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第九話 生活環境を整えよう

よろしくお願いします

 おはよう、諸君!


 この世界に来て、初めての夜を明かしたよ! ……なんか変な夢を見た気がするけど、そんなもんは記憶の彼方にほっぽりだして、目覚めの清々しい気分を味わおう……としたいのは山々なんだけど、如何せんこの洞窟は目覚めに見る景色、いや、そもそもの話生活する場としては殺風景過ぎると思うんだ。

 何せ、ゴツゴツの岩肌に、大きめの岩が幾つか転がっているだけなんだから。


 「アイもそう思うだろ?」


 『おはようございます、主様(マスター)


 「ああ、おはよう」


 アイとの朝の挨拶。やっぱ、こういうのは良いね! 一人じゃなくて良かった。


 『私は特に気になりませんが……』


 意外なことに、帰ってきたのは否定的な答え。


 なんと! さすがのアイでも俺の全てに共感出来るわけではないらしい。でもつまりこれは、アイ独自の考え方があるということでもある。それが嬉しいやら、寂しいやら……。


 そんなことを思いながらも、俺はアイに問う。


 「やっぱりさ、住むんだったらちゃんとした所が良いと思うんだよね」


 俺の中では取り敢えず、トイレ、風呂、ベッド、冷蔵庫は基本設備ね。……いや、まあトイレは必要ないだろうけど。冷蔵庫も微妙だし。


 『はい』


 「でもさ、ここって住みやすい場所に見えるかな?」


 俺には見えない。


 『竜族にとっては問題無いのでは?』


 ……おっと、ここでまた意見が割れたぜ。もしかしてアイはもう反抗期なのかな? うんうん、俺にもあったな。意味もなく反抗したくなるんだよなあ。懐かしいぜ。……なんていう冗談は置いておいて、アイはそんなことしないし、ちゃんと理由があるのは分かってる。


 つまりアイは、竜族は魔素さえあれば生きていけるのだから、ここでも問題なく生活出来る、ということを言っているのだろう。


 だがしかし、俺が言いたいのはそういうことではないのだ。


 「アイ。俺にはここがとても住み難く感じるんだよ。それはどうしてだか解るか?」 


 ぶっちゃけ、アイの考え方でも別に良いんだが、気分的には受け入れられないんだよな。俺にとっての生活の理想は、竜族にとっての生活の理想とは違うようだし。


 『それは…………主様(マスター)が元人間、だからでしょうか?』


 おお、さすがアイ。答えが早いし正確だ。


 「そうなんだよね。今の俺は(ドラゴン)だから、生きていくには問題ないんだと思う。でもそれだけだと、なんか気分的に満たされないというか、つまらないというか……。ほら、あれだよ、あれ。(ドラゴン)だって趣味があるんだろ? それと一緒みたいなもんだよ」


 多分そうだと思う。生きていく上での、心を満たす為の手段や対象が違うだけなのだろう。……いや、人間だって趣味はあるから、単に人間の手段の幅が広すぎるのか。


 『……なるほど。……確かに人間は、様々な物事に拘りを持つ傾向があるようです。主様(マスター)は、生活環境に拘りを持つ方であったということですね』


 ……うん、まあそんな感じなのかな?


 「そういうことだ、アイ。だから俺は、この洞窟を俺にとって住みやすい場所にしたいと思ってる」


 『はい、私も賛成です』


 うんうん。俺の考えを解ってくれたようで何よりだ。



 「それじゃあ……」


 アイの同意を得たところで、あとはどうやってこの洞窟を俺好みにしてしまおうか、ということなんだが……。


 「何か良い案はないか、アイ?」


 まあ、困ったときはアイさん頼みだ。この為に納得してもらった、って側面も無いことはない。いや、多分俺が無理矢理決行しても、それはそれでアイは協力してくれるんだろうけどさ。でもやっぱり、何事にもお互い良い気分で取り組みたいじゃん?


 『そうですね……』


 ……情けないことなんだが、良い考えが浮かばない。いや、恐らく俺の考え方は間違っていないと思うが、それを今の俺が出来るのか、と言われれば微妙な所なわけだが……。


 『まず、主様(マスター)の思い描く理想を教えて下さい』


 おっと、確かに俺が洞窟をどんな風にしたいのかを伝えないと、最適な案も出せるに出せないわな。


 「そうだな。まずは……」


 『主様(マスター)、提案があります』


 「……ん? なんだ藪から棒に」


 俺の飾り気のない願望を、ぶちまけようとしてたところなんだけど。


 『精神の同調率を上げる許可が頂きたいのです』


 「精神の同調率?」


 なんか初耳だぜ。


 『はい、主様(マスター)。私はより効率的に主様(マスター)の生活をサポート出来るように主様(マスター)と精神的な繋がりをもって創られました。一種の思考・感覚共有とも言えますね。主様(マスター)が初めに、心を読まれた、と思われたのもそのためです』


 なるほど、そういうことだったのね。実際、心を読まれていたということか。でもそれだと……


 「プライバシーが無いんじゃないか?」


 ……今更お前が気にしてどうする、という突っ込みは無しね。一応聞いただけだからね。


 しかし、そんな俺の懸念をアイの発言が払拭する。


 『いえ、主様(マスター)。それについては問題ありません。普段は主様(マスター)の感情、それもひどく曖昧なものしか感じ取れませんので』


 ……その程度なら良いかな、と思う俺。やっぱそういうのは気になっちゃうじゃん?


