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第五話 目が覚めたらそこは...



 異世界でした!





 ってことにはならんわけですよ。なんか、まあ、ね、何にも見えません。真っ暗闇です。しかもなんか身体が圧迫されているっていうか、とにかく窮屈です。狭いです。


 ......なんなのこれ?! チンサムを我慢して、やっと真っ白でだだっ広い空間を脱したと思ったら、次は真っ暗で超狭い空間ですか。いよいよ異世界だぁ~! て期待させといてこの仕打ち!! これはもう俺に喧嘩売ってんの? そうなの? 俺に勝てると思ってんの? 俺、(ドラゴン)よ? 軽く勝っちゃうよ? ねぇ......


 ........っとここで一旦落ち着いて、俺には頼もしい相棒が居るのです。そうですね、アイさん。


 『はい、主様(マスター)。今、主様(マスター)が居るのは魔力で構成された殻の中です。(ドラゴン)は転生する際、魔力で身体を覆い保護します。その魔力が物質化したのが、主様(マスター)が閉じ込められている殻なのです』


 指先で殻をつついてみれば、コッコッっと音が響く。……取り敢えずかなり固そうな事は分かった。


 物理的に割って出る、なんて事は出来そうにない。


 「ふぅ~ん、じゃあどうやって出るの?」


 『物理的にはほぼ不可能ですね。ですから出る時は殻に手を当てて、消えろ、と念じてみて下さい』


 言われた通りにやってみた。そしたら、フッと殻が消えて、暖かい何かが身体の中に入ってくる感覚がした。


 「ん? 今のは何だ?」


 『殻を構成していた魔力が主様(マスター)に吸収されました。こうして、目覚めたばかりの(ドラゴン)は弱った身体を強化するのです』


 へぇ~、なんか似てるな。鳥だっけ? 自分の産まれた卵の殻を食べるやつみたいな感じかな?


 そうして、殻から出た俺の目に入ってきたのは、これまた殺風景で、所々岩の転がる広めの空間でした。奥の方には段差状になった舞台のようなものがある。学校の体育館くらいはありそう。


 「え~と、アイ? 俺、ちゃんと産まれたんだよな?」


 そう言いながら、自分の身体を見る。今度はちゃんと爬虫類っぽい、というより(ドラゴン)の身体になっていた。


 白い鱗に覆われた身体。何をも引き裂けそうな黒光りする爪。残念ながら顔は分からないが、恐らく竜さん(あいつ)みたいな感じだろう。全体的に西洋竜を彷彿とさせるな。しかも結構スマートな(俺主観)。中格好いいんではないですか?


 『はい。御誕生おめでとうございます、主様(マスター)


 そんなことを思っていたら、アイから祝福の言葉が。


 「おお、ありがとう」


 ......ふふふ、まあね。中々達成感はあるな。産まれるのがこんなに気持ちの良いことだったなんて知らなかったぜ! いえい! ......っとふざけるのはここまでにしておいて。


 背中とお尻に違和感があるのだ。何かがくっついているような。なんかもう、意識したらあとちょっとで動かせそうで動かせないような、もどかしさ。そんな感じの違和感。でも俺は慌てない。何故ならそれは…………。


 俺は肩越しに背中を見る。


 「おお……!」


 やっぱりあった。身体を覆ってしまいそうなほどに大きくて、真っ白な翼が肩甲骨辺りから生えている。そして、そのまま目線を下げれば、そこには長くてこれまた真っ白な尻尾が、お尻から生えているのが分かった。


 今までの生活では縁の無かった器官が、今の俺の身体にはあるわけだ。まあ、俺は(ドラゴン)だからわかってはいた。しかし、実際にそれがあるのを確認すると、少しばかり感動してしまったのも事実だ。


 「よし」


 試しに背中に力を入れてみる。しかし翼はピクリとも動かなかった。尻尾もまた、然り。


 その結果に


 いやいや、翼はわかるけど、尻尾は無意識にでも動いちゃう場所じゃん? なんで動かんの?


 と納得できなかったので、頑張って動かそうと四苦八苦してみたが、無理だった。


 悔しかったので、何か問題がある筈だ、と原因をアイに尋ねると


 『恐らく、魂が身体に定着しきっていないのでしょう。時間が経てば徐々に動かせるようになっていきますよ』


 との事。


 それを聞いた俺は、ならいいや、と気にしないことにした。

 そもそも、人間として生きてきた奴にいきなり、尻尾を動かしてみてよ、と言ったって簡単に出来る筈がないと思うわけよ。出来たらそいつは人間じゃないね。……言っておくがこれは負け惜しみなんかじゃないからね? 大体誰が何に負けたんだよ。あっ、俺が自分の尻尾に……ってそんな考えがあってたまるか! そもそもこれは…………


 とこれ以上は卑屈で無駄な時間を過ごすことになると思ったので、俺は思考を放棄した。


 俺は切り換えの早い奴、ということにしておいてくれ。



 ってなわけで 


 「それで俺、何かやることとかあるの?」


 新たな話題で気分転換することにした。


 『いいえ、今は特にありません。自由にしてもらっても大丈夫ですよ』


 しかし返ってきたのは、ある意味一番判断に困る答えだった。


 そうか、自由か。そうだな…………ってそうだ! すっかり忘れてたけど、魔法があるじゃん!


 本当、すっかり忘れてたよ!


