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第十三話 魔力結晶

よろしくお願いします。

 魔法を使わずにどうするのかというと、手作業で地道にやるしかない。道具があるわけでもないから、使えるのは俺の身体だけだ。


 だが、ただ何も考えずにやるという訳じゃない。そもそも、俺の身一つでこの広い洞窟内を手掛けるのはかなり骨が折れる作業だ。


 だから俺は、魔法ではなく魔力強化を身体に施して作業を行うことを考えた。


 精密なコントロールを維持しながら作業をし続けることで、魔力操作の技能も上達するだろうし、住みかをより快適に整えることも出来る。まさに一石二鳥。この状況はある意味、渡りに船だったとも言える。


 まあ、結果論だが。


 もちろん、魔法の練習は継続していくつもりだ。まだ全然諦めるのには早いし、もしかしたらある時突然使えるようになるかもしれない。やっぱり魔法はロマンだから使えるのなら使ってみたいしね。


 「じゃあ、アイ、よろしく」


 『はい、主様(マスター)


 アイにもサポートを頼み、俺は早速作業を始めることにした。



 作業といっても俺が考えているのは、邪魔な物を退けたり壊したり、削ったりといった単純な事ばかりだ。


 アイが俺の視界に写してくれている完成見取り図に合わせて、その作業を進めていけばいい。


 簡単だが、根気の要る作業だ。


 砕いては削り、砕いては削りの繰り返し。作業により発生した残骸は、取り敢えず使わない部屋に運んでおく。

 流石竜の身体ということで、1週間ほど作業を続けても身体的疲労はあまり感じられない。

 むしろ疲れてきたのは精神の方だ。単純で同じ作業を延々と続けるという行為が、退屈を感じてさせてしまうことは想像に難くない。

 中途半端に投げ出すなんてことはしたくないし、そもそもする気は無い。全ては自分の為に。

 だから、退屈が止める原因になんてなりっこはしない。


 まあ、休憩する理由にはなるんだけど。


 休憩が待ち遠しいって訳では無いが、やっぱり気分転換は必要だと思う。


 休憩する時、俺は洞窟の入り口に向かう。いや、俺にとっては外への出口か?


 まあ、どちらでもいいんだけど。


 そうして辿り着けば、後は座って外を眺めるだけだ。外の景色は俺を退屈させない。その景色、環境はいつだって新鮮で、俺に活力を与えてくれるのだ。


 こうしてここに訪れる頻度は、魔力操作の訓練をしていたときよりもかなり増えたように思う。以前は週に一度も来ていなかったが、今はほぼ毎日立ち寄っている。これも心の変化、外への興味が湧いた影響なのかもしれない。

 外の激しい環境の移り変わりとは裏腹に、ゆったり穏やかな時間を過ごす。気の済むまで外を眺めた後は、気合いを入れ直し再び作業の場へと向かう。合間に魔法の練習を少し。アイと雑談だってするし、そして睡魔が襲えば精神世界で睡眠を摂る。


 そんなことの繰り返しで、俺の日常は過ぎていく。



  ◆  ◆  ◆



 作業を開始してから現実時間で一年ほど経ったある日。俺の身に一つの変化が現れた。


 勿論、身体は当たり前の様に大きく成長し、既に産まれたときの三倍程の体長になっていた。

 翼も動かせる様になったし、尻尾も同様だ。そろそろ飛ぶ練習でも始めたらどうか、なんて話もアイとしている。


 だが俺が言いたいのはその事じゃあない。


 練習は続けていても未だに魔法を使えていない俺は、それに関して半ば諦めの境地に至っていたのだが、つい最近驚きの発見をこの身にした。


 それはいつも通りに作業をしていたときのこと。岩壁を削り、そこに埋まる岩を砕こうとしていた時だった。その岩は今までで一番の硬度を持つものだったから、普段より多目の魔力を拳に纏わせ、殴り付けるつもりだった。

 それ自体は幾度となくしてきた手馴れた行為。全ては滞りなく済まされる筈だった。


 しかしいざ殴ってみれば、岩が砕けるどころか周りの壁にまで大きな亀裂が入ってしまったのだ。


 「ええっ!?」


 思わず漏れる声。


 魔力量の調節は完璧に近い筈だった。力加減だって、今までの経験から導きだした最適なものだった筈なのだ。


 なのに何故……?


