第六話 クールダウン
「……う……うん……?」
うっすらと開けた瞼の隙間から、うすぼんやりとした光が飛び込んでくる。
……あれ……ここは……?
寝惚けた思考で考えるも、徐々に意識は覚醒していき、先程までの出来事をはっきりと思い出す。
...…ああ……そうだった……俺、気絶したんだ……
次の瞬間思い起こされる、強烈な目眩と吐き気の感覚。
..….ああ、嫌だ……あんな思いはもう二度とごめんだ……
未だ感覚的にはだるさが抜けきっていない気がしたが、それを振り払うかのように頭を振り、体を起こした。
『おはようございます、主様』
「...…ん? …...ああ、おはよう、アイ」
『気分はどうですか?』
そう聞かれて、改めて体調を確認するも、気分は目覚めの爽快感とは程遠かった。
「最悪、ではないかな……?」
『そうですか。主様…...身勝手な提案をお許し下さい』
ん? 身勝手? …...ああ、もしかして魔力枯渇体験の事か? 確かに唐突ではあったが、それなら
「気にしなくても良いよ、アイ。今回だって俺の為だったんだろ? 確かに突然で驚いたし、今の気分も良いとは言えないけど、魔力が枯渇したらこうなることを実体験で知ってほしかったんだろ?」
『...…それはそうですが』
「なら、いいじゃないか。俺は、魔力枯渇がどういうものなのかを身を以て知ったんだ。あんな状態には二度となりたくないと思ってる。だからもう魔力を枯渇させたりはしたくないし、しないように努力する。それが魔力の扱いの上達にも繋がるってわけだろ? 俺、こういう意味のあるスパルタは嫌いじゃないんだぜ?」
『主様......』
「だからそう落ち込む必要はないんだよ。..….まあ、これからそういうことをする時は、なるべく事前に知らせて欲しいかな。俺からの要望はそれだけだよ」
『……はい、主様! 御心遣い感謝いたします!』
「そうそう、それで良いんだ」
……ふぅ、これで一件落着かな? それにしても、アイはどんどん人間? 臭くなっていくなあ。成長が早すぎる気もするけど、ふふっ、なんか俺まで嬉しくなってくるよ。
『……では主様、早速ですが魔法の修練はどういたしますか?』
…...そうだなぁ……う~ん、まあ、なんかそんな気分でもないしなぁ…………あっ、そうだ! 散歩をしようかな、気分転換がてらに......うん、良いね、それ良いよ!
我ながら良い考えだと思う。
「なあ、アイ。俺、散歩がしたい」
『散歩……ですか?』
「おう。俺、まだこの世界のこと全然知らないし、取り敢えずここの近くの様子でも見ておきたいなぁ~、なんて思って」
.…..それに、ここがどこかすらも分からんしね。
『…...そうですね...様子を見るだけなら構いませんよ。しかし、絶対に外には出ないで下さいね』
.…..外? 外ってこの空間の外のことか? それならどこにも行けないじゃん!
『いいえ、違いますよ、主様。ここはある洞窟の最奥の部屋です。私が言ったのは、洞窟の外に、という意味です』
……なんだ、そうなのか。…...っていうか、ここは洞窟だったわけね。まあ、壁も岩でゴツゴツしてるし、確かにそんな感じはするかな? っとそれよりも
「何で洞窟の外には出ちゃ駄目なんだ?」
何か俺に見せられないものがあるのだろうか? それとも危ないの?
『そうですね……簡単に言ってしまえば、地獄と形容してもおかしくない光景が広がっていますね。むしろ、一種の地獄と言ってしまっても良いかもしれません』
返ってきたのはある意味衝撃の一言。
「地獄?」
地獄ってあの? 閻魔様が居るやつのこと? えっ、まじ?!
『詳しいことは、主様御自身の目で確かめられた方が分かりやすいかと思われます』
「...…いや、地獄って......」
……いや~、なんかもう、行く気失せちゃったよ……。ちょっくら地獄に散歩に行ってくるぜ! いぇい! なんて軽い乗りで行ける勇気とか持ってないし……。そもそもそんな場所でもないだろうし…...。いやほんと地獄とかマジ勘弁。見たくないわぁ~……。
『洞窟から出なければ絶対に安全ですよ、主様?』
...…くっ、なんか行かないと怖じ気付いた感じになっちゃうよね? …...行かないとそれはそれでアイに叱責されそうな気がするんだよね、うん。なんか結構スパルタだし……。やり過ぎたら謝ってはくれるし、俺も気にはしてないんだけどさ。
『では、行きましょう主様』
急かすように声を掛けてくるアイ。
...…う~ん……おし! 分かった! 行ってやるぞ! この目で地獄とやらを拝んでやろうじゃないか。アイという心強い相棒だって居るし、それに俺は竜だ。その上世界を越えた俺に死角は無いぜ!!
……べ、別に怖くなんてないんだからね!
……ね!!
「……よ、よし! 行こう、アイ!」
俺は、内心の恐怖を押し隠し(声が上ずっていました。隠しきれていません)、ちょっぴりの好奇心を伴って、部屋から出る第一歩を踏み出したのだった。