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第四話 精神世界とガイドさん

 




 だだっ広い真っ白な何も無い空間に、俺一人ポツンと取り残される。


 「…………あの~~ぅ、(ドラゴン)さあぁ~~~~ん?!」


 いくら呼び掛けても返事はない。


 くそっ、あいつマジで消えやがった! 言いたいことだけ言って後は放置かよ。なんだそれ?! 何かあるだろ、他に言うべき事とかさ、ホント! 少しでも、可愛いな、と思った俺が馬鹿だったわ!! つーか……。


 「ここどこだよ! 異世界のどこなんだよ?!」


 声高々に、俺は叫んだ。


 いや、ホントにさぁ。言葉足らなさ過ぎだろ。このどこまでも広がってそうな真っ白くて何も無い空間。俺、ここで生きてくの? 独りボッチで?

いや、それはちょっと堪えられないかも。それなら死んだままの方が良かった気がするんだよね。それに……。


 「この身体!」


 俺、(ドラゴン)になったんじゃないの!? 何か、人間の手足持っちゃってるんですけど。あの話、もしかして嘘だったの? 新手の詐欺っすか!? それともまさかの誘拐か!? それで色々搾取されちゃうの? え~、それならホントに死んでた方が良かったなぁ……。


 『……はじめまして、主様(マスター)


 「うおっ!?」


 突然声が聞こえた。超ビックリしたんですけど!


 「だ……誰だ?」


 キョロキョロと辺りを見回すも、誰も居ない。 


 なんだぁ? 空耳かぁ? と思ったら


 『探しても見つかりませんよ。私は貴方の中に居るのです』

 

 再び声が聞こえた。機械で合成されたような、女性的な声である。

 俺の中に居る? ……ていうか今、何かちょっと馬鹿にした響きがあったような……。


 『そんなことはありませんよ。……改めまして、はじめまして、主様(マスター)

 

 うわっ! 心読まれた!? ……っていうかマスター? 俺のことか?


 『そうで御座います。私めは上主様(ハイ・マスター)より主様(マスター)の生活のサポートを仰せつかっております、知識の仲介者、及び音声ガイドで御座います』


 「知識の仲介者及び音声ガイド?」


 『はい。上主様(ハイ・マスター)の知識は膨大故に、主様(マスター)では一度に受け止めきれないのです。そこで、私が代わりにその知識を管理し、その場その状況に応じた最適な答を主様(マスター)に提供致します』


 ……ほうほうほう、成る程成る程。それは便利だなってそれじゃ、ハイマスターってもしかして?


 『はい、主様(マスター)が先程お話になられていた御方で御座います。私は上主様(ハイ・マスター)に創られた、貴方に合わせて学習・成長・進化する擬似精神知能体で御座います。これからよろしくお願いいたしますね、主様(マスター)


 「……お、おう」


 ふぅ~ん、そうか。(あいつ)も色々考えてくれてたのか。怒って悪かったよ、(ドラゴン)さん。

 

 でも、放置したことは忘れないからね!


 「え~と......ガイドさん? いや、あ~、う~ん、そうだな。よし、お前の名前を決めよう!」


 『……名前……ですか?』


 頭に響いたその声には、僅ながらに戸惑いが混じっているのだと、確かに感じられた。


 「そうだ! 何か呼び名がないと不便だと思うんだよね」


 主に俺が。それに、″ガイドさん″呼びじゃ味気無いだろうし。


 『……そうですか。そういうことなら、お願い致します』


 「よし、じゃあ……」


 俺は腕を組んで考え込んだ。


 う~ん、どんなのが良いかなぁ~。やっぱちゃんと決めたいよね。これからお世話になるんだし。え~と……そうそうそう、こういうの、前の世界でも似たようなのがあったような……あっ、そうだ! 人工知能! AIだ! ということで。


 「お前の名前はアイだ!」


 うんうん。安直だとは思うけど、シンプルが一番良いよね! シンプルisベスト!


 『アイ、ですか……』


 ポツリと呟くように言うガイドさん、もといアイ。


 あれ? 気に入らなかったのかな? ならどうしようか。新しいの考えるか?


 『いえいえ! とても嬉しいです、主様(マスター)。その御名前、ありがたく頂戴致します。これからは私のことはアイとお呼び下さい。……では、改めまして主様(マスター)、これからよろしくお願いいたします』


 「ああ、こちらこそよろしくな、アイ」


 『はい』


 ふぅ。喜んでくれているのか、は分からないが、命名が上手くいったようで何よりだ。良かった良かった。

 ならば、早速その役目を果たして貰うことにしようか。


 「よし、ならアイ。初仕事だ。ここはどこなのか教えてくれ」


 『はい主様(マスター)。ここは主様(マスター)上主様(ハイ・マスター)の″精神世界″、と呼ばれる空間です』


 「精神世界?」


 俺はアイに、説明の続きを促した。


 『はい。この世界に生きる生命体は全て、大なり小なりそれぞれの精神世界を持っています』


 ほぇ~、そうなんか……。

 俺は大袈裟に、口を開いて驚きを露にする。客観的に見たら、ただ呆けているようにしか見えないと思う。

 なんか馬鹿に見えるから止めとこう。 


 『そうなのです。そして主様(マスター)はここで目覚めたという訳です』


 「この世界は何か意味があるのか?」


 『そう問われれば、ただ存在している、としか言えません。しかし、この世界は外の世界とは切り離されていますので、時間の流れも違いますし、特定の物質が存在することが可能です』


