の国と共同戦線を張り、やっとのことで捕まえたんだよな…。
全部見せないのが、またイラっとすると言われていたな………。
ん?何故奴が賢者なのだ?
「貴様、何故チラ・チラリンの名を知っておるのだ?奴は大分昔の人間だぞ?」
不思議に思い聞いてみると、実にしょうもない話であった。『賢者の法則☆ロマンの在りか』なる書物があるという。その書物は奴が捕まった獄中にて、自分の自叙伝と称して書いた物だとされているそうだ。
そんな果てしなくしょうもない物、誰が読むんだ…と思ったがここにおったな。勇者が…。
重く深いため息を吐きつつ、勇者に聞く。
「もうひとつ、貴様に聞きたいことがある」
勇者はまだあるのかっ!?って顔をしておるが、気になるものは気になるのだからしょうがないでは無いか……。
「して、貴様!余を倒す為の伝説の武器はどうした?確か歴代勇者は皆持っておったが?貴様のは何処にあるのだ?」
「ふっ…魔王の目は節穴か?」
勇者め…バカにしておるのか?貴様は何も持っておらんではないか…。
「余の目には何も持っておらぬように見えるが?」
勇者は謎の笑みを浮かべて、天高く腕を振り上げた。
召喚でもするのか?と思い空を見上げたが、何も無い。武器が召喚される気配は毛程もない……。
つい勇者を残念な子を見る目付きで、見てしまう。
あっ!?まだ腕を上げておったのか……ふっ…ふ~ん……。
「分かったか?これが俺の究極の武器だ」
は?えっ?ま…まさか、貴様……それ……自分の腕だよ……な?魔王を倒しに来て、マサカの両手ぶらり戦法だと?
敵だが心配だ。勇者の頭の緩さこそ、伝説級ではないか?
「貴様…どうしたのだ?伝説の武器、エクスカリバーは?」
「売った」
即答しおった。頭が痛くなる。勇者は大空へ舞い上がる程のバカだ。まず間違い無い。
「で…伝説の武器を売った……だと?たがあれは、契約者が喚べば何処に在っても召喚出来るはずだ……何故来ぬのだ?」
勇者が何やら、珍しく気まずそうである。
「いや、売り払ったのが……その……魔族の奴で……聖剣だったのが魔剣になってしまったようだ。何度喚んでも一向に召喚されない。召喚されないのだから諦めた!!これからは己れの身体が武器だ!この腕で、お前を倒してやるっ!」
残念過ぎる……。余は、ほとほと疲れて来たぞ。
「もう良い……では勇者よ…戦いを始めようか?」
戦う前に精神的疲労で倒れて仕舞いそうだ…。まさかこれが狙いだったのか?と思っておると、勇者から、
「売った金で何を買ったのか、教えてやろう!」
と言ってきた…。あーうむ……。いやぁ…聞かなくても分かってしまう辺り、末期症状の気がする……。勇者病とかだろうか?
瞳をキラキラと輝かしながら、勇者は嬉しそうに聞いてもいない事を、教えてくれる。
「それは賢者の書だ!!」
ぐはっ……。やっぱりか……。更に頭が痛くなる。そんな下らない物を買うために聖剣を売り払ったのか…。
今回、こ奴を勇者に選んだ人間の国の王は、ギャンブラーだな……。国民は大丈夫なのか?そんな王で……。
そんなことを考えていたら、急に部屋の外が騒がしくなって、勢い良く扉が開いた。
ガチャガチャ…バッターンッ!
「お取り込み中失礼しますっ。人間の国で情報を集めている部署から伝令です!どうやら人間の国でクーデターが起こった模様です!」
おお…タイムリーな話題だな……。
「ふむ。して、詳細は?」
「はい、以前より王家の人気は目に見えて落ちて来てはいたのです……そしてそれが完全に地に落ちた原因は……」
チラッと勇者を見た後、
「こちらにいる、当代勇者のキニ・シナイ殿のかせいかと、思われます」
勇者が驚いている。何で?って顔だな?
「それはそうであろう…お前のその格好を見れば、普通心配になるだろ?また魔王を倒せないんじゃないかって思うだろうな」
そう、分かっていた者も多いだろう。余は1500歳だ。もうずっと余は生きておるが、勇者は余に勝った試しが無い。
流石にここ300年は魔王討伐を、諦めて居たのに……。
久方ぶりに新たな勇者を任命したのにこれではな……。
国民の不満が爆発したのだろう。下らん書物の為に聖剣を売り払う、バカであるしな。
「これからまた忙しくなるぞ!情報を精査せよ!新しい王が立ったら、今度は交渉出来るか、確認しておけっ」
「はっ。仰せのままに!失礼しました」
部下に命令を出し、一息入れようとすると視界の端にチラチラちらつく勇者。
貴様…まだ居たのか?
「俺はどうしたら良いと思う?」
何故余に聞くのだ?
「知るかっ。好きにすればよかろう……。」
速く出て行け。
「じゃあ、賢者の後を継いでみるよ!」
そう言って出て行こうとする。素晴らしく良い笑顔のオマケも付けて…。
ちょっと待ていっ!こ奴今、何と言った?余の耳が可笑しくなったのか?
出て行こうとしている勇者に、それだけは止めるように言い聞かしたのだが、絶対話を聞いておらん…物凄く不安だ。
どうやら、余の不安は的中してしまった様で、人間の国と魔族の国…そのどちらにも出没する、元勇者の変態紳士(自称紳士)が目撃されることとなる。
被害は甚大…。チラッと見えるのが大変不愉快との噂である。
1部にチラッと見えるのが、良いというマニアの熱狂的なパトロンや、パトロネスが出来てしまい、更に第2、第3の変態紳士が横行するようになるのは、そう遠くない…未来の話。
そして、魔王の1番の頭痛の種となる……。
ピロリロリーン♪
魔王の頭痛が慢性的になった。
肩まで凝るようになった。
遠い目をするようになった。
愚痴が増えるようになった。
必殺技『気苦労』が使えるようになった。
アイテム『悟りの書』が閲覧可能になった。
このお話は…御覧のスポンサーの提供でお送りしました。
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