 「ん?」


 不思議に思い、振り抜いた拳にふと目をやれば一つの変化が目に留まった。


 その拳は、透明で淡く輝く結晶の様なもので覆われていたのだ。そして同時に、拳に纏わせた魔力が視えないことにも気付いた。


 原因はこれだと即座に察した俺は、アイに聞いてみることにした。


 『それは魔力結晶のようですね』


 返ってきた答は、まあ俺の予想通りのものなわけだ。何故かは解らないが、俺の魔力が結晶化したものがこれらしい。聞いてみたが、どうしてこんなことが起きたのか、原理はアイにも解らないらしい。


 魔力や魔素を意図的に結晶化させることはほぼ不可能、と教わっていたので謎は深まるばかりだが、現実に起きてしまったのだから仕方がない。


 アイがサンプルが欲しいとの事だったので、削って破片を回収しようとしたのだが、俺の爪や牙じゃ文字通り歯が立たない程に固かった。

 ふと思い立ってもう片方の拳に、先程と同じ様に魔力を纏わせ結晶化を念じてみれば、わりとあっさりと結晶を纏った拳が出来上がった。

 そして二つの拳をぶつけ合うこと数分。ようやく一つまみ程の欠片が剥がれたので、精神世界に収納した。


 後はもう結晶化を解除するだけなのだが、実はこの拳、結晶が固すぎて指をちっとも動かせない。これでは不便なので、解除できなかった時の事を考えないようにしながら結晶化を解こうと念じれば、そちらも素早く再び魔力となって、俺の身体に戻ることなくさらさらと大気へ溶け込んでいった。


 「何なんだ一体……?」


 得体の知れない出来事がこの身に起きたことに、少なからず驚きを覚えた。まあ異世界へとやって来て、人から竜へとなったことに比べれば些細なことだが。


 その後何度か結晶化を試してみたが、どうやらそれと解除は自由に出来るらしいことが判った。形は不揃いで、その大きさは込めた魔力量に比例するらしい。おそらく、形も何らかの方法で変えることが出来るはずだ。 

 なんとなくそう感じたので、その後は形にも意識を向けて検証を試みた。が、これがなかなかどうして上手くいかない。


 結局、またいくつか破片を回収して、それ以上のことは出来ず解らず。


 回収した破片をアイが解析してくれるとのことなので、それを待つことにして再び作業を開始したのだった。


 そうして魔力の結晶化の発現から約一時間後の今、簡単な解析が終了したとのことなのでアイの話を聞いているところだ。


 『これはやはり魔力結晶でした。構成要素は主様の魔力です』


 「やっぱりぃ?」


 そう返事をして、再び拳の魔力を結晶化させる。淡く透明な光を放つそれは、純粋に美しいと感じさせるものだ。これが俺の魔力から出来ているんだっていう話なのだから、不思議なものだ。


 『今判っているこの結晶の特性は二つ。魔力の同調効果と、魔力の保存効果です。主様の魔力を借りて検証を行いました』


 とのことなので、試しに結晶に微量の魔力を送ってみた。そしたら、抵抗もなくすんなりと受け入れたようで、内部に魔力を湛えているのが俺の目には写った。


 おそらく、この抵抗の無さが同調効果なのではなかろうか。


 実際、俺の予想は当たっていた。


  魔力というのは、自身の生命エネルギーと魔素を混合して生成するものだという話は以前したが、その魔力というものは全ての生物に於いてそれぞれの固有の波長というものを持っている。

 例えるならば生物Aの魔力と生物Bの魔力は、同じものではないということだ。それが同じ種族だったとしても、やはり微妙に波長が違ってくるのだ。

 だからAがBに魔力を流そうとしても、それは出来なくはないが難しい。


 それは生物ではないが魔力結晶も同じで、ここまで抵抗もなく魔力を通すことが出来たのはその性質のせいで間違いなかった。とはいえまあ、俺自身の魔力の産物なのだから当たり前の結果ではあるのかもしれない。


 だが、魔力の保存効果とはなんなのだろうか。


 その答えも、すぐに出た。


 『主様、魔力を限界まで通してみてください』


 アイの言葉に従い、結晶を注視しながら魔力を流す。

 そうして、結晶内が魔力で満たされた後も溢れそうになる魔力を抑えんばかりに、圧縮するイメージで流し続ける。


 「おっ!?」


 そうしているとどうだろうか、俺の拳の結晶が徐々に巨大化していくではないか。

 アイの指示で魔力を流すのを止めた。

 そうすれば、結晶内の魔力も減っていったのだが、結晶は巨大化を続けている。

 そして結晶内の魔力が完全に無くなった所で、その巨大化も停止した。

 

 まあ、これも予想の範疇ではあったな。しかし、保存、ということはつまり……。


 意識すれば、結晶から流した分の魔力を回収することに成功した。もちろん、結晶はその分小さくなっている。


 「なるほど」


 つまりはこういうことだった。

 結晶は俺の魔力を取り込み、大きくなる性質を持っているらしい。そして、蓄えられた魔力を再度取り込むことも可能、しかし、結晶は逆に小さくなる、ということか。 

 

 

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