 「ふぅん、まあそんなもんか」


 と言っておく。

 

 しかしこの話の流れからすると、その同調率を上げるということはつまり……


 『はい。繋がりを強化することによって、思考や感覚がより直接的にはっきりと伝わるようになります。しかし、それには主様(マスター)の許可が必要なのでお伺いしました』


 俺の考えに続けるように、俺の予想通りのことを告げるアイ。曖昧とかそんなもんじゃなく、やっぱり心を完全に読んでるんじゃないの? とか思ったりもしないでもないが、そんなことは置いておいて。


 確かに、勝手にそんなことをされたら気分は良くないよな。しかし、話を聞く限りではかなり便利だな、とは思う。


 『また、慣れない始めのうちは少し違和感が生じると思われます』


 続けて注意事項を告げてくるアイ。


 アイが俺にとって害のある行動を勧める筈がないので、俺はもう既に許可を出すつもりではあるのだが


 「他には何か無いのか?」


 一応、最終確認はしておこうと思った。


 『そうですね……。この繋がりは私から主様(マスター)への一方的なものでありますから、主様(マスター)から意図的に同調率を引き上げる事は出来ません』


 ほう、それはまた


 「なんで?」


 『第一に、私がそのように創られている、という理由があります。』


 「なるほど……」


 まあ、今気にするほどのことでもないか。


 そう思ったので、俺は許可を出しちゃうことにした。


 「分かった、アイ。やっちゃって良いよ」


 『……ありがとうございます、主様(マスター)。では……』


 俺が声をかけるのと同時に、何かの作業を始めたのか黙り込むアイ。といっても、何をやっているのかなんて分からないんだけどね。全く。


 取り敢えず、ぼーっと過ごすこと五秒ほど。……いや、はえーよ、なんて突っ込みはこの際無しにして。


 『…………同調率の引き上げに成功しました。現在五十%です』


 と作業の完了を告げてくるアイ。どうやら、無事成功したようである。まあ、失敗する要素があったのかは知らんけども。


 しかし、違和感を感じると言われた割には特に何も感じないなぁ、と思い首を傾げていたのだが次の瞬間、ぐわぁん、と視界が歪んだ。


 「うおぇっ!?」


 時間差かよ!? と突っ込む間もなく、突然やって来た車酔いにも似た気持ち悪さに、思わず膝をつく。


 『主様(マスター)、大丈夫ですか?』


 心配するような響きのこもったアイの声が、俺に届く。


 「……うん、多分」


 まあ、言ってみればこの気持ち悪さだけで、他には特に異常は無さそうだから問題ないとは思う。


 それよりも


 「アイは大丈夫なのか?」


 一応聞いてみる。まあ、大丈夫だとは思うが。


 『はい、こちらは問題ありません』


 やはりと言うべきか、返ってきたのは平静としたいつも通りの声だった。


 しかし俺は、気持ち悪さがまだ残っているので、無理はせず少し休むことにした。



 そして暫く経ち、あの気持ち悪さも落ち着いたので、先程の続き、というよりは″俺の部屋改造(リフォーム)計画″についての議論を開始した。


 『じゃあ、俺は俺の願望をイメージすれば良いんだな?』


 『はい、そうです、主様(マスター)


 折角なので、会話も脳内で交わすことにした。これで俺は、独り言を繰り返す不気味な奴ではなくなったというわけだ。やったね! …………まぁ、一時的なものではあるんだけどね。


 っと、そんなことよりも、言われた通り俺は自分の理想の部屋を思い浮かべる。


 すると


 『主様(マスター)、伝わりましたよ』


 と早くも俺のイメージが伝わったようだ。その早さに、これは便利だな、と若干感動していると


 『主様(マスター)、これを』


 とアイの言葉が響き、脳内に一つの図が表示された。恐らく地図っぽいのだが、疑問に思ったので


 『これは何だ?』


 とアイに聞くと


 『この洞窟の見取り図です』


 と返ってきた。


 なるほどそれは分かった。しかし何故今こんなものを……と再び問う前にアイの言葉が続く。


 『部屋の間取りを決めるべきではと思いましたので』


 ……確かにそれは必要かもしれない、いや、絶対必要だろ。こんなことにも気付くなんて、アイはなんて出来る子なんだ! と感動しかけたが、よくよく考えてみれば、俺が間抜けなだけである。

 うわん、穴があったら入りたいよん。とか、いや、ある意味ここはでっかい穴じゃないか。とかよく分からない思考の渦に呑み込まれるのを無理矢理引き戻して、ちゃっちゃと間取りを決めてしまうことにした。