 「なあなあ、アイ! 魔法、使って良いよな?!」


 『……ええ、勿論です』


 よっしゃ! じゃあ早速......よし! 水を出そう! 火は危なそうだからね。


 そう思い、俺は水を出そうとするのだが……


 「あれ? 魔法ってどうやって使うんだ?」


 そう、興奮し過ぎて肝心な事を忘れていた。俺、魔法の使い方全くわかんねぇ。とはいえこれは必然だとは思う。だって元々俺が居たのは魔法が無い世界だったのだから。……というよりも


 「……アイ。お前、知ってたんじゃないのか?」


 『……ええ、まあ』


 「なんで教えてくれなかったんだよ、今の俺じゃ使えないって」


 『主様(マスター)の落ち込む姿を見たくなかったのです。......すみません』


 ......いやあ、そんなに沈んだ声で言われたら、ねぇ。こっちが申し訳なくなってくるじゃないか。.....まあ、確かにいい年こいてはしゃぎ過ぎた俺も悪かったかもな。……しかし、言っておかなければならないこともあるのだ。


 「アイ。今回は良いけど、次からはちゃんと、思った事は俺に言ってくれ。俺も気を付けるから」


 『...…はい、主様(マスター)! ありがとうございます』


 よしよし、これでいいだろう。...…っていうか、やっぱり感情あるよね? …...まあいいか。寧ろそっちの方が俺的には嬉しいよな。話すんだったらやっぱり、ちゃんと感情持ってる奴との方が楽しいしね。


 「じゃあアイ。俺に魔法の使い方を教えてくれ!」


 『はい、承知致しました。......ではまず、魔力を感じ取る所から始めましょう。といってもそれほど難しいわけではありません。先程の殻の魔力を取り込んだ時の感覚を覚えていますか?』


 「えっと、あの暖かいやつの事か?」


 『そうです。その感覚を身体の中から感じ取れば良いのです。コツとしては、魔力が自分の体内に在る、という意識を強く持つことが大切です』


 「そうか」


 ふぅ~ん、なら早速やってみるか。え~と、魔力が俺の中に在るんだな?


 .......魔力、俺の中、在る。魔力、俺の中、在る。魔力、俺の中、在る。......……


 そうして、ずっと念じ続けていたらふと、さっきも感じた暖かな感覚が甦ってきた。


 「......おお?! 出来たぞ、アイ!」


 『お見事です、主様(マスター)


 へっへっへ、俺ってセンスあるんじゃね? 結構いい線行ってるよね? 初めてにしては......……ってあれ?! なんかめっちゃ熱くなってきたんですけど?! あっつ!! やばい、熱さが収まらない! 身体がどんどん熱くなってくるぅ!!


 「お、おい! なんか熱さが止まらないんだけど、どうすりゃ良いんだよ!? これ、やばくない?!」


 『ああ、それは初めて魔力を感じる者にたまに起きる現象ですね。扱う魔力が多くて、制御が甘いとそうなります。少ししたら収まりますので我慢してください』


 「......」


 ……いや、ね、もう、調子に乗るのは止めようかな......……いや、違う! 制御が甘いのはこの際仕方無いんだ! そう、俺の魔力は多い! そこが重要だ!


 っと俺が心の中で開き直っている間に、あの強烈な熱さは引いていった。


 「......ふぅ、やっと収まったよ……」


 『失敗は成功の元ですよ、主様(マスター)


 「あ、ありがとう」


 慰められてしまった。ちょっと微妙な気持ち。......まあ、いっか。


 「よし、じゃあアイ。次いってくれ」


 『はい、主様(マスター)。では次のステップですが、魔力の放出ですね。体内の魔力を体外へと放出する流れをイメージしてください。一連の流れが滑らかであればあるほど、理想的になります』


 「ほいほい」


 え~と? これも強く念じれば良いんだな?


 ......体内、魔力、体外、出す。体内、魔力、体外、出す。体内、魔力、体外、出す。............


 そうして念じ続けていれば、あの魔力を感じたときの熱さを再び感じたが、さっきのように熱すぎることはなく、代わりに身体から何か、恐らくこれが魔力なのだろう、が抜けていく感覚がし始めた。

 

 「こんな感じでいいかな?」


 『はい、主様(マスター)。とてもお上手です』


 ……ふふん、褒められて悪い気はしないよね。俺、褒められて伸びるタイプだし。


 「......」


 『......』


 「......」


 『......』


 「......ねぇ、アイ」


 『何でしょうか、主様(マスター)


 「……あのさ、これ、どうやって止めるの?」


 さっきから魔力の放出が止まらないんだよね。っていうかもうこれ、流出ってレベルじゃない?


 『それは、主様(マスター)が魔力放出の停止を念じれば良いのでは?』


 「いや、もうそれは試したんだよね」


 試したけど、逆に流出するのが激しくなった気がするんだよね。

 ……なんかもう、魔力だけじゃなくて気力も出ていっちゃってる感じ? どんどん身体から力が抜けていくんですけど~......。


 「……ねぇ、どうすりゃいいの? 止まらないよ、これ?」


 『......そうですね。……これは丁度良い機会です。魔力枯渇もついでに体験しておきましょうか』


 「......魔力枯渇?」


 『はい。その名の通り、体内の魔力が枯渇することです』


 ......いや、それは分かってんだけどさ……。


 「......それになったら何かやばいことでもあるの?」


 ……まさか死んじゃわないよね?!


 『心配はしなくても良いですよ、主様(マスター)。説明をしますと、魔力枯渇が進行していくに連れ、まず軽い目眩、そして吐き気を催しますね』


 ……あっ、今来たよ。目眩と吐き気、今来たよ。俺、フラフラだよ~。......ウ、ウヴォエェェ~~~~……!!


 『そして、全身を襲う脱力感から』


 フッと全身から力が抜け、地面に倒れる俺。


 ......やべえ、もう身体に力が入んない.......気持ち悪いよぉ......。


 『最後に気絶します』



 アイのその言葉が引き金だったかのように、俺はそのまま呆気なく、意識を手放したのでした。




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