 「へぇ。じゃあ、具体的にここでは何が出来るのか教えてくれ」


 『この世界で眠ってしまえば、それが現実世界にも反映されます。しかし回復するのは精神的疲労であって、肉体的疲労はそのまま残りますので御注意下さい。それと、この世界に存在可能なのは実体を持たないもの、例えば″魔力″といった物質でしょうか』

 

 「ふぅ~ん」


 ほうほうほう、便利なのかそうじゃないのかよく分からないな。どちらかと言えば便利って感じなのかな? 

 それにしても、と先程の言葉を反芻する。なんだか聞き慣れない単語が出てきたような気がする。まあ、気がしなくても事実なんだけど。そして恐らく、それに対する俺の認識は間違ってないと思うのよ。


 「なあ、魔力ってのは何だ?」


 満を持して、気になった単語についてアイに問うた。


 ふっふっふ、どうせあれだろ? 魔力があるんなら、きっと魔法もあるよな?


 そしてその予想は、間違っていなかったのだと、次に続くアイの言葉で確信を持った。


 『はい。魔力とはこの世界に満ちている″魔素″と″生命エネルギー″、生命力とも言いますが、の混合物です。生物が体内に魔素を吸収して、その中で生命エネルギーと混ぜ合わさることによって生成されます。基本的には生物の体内を巡り、流れてその生命活動の補助に使われますが、″魔法″を使うときにも使用します』


 「成る程ね」


 ほ~ぅら、思った通りだ! あったよ、ありましたよ魔法! ……いや、まだ喜ぶのはまだ早いかもしれない。


 俺は確認の意味も込めて、魔法について問う。


 「魔法っていうのはぁ、やっぱりぃ? こう、火とか水とか出せちゃうわけ?」


 『そうですね。訓練次第では思い描いた通りの事象を引き起こせます』


 拳を握りしめ、思わずガッツポーズをかます。


 よっしゃ! これで確定だ! この世界は、魔法が使えるファンタジーな世界だったというわけです。やったね! (ドラゴン)の身体を乗っ取っ……転生した甲斐があったぜ!

 

 「ならさ、俺でも使えるよね?」


 『はい、問題なく使えます』


 よし!


 「ねえねえ、じゃあ早速使ってみてもいい?」


 『……それは少し難しいですね』


 「……えっ、何で?」


 あまり肯定的でない意見に、戸惑う俺。


 『主様(マスター)は魔法を使うのは初めてですので、今の状態では主様(マスター)御自身の持つ力を上手く制御出来ずに暴発してしまう恐れがあります。ここは精神世界なのです。もし主様(マスター)の魔法が暴発してしまえば、精神に多大なる傷をつけてしまう可能性があります。それ故に、ここで魔法を使うのはお勧めできません』


 とアイはキッパリと言った。


 ……そうか、そうなのか。そこら辺のことは全く考えてなかったな。もしそうなれば、大変なことになるかもしれない。アイが居てくれて良かった。


 「ありがとう、アイ」


 『いえ、その為に私は造られたのです。これくらいは当然です』


 そんなアイの言葉を、俺はとても頼もしく感じていた。これからは、というよりこれからも大いに頼らせて貰うとしようか。


 「ならアイ、ここから出るにはどうしたらいいんだ?」


 『はい、主様(マスター)。それはここから出る、という意思を念じれば出れます』


 「へぇ、そうなのか」


 なんだ、簡単じゃないか。よし、なら早速やってみるか。


 俺は目を瞑って、念じてみた。目を瞑るのはまあ、なんとなくだ。


 そしたら、俺の身体を浮遊感が包む。股間がひゅっとするやつね。……ってえ、もしかしてここから出るときは毎回これなの? 俺、この股間がひゅっとするやつ嫌いなんだけど。……あ、そうそうこれ、チンサムだチンサム。俺チンサム嫌いなんだよね。それならあんまり来たくないなあ、ここ。


 と俺が一人悩んでいると。


 『心配なさらなくて大丈夫ですよ。慣れてしまえば気になりませんから』

 

 何の解決にもなっていない意見をアイが言ってきた。


 いや、慣れるまでが大変じゃん! それじゃ意味無いんだよ! 慣れても嫌いなもんは嫌いなんだから。……よし、決めたぞ! もう、ここには来ない!


 と俺が固く決意をしていると


 『いえ、慣れて頂かないと困りますので。私が定期的に強制的にここに送りますから』


 と無慈悲な一言。


 それは酷すぎる~ぅ! という俺の心の叫びは誰にも届かない(アイには聞こえているが無視されています)。

 



 そんなやり取りをしているうちにも浮遊感は大きくなり、俺の意識は暖かな白い光に優しく包まれていくのでした。





 

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