 

 因みに、アイには完全にバレバレです。

 


 『まず、今俺が居るこの広間をリビングにして……』


 『ではここは……』


 本当、もう簡単に決めるつもりであったのだが、しかし、思いの外話し込んでしまい、結構な時間が掛かってしまった。


 

 取り敢えずの方針は決まったので、ここで簡単に整理しておこうと思う。


 まず、俺の居る洞窟だが、この構造を正方形二つ分の長方形に当て嵌めると、入口から見て迷路状になっている前半部分の正方形と、通路が少なく大小の空間が点在している後半部分の正方形が、大体長方形の真ん中くらいで一つの通路で繋がっている、と見ることが出来る。

 俺達はそこで、前半部分に、いつ来るか分からない侵入者に備えての罠を仕掛け、後半部分を俺の居住区とした。

 居住区は俺の今居る大広間(学校の体育館くらい)を基準とすると、倍くらいの大きさの空間Aが一つ、同じくらいの大きさの空間Bが一つ、半分くらいの大きさの空間Cが三つ、それより小さい空間が4つくらいある。こうして整理してみると中々の部屋数だが、俺達はその中で空間Aと大広間、空間Cを一部屋の全部で三部屋を使うことにした。他の空間の使い道を考えるのは、取り敢えず保留する。

 今の俺に必要なのは生活空間と寝床と風呂と、魔法を思う存分使える訓練所的なものだけなので、一応この三部屋で事足りてしまう予定なのだ。

 他にはまぁ、部屋の装飾やインテリアとかについて話し合って今ここに至る、というわけである。



 そしてあとは、どうやって部屋の改造(リフォーム)をしてしまうのかだが……


 『何か良い案はないか?』


 これもアイに聞くことにした。と言っても、何も考えていない訳じゃないよ? 一応見当はついているから、確認の意味合いが大きいんだよ?

 

 『やはり、魔法を使うのが一番かと』


 特に時間を置くこともなく、返答があった。


 『魔法か……』


 どうやら俺の予想も、当たっていたようだ。俺も、魔法を使う、これしかないと思っていた。……とはいえ、実の所それしか思い浮かばなかった、と言うのが正しいのだが。

 この改造(リフォーム)計画、随分と話し込んだお陰で中々壮大なものになってしまったようなのだが、実行に移すとなるとそれをやるのは実質俺一人な訳だ。じゃあ一人でどうするの? と考えれば、魔法を使うしかないんじゃね? と思った次第である。……それに、そうじゃなかった場合、俺の爪で延々と岩を削り続けるという、かなり地味で退屈な作業が待っている可能性もあったから、俺の願望も多分に含んでいた。だから実際俺は今、内心ちょっとホッとしているところなのだ。


 しかし問題はある。俺はまだ魔法を使えないのだ。まあ、それも心配するほどの事ではないだろうけど。俺、才能あるらしいし。


 『因みに、どんな魔法を使うの?』


 これを知らないと話にならない。実は魔法で身体を強化して肉体労働、なんてオチはいらないよ?


 『心配無用ですよ、主様(マスター)。簡単に説明しますと、周囲の無機物を自由自在に変形させる魔法ですね』


 まぁ、俺の心配は実際アイの言った通り、無用だったようだが。それはいいんだが、にしても無機物を自在に変形させる魔法か……。なんかむっちゃ難しそうに思えるのは、俺の気のせいなのかな?

 ちゃんと使えるのか不安になって、少し怖じ気付いていたら、それに反応して

 

 『それも心配は無用です、主様(マスター)主様(マスター)ならすぐにでも習得可能でしょう。それに、私も補佐しますので』


 とアイから心強いお言葉が。


 それを聞いて俺は


 『そうか……。ならいいかな』


 と考えというか、気持ちを一転させた。


 アイが大丈夫と言うなら実際そうなのだろうし、不安がっていても仕方ないという気持ちも少なからずあったからだ。


 なんてったって俺は、切り換えの早い男だからな。フッフッフッフッフッ……。


 なんて怪しい笑いをしていたのだが、それには一切触れられず


 『では、行きましょうか』


 とアイに告げられた。その言葉に、「えっ、どこに?」なんて答える前に、アイから思念が送られてきた。脳内にそれが表示される。それはこの洞窟の地図だ。今俺が居る場所とあの一番大きな空間、つまりは訓練予定所に一つずつ矢印が突き立っている。


 ここに行きましょう、って事かな?


 一応アイに確認すると、やはりそうらしい。


 なるほど。早速魔法の練習をしましょうってことか。


 ……中々予定を切り詰めていらっしゃるような気がしないでもないのだが……、と思わないでもないが、それが無くてもどうせやることはないのだし、アイの提案を拒否するつもりも元々ないから素直に従う事にする。


 ということで


 『よし、じゃ、行こうか』


 とアイに了承の意を思念で飛ばし


 『はい、主様(マスター)


 俺達は訓練(予定)所を目指し、広間を後にしたのだった。




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